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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第七巻
275/314

五章 VS蛇蝎の魔王軍(6)

 サソリの尻尾が地面に突き刺さる。

 瞬時にドロドロに解けた地面が毒の液体となって間欠泉のごとく噴き上がり、白布で身を包んだゼクンドゥムを呑み込み溶かした。

 ジュッと蒸発するような音も聞こえた。

 今度こそ間違いなくやられちまったぞ。

「……妙だなぁ。これがてめえの見せてる〝夢〟ならオレ様が気づかねえはずがねぇ」

 フィア・ザ・スコルピは油断せず視線を真横に向けた。そこにはたった今溶けて消えたはずのゼクンドゥムが不敵に笑って立っていたんだ。

 どうなってるんだ? 俺にもわからん。確かにフィア・ザ・スコルピに見せている〈白昼夢〉だったら俺には全く違う光景に見えてるはずだ。

「キヒッ、そりゃあそうだよ」

 笑い声は、俺とフィア・ザ・スコルピが見ていた方角とは逆から聞こえた。振り向くと、そっちにもゼクンドゥムがいる。

「だってこの〝夢〟を見ているのは君じゃない」

 さらに前方。毒沼となった地面の上に白布をはためかせて浮かぶゼクンドゥム。

()()なんだからさぁ!」

 そして背後。五つの小さな白い光球が飛ぶ。直感的に身をかわしたフィア・ザ・スコルピは、そこに四人目のゼクンドゥムを見ることになった。

「……チッ、これが〝悪夢〟の概念か。幻とは違うんだったなぁ」

「キヒヒ、全部本物のボクだよ。正確には、本物が本物と〝夢〟の中で認識しているボクだけど」

 えーと、つまりどういうことだ? ゼクンドゥムは夢を現実に反映させる力がある。あいつ本人が『本物の自分がたくさんいる』って夢を見ていて、それを現実にしてるってこと?

 うん、わけわからん。

「結局よぉ、本物は無数にいても『本体』は一つだろうがぁ!」

 藍色の光が尻尾の先に集中する。

 膨大な魔力を光線として放射したフィア・ザ・スコルピは、そのままぐるりと一回転しやがった。ちょ、待てふざけんな!? どっかにいるゼクンドゥム本体を消すために都市ごと更地にする気か!?

 と焦ったが、魔力砲が中央広場を抜けることはなかった。

「やれやれ、短気はよくないよ」

 なぜなら魔力砲は、ゼクンドゥムがフィア・ザ・スコルピを囲うように環状に展開された光のトンネル――〈夢回廊〉の中に吸い込まれていったんだ。

「てめえ、舐めた真似しやがるなぁ。やりづれえったらしょうがねぇ!」

 フィア・ザ・スコルピが今度は頭上に魔力砲を放つ。なにがしたいんだと思ったら、上空に〈夢回廊〉の出口が開いてやがった。

 つまり、さっきどこかに消えて行ったフィア・ザ・スコルピの魔力砲が上から落ちてくる仕掛けだったらしい。よく気づいたな。

 自分の魔力砲を自分の魔力砲で相殺。なんともマヌケな構図だが、台地を大きく揺らすほどの衝撃波が都市中に襲いかかった。たぶん、今のだけで少なくない犠牲者が出たぞ。

「勘がいいね。戦闘センスあるよ、『蛇蝎』のお兄さん」

 パチパチと拍手を送る四人のゼクンドゥム。いや、待って。四人じゃないぞ。ちょっと目を放した隙に八人……十六人……三十二人……いやいや増えすぎだろ!?

「黙れやぁ、クソガキがぁ。オレ様をおちょくってさぞかしいい気分かもしれねぇけどよぉ」

 フィア・ザ・スコルピが右手を振るう。その腕が大ムカデに変化して一番遠くにいるゼクンドゥムへと迫る。

 と、四方八方から伸びた白い布がムカデの腕に巻きついた。守ったってことは、アレが本体なのか? それともそう思わせる罠? 俺まで翻弄されてどうすんだよ。

「てめえみたいなタイプはよぉ、直接戦闘は苦手だよなぁ!」

 ぐいっと。ムカデの腕が引っ込んで巻きついた白布ごと複数のゼクンドゥムを引き寄せて行く。さらに左手が巨大なサソリのハサミに変形して――

「ギャハハハ! おら死ねやぁ!」

 高らかに嗤いながら引き寄せたゼクンドゥムを次々と両断しやがった。〝夢〟で作られたゼクンドゥムは血を流したりはしなかったが、キヒィと笑ったぞ。

「うん、苦手だよ。でも、もしかしたら君よりは得意かもよ?」

 両断された上半身たちが一斉に手を伸ばす。その指先には光の球。夢を現実に反映する力の逆。現実を夢に変える一撃必殺の消滅技だ。

 

「――〈栄華之夢(えいがのゆめ)夢幻泡影(むげんほうよう)〉」


 何十人分の消滅球がフィア・ザ・スコルピに襲いかかる。いくつかは腕と尻尾を振ってゼクンドゥムごと薙ぎ飛ばしたが、やったぞ! 光球が触れた!

「ギャアアアアアアアアアアアアアアアッ!?」

 絶叫が響き渡る。痛みがあるわけじゃなさそうだが、フィア・ザ・スコルピの体が徐々に徐々に白化していく。

「チクショウがぁああああああああああああああッ!?」

 白化の速度が遅い。抵抗してるんだ。幹部のグロイディウスでもすぐには消滅しなかったからな。だが、グロイディウスの時とは違って何十発も同時にくらっている。流石に魔王と言えど消えるのは時間の問題だろうね。

「キヒヒ、ほら早く楽になっちゃいなよ」

 ゼクンドゥムのやつ、追加で消滅球をぶつけやがった。鬼だ。鬼がおる。

「こんなぁあああああこんなものでオレ様はぁああああああああああああああああああッッッ!?」

 絶え間なく悲鳴を上げるフィア・ザ・スコルピ。ゼクンドゥムは遠慮なく次々を消滅球で追撃していく。

 それでも時間はかかったが、ようやくフィア・ザ・スコルピの全身が真っ白に染まり動かなくなった。

 悲鳴も途絶えた。

 パラリパラリ、と。尻尾の先から存在が崩壊して――


「――喰い千切れ! 蛇蝎剣(アラクランジ)!」


 パァン!

 白化した体が弾け飛び、中から全く無傷のフィア・ザ・スコルピが現れたぞ。しかも、なんか全身パックでもしたのかってくらい妙に肌や甲殻が艶々しているように見える。

「堪え切った? そんなまさか――ッ!?」

 驚きの表情を浮かべるゼクンドゥムたちが、高速で迫ったなにかに同時に切り裂かれた。〝夢〟で作られたゼクンドゥムはそのまま消えたが、一人だけ裂かれた脇腹から赤い液体をポタリと滴らせている。

「見ぃつけたぞぉ、『現夢の魔王』」

 青筋を浮かべた怒りの表情を見せるフィア・ザ・スコルピ。その手に……なんだ、あの武器は。無数の刃が蛇のように連結して不自然にうねってやがる。

「それは魔王武具かな?」

「あぁ、変幻自在に相手を喰い殺すオレ様の愛刀だぁ」

 魔王武具っていえば、ネクロスの〈冥王の大戦斧(デス・ファラブノス)〉みたいなものか。使ってきたってことは、いよいよ本気だぞ。

「ボクの〈栄華之夢〉から逃れたのも、その剣の力だったりするの?」

「ククク、剣を奪うか壊すかすりゃ次は殺れると思ったかぁ? 違ぇよぉ!」

 フィア・ザ・スコルピが蛇蝎剣を振るう。不規則で不自然な軌道を描いて迫る刃をゼクンドゥムは紙一重のところでかわした。

 布で防いでも恐らく切り裂かれるだけ。避けて正解だ。

「単純な話だぁ。脱皮した。それだけ」

 脱皮だと? あの局面で?

 それでゼクンドゥムの消滅技を防げたのかよ。妙に艶々してるのはそういうことか。消滅したのは皮だけ。ギャグっぽいけど馬鹿にはできない。それが本当ならもう奴にあの技は通用しないんだ。

「そういえばサソリだったね、お兄さん。〈栄華之夢〉が効くなら手っ取り早かったんだけど、そうじゃないなら別の手段で倒せばいい話だよ」

 ゼクンドゥムの魔力も高まる。それに合わせて白布がゆらゆらと不気味に揺らめく。

 と――


「あーーーーーーーーーーもうーーーーーーーーーーこの糸鬱陶しいぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいッッッ!!」


 叫び声は、突然響き渡った。

 轟ッ!! と。

 中央広場からでも見えるほど高く、黒炎の柱が聳え立ったんだ。確認しなくてもわかる。リーゼお嬢様だ。

「キヒ」

「『黒き劫火』だとぉ?」

 ゼクンドゥムとフィア・ザ・スコルピも注目する。黒炎の柱が弾けると、そこに蝙蝠に似た翼を生やしたリーゼロッテ・ヴァレファールが浮かんでいた。やっと糸の束縛から脱出できたみたいだ。

 よし、いいぞ。フィア・ザ・スコルピはゼクンドゥムが足止めしてくれている。今のうちに蜘蛛の糸をどうにかしてくれ!

 俺の願いが通じたのか、リーゼはコクリと頷いたように見えた。いや、たぶん風だ。誘波が風で指示を出したんだ。

 リーゼが片手を天に翳す。都市全域を覆うほどの超々巨大な黒い魔法陣が展開される。

 おいおい、マジかよ。

「おいおい、マジかよぉ」

 奇しくも、俺とフィア・ザ・スコルピの言葉が重なった――次の瞬間。


 魔法陣から放たれた超特大の黒炎が、一国でもある都市全体に降り注いだ。


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