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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第七巻
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四章 反撃の狼煙(5)

 旧市街に蔓延っていた魔蟲の駆除を完了した俺たちは、都市西部にあった演習場で〈夢回廊〉を開通して地上に待機していた軍隊を呼び寄せた。

 街はあちこちが破壊されていたが、奴らも攻略中だったためか軍の重要施設はかろうじて無事だったよ。先行していたアーティとモグラ兵長が頑張って死守してくれたようだ。

 軍事基地として機能しているだけあって武器庫には兵装が潤沢に眠っていた。刀剣や拳銃から戦術ドローン、戦車や戦闘機なんてものもあったぞ。地下空間でそんな火力ぶっ放して大丈夫なのか心配だが、これだけ武装が整っていれば正面から魔王軍と戦うことだってできそうだ。

 本当は、そうなる前に蹴りをつけられればよかったんだが……。

「悪い、フィア・ザ・スコルピと対面したのに仕留められなかった」

 場所は一番大きな武器庫。各種兵装のメンテナンスが急ピッチで進められているのを横目に、俺はモグラリアント九世に謝罪した。逃げに徹した魔王を追うのは容易じゃないとはいえ、二対一というせっかくのチャンスをふいにしちまったんだ。

「構わないもぐ。寧ろこの手で奴を討ち倒すチャンスができたことに気持ちが昂っているもぐ」

 モグラリアントは気さくに笑ってくれた。五メートルを超える図体のくせにサングラスを取ると円らな瞳が可愛らしいこのもふもふは、なんというか人間できてるよな。

「確かに先に魔王を倒すことができれば余計な戦闘をしなくてよかったかもしれないもぐ。でも、頭を失ったせいで人質にされている同胞が魔蟲の餌食になっていた可能性は高いもぐよ」

「あー……いや、魔王を倒せば眷属は消滅するんだ。だからその可能性は低いと思うぞ」

 ネクロスの時はそうだった。だからと言ってフィア・ザ・スコルピも同じとは限らないが、魔力を分けて生み出された眷属が魔王を失って生き永らえるのは理屈に合わない。

「綺麗事や理想論を目指すのはいいもぐが、戦いとはその場その場で〝最善〟が変わっていくものもぐ。もしやーたちを恨むことがあったとしても、それは全て終わった後の反省会で考えることモグよ」

 今は目の前の戦いに集中しよう、ということだな。


「まんまと魔王を取り逃したレイちゃんの謝罪会見も終わったようですし、新たに判明した情報を共有しましょう」


 と、ニコニコと微笑む誘波が十二単を引きずって俺たちの前にやってきた。隣にはゼクンドゥムもいるよ。この二人が並んでるのはなんか妙な気分になるな。

「お前の言い方には悪意しかないんだが、ちょっとモグラリアントさんの爪の垢を煎じて飲ませてもらえよ」

「あらあら、でしたら先にレイちゃんが飲んだ方がいいかもしれませんねぇ」

「なんでだよ!?」

 こんな礼節を弁えた人間に対して失礼だな。いや嘘です。俺もだいぶ失礼な部類に入る人種だと思います。

「それでイザナミ殿、新たに判明した情報というのはどういったものもぐ?」

「はい。敵情視察に出していたアーちゃんのドローンと、ゼクンドゥムちゃんからの情報を元に算出された敵戦力ですぅ」

 誘波がチラリとゼクンドゥムを見る。ゼクンドゥムは体に巻いた白布を風もないのにゆらゆらさせながら――

「まずは最大の目標である『蛇蝎の魔王』フィア・ザ・スコルピだね。あの蠍のお兄さんは魔王連合の序列三十六位で伯爵。連合内だと中堅だけど、ボクの〈白昼夢〉が通じないところを見るに実力はもっと上だと思っていい。尻尾から放たれる魔力砲と、逃げる時に使われた毒の霧は気をつける点だね。体術も強そうだし、まだまだ手の内はわからないかな」

 俺もちょっとだけ戦ったが、奴は全然底を見せなかった。油断して勝てる相手じゃないことは間違いない。

「で、その直属の幹部『四害蟲』――ああ、今は一人減って『三害蟲』か。キヒッ。毒蜘蛛(ラトロデクツス)蜚蠊(ブラトデア)大蜈蚣(センティピード)。個で強力な存在はこいつらかな。配下の魔蟲はモグラさんたちでも充分戦えるレベルだけど、数が多い」

「どれくらいなんだ?」

「ボクたちの三倍はあると見積もった方がいいね。世界を滅ぼす魔王の軍勢としては少ないから、これでも減ってる方だと思うよ」

「そういや、『鐵の魔王』と戦り合ったって言ってたな」

 しかも負けてるんだったか。なのに三万はいるってかなりの脅威だぞ。こっちには科学兵器の殲滅力があるから、それでどうにかイーブン以上に持ち込みたいところだ。

「その程度であれば問題ありません。私とリーゼちゃんだけでも殲滅可能でしょう。とはいえ相手も馬鹿ではないですからねぇ。恐らく私たちには幹部クラスがぶつけられるはずです」

 誘波がニコニコ顔で言う。まあ、そうだな。お前らチートだもんな。

「瞬殺できるだろ、お前ら二人なら余裕で」

「うふふ、そのつもりです♪」

 前回は奇襲をくらって一般人が避難できてなかったからな。いくら攻撃に指向性を持たせられると言っても大規模な技は使えなかったんだ。

 だが、今回は違う。

 誘波もリーゼも思う存分戦うことができる。非常に頼もしい味方だ。

「こ、心強いもぐ」

 話を聞いていたモグラリアントがなぜか小刻みに震え始めた。どうした? トイレか?

「あれ? モグラの王様、もしかしてビビっちゃってる?」

「挑発すんなよ、ゼクンドゥム」

「いや、これは武者震いもぐ。昂りすぎてじっとしていられないもぐ。レイジ殿、申し訳ないが準備運動がてら手合わせ願いたいもぐ」

「え? 俺?」

 唐突のご指名に俺は目を白黒させた。五メートル級のモグラ人間から試合の申し込みとか、普段なら丁重にお断りしたいところだぞ。

「わーの力がどこまで魔王に通じるか、やーで試したいもぐ」

「魔王なら他にも……」

 言って、リーゼとゼクンドゥムを思い浮かべる。うん、あいつらじゃ手合わせになんねえわ。モグラリアントが燃えたり夢の世界から帰れなくなっちゃったら今後に支障出まくりだ。

 戦いが続いたせいか、ちょっと体がだるいんだよなぁ。でも寝てるような気分じゃないし、戦争の準備が整うまで暇だし、まあいいか。

「わかった。一試合だけだぞ」

「助かるもぐ!」

 そういうわけで、俺たちは武器庫から演習場へと移動することになった。


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