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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第七巻
263/314

四章 反撃の狼煙(1)

 戦火が広がり、怒号が飛び交う。

 再び戦場となった地下都市で、モッキュ族の兵隊と魔蟲の群れが激突する。『蛇蝎』の魔王軍の幹部――『四害蟲』を誘波やリーゼたちが抑えてくれている間に、俺は魔王城でふんぞり返っているフィア・ザ・スコルピの下へと辿り着いていた。

「ギャハハハ! のこのこ一人で来るたぁ、いい度胸じゃねえかぁ!」

「くっ」

 繰り出される爪や尻尾の猛攻を俺は生成した日本刀でかろうじて捌く。なんてパワーだ。反撃する隙もない。

 それでもどうにか攻撃したところで、フィア・ザ・スコルピの頑強な装甲には傷一つつけることも叶わなかった。

「どうしたどうしたぁ? 『千の剣』はその程度かぁ?」

「な、舐めてんじゃねえよ!」

 首を狙って日本刀を一閃する。

 だが、奇妙な金属音が響くだけで刃は首で受け止められてしまった。

「馬鹿な……」

「もうつまんねぇよ、てめぇ。終わりにしようぜぇ!」

 ドスッ!

 サソリの尻尾が俺の腹を突き破る。逆流した血液が口から溢れ、痛みを感じる暇もなく意識が一気に遠のいていく。

「あばよ」

 串刺しにされたまま、藍色の魔力砲が俺の体を灰も残さず消し飛ばした。


 パキン、と。


 ガラスが砕けるような音で俺の意識は現実へと戻ってきた。

「……いや、俺もうちょっとやれると思うんだけど」

「キヒッ、しょうがないでしょ。ボクは今のお兄さんの実力を正確に把握してないんだから」

 ジト目を隣に向けると、不敵に笑う白布少女が立っていた。お察しの通り、今の敗北はゼクンドゥムが見せた〝夢〟だ。

「リアルなシミュレートはボクが勝手に想像した設定をつけるわけにはいかないからね。お兄さんたちにしても、『蛇蝎の魔王』にしても、情報は全然足りていない。ボクが現状見ただけの戦力分析でぶつかればこうなるって感じだね」

 肩を竦めながら語るゼクンドゥムに、俺は夢の中で貫かれた腹を擦る。と、ド派手な十二単を引きずった誘波がゼクンドゥムへと歩み寄ってきた。

「だとしてもすごい能力ですねぇ。臨場感たっぷりで、感覚もあって、本当に戦っているようでしたよぅ」

「キヒヒ、大精霊に褒められると悪い気はしないね」

 ゼクンドゥムの、正確には『王国』との共闘に関しては誘波たちにも了承してもらった。今回助けられたってこともあるが、あいつらまで敵に回している余裕なんてないからな。

 にしても、十二単をガチガチに着込んでいる誘波と白い布しか巻いていないゼクンドゥム。並んでみると対照的でちょっと面白い。

「でも、今見せたのはあくまでシミュレートだよ。入念に戦力分析していたとしても、イレギュラーには弱い。あまり過信してると痛い目を見るってことはあの時に散々わからされちゃったからね」

 あの時というのは、学園祭の時に『王国』が監査局に戦争吹っ掛けてきた時だな。アレもシミュレートを重ねて充分な戦力を用意してたんだろう。実際、イレギュラー(クロウディクス)が現れなければ俺たちは確実に負けていたよ。

「で、今回はラ・フェルデの王様が加勢に来てくれたりはしないの?」

「できればお願いしたいところなのですが、どうも彼らとの通信ができなくなっているみたいですねぇ」

「おい、それ大丈夫なのか?」

 ちょっと前まではできていたはずだ。あまり考えたくはないが、セレスたちの身になにかあったんじゃ……?

「あー、通信できないのはこの世界の次空が大きく乱れたせいだ。元々滅びて不安定な世界。『蛇蝎の魔王』が派手に暴れた影響だろう。あー、そのうち回復すると思うが、援軍の期待はしない方がいい」

 棒つきキャンディーを咥えてやってきたアーティが気だるそうに告げた。アーティだけじゃなく、モグラ兵長を率いたモグラリアント九世も一緒だ。

「それより、モッキュ族の民は無事なのかもぐ!」

 モグラリアントはそのでかい図体から睨み下ろすようにゼクンドゥムを見た。調べたところ、ゼクンドゥムによって転移させられたモッキュ族は戦っていた兵士とモグラリアントだけだったみたいなんだ。避難していた民間人までは手が届かなかったらしい。

 俺もそれを聞いた時にゼクンドゥムを責めかけたが、いくらなんでも無茶な押しつけだと気づいた。ゼクンドゥムがどんだけチートでもできないことだってある。

「ん~、そうだね」

 ゼクンドゥムはパチンとフィンガースナップ。空中に白い靄が現れ、そこに映像が映し出された。〈現夢鏡〉だ。

 魔王城の様子を映したそこでは、大勢のモッキュ族が魔蟲に監視されながら労働を強いられているようだった。瓦礫を運んだり、料理を作らされたり、城の清掃なんかもやらされているな。

「奴隷扱いされているみたいだけど、虐殺されるようなことにはなってないよ。ボクたちを釣るためのエサってところかな」

 モッキュ族の民は大人しく従っている。占拠されてからあまり時間が経ってないおかげか、まだ衰弱しているような人がいないのは救いだろう。

「個人的には、兵たちより民を助けてもらいたかったもぐ」

「それじゃあ反撃できないでしょ。お兄さんたちだけで勝とうと思ったら難易度が高すぎる」

「……わかっているもぐ。どのような形でも助けられた身、文句など言えないもぐ」

 モグラリアントは深く溜息を漏らした。もしゼクンドゥムが民間人を優先していたら、戦場にいた俺たちは魔力砲で消し飛んでいたからな。モグラリアントもそのことは充分に承知している。

 と――


 ドゴォオオオオオオオン!!


 爆音と共に台地が揺れた。慌ててテントから出てみると、近くにあった大きな岩山が積み木を崩したように瓦解したぞ。

 遠目だが、リーゼとグレアムが暴れているっぽいな。レランジェも見当たらないからあの辺にいるんだろうね。

「あらあら、リーゼちゃんもグレアムちゃんも消化不良という感じですねぇ」

「あいつら……あまりこの世界を壊すなよ。死体蹴りみたいじゃないか」

 なんだろうと俺たちは一度負けたんだ。負けず嫌いのリーゼは言わずもがな、グレアムも大人げなく苛ついてるようだ。早く今後の方針を決めないと、あいつらの鬱憤がどんどん溜まっちまう。

「どうすんだ? このまま攻めてもさっきの夢みたいに負けるだけなんだよな?」

 俺は改めてゼクンドゥムに問いかけた。無策で突っ込んだって勝てやしないのは、シミュレートを見るまでもなくわかり切っている。

「そうだね。シミュレートだとお兄さんたちは数ヶ月前の戦力だったとはいえ、迎え撃つ体勢を万全にしている相手に満身創痍のまま突っ込んでも敗北は必至かな」

 ラ・フェルデの援軍は期待できない。『王国』もゼクンドゥム以外が加勢してくれるとは思わない方がいいだろう。悠里も今どこにいるのかわからんし……困ったな。

「族長」

「うむ、流石に躊躇っている場合じゃないもぐ」

 ん? なにやらモグラ兵長がモグラリアントに耳打ちしてるぞ。

「なにか策があるのか?」

「策というわけではないもぐが、我らモッキュ族の旧市街が別の地下空間にあるもぐ。そこは第二の軍事基地になっていて、奴らに見つかっていなければ武装を整えることは可能もぐ」

 旧市街? そんな話は聞いたこと……いや、聞かされる前に奴らが攻めてきたんだったな。

「モグラちゃんたちがパワーアップするのでしたら利用しない手はありませんね」

「そうだね。『蛇蝎の魔王』本人に通じるかどうかは置いといて、お兄さんたちの負担を少しでも減らせるのは大きなメリットかな」

 誘波はニコニコ、ゼクンドゥムはニヤニヤと笑みを浮かべて肯定的に告げる。こいつらが言うとなんか裏がありそうで怖いが、このまま毒沼と瘴気の中じっとしているよりはずっといい。

「旧市街ってのはどこにあるんだ?」

「そこまで離れてはいないもぐ。ただ、今の都市からもトンネルで繋がっているもぐから、既に奴らに占拠されている可能性はあるもぐ」

「だとすりゃ、奪い返せばいいだけだ」

 いくらなんでもそこにフィア・ザ・スコルピが構えているようなことはないはずだ。雑魚が配置されているだけなら俺たちで逆に占拠することは容易だろうな。

「問題は地下空間にどうやって行くかだが……」

 モグラ戦車君一号も都市に置き去りだし、モッキュ族が頑張って掘ってくれるのかな?

「あー、であればこのモグラ戦車君二号を使うといい」

「二号あったのかよ!?」

 アーティが『こんなこともあろうかと』とでも言いたげな顔でテントの脇に停車していた地底戦車を見せてきた。一号より若干大きい気がする。一号にはない機能を搭載しているのだろうか?

「あー、操縦は私。戦闘員で白峰零児。案内役のモッキュ族も一人同行してほしい」

「わーが行くもぐ」

 真っ先に挙手したのはモグラリアントだった。

 だが――

「あー、お前の図体では乗れないだろう」

「そ、そうかもぐ……」

 あからさまにしゅんとするモグラリアント九世。乗ってみたかったのかな?

「族長、わーにお任せくださいもぐ」

 てことで、案内役の同行者はモグラ兵長となった。

「ねえ、ボクも行ってもいい? なんだか面白そうだし」

 とゼクンドゥムもノリノリでお願いしてきたぞ。一号より大きいからもう一人くらいなら乗れそうだが――

「……まあ、もし占拠されてたら戦力は多いに越したことはねえしな」

「キヒッ、なんなら現地で〈夢回廊〉を繋げることもできるしね」

 それがあったか。現地にさえ行けば他のみんなを呼ぶことができる。それは誘波でもよさそうだが、こっちを統率してもらわないとな。

「決まりだな。あとでリーゼが癇癪起こしそうだが、すぐに出発するぞ」

 言うと、俺たちは早速とばかりにモグラ戦車君二号に乗り込むのだった。


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