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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第一巻
26/314

三章 異界監査官(4)

「あー、審査結果を発表します」


 時刻は昼休み。普段ならば弁当持参の生徒たちでごった返すはずの屋上は現在、俺とリーゼとセレスの三人しかいない。

「結論から言おう――二人とも失格だ」

「ッ!? なぜだ!?」

「わたしの勝ちじゃないの!?」

「高等部全生徒を緊急下校させておきながら面白いことをほざく口だな!!」

 俺はふうと溜息をつき、一つ一つ説教してやることにした。とりあえず二人を正座させる。

「最初の世界史だが、お前らの世界を語るな。〝フィラル派とガラル派の百年紛争〟ってなんだよセレス。世界史の先生困ってたろ」

「う……だが、あれは陛下が御活躍された偉大なる――」

「俺が言ってるのは、軽々しく自分の世界のことを喋るなってことだ。本来、異界監査官はそれを止める側にいるんだぞ」

 まあ、今の時代ならデンパなやつと思われる程度で済むかもしれんが。

「次に二時限目の体育だが……リーゼ、百メートル走世界記録更新おめでとう」

「当然よ。だってわたしは〝魔帝〟で最強だもの」

「誉め言葉だが皮肉だということに気づけ! 普通の人間は百メートルを五秒切って走らん。体育教師が異世界人だったから誤魔化せたものを、もう少し周りに合わせて加減しろ」

 運動能力は変なやつ程度では済まない。異世界人のことを秘匿するのはお前らを守るためでもあるというのに、こいつらときたら。あの日本かぶれの着物怪人がそこら辺の説明を省きやがったに違いない。

 しゅんと項垂れるセレスと、つんとそっぽを向くリーゼに、俺はこめかみを押さえながら最後の問題点を指摘する。

「そして三・四時限目、家庭科の調理実習。俺たちは『肉じゃが』を作るはずだった。なのに最終的に完成したのが『黒焦げの家庭科室』ってのはどういうことだ? なにをすれば家庭科室が吹き飛ぶほどの爆発が生まれんだよ? おかげさまで消防隊の方々にご足労いただいた上に、午後の授業も続行不能になったじゃねえか」

 軽い怪我人だけで済んだのは奇跡と言える。

「フン、そんな料理、食べたことも作ったこともないし」

「そ、そうだ。知らないものを作れと言われても困る!」

「その知らないものを丁寧に教えてくれるのが授業だろうがっ! 単純にお前らの料理スキルが残念を通り越した爆弾級なだけだろ!」

 カチン、となにかのスイッチを押したような音が聞こえた気がした。正座していた二人がゆらりと立ち上がる。

「ば、爆弾だと……料理自体はちゃんと完成しただろう!」

「わたしの料理に耐えられない教室が悪いのよ!」

 この二人に集中砲火されるかと思ってつい身構えた俺だったが、飛んできたのは怒気を含んだくだらない内容の言葉だった。

 俺はカバンからナイロン袋を取り出す。中身は紫色の瘴気を放つ漆黒の塊だった。

「これは俺が念のため回収しておいたお前らの『肉じゃが』だ。あくまで料理だと言い張るならこれを――」

「おーい、白峰、リーゼちゃん、セレスちゃん、こんなところにいたのか。もう授業ないんだからゲーセンにでも行こうぜ」

「――丁度いいから桜居に食わせてみる」

 屋上の入口からなにも知らずに駆け寄ってきた桜居に、俺はナイロン袋を差し出した。

「リーゼとセレスが『クッキー』を焼いてくれたんだが、多すぎるからお前に半分やるよ」

 本当は『肉じゃが』になるはずだったものだけどね。

「なんだと!? 白峰だけいい思いをしようとしてたのか許せん寄こせっ!! あむ……うん、色的にはチョコっぽいけどジャリジャリとしてて不思議な味ガフアッ!? ……しまった……毒か……」

 盛大に吹いて卒倒し、ピクピクと痙攣を始めた桜居には黙祷を捧げておこう。

「わかったか? これは『料理』じゃない、『兵器』だ」

 自分たちが作った物の威力を前にして、流石のリーゼとセレスも体を震わせて強く頷いてくれた。これで少しは世界が平和になるだろう。


 Trrrr! Trrrr! Trrrr!


 とその時、桜居の制服から零れ落ちたらしい携帯電話が音を立てて振動した。

 桜居は目覚める気配がない。無視してもよかったが、なんとなく嫌な予感がしたので俺はその携帯を取った。

『お楽しみ中申し訳ありません、桜居ちゃん。そこにいるはずのラジオネーム〈俺、女の子と同棲始めたぜヒャッホー〉さんに代わっていただけませんか?』

「はい只今代わりましたラジオネーム〈俺の独り暮しを返せ〉さんです」

 頭の中で「やっぱり切れよ」と囁く天使と悪魔の両方を、自らの意思で追い払った俺に誰か表彰状をくれ。

『あらあら、早いですねぇ。まるで桜居ちゃんの携帯に最初から出ていたみたいな速度です』

「ああ、その通りだ誘波。危なくとんでもないことをバラされるとこだったぞ!」

 俺ん家に魔帝様御一行が居候していることは決して漏れてはならない機密事項なんだ。

 俺は昏倒した桜居に必死に呼びかけをしているセレスと、同じく無抵抗の桜居を楽しそうに蹴り起こそうとしているリーゼを見る。

「ともかく用件をさっさと言え。生憎とこっちは取り込み中なんだ」

『わかりました。では手短に言いますね。――今すぐ異界監査局へ来てください』

 ふざけきっていた誘波の口調が一転し、深刻な色を帯びる。


『例の昏睡事件の犯人に、監査官が一人やられました』


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