三章 蛇蝎の襲来(2)
ホワイトハウスに似た立派な建物へと急行すると、既にそれぞれの要人が集まっていた。
俺たち側からは誘波とアーティとグレアム。モッキュ族側はモグラリアント九世と、モグラ兵長含む各部隊のリーダーが数人。どいつもこいつも屈強な体をしていて強そうだ。
「ではでは~、レイちゃんたちも来たので会議を始めたいと思います」
一応軍事会議的なアレなのだが、誘波のほわほわした声のせいで緊張感が吹き飛ぶな。
「まずは、私たちとモッキュ族ちゃんたちとの同盟が正式に決定したことを報告しますねぇ」
モッキュ族には俺たちの事情を包み隠さず説明していた。俺が原因でこの世界が再び危機に晒されているわけだからな。当然、反発の声も上がったよ。
俺たちを追い出せというくらいなら優しいもんで、過激な奴らは処刑しろだなんて言ってやがった。でもそこはトップのモグラリアントが冷静な人で助かったよ。俺たちを追い出したところで状況は変わらない。俺の力やアーティの技術は最初に見せつけているからな。寧ろ手を組んだ方がメリットはある。
ただ、実際に俺やリーゼ以外の魔王が現れていないから真偽を疑われた。ここ数日はその辺も含めてずっと話し合いをしてたっぽい。それがようやく纏まったってことか。
「こちらの兵力は私を含めた異界監査官が十二名。見習い監査官が二十名。局員が百三十名」
「あー、量産した〈幻想人形兵〉が千。自立戦闘用ドローンが三千だ」
「そこにわーたちモッキュ族約五千が加わるもぐ」
占めて九千百六十二。だいたい一万の兵力ってわけか。小国の軍隊程度にはなったが、これで魔王軍と戦えるのかどうかはやってみないとわからないな。
「なんか、マジもんの戦争だって実感が出てきたよ」
とはいえ、こっちには魔王が二人もいるんだ。その片方であるリーゼお嬢様はテーブルに用意されていたお菓子をパクパク食べていて話聞いてないけど。
「アーティ、〈幻想人形兵〉のスペックは?」
「あー、一昔前の白峰零児だ」
「待って俺が千人いるの?」
「あー、量産可能で且つ長時間の戦闘を継続できる最大スペックが昔のお前だったというだけだ」
たぶん夏合宿の修行で使った奴だよな。その時より改良されているだろうし、頼りにはなりそうだ。あと俺が増えれば攪乱効果も期待できそう。
「楽しい。楽しい話だ。一回そのイルなんちゃらと試合してみたんだが、俺的に悠里の奴と張り合っていた頃の零児そっくりでテンション上がったぜ」
戦闘狂のお墨付きなら安心だな。ボッコボコにされる俺を直接見なくてよかった。
そのグレアムはマロンクリーム色の髪で隠れていない方の目をモグラ兵長たちに向ける。
「モッキュ族だったか? てめえら的な練度もなかなかだったぞ」
「ハッ! お褒めいただき光栄でありますもぐ! グレアム教官!」
「グレアム教官!?」
一体何人のモッキュ族兵を叩きのめしたんだ、グレアムの奴。モグラ兵長たちは完全に調教されてる目をしてるよ。
「俺的に、次はお前とやりてえもんだなァ」
そう楽しげに言ったグレアムはトンファーの先をモグラリアントに向けた。見境ないなこのバトルマニアは。
「暇ができたらお相手するもぐ」
「おう、約束だぜ!」
一国の首領に暇なんてあるわけない。グレアムは体よくかわされたことにも気づかず愉快そうに笑っていた。
「誘波、報告は同盟のことと兵力の確認だけか?」
「そうですねぇ。他にも細々としたことはありますが、大きいところはその二つです」
「気になることっていうのは?」
誘波が通話で言っていた。報告と気になることがある、と。残りの報告が大したことないのなら、先にそっちの件を聞いておきたい。
「これです」
誘波は掌の上に風を集め、そこに大き目の透明なビニール袋を出現させた。中身はなにやら黒い物が蠢いていて――
「うげっ」
ゴキ……おGさんじゃねえか!
「ここ最近、妙に目につくようになったので捕獲してみたのです」
「かと言ってそんな一ヶ所に集めるなよきしょいわ!?」
離れていても聞こえるカサカサ音。直視は無理だ。鳥肌が立つ。
「モグラちゃんたちが言うには、こんな虫はこの世界にいなかったそうです」
「え?」
存在しない虫。俺たちの荷物に紛れていたのだとすれば、あまりにも数が多すぎる。そいつは確かに気になるな。
「アーちゃんが詳しく調べてみると微細な魔力を放っているようです。恐らく、このゴキちゃんは魔王の先兵だと思います」
「なっ!?」
寧ろそう考える方が自然だ。集まった魔王たちの中にはこういう虫を操っているような奴が一人いたからな。
と――
「レージどいて!」
さっきまで幸せそうにお菓子を頬張っていたリーゼが血相を変えて立ち上がる。掌から黒炎を飛ばし、誘波が風で浮かせているおGさん入りのビニール袋を容赦なく焼き尽したぞ。
だが、おGさんたちの何匹かは間一髪で逃げ出し部屋中を飛び回る。阿鼻叫喚の地獄絵図とはたぶんこのことを言うんだろうね。
逃げた奴だけじゃない。部屋の隙間という隙間から黒光りがカサカサと大量に現れてきやがった。やばい。どんどん増えてやがる。
奴らはやがて一ヶ所に群がって積み上がり、だんだんと人の形になっていく。
「ふひっ、なーんだもうバレちゃったかぁ」
「おGさんが女の子になっただと……ッ!?」
触覚のようなアホ毛が生えた茶髪の少女だった。アーティにも負けない不健康そうな目をしていて、小柄な体には黒茶色の長いポンチョを羽織っている。内に秘められた禍々しい魔力は魔王ほどではないが、かなり強いぞ。
「やっほーやっほー、ウチは『蛇蝎』の魔王軍『四害蟲』が一人――ブラトデアっていうんだ。よろしくね」
明るく且つ不気味に笑って自己紹介をする少女。やっぱり『蛇蝎の魔王』フィア・ザ・スコルピの部下だったか。『四害蟲』は四天王的な存在って意味だろうね。つまり幹部だ。
「『蛇蝎の魔王』もぐ……ッ!?」
モグラリアントが息を呑む。すると、モグラ兵長たちが一斉に槍を構えてゴキブリ女――ブラトデアを取り囲んだ。
「ふっひひ、そーんな怖い顔しないでよ。ウチは戦うために来たんじゃないんだからさ」
囲まれているのに余裕の表情を崩さないブラトデア。俺は日本刀を生成しながら問いかける。
「なら、なんのつもりだ?」
「宣戦布告」
ちゅどおおおおおおおおおおん!!
邸の外から盛大な爆発音が轟いた。
地下空間の天井が破られたらしい。土塊が落下する音と振動、そして住人たちの悲鳴が響いている。
「今からバトル開始さ! ウチの魔王様が『千の剣』から力を奪って、ついでにこの世界をもう一度滅ぼすんだって! ふひひひっ!」