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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第七巻
255/315

間章(2)

 旧軍事世界ヴォジーニ。

 山間に隠されるように建設された軍事施設の跡地にて、『蛇蝎の魔王』フィア・ザ・スコルピは憤怒と苦悶が綯い交ぜになった表情をしていた。

「くそがぁ! くそがぁ!」

 苛立ちのままに蠍の尻尾を振り回し、近くに転がっていたなにかの機材を施設の外まで弾き飛ばす。だが、その程度の八つ当たりでは怒りを鎮められそうになかった。

「あのガラクタ野郎がぁ!? よくもやってくれやがったなぁ!?」

 尻尾の先から藍色の魔力砲を放つ。天井が跡形もなく消し飛び、満点の星空が嘲笑うかのように明滅していた。

 結論から言えば、『蛇蝎の魔王』フィア・ザ・スコルピは『鐵の魔王』MG-666との戦争で敗北した。

 軍団の三分の一を失い、〝魔帝〟の魔力結晶まで奪われてしまったのだ。

「……〝侯爵〟の階級は伊達じゃねぇ。オレ様がこれまで蹴落としてきた〝総裁〟や〝騎士〟の有象無象とは格が違うってか」

 舐めていたつもりはない。単純な戦闘力では劣っていなかったと自負している。ただ、相性が悪かったのだ。

「魔王様、もうよろしいでしょうか?」

 柱の陰から蜘蛛の足を背中から生やした女が姿を見せた。フィア・ザ・スコルピの眷属――『蛇蝎』の魔王軍幹部である『四害蟲』の一人だ。

「ラトロデクツスか。いいぜぇ、ようやく落ち着いた。なにか報告かぁ?」

「二点ほど」

 彼女たちも『鐵』の眷属にしてやられて腸が煮えくり返っているだろう。トップがいつまでも癇癪を起こしていては示しがつかない。フィア・ザ・スコルピは短く息を吐くと、よくわからない機械の上にどさりと腰を落とした。

「『鐵』の魔王軍がこの世界から離脱したことを確認いたしましたわ」

「チッ、あの野郎逃げやがったかぁ。それともただの貪欲な悪食野郎かぁ?」

 負けはしたが、こうしてまだ生きているフィア・ザ・スコルピの報復を恐れた――ということは奴に限ってはあり得ないだろう。機械共に疲労という概念はない。早々に他の魔王も喰らうつもりだと想像できる。

 生きてさえいればゲーム自体の敗北にはならない。リベンジは必ずする。だが、今のままでは結果は同じ。格上を蹴落とすにはそれ以上の力を得なければならない。

 そういう意味では、この略奪ゲームは最高の舞台だと言える。

〝魔帝〟の魔力を奪い合うゲームだが、別にそれの使用を禁じるルールはない。禁じてしまえば『千の剣の魔王』は戦えなくなってしまうからだ。

 今回の戦闘では使わなかった。そんなものに頼らなくても勝てる自信があったのだ。

 その思い上がりのせいで負けたのだから、怒りの矛先は自分に向けるべきだろう。フィア・ザ・スコルピはきちんと反省のできる魔王である。

「雑魚から結晶を奪って次こそ奴を滅ぼす。じゃねえとオレ様を目にかけてくれた『あの方』に合わせる顔がねぇってもんだぁ」

 だが、今回参加している魔王はフィア・ザ・スコルピよりも格上ばかり。狙うのは同じ〝伯爵〟である『贖罪』か、なぜ参加しているのかわからない最底辺の『仄暗き燭影』か、それとも――

「二つ目のご報告ですが、他の世界を探索していたブラトデアから行わせていただきますわ」

 蜘蛛女――ラトロデクツスが頭を下げて数歩下がり、入れ替わりにカサカサと不快な音を立てて一人の少女が前に出た。

「やっほー、魔王様! ウチがいない間に負けたんだって? ふひひっ」

 触覚のような二本のアホ毛をピコピコさせ、少女――ブラトデアは意地の悪い笑みを浮かべた。彼女はこういう奴だとフィア・ザ・スコルピはわかっているが、下がっていたラトロデクツスが血相を変えて戻ってくる。

「不敬ですわよ蜚蠊(ごきぶり)小娘!? 喰い殺しますわよ!?」

「ふっひ、やってみなよ毒蜘蛛ババア!」

 両者の間で火花が散る。かと思えば、ラトロデクツスが口から弾丸のような超高速で糸を吐き、それをブラトデアはカサカサと難なく回避する。

 と――

「やめいやめい! 貴様ら、魔王様の御前であるぞ!」

 渋いバリトンボイスが聞こえ、無数の足が生えた長い胴体が死角から二人の身体に巻きついた。強制的に戦闘を中断された二人は強力な絞めつけに身動きが取れなくなる。

「放しなさいセンティピード! 今日こそこの無礼な小娘に礼儀を叩き込んでやりますわ!」

「ふひひ、魔王様は部下の無礼なんて気にしないのに、なぁに熱くなっちゃんてんの?」

 そんな状態でも争いをやめない二人に、ぬっと暗闇から出てきた大ムカデの頭が大きな溜息を吐いた。

 この大ムカデもフィア・ザ・スコルピの眷属、『四害蟲』の一人である。

 そして当然、『四害蟲』と呼ぶからにはもう一人。


「シャッシャッシャ! やらせてやれよ! 『四害蟲』同士のバトルは見物になるぜ!」


 長い舌をチロチロと出した長身の男が愉快そうに嗤いながら現れた。凶悪な色を湛えた縦長の瞳孔に睨まれた三人は一瞬ビクリと身震いする。

 空気が余計に緊迫する。

 ガン! とフィア・ザ・スコルピは金属製の壁を殴って凹ませた。

「煽るんじゃねえよ、グロイディウス。てめえらも、喧嘩は結構だが後にしやがれ」

 フィア・ザ・スコルピの命令に『四害蟲』たちは一斉に争いをやめ、横一列に並んで膝をついた。大ムカデのセンティピードだけは頭を垂れている。

「報告しろぉ、ブラトデア。なにを見つけたぁ?」

 呼ばれたブラトデアは触覚アホ毛をピンと立て、顔を上げてニヤリと笑う。

「ふひ、魔王様は旧自由世界オゼクルグを覚えてる?」

「あぁ? あー、そういやどっかで聞いたことあると思ってたが、()()()()()()()()()()じゃねえかぁ。毒と瘴気塗れの世界に変えてやったなぁ。で、そこを拠点にした物好きな魔王でもいたかぁ?」

 もう何年前の話だったかも覚えていない。まだフィア・ザ・スコルピが〝総裁〟だった頃の話だ。ライバルを蹴落とし、連合での階級を上げるために片っ端から滅ぼした世界の一つだった気がする。

「いたんだよね、これが。『千の剣の魔王』と『黒き劫火の魔王』の二世さ」

「おいおい、ゲームの主役様じゃねえかぁ。そんなとこにいやがったのかぁ」

 恐らく知らずにあの世界に渡ったのだろう。もうゲームが始まってけっこうな時間が経ったが、未だに他の世界へ移動していないということは居座る気満々ということだ。

 奴らを潰せば〝魔帝〟の魔力が一気に手に入る。元々そういう目的でやってきたのだ。他の魔王どもに見つかる前に狩っておくべきだろう。

 少なくとも『鐵の魔王』よりは先に手をつけておきたい。

「それとそれと、もう一つ面白いものを発見したんだ」

「もう一つだと?」

「あの世界、完全に滅びてなかったっぽいよ」

「……へぇ」

 フィア・ザ・スコルピの口元が凶悪に歪む。


「ダメだなぁ。そりゃあダメだぁ。魔王が滅ぼしたって公言しちまったからにはぁ、ちゃんと最後までお掃除しねえとなぁ!」


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