二章 戦場となる無人世界(5)
ウゥーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!
けたたましいサイレンの音が地底の空間全域に響き渡った。
「な、なんだ? なにが起こってるんだ?」
「……あー、まずいな」
アーティが苦虫を嚙み潰した表情で手元のボタンをいろいろと操作し始める。
「あー、感知された。飛ぶぞ、白峰零児」
「飛ぶって――おわっ!?」
自然落下していた機体がぐらりと揺れ、一瞬停止する。ガコガコガシャンとなにかが組み変わるような音が聞こえたかと思えば、静かなジェット噴射音を放ってモグラ戦車君一号が前方へと飛行を開始したんだ。
「こいつ飛べたのかよ!?」
「あー、陸海空対応だ」
「もはやモグラじゃねえ!?」
「あー、ツッコミを入れている場合ではないぞ。ペリスコープを見ろ」
言われるままに俺はペリスコープを覗く。地底の街を見ると……なんだ? 今キランって光って。
「はあ!?」
思わず変な声を出してしまった。だって街から無数の近未来的なミサイルが射出されて来たんだぞ。正直なにがどうなっているのかさっぱりわからないが、とにかく状況が最悪だということだけは理解した。
「あー、熱烈な歓迎じゃないか」
「おもっくそ敵対されてるんですけど!?」
地底の街には一体なにがいるんだ? 少なくとも友好的な存在じゃないことは確かだな。
「あー、着陸できる場所を探す。白峰零児、お前はミサイルをどうにかしろ」
アーティはモグラ戦車君一号を巧みに操縦し、ミサイル群を飛燕のごとく回避する。だが、ミサイルは追尾式らしいな。かわしてもすぐさま軌道を曲げて追って来やがる。
このままじゃ迎撃されちまう。
だから俺がどうにかするしかないってか。
〈魔武具生成〉――ラウンドシールド(特大)。空中生成。遠隔操作。
俺は巨大な円形の盾を生成し、背後から追撃するミサイル群を全て受け止めた。ちゅどんちゅどんと爆発が連続して盾は砕けちまったが、なんとか全部防ぎ切ったぞ。
「あー、まだだ。気を抜くな。第二波が来るぞ」
アーティが警告する。今度はさっきよりも数が多く、しかも多方向からミサイルが射出されやがった。
同じミサイルじゃない。それらは空中で弾け、小ミサイルの散弾となってより手数を増やしてきたぞ。飛行技術で突破できる穴を完全に塞がれちまった。
「あー、まあまあの技術力だな」
「感心してる場合か!? どうすんだよ!? 盾を生成してもあんなの防ぎ切れないぞ!?」
複数生成しても隙間は必ずできる。それに全方位を盾で塞いでしまったら俺たちの進路もなくなるわけで、要するに激突は免れない。
「あー、仕方ない。行ってこい、白峰零児。あとで必ず拾ってやる」
「は?」
ガコッと俺の座っていた椅子がスライド。ハッチが自動で開き――ポーン! とバネ仕掛けのように俺の身体を外へと弾き出した。
「はぁあああああああああああああああああああああッ!?」
待て待て待てふざけんな!? 俺は黒ひげ危機一髪か!? パラシュートとかしてないんだぞ!?
とか内心で喚いている間にもミサイルの弾幕は迫っている。
「だーもう!? やってやるよ!!」
俺は日本刀を生成。その切っ先を迫り来るミサイル群へと向ける。
――〈魔剣砲〉!
無限に生成される刀剣の砲撃が扇状にミサイル群を撃墜していく。爆発が連鎖し、他のミサイルも巻き込んで一気に数を減らす。
普段の三割の力でもどうにか使えたな。
撃ち漏らしのミサイルも処理したところで、上空から伸びてきたアームが俺の胴を掴んだ。
『あー、よくやった。このまま着陸するぞ』
アームはモグラ戦車君一号から伸びていた。ホントなんでもアリですね、その機体。惜しむらくは迎撃システムが俺だったということくらいか。戦車とは?
アーティは俺を掴んだまま高度を下げ、丁度いい広場へとゆっくり機体を着地させる。
「やっぱり、しっかりとした文明……だよな?」
周りを見回せば、巨大な地底湖を中心にニューヨークもかくやってくらい立派な街並みが広がってやがる。廃都なんかじゃない。ちゃんと人の営みを、気配を感じるぞ。
「なんでこんな街が滅んだ世界に――どわっ!?」
パカッと急にアームが開いて顔面から地面に落下する俺。ハッチが開き、アーティも白衣を引きずりながら出てきたよ。お前覚えてろよ……。
「あー……大丈夫だな、白峰零児」
「そこは嘘でも『大丈夫か?』って心配されたかった!?」
アーティは棒つきキャンディーを咥えて素知らぬ顔。さては白衣踏んでビターンさせた仕返しだなこいつ。
と――
「動くなもぐ!」
鋭い一喝と共に、俺たちのいる広場が大勢の気配に囲まれた。
やっぱり〝人〟がいるようだ。俺は即座に気を引き締め直し、敵意がないことを示すため両手を挙げる。
「やーらは何者だもぐ!? ここへなにをしにきたもぐ!?」
SFアニメに出て来そうな未来的な拳銃を握って誰何してきたのは、小柄で寸胴型をした毛むくじゃらの生物だった。
手足は大きくて鋭い爪が生えており、鼻が長く、目をサングラスで隠している。二本足で立っていて、皮鎧のように頑丈そうな警備服を着ているな。
「モグラ人間?」
俺たちを取り囲んでいる全員が、そんな風に見えた。