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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第七巻
250/314

二章 戦場となる無人世界(3)

 魔王たちのゲームが開始してから数時間が経過した。

 今のところ魔王の誰かが攻めてくる気配はない。グロルが言うには開幕早々にバトッている魔王もいるらしいからな。そのまま共倒れになってくれることを願うよ。

 この数時間で俺たちの陣営はだいぶ整ってきた。

 毒沼と瘴気の世界で野営するためのテントがいくつも建設され、大勢の人間が忙しなく行き来している。異界監査局の局員数十名に加え、ラ・フェルデからの騎士たちが百人程度だ。本来ラ・フェルデ勢はもっといたんだが、他世界に進軍したクロウディクスがセレスを含め大半を引き連れて行きやがったんだよ。

 全部で二百にも満たない戦力。いや、局員は戦力として数えられないから実質百人ちょっとだぞ。大丈夫かこれ?

 いろいろ不安はあるものの、一応この軍のリーダーである俺は今――

「あー、また厄介事を持ち込んでくれて私は嬉しいぞ、白峰零児」

 宙に浮遊する円盤から伸びた機械の手でほっぺをぐりぐりされていた。円盤にはぼさぼさの金髪フェミニンストレートに丈の長すぎる研究白衣を纏った少女が乗っている。

 眠そうな目の下に大きな隈を拵えたこいつは、アーティ・E・ラザフォード。異界技術研究開発部第三班の班長だ。

「あー、日を経るごとに厄介指数がマシマシになっていないか? どんな星の下に生まれたらそうなるのかちょっと解剖してみたいのだが構わんな?」

「なんかホントすみませんでした! でも厄介事の方からやってくるんで俺にはどうにもできません!」

 お掃除ロボットを自称する円盤からメスとかノコギリが出てきたんですけど! やめて! 俺の腹を開いてもなんの解決にもなりませんよ!


「アーティ様に賛成安定です。ゴミ虫様は殺処分した方が世界のためだと提案します」


「レランジェ!?」

 誰か助けてーっ! と念じてたら俺専用の暗殺メイドロボがやってきた。世界よ、ちょっと理不尽すぎやしませんかね?

 レランジェは相変わらずなに考えているのかわからない無表情で、アーティの反対側から俺のほっぺをぐりぐり。気のせいかな? 指じゃなくて砲口を突きつけられてるような……脱兎!

 次の瞬間、バチリと青白い光線がスパークした。

「チッ……避けることだけは安定していますね、ゴミ虫様」

「あー、電流実験から始めるのもアリだな」

「お前らは俺への殺意をもうちょっとオブラートに包んでー!?」

 このままじゃ魔王と戦う前に身内に殺されちまう。なんとか話題を変えないと。

「そうだレランジェ、お前確か遠出のアルバイトに行ってるんじゃなかったのか? もうクビになったのかよ」

「そんなわけありません。ゴミ虫様はレランジェを見くびっていますね。処刑安定です」

「なんで!?」

 ダメだ。どんな話題でも俺を殺す方向に行ってしまう。にしても、この暴力メイドをまだクビにしてないってどんなアルバイト先なんだ?

「あ、レランジェ!」

 と、誰に貰ったのかアイスクリームをペロペロしながらリーゼがやってきた。レランジェは無表情の殺意をすっと収め、リーゼに振り返ると恭しくお辞儀をしたぞ。

「マスター、ご無事で安定です」

「聞いて聞いてレランジェ! キョートってところですっごく面白いことがあってね――」

「マスター、お話でしたらあちらのテントへ参りましょう」

 よし! グッジョブだ、リーゼ。そのまま引きつけておいてくれ。俺にあのメイドの相手は荷が重すぎる。

 残るは一人。狂気のマッドサイエンティストだけだな。

「あー、貴様、今私をマッドだと思っただろ?」

「心を読む装置でも搭載してんの!?」

 誘波といいアーティといい、どうして監査局古参の奴らはどうでもいい時に読心術を発揮してくるんだ?

「あー、冗談はこのくらいにして、真面目な話をしようじゃないか。ついて来い、白峰零児」

「お、おう」

 アーティはそう言うと棒つきキャンディーを口に咥え、円盤に乗ってふよふよと一番大きなテントへと向かっていった。

「あー、いいか? このテントが我々の指令本部となる。貴様か誘波のどちらかが常駐することになるだろう」

「ふぅん、けっこう立派なもんができてんのな」

 俺はテントを見上げて溜息をつく。色合いが派手ならサーカスかなんかと間違えそうになるほどでかいぞ。

 アーティはお掃除ロボット(自称)から降りると、テントの入り口をくぐって中に入った。俺も黙ってその後に続く。


 ビターン!


 あ、やべ、また白衣を踏んづけちまった。

「……あー、貴様、何度私を転ばせたら気が済むのだ?」

「嫌ならそのずるずるをやめろ!? そっちも事故防止意識を高めて!?」

 鼻を赤くした涙目で睨みつけてくるアーティ。なんの理由があってそんななっがい白衣引きずってるのかさっぱり謎だ。お前がお掃除ロボみたいになってるぞ。

「あー、いつか改造してやるからな」

「お、お手柔らかに……」

 気を取り直してテント内を奥へと奥へと進んでいく。中はいくつもの部屋があってちょっとした仮設住宅よりも立派な造りだ。

 そして一番奥の広い部屋に辿り着くと、そこには既に何人か集まっていた。

「魔王か。俺的にこんな戦いに参加できてワクワクが止まらねェんだが、これがムシャブルイっていう奴か?」

「ワクワクしてるんはグレアム先輩だけや……」

「マルファは早くおねえさまのところへ行きたいユゥ」

 聞き覚えのある声に視線を向けると、マロンクリーム色の髪をした作業着男に、ジャージ姿の少女、ピンクのワンピースを纏ったツインテールの幼女がいた。

「グレアムに稲葉にマルファ、お前らも来てたのか」

 よく知った顔を見つけて少し安堵する。これでラ・フェルデのお偉いさんが集まってたらと思うと胃がキリキリしてたとこだ。

 三人だけじゃない。中等部を始め、本局に所属している監査官たちが軒並み顔を揃えているな。俺が知っている連中でいないのは、迫間たち影魔導師と今はまだ京都にいるジル先生とバートラム先生くらいだ。あ、リーゼとレランジェもいませんねそういや。

 ヒュオっと風が吹く。

「ではでは~、監査局(私たち)側の主要メンバーがだいたい揃ったので、軽く現状の戦力確認と魔王襲撃に備えた作戦会議を行いたいと思いますぅ」

 奥に用意された執務机で手を合わせた誘波が、ニコニコと微笑みながらそう宣言した。


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