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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第七巻
247/314

間章(1)

 標準世界時刻――午前六時。

 旧軍事世界ヴォジーニでは、略奪ゲーム開幕と同時に二人の魔王が激突していた。

 荒廃した大地を埋め尽くすのは、巨大な蛇や蠍や蜘蛛の大群。それらと相対するは、同じ姿形をした感情のない戦闘用機械兵(アンドロイド)である。

『蛇蝎の魔王』と、『鐵の魔王』の軍勢だった。

 各地で大地を抉るほどの大爆発が連発する。

 廃れた軍事基地を占拠した『鐵』の魔王軍は、当時の兵器を復活させ押し寄せる『蛇蝎』の魔王軍をマップ単位で消し飛ばす。それでも擦り抜けてきた蛇や蠍や蜘蛛は機械兵たちに飛びかかり、確実にその機能を停止させていく。

『蛇蝎』軍を率いているのは、〈魔王たちの会合〉にも参加していた蜘蛛女。

『鐵』軍に指令を出しているのは、同じくあの場に立ち会っていたサイボーグ女。

 それぞれの軍の指揮官が牽制し合うように睨みを利かせている中、大将である魔王たちは――上空にて衝突していた。

 戦闘機のごとく立体的に飛び回る『鐵の魔王』MG-666が大量のミサイルを射出する。それらを『蛇蝎の魔王』フィア・ザ・スコルピは蠍の尻尾を振り回すことで全て撃ち落とした。

「本日ノ朝食ハ虫料理。悪クナイ」

「機械のくせに物食ってんじゃねえよぉ!」

「当機ハ元人間ダ。食ッテナニガ悪イ」

 両者一気に距離を縮める。刃に変形したMG-666の腕、フィア・ザ・スコルピの爪が激しく打ち合い火花を散らす。その衝撃だけで地上の兵たちが吹き飛ばされる。

 互いに弾かれたように距離を取った。

「美味シク焼ケロ」

「ギャハハ! スクラップにしてやんよぉ!」

 MG-666が口をパカリと開き、フィア・ザ・スコルピが蠍の尻尾の先に魔力を集中させる。

 鉄色と藍色の魔力砲が衝突。とつてもない爆発は大地を引っ繰り返し、世界そのものにまで亀裂を与えた。


        ※※※


 旧異端世界エレジャ。

「ああ、罪深き者たちの残滓を感じます。我らが神よ。どうか彼らに安らかなる滅びを」

 朽ちた大神殿と思われる建物の屋根の上で、『贖罪の魔王』エルヴィーラ・エウラリアは両手を胸の前で組んで祈りを捧げていた。神殿の周囲でも彼女の眷属であるシスターたちが祈祷のポーズを取っている。

 空が割れ、乳白色の光が神の裁きがごとく降り注いだ。ただでさえ廃れ切った大地が余計に抉られ、焼け焦げ、その形を変えていく。

「敵もいないのになにしてやがんだ? 居場所がバレバレだぞ」

 割れた空から光ではなく、紅蓮の炎がエルヴィーラへと放射される。エルヴィーラは自身の周囲に結界を張ることで炎を受け流した。

 上空から無数の燃える戦艦が降りてくる。その中で最も大きな船の船首に、炎の髪を持つ褐色肌の少女が立っていた。

「『煉獄の魔王』ですね。あなたの罪を懺悔なさい。私が(すく)って差し上げます」

「相変わらずなに言ってんのかわかんねぇなテメェは! 〝魔帝〟の力だけ置いてさっさと消えやがれ!」

『煉獄の魔王』フェイラ・イノケンティリスは燃える戦槌を振り翳し、エルヴィーラに向かって船首から飛び降りた。


        ※※※


 旧太古世界ディナ・セナーソ。

 見晴らしのいい丘の上に立つ『概斬の魔王』切山魈は、崖下で行われている合戦の準備を眺めながら静かに背後へと語りかける。

「……某の相手は貴殿でござるか、『仄暗き燭影』殿?」

 切山魈の背後に佇む靄のような影は、ただゆらゆらと揺れるだけで応えなかった。襲いかかるような気配もなければ、そちらから話しかけることもない。

 ただただ、そこにいるだけ。

「……戦意なき者と斬り合ってもつまらぬ。貴殿がなんのためにゲームに参加したのかわからぬが、某の邪魔だけはしないでもらいたい」

「……」

 やはり、影はただ揺れるだけだった。


        ※※※


 旧氷冷世界クレスマトラ。

 氷冷とは確かに旧であり、現在はその性質を百八十度反転し、炎とマグマが支配する灼熱の世界へと変わり果てていた。

 火山の麓、マグマの川の畔。

「キヒッ、誰もここを選ばなかったみたいだね。悪くない世界だと思うのに」

 そこで楽しそうにロッキングチェアに揺られているゼクンドゥムに、傍でテントを組みてていた黒鎧の男が淡々と告げる。

「狙いでもない魔王との戦闘で消耗するよりはよいであろう」

「ねぇ、カルトゥムはそれ熱くないわけ? 鎧脱げば?」

「寧ろ貴様がなにかを着ろ」

 白い長布だけを裸体に巻いているゼクンドゥムに、カーインは言っても無駄だと知りつつそう反論した。

 と――

「あっづーい……氷冷って言ってたじゃん。あたし寒いのは得意だけど熱いのはダメなんだぞ! くっそー、白いのに騙された! わふぅ」

 ケモミミと尻尾の少女がブルーシートの上に倒れてぐったりしていた。

「すまないが水を貰えないか? この熱さでルウがグロッキーだ」

 そんな彼女を介抱する銀髪の男――ガルワースがカーインから水筒を貰い、ルウにゆっくりと飲ませていく。少しは回復したのか、ルウのケモミミがピクピクっと動いた。

 そこに黒セーラー服を纏った望月絵里香が歩み寄り、ルウの頭を優しく撫でた。

「ふふっ、熱さに悶えるワンコも可愛いわね。私の影霊(ペット)にしちゃいたい♪」

「ワンコじゃねえ! 狼だぁわふぅ……」

 がくっと再びぐったりするルウ。本当に熱いのがダメらしく、普段の元気さが欠片も見受けられない。

「まったく、しょうがないなぁ」

 ゼクンドゥムはロッキングチェアから飛び降りると、パチンとフィンガースナップ。次の瞬間、パチクリとルウの眼が大きく見開かれた。

「あれ? なんか急に寒くなったぜ! おいガル! あの雪だるままで競争だ!」

「待てルウ!? ゼクンドゥム、なにを見せた?」

 ガルワースはマグマの川へと飛び込もうとするルウを捕獲し、批難するような目でゼクンドゥムを睨む。

「この世界が最初から雪の世界だったっていう『夢』だよ。あのままじゃ話もできなかったでしょ?」

 あと一歩で本当に話もできない体になるところだったが、それはそうとしてゼクンドゥムは空中に四つの白い渦を出現させた。

 そこには他の世界の様子が映し出される。


「さてさて、ボクたちが最初に狙う魔王はどこかな?」


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