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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第七巻
245/315

一章 魔王たちの会合(6)

 東寺の上空に聳えていた城は消え、空を埋め尽くしていた魔王艦隊も一隻たりとも見えなくなった。さっきまでの胃が痛くなりそうな光景はどこへやらだ。全部ゼクンドゥムの〈白昼夢〉だったらよかったのにな。

 崩壊した第二十八支部の前に転移で戻ってきた俺たちを待っていたのは、セレスと悠里の二人だけだった。

「零児、会合はどうなったの?」

 俺とリーゼが無事に戻ってきたことにほっと胸を撫で下ろした悠里がさっそく訊ねてきた。ちなみにゼクンドゥムは城を出る前に〈夢回廊〉でどっかに消えちまったよ。『王国』の仲間のとこに戻ったんだろうね。

 あいつらと協力するか否かの返答は、保留にした。『王国』が本気で魔王たちからこの世界を守りたいのかどうかは、ガルワースとルウがそのために動いていたことからも疑う必要はないと思っている。

 だが、奴らの得体の知れなさは変わらない。簡単に信じて後ろから刺されたんじゃ滑稽だからな。少なくともゲーム中は信用できると証明されるまで首を縦に振らないつもりだ。

 俺が勝手に決めていい話でもないしな。

「なにから話すか……とりあえず、この世界が戦場になることだけは回避したよ」

 俺は〈魔王たちの会合(ヴィシャスコア)〉で見て聞いたことを包み隠さず話した。無論、ゼクンドゥムたち『王国』が関与してきたことも。協力関係を提案されたことも。全部な。

「侯爵以上の魔王が七人……思ってた以上に大変なことになったわね」

「『王国』の真意は読めないが、奴らも我々と争っている場合ではなくなったのではないか?」

 二人は深刻な顔をして考え込んだ。勇者として活動していた悠里は魔王連合の階級制度も理解しているんだろう。セレスについては、『王国』自体というよりゼクンドゥムの相棒だった奴の方が気になっている様子だ。

「セレス、悪いがカーインの姿は見てねえぞ」

「……そうか」

 あの場には魔王とその眷属一名しか侵入を許可されていなかった。口約程度の話じゃなく、グロルの術によってルール付けられていたんだろうね。『概斬の魔王』がやったように呪い事ぶった切りでもしない限りは曲げられなかったはずだ。

「どいつもこいつも強そうだったわ。燃やし甲斐がありそうね」

「私は〝魔帝〟リーゼロッテがなにかやらかすんじゃないかとヒヤヒヤしていたぞ」

「わたしは騎士崩れとは違うから我慢できるわ」

「本当か? 零児が止めに入る姿をありありと想像できるぞ」

 リーゼとセレスが顔を突き合わせて睨み合った。この二人のなによなんなの論争を見て安心する日が来るとは思わなかったよ。

 すると、悠里が検分するように俺を上から下まで見回す。

「今の零児は、力が三分の一になってるのよね?」

「ああ、そうだな。ハッ! まさか今なら勝てるから滅してやるとか!?」

「言わないわよ!? なんならあなたが万全でも勝てるわよ!?」

 ならよかった。

 俺の魔力は全部奪われた上で九等分されたんだ。その内リーゼとゼクンドゥムに配られた分は回収したからまだマシだが……アルゴスの声が聞こえなくなっちまった。あいつは〝魔帝〟の魔力に宿っていた残留思念だからな。

「それで、どう? 今の力で勝てそう?」

「ぶっちゃけ厳しいかもな。何人かとはまともに戦えると思うが……あいつだけは瞬殺される気しかしねえよ」

 あいつ――公爵で唯一グロルに刃向かうことのできた『概斬の魔王』切山魈。あいつだけは別格だった。物腰は静かで他の魔王と比べて破壊的な気配はなかったが、たぶん、『柩の魔王』ネクロス・ゼフォンよりも上だ。不気味さで言えば序列最下位とかいう『仄暗き燭影の魔王』ンルーリもよくわからん力を持ってそうだったけどな。


「戦場を他世界に移していただけたことは助かりますねぇ」


 ヒュオっと、一陣の風が吹いた。

 思わず目を庇った俺たちの眼前に、ド派手な十二単を纏った少女が姿を現す。京都の台地にふわりと舞い降りた天女もどきは、俺たちを見て柔和な笑みを浮かべた。

「誘波!?」

「誘波殿、どうしてここに?」

 どうしてというより、どうやって?

「緊急事態のようでしたから、あちらのお片付けを丸投げケホンケホン! 局員たちにお任せして来ちゃいました♪」

「来ちゃいました、じゃねえよ!? お前の転移ってこんな超長距離でも行けんのかよ!?」

「本当は新幹線で駅弁を食べながらのんびり来たかったんですけどぉ」

「のんきか!?」

 だが、〈異端の教理(ペイガン)〉されるかもしれんのにわざわざ来てくれたのは、それだけこいつもこの世界を守りたいってことだ。守護者だもんな。

「……他世界、ね」

 悠里が納得いかなそうな顔をして呟いた。

「アタシはどこの世界でも戦場になんてしたくないけどね。グロルは本当に『無人の世界』って言ったの?」

「ああ、それは間違いない」

「じゃあ、そこは一度魔王に滅ぼされた世界よ」

「はぁ!?」

 しれっと答えた悠里の言葉に俺は素っ頓狂な声を上げた。

「人間がいようといまいと、魔王が見つけた世界をそのまま放置しておくことなんてありえないから。下手すると別々の魔王に何度も何度も蹂躙された可能性だってあるわ」

「まじか……」

 それは想像もできないほど悲惨だ。そんな世界でゲームをするだと? グロルの野郎、なんとも言えない怒りが湧き上がってきたぞ。

「やっぱ魔王ってクソだな」

「あなたも魔王よ?」

「そうだった!? いやでも俺はあんなやつらと違うからね!?」

 俺やリーゼは魔王因子の破壊衝動は克服してるんだ。だからあいつらとは違うはず。そういや、ゼクンドゥムも魔王なんだよな? あいつにも破壊衝動はあるのか?

「レイちゃん、率直にお尋ねしますが、奪われた魔力を取り戻したいですか?」

 誘波が俺を真っ直ぐ見てそんな質問をしてきた。いや待て、なんかおかしいぞ。

「なあ、俺がその説明してた時お前いなかったよな? なんで知ってんの? いくらなんでも新幹線の距離を盗聴できないよね?」

「いいから答えてください。重要なことです」

 いつになく真剣な顔ではぐらかされた。誘波ならやりかねんから怖い。京都を回ってる時もやたらタイミングよく電話してきたりしてたし。

 まあ、それはいい。問い詰めても俺の胃が痛くなるだけだ。

「魔力か。俺自身のためって言うなら、正直そこまで執着はしてねえよ。また貯めりゃいいからな。だが、奪ったのは魔王だ。俺の力を利用してなにしでかすかわかったもんじゃねえ奴らだ。だから取り返す! ついでにあいつらの魔力も俺が根こそぎ奪ってやんよ!」

 アルゴスをこのままにもできないし、どうせ放っておいても俺は狙われてんだ。俺が参加しなきゃ、それこそこの世界を戦場にしちまうようなもんだからな。奪われた魔力だけが、ゲームに参加する理由じゃない。

「あと結局どこの世界で戦っても胸糞悪いんだ。ゲームが終わったらグロルのクソ野郎を絶対ぶん殴ってやる!」

 拳を握る。だが今の力じゃ、たとえ魔力を全部取り戻したとしてもグロルに勝てるかどうかわからん。あいつはやろうと思えば切山魈すら手玉に取れるだろうからな。

 なら、ゲームが終わるまでに俺がもっと強くなってりゃいいだけの話だ。

「うふふ、それでこそレイちゃんですね」

「その後は燃やしていい?」

「そこは塵も残さず滅ぼすって言いなさいよ」

「まったく、零児らしいな」

 四者四様の反応で微笑むリーゼたち。しっかり対策を立てて、一体ずつでも着実に魔王を倒していく。俺たちならできるはずだ。

 と――

「どうやら来たみたいよ」

 悠里がすっと目を逸らした。その視線の先には、グロルの赤紫色をした魔法陣が輝いている。

 転移陣とは違うな。その魔法陣から、すーっと静かに豪奢な紐で丁寧に結ばれた書簡が浮かび上がってくる。

 これが無人世界へのパスってやつか。

「なっ!?」

 書簡を開き、そこに書かれていた見たこともない文字に俺は驚愕する。見たことないのに、意味は脳内に伝わってきた。


【ゲーム名:『千の剣の魔王』争奪戦

 勝利条件:参加する魔王は己が持つあらゆる武力・知力・権力を持ってして、他魔王が所有する全ての〝魔帝〟の力を収集せよ

 敗北条件:魔王の消滅、またはゲーム中の指定世界以外への干渉

 開始時刻:標準世界ガイアを基準とし、午前六時より開戦

 終了時刻:誰かが勝利条件を満たすまで

 遊戯場所:以下のパスで渡れる世界のみと限定する


①旧自由世界オゼクルグ

 次元座標D8741646415.89254.65525.5K-32-7


②旧太古世界ディナ・セナーソ

 次元座標E57894564515.88461845.512.AH87G-228


③旧軍事世界ヴォジーニ

 次元座標S8464942454.988584.545645.C54545-4B


④旧異端世界エレジャ

 次元座標J57545455444.845445.87764884.N5-4-8895


⑤旧氷冷世界クレスマトラ

 次元座標J9845461615.649856.284165.P28-Q856


 尚、ゲーム中は連合の不戦協定は無視するものとする。

 基本的にルール無用の略奪戦だが、指定世界以外への干渉が認められた場合は、ゲームマスターによる制裁を加える。

 参加者諸君らは魔王らしく暴虐の限りを尽くしゲームに臨んでほしい。


     魔王連合〈破滅の導き(アポリュオン)〉序列第五位・君主

      『呪怨の魔王』グロル・ハーメルン 印】


 消滅するまでリタイアにならないとか、グロルが第五位の君主だったとか、いろいろとツッコミたいことは多いが――

「プレイヤーの魔王は九人いるってのに、世界は五つだけ……?」

 仮に俺とリーゼとゼクンドゥムを一チームに纏めたとしても、数が足りない。

「おいおい、これじゃ開幕から椅子取りゲームじゃねえか!?」

 波乱の予感しかしないぞ。夜明けまで数時間しかないし、早いとこ作戦を決めないとまずそうだった。


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