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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第七巻
244/314

一章 魔王たちの会合(5)

 グロルのステッキが俺の心臓を貫いた。

「う……ぁ……」

 奴の動きが自然すぎて避けることも防ぐこともできなかったぞ。痛みは感じないが、凄まじい異物感。声が出せない。呻くことしかできない。やばいこれ、死ぬんじゃ……。

「なにしやがんだテメェ!?」

「……某が斬る前に貴様はッ」

「オノレ当機ノ食料ヲ!?」

「オレ様の獲物だぞぉ!?」

「その罪は滅ぶしかありません」

「レージ!?」

「――キヒッ」

 他の魔王たちと背後に控えていた眷属たちが激高して一斉に攻撃したぞ。紅蓮の炎が、斬撃が、ミサイルが、巨大ムカデが、謎の光が、黒炎が、至近距離からグロルへと殺到する。

 だが、どれもこれも直前で打ち消されちまった。

「ヒャッホホホ、争いはできないと教えたはずだ。この城に入った時点で君たちにはそういう呪いがかけられてい――」


 斬!


 グロルのステッキを持っていた右腕が肩口から綺麗に切断された。赤黒い液体が飛び散り、ステッキを持つ右腕は俺に突き刺したままだらりと垂れ下がった。

 どういうことだ? 争いはできないんじゃなかったのか?

「ヒャホホ、これは痛い。流石は『概斬の魔王』だ。公爵なだけはある。この私の呪いすら断ち切るか!」

 切山魈か。やっぱりあいつだけ別格みたいだな。

「だが、冷静さを欠くとはらしくない! 私は『千の剣』を殺してなどいないぞ!」

「――えっ?」

 というマヌケな声を出したのは俺だった。そういえば、心臓を貫かれたはずなのにまだ普通に生きてるぞ。実はそう思い込んでただけのドッキリだったの?

 ――零児よ、まずいことになる。

 と、俺の中にいるアルゴスが深刻な声で語りかけてきた。まずいこと? なにが起こってるんだ?

 ――奴は貴様が持つ〝魔帝〟の魔力を捉えた。このままでは我も……。

「私はあくまでゲームマスターだ。余程の反則がない限りは直接手を下したりしない」

 グロルは右腕をくっつけると、ステッキを一気に引き抜いた。同時にアルゴスの声も聞こえなくなっちまったぞ。

「ぐっ」

 脱力感が怒涛のごとく押し寄せてくる。上体すら伸ばしていられず、俺は円卓に突っ伏してしまったよ。

 一体、なにが……ッ!?

 どうにか首だけ動かしてグロルを見上げ、俺は驚愕に目を見開いた。


 グロルのステッキの先端に、とてつもない魔力の塊が突き刺さってやがったんだ。


「ヒャッホホホ、なんとも凄まじい。我が敬愛するアルゴス様の力だけでなく、セカンドに『柩の魔王』……ほう、星の魔力まで貯め込んでいるとは驚きだ!」

 グロルは俺の魔力を引き寄せると、掌の上でクリスタルのような結晶へと変えやがった。マジでなにをする気だあいつ?

「これはたった今『千の剣』から拝借した〝魔帝〟の魔力を圧縮し結晶化したものだ。君たちの意見を聞いて思いついたゲームで使用する」

「チッ、結局テメェの掌の上かよ……」

 舌打ちするフェイラ。他の魔王や眷属たちも恨みがましくグロルを睨んでいるよ。中でも円卓に突っ伏したまま睥睨する俺の恨みは強いぞ。覚えてろよてめえ。

 グロルはそんな視線など意にも介さず、ふわりと浮かんで円卓の中央へと立った。

「どの魔王も思惑の差はあれど、これが欲しいだろう? そして『千の剣』や『現夢』はこの世界を壊されては困る、と。ヒャッホホホ! だから世界でも身柄でもなく、この魔力を奪い合うゲームと行こうではないか!」

「よくわかんないけど、それはレージのものよ! 返しなさい!」

「返してほしければ奪い取れ。それがゲームのルールだ」

「む? ルールならしょうがないわね」

 納得しないでお嬢様!? ルールを破る=つまらなくなるって認識しているリーゼだけど、ここはもっと食い下がってほしかったです。

 リーゼを説得できたと認識したらしいグロルは、魔力の結晶をステッキで小突いた。すると――パリン! 結晶は簡単に砕け、それぞれの魔王の下へと欠片が飛んでいく。なんてことしやがんの!? 俺の魔力!?

「さあ、均等に九等分した。それだけでも充分以上の力を秘めているが、欲深き魔王たちはたったそれっぽっちで満足することなどあるまい? だから、他の魔王たちから奪い合う。そういうゲームだ」

 愉快そうな笑みを貼りつけて宣言するグロル。くそう、魔力を一瞬で抜かれた脱力感のせいでまだ上手く声が出せねえ。言っときたいけど俺だから生きてるんだからな!

「待ってよ。魔王たちに奪い合いなんてされたらこの世界が終わる。それはボクやこのお兄さんの要求を飲んでいないことになるんじゃない?」

 と、ゼクンドゥムが抗議の声を上げた。そうだそうだ、俺もそれが言いたかったんだ。ナイスアシスト! 敵だけど!

「ヒャッホホホ、そこはご安心あれ。こんなこともあろうかと無人の世界をいくつか見繕っている! この世界を緩衝地帯とし、その無人世界のみをゲームのステージとして渡り合い、奪い合い、存分に殺し合うといい!」

 規模がでかすぎるだろ! いや、この世界でドンパチされるよりはいいけどね!

「無人世界へのパスは追って通達しよう。どこを拠点とするか、誰を先に攻めるか、自軍に戻ってからゆっくりと考えるがいい。ゲームの開始は、この世界基準で明日の夜明けとする!」

 その言葉を最後に『魔王たちの会合(ヴィシャスコア)』は閉幕した。魔王たちは静かに立ち上がると、ぞろぞろと城から出て行ったよ。

 なんとか俺も回復して立ち上がる。目の前には俺の魔力が凝縮された結晶。青色のクリスタルっぽくて綺麗ダナーとか思ってる場合じゃない!

「畜生、力を九分の一にされちまった……」

 結晶を左手で掴む。〈吸力(ドレイン)〉が発動し、俺の魔力が俺に戻ってきた。久々に味わったぞ、魔力がすっからかんになった感覚。

「レージ、これわたしはいらない。返す」

 俺が立ち上がるのを待ってくれていたリーゼが結晶を差し出してきた。

「あ、ああ、リーゼがいてくれて初めてよかったと思ったよ」

「ふふん、そうでしょ」

 もっと褒めろとでも言うように控え目な胸を張るリーゼからありがたく結晶を受け取り、同じように左手で触れて俺の中へと戻す。結晶二つ分。これでも魔王になる前の俺より遥かに多い魔力量だ。どんだけあったのか自分でも把握し切れてなかったもんな。

「キヒヒ、大変なことになったね、お兄さん」

 声に振り返ると、白布少女が楽しげに唇を歪めて俺たちを見ていた。

「まだいたのか、ゼクンドゥム」

「まだとはご挨拶だね。ボクもこれを返すつもりだったんだけど?」

 そう言ってゼクンドゥムは結晶を投げ寄越してきた。

「いいのかよ? お前らも欲しいんじゃないのか? ハッ! まさか夢!」

「ここで〈白昼夢〉をお兄さんにかける意味なんてないでしょ。ホントに面白いお兄さんだ」

 キヒキヒと不気味に笑うゼクンドゥム。俺は半信半疑だったが、それでも結晶が戻ってきたのなら遠慮なく受け取ることにする。なにか仕込む暇なんてなかっただろうしな。

「まあ、スヴェンは喉から手が出るほど欲しがるだろうね。『王国』のためにも貰っておくのも悪くなかったんだけど、今回はお兄さんに弱体化されたままじゃボクらも困る。ゲームにおける目的はボクたちも監査局も同じ。だったらさ――」

 ゼクンドゥムがぐっと俺に顔を近づけてきた。


「――今回だけ、共闘しようよ」


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