終章 NEXT PROLOGUE
地脈の流れが正常に戻ったことで京都の歪みも収まったようだ。悠里たちが頑張ってくれたおかげか、目立った被害は少ないと思われる。地下空間崩壊の影響に第二十八支局が巻き込まれたくらいだろうな。
支局は局員も一般客も避難済みだから人的被害は皆無だった。ガルワースのやつ、まさかこれを見越してわかりやすく襲撃したのか?
そのガルワースとルウは地上に出てすぐどこかへ消えてしまったよ。まあ、敵の俺たちと一緒に行動なんてできないからな。
「レージ!」
ぽっかり穴の開いた第二十八支局の跡地を眺めていた俺に、後ろから聞き慣れた声がかけられた。リーゼたちが俺を見つけて駆け寄ってくる。
「リーゼ、セレスたちも無事みたいだな」
「無事かどうか問いたいのはこちらだ。敵の下にお前一人だけ向かわせてしまったのだからな」
セレスがほっと胸を撫で下ろした。そちらもなかなかに壮絶な戦いがあったようで、ボロボロってほどじゃないがあちこち汚れているな。
「その様子だとなんとかなったみたいね」
「ああ、あいつらには逃げられちまったけどな。計画は阻止できたよ」
微笑む悠里に俺は頷きを返した。俺が一人で向かうことを悠里が即断即決してくれなかったら間に合わなかったかもしれない。その決断力は俺も見習いたいな。
「運がよかったわね、白峰零児。怪我もないようで」
「知っている。お前なら問題ないと」
一歩離れたところからジル先生とバートラム先生も労いの言葉をかけてくれた。二人から運気を分けてもらっていたのは大きいだろうね。
「レイ・チャン! 無事でよかったアル!」
「でも支局が潰れてしまったネ! 責任取ってレイ・チャンはずっと二十八支局にいるべきヨ!」
「ちょ、お前ら離れろ!?」
リャンシャオとチェンフェンが両サイドから俺の腕にくっついてきたぞ。疲れてるんだから今はやめてほしい真面目に!
「な、ななななにを言っている! 修学旅行が終われば零児は本局に帰るのだ!」
「レージはわたしのものなんだからお前たちにはあげないわよ!」
俺にくっつく狐耳少女たちをリーゼとセレスが強引に引き剝がしてくれた。よし、支局を潰したのはガルワースのせいにしとこう。実際そうだし。
「零児、まだ安心はできないんでしょう?」
「あ、そうだ。その説明もしねえとな」
なぜかジト目の悠里に言われ、俺はハッとする。
「ガルワースたちの言葉が本当なら、近いうちに魔王が攻めてくるらしい。悠里の予想通りだな。それも一人二人じゃない。ついでに狙いは俺だ」
「?」
全員が頭上に疑問符を浮かべたよ。だろうな。リーゼが狙われるならまだしも、今度は俺が囚われの姫になる可能性なんて想像できないもん。
「ネクロスを倒したことで俺の注目度が爆上がりしたっぽいんだよ。それで魔王連合の勢力争いに巻き込まれるとかなんとか」
「だとしたら、かなり危ないわよ?」
「大丈夫よ、レージ! 今度はわたしが守ってあげるわ!」
「魔王連合か……陛下に連絡して増援を送ってもらえないか検討してみよう」
敵から与えられた情報だが、それぞれがそれぞれで問題を頭から否定せず考えてくれている。ありがたいことだ。
本当にガルワースたちを止めてよかったのか? その答えはまだわからない。脅威とやらが現れて、それを理想的に退けることができて初めて『よかった』と言える。
後悔はしたくない。するつもりもない。
俺には仲間もいる。なにが来ようと絶対に打ち勝ってみせるさ。
刹那、空間が大きく振動した。
揺れに足を取られてバランスを崩しながら、俺たちは驚愕する。
「〈歪震〉!? まさかもう!?」
早すぎる! いや、そもそもいつ来るかなんて俺にはわからなかった。余裕ぶっこいている場合じゃないぞ。ガルワースが事を急いでいたのだから、時間的余裕なんて最初からなかったはずだ。
「上よ!」
悠里が上空を見上げて叫ぶ。
夜空に散らばっていた星が消え、どす黒くなったそこから……嘘だろ?
「なんだ、この数は……」
一隻二隻なんてもんじゃない。百隻は優に超える大船団が出現したんだ。俺たちから見て京都の東西からそれぞれ現れた、恐怖を煽る禍々しいデザインの艦隊。その全てが、赤地に欠けた黒い太陽の旗を掲げている。
――魔王連合〈破滅の導き〉。
本当に、来ちまったよ。
「これが全部、魔王なのか」
「違うわ。よく見なさい。連合旗とは別の旗を掲げた次空艦がいくつもあるわ。魔王が乗っているのは同じ旗の中で一番大きな艦」
悠里が鋭く視線を動かして宙に浮かぶ戦艦を観察する。
そして――
「魔王軍は、全部で七つよ」
七つ。
魔王が七体。
思ったより少ないようだが、一つ一つの規模がネクロスの比じゃないぞ。いや、そういえばネクロスは軍の大半をどっかの世界に置いて来たんだったか? となると、今回は七つの魔王軍の全勢力が集結していることになる。
やばい。非常にやばいぞ。
だが、こうなることを聞かされていた上で俺はガルワースたちを阻止したんだ。狙いは俺なんだろ? だったら逃げ隠れはしない。
全部、相手してやるよ!
と、その時だった。
「ヒャホホホ! 聞け! この場に集いし強大なる魔王たちよ!」
東と西の丁度中間。そこに現れたシルクハットの怪しい男が、京都中に響くような声を上げた。
あいつも魔王か?
「彼の『黒き劫火』を取り込んだ『千の剣』はこの近くにいる! 討ち取って名を上げるか、味方に引き入れるか、それとも新たなる主として担ぎ上げるか! 思惑それぞれ大いに結構!」
大仰に両腕を広げ、シルクハットの魔王は告げる。
「さあさあ、ルール無用の略奪を始めよう!」