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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第六巻
236/315

五章 地下神殿の戦い(5)

 まずい。

 急がなければ。

 地脈の力を吸い続けた樹は大きく育ってしまった。直視できないほど眩しい光を放つそれは、急速な勢いで枝葉を伸ばしているぞ。成長が止まらない。まさか、このまま地上へと突き出るつもりじゃないだろうな?

「君が全ての壁を破る前にこちらは完成するだろう。樹の枝は地脈を通って各地のパワースポットから生え伸び、京都を覆いつくす籠となる。ただし、それだけで魔王を封じることは叶わない」

 ガルワースが長剣を手放す。すると長剣はふわりと空中に浮かび上がり、纏っていた神秘的な虹色の輝きをより強く放ち始めた。

()()デュランダルを通し、オレの神霊術も付与する。だが、オレ一人だけでは流石に足りない。そこは済まないが、京都中の人々から生命力を徴収することで補填させてもらう」

 人の数が計画の要素に入っている理由はそういうことか。いや、それもだが、もっと重要な単語を俺は確かに聞いたぞ。

「神剣、だと……?」

 ただの剣じゃないとは思っていたが、あのラ・フェルデ王――クロウディクスと同じだとはな。あっちほどぶっ壊れ性能じゃないっぽいが、ガルワースの虹は恐らく神剣に由来する力だと思う。だからこそチート級の防御力を誇っているんだ。

 それに、剣の名前も問題だ。

 この世界にも『デュランダル』という名前の聖剣が存在する。『耐えきる』『抵抗する』『持続する』などという意味にもなる不滅の刃だ。アレが異世界の剣だったとしても、同じ名がつけられているのならば意味も似ているかもしれない。実際、奴の虹の防御は圧倒的だった。

 それでも。

「やらせて堪るか!」

 相手が神剣だろうが、今の俺には拮抗できるだけの力がある。世界を守るために少数を犠牲にするようなやり方を俺は認めない。

「これ以上は抗わないでほしい、白峰零児君。君の気持ちには共感できるが、迫る魔王の脅威という現実に甘い考えは通用しない」

「綺麗事? 夢物語? 理想? 上等だ! 俺は俺のやり方でお前を止めて魔王もぶっ飛ばして全部救ってやるよ!」

 今思い出したが、ネクロスを斃した時にも似たようなことを言った気がするな。あの時はネクロスのハッタリだと楽観視していた。でも実際に『王国』も動いているのだから冗談じゃないんだろう。

 虹の壁を一枚砕く。刀が一つ折れる。

 重層化された虹壁は厚い。一枚一枚削っていたんじゃ埒が明かないぞ。

「なにか手はないか?」

 独り言じゃない。問うた相手は、俺の中にいるアルゴスだ。

 ――なるほど、こと『守り』に関しては我もこれほどの敵を相手したことがない。

 返事はすぐにあった。ガルワースを称賛する声に少々イラッとしたが、アルゴスの口調にはまだ余裕がある。

 ――手があるとすれば、より強力な技で持って一気に貫く他あるまい?

「脳筋か!?」

 確かに壁は割れるようになったが、それができれば苦労してないんだよ。

 なにか、なにかないか?

 この状況を覆す一手を――

「……ん?」

 俺は虹の壁の向こう――光の樹の根元にそれを見つけた。

「アレは」

 日本刀だ。

 俺が投げ捨てた刀が刺さったままになっている。いや、よく見たらガルワースと打ち合っていた時に散々飛ばした刀剣が至るところに残っているぞ。

 どうにかそれらを上手いこと使えないか?

「いや無理だ。魔力を通せないから、虹の壁の向こうにあっても遠隔操作なんてできな……ッ!?」

 違う。

 虹の壁が魔力を通さないなら、どうして俺の刀剣がそのまま形を保っている?


地下(ここ)で『神壁の虹(ヘブンリーミュラル)』を使うと地脈の流れまで阻害してしまうからね』


 ガルワースの言葉を思い出す。

 そうか、奴は完全に閉ざすことができないんだ。見える範囲は覆われていても、例えば地中なんかには壁はない。そこから俺の魔力が無意識に維持されていて、散らかった刀剣たちが使える状態で放置されている。

「ハハッ、なるほど、これは()がいいな」

 先生たちから受け取った運気がここで機能してくれたんだ。ありがたい!

 ――ふむ、そういうことか。理解した。魔力を通すルートは我が確保する。貴様は中の武具を存分に暴れさせるがよい。

「ああ、頼む!」

 俺は即座に魔力を送って刀剣たちを遠隔操作する。念動力でも使っているように浮かび上がったそれらの刀身に――ボッ! 黒き劫火が灯った。

「なに!?」

 ガルワースが目を瞠って俺に振り返った。

「斬り刻めぇえッ!!」

「くっ、デュランダル!」

 乱れ飛ぶ黒炎纏う刀剣を、流石にガルワースは防ぎ切れない。狙いは奴じゃなく光の樹だ。成長して的がでかくなったからこそ、全範囲をカバーなんてできないだろ。

 枝葉を斬り落とし、幹を削り、傷口から黒炎が侵食する。

「これ以上傷つけられるわけにはいかない!」

 ガルワースが防ぐのを諦めて俺に神剣の切っ先を向けた。どうやら操り手の俺を全力で潰すことにしたらしいな。

 神剣デュランダルが巨大な虹の剣と化す。圧倒的に神々しい力。その光を浴びるだけで全身が消し飛びそうだ。

「――〈神撃〉。悪いが、塵も残らないと思ってくれ」

「いいぜ。相手になってやるよ!」

 迫る虹の巨剣に対し、俺は生成した日本刀の刀身に魔力を集中。最大出力で魔剣砲をぶっ放す。

 魔力を消し去る虹と、生成し続ける刀剣の奔流。

 とてつもない衝撃波に神社の屋根が吹き飛び、石畳が引っ繰り返る。地盤が悲鳴を上げ、魔術的に保護しているはずの地下空間全体が崩壊を始めていく。

 ――少々足りんな。零児よ、灯すがよい。

 俺の中のアルゴスが指をパチンと鳴らした。瞬間、魔剣砲が黒く塗り潰される。いや、魔剣砲に使われる全ての刀剣に黒炎が宿ったんだ。

「馬鹿な。これほどとは……聞いていた以上だ」

 驚愕するガルワースだったが、唐突にフッと諦めたような微笑を浮かべた。

 虹の巨剣が徐々に黒へと染まっていく。

「そのまま押し切れッ!!」

 黒の刀剣が虹を呑み込む。その勢いは失われず、背後の光の樹さえも今度こそ斬り倒して燃やし尽くした。


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