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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第六巻
226/315

間章(2)

 日本異界監査局の本局に緊急警報が鳴り響いたのは、まだ日の高い真昼間のことだった。


 山が一つ消滅したのだ。


 大規模な破壊があったわけではない。そこは元々『柩の魔王』との戦いで抉り取られた山だった。騒ぎにならないように監査局が〈現の幻想〉で一時的に補填していたのだが、何者かによってその幻が掻き消されてしまった。

「キヒッ、いい感じに大パニックになったね」

 その何者か――ゼクンドゥムは、突然のことで大混乱を引き起こしている街中を真っ直ぐ堂々と伊海学園に向かって歩いていた。

 裸身に白い帯だけという奇抜すぎる格好だが、気に留める者は誰もいない。周囲の人間には、ゼクンドゥムと隣を歩くカーインはモブキャラのようにしか見えていないからだ。

 夢を現実に重ねる。

 それが人々の悪夢から生まれたゼクンドゥムの力である。一種の現実改変。本当に変わるわけではないのが〈現の幻想〉と似ているが、術中であれば夢と気づかない限り誰も抜け出すことのできない凶悪な能力だ。

「監査局は幻想の修復と一般人の対処で手一杯。この隙に乗り込ませてもらおうかな♪」

「……そう上手くはいかんようだが?」

 カーインが背中の大剣に手をかける。すると、何人もの強い力を持った者たちが二人を囲んだ。異界監査局の戦闘員――監査官だ。

 各自が様々な武器を構えて牽制するが、ゼクンドゥムもカーインも動じない。

「やあやあ、監査官のお兄さんにお姉さん。殺気立ってるとこ悪いんだけど、ボクたちは戦いに来たわけじゃない。だから邪魔をしないでもらいたいなって言っても、そういうわけにはいかないよね?」

 両腕を大きく広げ、ゼクンドゥムは楽しそうに凶悪な笑みを浮かべて警戒する監査官たちを見回した。


「キヒヒ、君たちには最高の悪夢を見せてあげるよ!」


 その台詞を引き金に戦闘が開始され、街の一角で大きな爆発が発生した。


        ※※※


 伊海学園高等部三年の教室。

「ようやくお迎えが来たようね」

 窓から街の様子を眺めながら、望月絵里香は妖艶で不適な笑みを刻んでそう呟いた。〈現の幻想〉の幻に干渉したということは、助けに来たのは第二柱執行騎士の〝夢幻人〟――ゼクンドゥムだろう。

 当然、監査局はこれが『王国(レグヌム)』の仕業だと気づいているはずだ。狙いがこの地にある大柱ではなく、望月だということも。

 だから――

「そこを動かんとってな、望月はん」

 教室の扉が勢いよくスライドし、稲葉レト率いる監査官……いや、中学生以下の準監査官たちが望月を包囲した。

 主力はゼクンドゥムたちの相手をするため出払っているからだろう。舐められたものだが、封印を施されている望月相手と考えればこれでも過剰だ。

「うふふ、あなたたちごときが私をどうこうできると思っているのかしら?」

 それでも、望月は自身の優位性を疑わない。能力が使えなくても、相手を傷つけられなくても、彼女たちから逃げ切るくらいなら可能だ。

 唯一の監査官である稲葉レトだけが厄介そうだが、そこもどうにかする策はある。

 まずは窓から飛び降りようと望月が桟に手をかけた、その時だった。


 ガラシャアアアアンッ!! と。


 稲葉レトたちが立っていた場所が盛大に崩れ去った。悲鳴を上げて下の階へと落ちていく準監査官たちだったが、やはり稲葉レトだけが間一髪で回避していた。

「な、なんや!? なにが起こったんや!?」

 刹那、窓ガラスが一斉に砕けた。なにかがぶつかったわけでもないのに、その破片が凄まじい勢いで稲葉レトへと襲いかかる。

「くっ!?」

 咄嗟に腕で顔を庇って防御した稲葉レトだったが、足を滑らせて床の穴へと落下していった。

「これは……?」

 唖然とする望月。すると、カシャンとなにかが外れる音。

 見れば、望月の両手両足に嵌められていた金属製のリストバンド――封印具〈滅理の枷〉が外れて床に転がっていた。

「勝手に封印が解けた……ってことはないわよね」

 無論だが、望月はなにもしていない。先程のこともそうだ。建物が老朽化していた? ガラスが砕けるほどの強風でも吹いた? そう捉えても一応納得はできなくもないが、恐らく違う。

 バサッと、望月の足下に黒いセーラー服が投げ捨てられた。

「なるほど、あなたの仕業だったのね」

 顔を上げた望月が、そこに現れた存在を見てクスリと笑う。


「〝虚空勇者〟さん」


        ※※※


 街の大通りには、意識を失った監査官たちが死屍累々の様相で点々と転がっていた。

第一柱(プリーム)からの連絡だよ。第六柱(セクストゥム)の解放に成功したってさ」

 そんな彼らには一切の興味を失くしているゼクンドゥムは、通信の術式で聞いた内容を隣のカーインにも告げた。

「ならば、もはや陽動も必要あるまい」

 想定以上の呆気なさにカーインはつまらなそうに鼻息を鳴らす。白峰零児たちがいないだけではない。前回は各支部からも猛者が集まっていたからこその抵抗力だったのだろう。

「まあ、簡単には逃がしてくれないだろうけどね」

 ゼクンドゥムがニィと愉快げに表情を歪めてその方向を見やる。

 瞬間、高速で迫ってきた影がカーインの魔剣と打ち合った。甲高い金属音が街中に響き渡る。


「俺的に、一度てめェとは楽しく戦り合ってみたかったんだよなァ!!」


 それはマロンクリーム色の髪で片目を隠した青年だった。両手に握った特別製のトンファーがジリジリとカーインの魔剣を押し返していく。

「……グレアム・ザトペックか」

 監査官の中でもトップクラスの実力者だ。特殊能力はないくせに、その人外の領域に達している身体能力だけで圧倒的な強さを見せる男。気を抜いて戦える相手ではない。

 カーインは闘気を纏ってトンファーを弾く。グレアムもあり得ない身体能力で身を捻り、一息の猶予も与えることなく再びカーインを攻め立てる。

「ハハッ! いいねェいいねェ! 俺的に楽しくなってきたぜェ!」

「フン!」

 魔剣とトンファーが衝突する度に周囲の建物が崩れていく。その様子を眺めながら、ゼクンドゥムはやれやれと肩を竦めた。

「アハハ、これはまた面倒臭いのが出て来ちゃったかな。まあ、想定内だけど――さ!」

 バックステップ。今の今までゼクンドゥムが立っていた場所に、とてつもない風圧がかけられアスファルトの地面がベコン! と陥没した。

 見上げると、鮮やかな十二単を纏った少女が風に乗って浮遊していた。


「お久し振りですねぇ、ゼクンドゥムちゃん」


 ニコニコとした敵意を向けられる。日本異界監査局のトップにして、世界の守護者たる大精霊――法界院誘波だ。

 かつてゼクンドゥムがタイマンを張り、倒せなかった相手。

「今日はゆっくりと、お話できるといいんですけどねぇ」

「キヒッ、ボクもリベンジと行こうかな!」

 魔力が高ぶる。

 白い光が視界を染める。

 ゼクンドゥムの『夢』が、法界院誘波ごと世界を虚構に包み込む。


今後は可能な限り隔週日曜日更新予定とさせていただきます!

がんばります!

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