三章 パワースポット防衛戦(5)
「俺の敵だと? あんた、一体……」
殺気も敵意も全く感じない顔でそう言われ、俺は戸惑いながらそう返した。
「てか、なんで俺の名前を知ってんだ?」
俺はこんな奴と今まで会ったことなんかないぞ?
銀髪の男――ガルワースは片手を宙に翳すと、そこに不自然に揺らぐ透明ななにかが出現する。
「こういうことだ」
それは魔力のような力だけで形作られた、細長い釘のようなものだった。
「霊的な杭……まだ挿してなかったのね」
「ああ、この辺りは少々硬くてね。解していたら門が開いてしまったというわけだ」
悠里が睨みつけてそう言うと、ガルワースは否定することもなくあっさり認めやがったぞ。
つまり、この京都で起っている異常の黒幕がこいつというわけだ。
となると、あまり考えたくなかったが、こいつの仲間であるルウもそういうことになるな。まさかあんな子供が……くそっ、俺たちはまんまとパワースポットから遠ざけられちまったってわけだ。
「なにが目的だ? いや、そもそもあんたは何者だ?」
「察してはいるだろう? だが、そうだね。ここはちゃんと名乗っておくべきか」
ガルワースは瞑目し、姿勢を整えてから改めて名乗りを上げる。
「ガルワース・レイ・ローマルケイト。『王国』が執行騎士の一人で、第五柱だ。〝虹閃剣〟と呼ばれている」
「そしてあたしは第七柱執行騎士――〝拳狼〟ルウ様だ!」
と、ガサリと茂みが音を立てたかと思えば、茶色い毛玉が物凄いスピードで飛び出してガルワースの隣に並んだ。
そいつは――
「長ぇから覚えなくていいぞー。あとヤツハシありがとな! 美味かったぞ!」
「ルウ!?」
「ルウちゃん!?」
だった。
外に置いてきたはずなのにもう追いついたらしい。獰猛に笑うその佇まいは、ガルワースの隣にいるからという理由だけじゃない威迫を感じる。
二人とも、かなり強いぞ。
「『王国』の執行騎士……やっぱりか」
「この人たちがそうなのね」
臨戦態勢を取る俺と悠里。俺の知らない執行騎士。実力は未知数。とにかく強いということしかわからねえな。
どうする? 俺たちだけでなんとかできる相手なのか?
「……ルウ、彼らにまで奢らせたのか?」
「いいだろー。向こうがあたしに失礼働いたんだからなー。せーとーな権利だ!」
腰に手をあててドヤ顔をするルウにガルワースは深く溜息を吐き、それから俺を見た。
「白峰零児君」
「なんだよ」
「いくらだ?」
「は?」
ガルワースがなにを言ったのか本気で理解できなかった。
「この図々しい子狼の餌代だ。ヤツハシを買ってやったんだろう? 払うよ」
「真面目か!?」
聞いていた通りだ。敵なのに律儀すぎるだろ、この保護者。
「おいガル! お前が払う必要ねえだろー! これはあたしとあいつらの問題だ!」
「いいから。借りを作ったままでは今後やり難くなる」
「んなもん借りパクしときゃいいだろー」
ゴッ。
「わぎゃっ!?」
ルウの脳天にチョップが振り下ろされた。
「借りは返す。どこの世界でも常識だ」
ガルワースは涙目になるルウを諭すような口調で告げ、俺に向かって無理やり頭を下げさせた。
「悪いな、躾のなっていない犬で」
「お、おう」
「犬じゃねえガルルルルゥ――キャン!?」
犬歯を剥いて威嚇するルウにもう一発チョップが入った。頭を押さえたルウは渋々といった様子で俺たちに「ごめんなさい」したよ。
保護者というか、飼い主だな。完全に。
「あんた、なんで『王国』なんかにいるんだ?」
「理由があってね。彼らの思想には賛同している」
こんな真面目人間が賛同するような思想が『王国』にあるのか? そういや、この前望月絵里香が『王国』の目的を少し喋ってたような……なんだっけ? 全次元の救済だったっけ。嘘くさすぎて気に留めてなかったが、まさかマジなのか?
いや、マジだろうとなんだろうと、この世界を滅ぼされちゃ堪ったもんじゃない。
「手を引いちゃくれないか? 俺は、あんたが悪い人間には見えない」
「それは無理だ。少なくとも、この京都でオレたちがやっていることに関してだけは」
各パワースポットに霊的な杭を打って地脈を乱している活動に、なんの意味が?
「柱を折るため……ってわけじゃなさそうだな」
「いずれわかる。詳細を今語っても、この地の地脈を乱していることには変わらない。君たちが守護者側ならオレたちを止めようと動くのは当然だ」
要するに、止めたきゃ止めてみろってことだな。
「わかった。なら、あんたらを捕まえてからゆっくり事情を聞かせてもらう!」
俺は地面を蹴り、一鼓動でガルワースとの距離を詰めて日本刀を袈裟斬りに振るう。ガルワースは霊的な杭を消すと、空間から神々しい力を纏う長剣を取り出して俺の一撃を受け止めやがった。
「いい太刀筋だ。カーインから聞いていた以上だな」
「そりゃどうも!」
剣戟の音が木霊する。力と力がぶつかり合い、周囲から小鳥や小動物が一目散に逃げ出していく。剣の腕は互角……いや、ガルワースの表情には余裕がある。本気じゃないってことだ。
それは俺もだが。
「――ッ!?」
茶色の閃光が俺の頬を掠めた。つーと赤い液体が滴る。紙一重で身を逸らさなかったら首を持って行かれたかもしれん。
「あたしを忘れんなコノヤロー!」
「チッ、悠里! こいつは任せた!」
ガルワースの洗練された一撃を受け止めつつ、蹴りでルウを牽制して悠里の方へと押しやる。
「ルウちゃんと戦うのは、なんか嫌ね」
「あたしはユーリと戦ってもいいぜ? あー、でも、そんな暇はなさそうだなー」
すん、と鼻をひくつかせたルウが『次元の門』を見やる。すると、そこから堰を切ったように恐竜もどきの大群が飛び出してきた。
おいおい、さっきの比じゃねえぞ!
「異獣が……あれで全部じゃなかったの!?」
「くそっ、あいつら麓の方へ――仕方ねえ、悠里はそっちを頼む!」
「了解よ! でも、零児は?」
悠里が頷くのを確認した俺は、日本刀を左手にも生成してガルワースを、そしてルウを見る。
「俺は、この二人の相手だ」