三章 パワースポット防衛戦(4)
急いでいるからな、わざわざ律儀に入口でもう一度入場券を購入するようなことはしない。
ひと目につかない建物の屋上に移動した俺たちは、悠里の能力でパワースポットがあった場所へと亜光速で直線移動することにした。
「行くわよ」
「あ、待ってやっぱ心の準備ががががぁああああッ!?」
一瞬の酩酊感とGによる圧迫感。
気がつけば、目の前には例のしめ縄が巻かれた巨岩が現れていた。相変わらず凄まじいな。ほとんど転移だぞ。
まあ当然、あるのは岩だけじゃねえな。
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
巨岩の上。
そこに二足歩行する巨大なトカゲのような生物が立っていたんだ。背中から尻尾にかけて三角形の突起が並び、大きな顎に肉食獣特有の鋭い牙が並んでいる。頭部には三本の太い角まで生えていた。
「なんか恐竜みたいね。全然可愛くないけど」
「いや格好いいだろ? ティラノサウルスとステゴサウルスとトリケラトプスを上手い具合にフュージョンさせたらこうなる気がする」
「一応聞くけど、こういう野生動物がこの山に生息してるって可能性は?」
「あるわけないだろ。見ろよ、〈次元の門〉が開いてやがる」
丁度巨岩の裏辺りだ。パワースポットの力も乱れてやがる。さっきまではこんな状態になる予兆なんてなかったのに……誰かがなにかをしたとしか思えん。
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
「零児、あの恐竜、ヨダレ垂らしてアタシたちを見てるけど」
「わかってるよ。まずは俺が話してみる。悠里は周りを警戒してくれ」
こんな姿でも異世界人って可能性はあるからな。対話を試みるのが俺たち監査官のステップ1だ。
「あー、俺の言葉わかりますか? わかったらとりあえずそこから下りてください」
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
口から火を吹かれた。
「あっぶな!?」
なんとかかわしたが……まずいな。火炎が木々を焼いて燃え広がろうとしてやがる。このままじゃ京都名物の大文字ができちまうな。
って冗談言ってる場合じゃない。被害が広がる前になんとかしねえと!
魔力を集中。〈魔武具生成〉で日本刀を作り、その切っ先を燃える木々に向ける。
――魔剣砲。
無数の生成された刀剣が光線のように収束して射出され、燃える木々を斬り倒し、衝撃で炎を掻き消していく。
「零児!」
恐竜もどきが背後から俺を襲おうとしたらしい。光速で割って入った悠里が恐竜もどきの腹に拳を叩き込んだ。くの字に折れた恐竜もどきは吐瀉物を撒き散らしながら吹っ飛び、その先に展開されていたらしい悠里の鋼糸に呆気なく絡め取られた。
「痛った……なんて硬さなの。アタシの拳の方が砕けそうだったわ」
殴った手をヒラヒラさせる悠里。普通、あんな腹まで鱗ガチガチな怪獣みたいなのを殴り飛ばして『痛い』で済む女子なんていないと思うんですけどね。
「サンキュ、助かった」
「ちょっとは後ろも気をつけなさいよ」
「そこは悠里がいるから大丈夫だと思ったし、実際大丈夫だっただろ?」
笑って答えると、悠里はポカンとした顔になった。
「な、なによそれ。魔王のくせに勇者を頼るんじゃないわよ」
頼られたのが照れ臭かったのか、悠里は僅かに頬を赤くして捕えた恐竜もどきの方を向く。
「で、この子は異獣でいいんでしょ?」
「ああ、そうだな。今もなんかもがきながら吠えてるが、全然言葉がわからん」
となれば異世界の獣――『異獣』で確定だ。そうとわかればやることは一つ。
「そのまま〈次元の門〉の方に押し返せるか?」
元の世界に帰してやることだ。こんなのがこの世界に解き放たれたら生態系が崩れるなんてレベルじゃなくなるからな。
だが、悠里は首を横に振った。
「無理ね。一回鋼糸を解く必要があるわ」
「ああ、そりゃそうか」
周囲の木々を使って張り巡らせているのだから、そこに絡まった以上は解いてやらないと動かせないよな。
「間に合うと思う?」
「門はまだ閉じそうにな……マジかよ」
巨岩の裏で揺らめく空間の揺らぎを見た俺は、思わず頬を引き攣らせた。なんせ。今捕えたばっかりの恐竜もどきと同じ奴らが次々とそこから飛び出してきやがったんだ。
全部で十三匹か。この数を大人しく平和的に追い返すとすれば、青い狸さんに秘密道具のきびだんごでも貰わないと無理じゃね?
やむを得んな。
「悠里、奴らを逃がさないことを優先! 極力殺さずに捕獲してあとの処理は監査局にぶん投げるぞ!」
「さらっと面倒事を押しつけたわね。まあ、それしかなさそうだけれど」
俺は日本刀を、悠里は鋼糸と短剣を構える。
俺たちを認識した恐竜もどきの群れが唸り、身を僅かに屈めた。
「来るぞ!」
「GAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」
群れのボスと思われる一際でかい恐竜もどきが吠えた瞬間、他の奴らが一斉に飛びかかって来た。
俺と悠里が迎え撃つためにそれぞれの武器を振るう。
その時だった。
空から、虹色の閃光が降り注いだ。
「なっ!?」
「これは!?」
あまりの眩しさに思わず腕で目を庇う。それでも視界が虹色で埋め尽くされ、恐竜もどきたちの断末魔が大北山に痛々しく轟き渡った。
目を開く。そこには恐竜もどきたちが一匹残らず横たわっていた。背中から腹にかけてなにかが貫通したような大穴が開いている。
最初に捕えた一匹も含め、全滅だ。
誰だ? 誰がこんなことをしやがった?
「仕事を横取りして済まないが、これはオレの不始末なんだ。割り込ませてもらったよ」
山の奥から声がした。
見ると、一人の男が騎士然とした足取りでこちらに歩み寄ってきていた。
その男の、特徴は――
「銀髪に、青い瞳……?」
「……」
俺も悠里も見覚えが、いや、聞き覚えがあり過ぎる。
なにせついさっきまで、この男と全く同じ特徴の人物を捜してたんだからな。
「あんた、もしかしてガルなんとかさんか?」
「ガルなんとか……? あー、ハハハ、そうか。君たち、ルウに会ったんだな」
一瞬意味がわからず眉を顰めた男だったが、『ルウ』という名が出てきた以上、間違いない。
そして、こんなところにいて、異獣を一瞬で殲滅した力。
どう考えても、異世界人だとしても、普通じゃないぞ。
「オレはガルワース・レイ・ローマルケイト。率直に言うと――白峰零児君、君の敵だ」
男――ガルワースは爽やかに笑ってそう告げた。