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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第六巻
218/314

二章 伊海学園修学旅行(6)

 決闘を終えた俺たちは、リャンシャオとチェンフェンが着替えてくるのを待ってから支局長室へと案内された。

 十二畳ほどの和室には神棚があり、よくわからんが達磨を飾っている。奥には立派な和太鼓と高そうな掛け軸、それと業物らしい日本刀も置いてあるな。観賞用の品だろうから俺も別にそこにツッコミを入れるようなことはないが――

 

你好(ニーハオ)、朕が第二十八支局局長のハオユーで候」


 赤のカンフースーツに身を包んだちょび髭禿げ頭のおっさんがそこにいた。厨房で中華鍋を振るって炒飯でも作ってる姿が異常に似合いそうな存在感だった。

「だからなんで純和風の旅館なのに中華なんだよ!? 俺の京都感を返せ!?」

「まあまあ、花茶(ホワチャー)でも飲んで落ち着くで候」

「日本茶出せ!?」

杏仁酥(シンレンスウ)もあるで候」

「和菓子出せ!?」

 反射的にツッコンでしまうのはもう俺の(さが)だな。

「ちょっと零児、せっかく出された物にケチつけるなんて最低よ」

「ああ、そうだな。俺が悪いな。すまない」

 悠里に窘められた俺は頭を下げて有難く杏仁酥――中華風アーモンドクッキーをいただくことにした。うまっ。

「見た目は和風、中身は中華がこの旅館のモットウで候」

 落ち着け俺。支局長の語尾とか、絶対それ詐欺だろとか、見た目は子供頭脳は大人みたいに言うなとか、ここでさらにツッコミを入れ始めると止まらなくなるぞ。

「まさかうちのリャンシャオとチェンフェンが二度も敗北するとは思わなかったで候」

「惜しかったアル」

「ワタシたちは決め手に欠けていたヨ」

「ふむふむ。聞いていた通り、本局の監査官は優秀なようで候」

 ちょび髭を擦りながら俺たちを検分するハオユー支局長。にしても、こんな変人が支局長とはな。いや、うちの本局長も変人レベルなら張り合えるけども。小太りでカンフースーツがはち切れそうだし、あんまり強そうには見えないな。

 待て待て、見た目で実力を測るのは監査官としてやっちゃいけないことだ。こう見えて誘波とタメ張れるくらい強いのかもしれん。敵じゃないとはいえ、侮るなかれ。

「全員揃ったので、まずは状況を教えてもらえるかしら? この京都でなにが起こっているの?」

 ジル先生が柏手を打って話を促す。全員揃った? 桜居がいない気がするんだけど、まあ監査官じゃないし別にいいか。頼まれていた土壁の模様を超高画質で撮り続けた動画は後で渡そう。

「最初に異常を検知したのは二週間ほど前で候」

 ハオユー支局長が上座の座布団に腰を下ろして語り始めた。

「嵐山の奥地で自然現象とは思えない強い歪みが発生したので候。調査をした結果、やはり人為的に次空を歪められた形跡があったので候」

「あと異獣の死骸も転がっていたアル」

 髪型を三つ編みポニテに戻したリャンシャオが、どこか真剣な顔と口調でそう付け足した。

「異獣の死骸? てことは門が開いたってことか。でも死骸ってどういうことだ?」

 異世界だから絶対ないとは言い切れないが、死体が歩いて門をくぐるなんてあり得るのか? アンデッドってわけでもないだろうし。

「わからないネ。ただ、誰かと戦ったような痕跡もあったアル」

 こちらも髪型を三つ編みツインテールに直したチェンフェンが残念そうに首を横に振る。誰かと戦ったってことは、歪みを発生させた犯人と考えるのが自然だな。

「それからしばらくはなにもなかったで候。しかし、数日前から連続的に人為的な歪みが発生しているので候」

「始めの歪みが実験だったとすれば、その後の空白期間はなにかの準備を行っていたと考えられるわね」

「知らん。だが、これが本当に人為的ならその可能性は高い」

 先生たちも腕を組んで考え込んでいるな。『王国』の仕業なら『実験』って言葉が妙にしっくりくる。たぶん、あのクソメガネのせいだな。

 と、セレスが小さく挙手した。

「ハオユー殿、今までの歪みはどの辺りで発生しているのだ?」

「嵐山の後は高山寺から始まり、三千院、桂離宮、東福寺、貴船神社、城南宮、釈迦堂、銀閣寺、法輪寺の順番で候。その全てでやはり異獣の死骸が発見されているので候」

 場所を言われても地元民じゃない俺たちは京都の地理に疎いので、修学旅行のしおりに載っていた観光マップを開いて確認する。

「場所はバラバラね」

「順番に線で結んでもよくわからない図にしかならないな」

 観光マップを見ながら俺と悠里が唸る。セレスや先生たちも考えてくれているようだが、これだけ発生しているのに法則性がまるで見えないぞ。

「そうアル。だから困ってるネ」

「次どこで発生するか全く予想できないヨ」

「わかっているのは発生する場所全てがパワースポットになっていることくらいで候」

 ん? 今ハオユー支局長が気になる単語を口にしたな。

「パワースポット?」

「京都には大きな地脈が通ってるネ。その地脈の力が堆積して溢れる場所をパワースポットと呼んでいるアル」

「観光名所になるようなところは大なり小なりパワースポットになっているヨ」

 問いかけると、ハオユー支局長の代わりにリャンシャオとチェンフェンが答えてくれた。なるほど、そういえば全部観光マップに載ってるってことは名所なんだろうね。

「歪みの原因は、パワースポットの最も力が集中している部分に霊的な杭が撃ち込まれているためで候。それが力の流れを乱し、次空を歪める結果になっているので候」

 それが『人為的に次空を歪められた形跡』というわけだな。霊的な杭ってのはちょっと俺の想像力じゃイメージできないが、とにかくなんかやべーもんが刺さってるって認識でいいだろう。

「それは取り外せないのか?」

「できなくはないと思うアル」

「でも、そう簡単にはいかないネ」

 そう言って双子が眉を曇らせる。やりたくてもやれない、そんな雰囲気だ。

「できるならやればいいのに、一体なにが問題なんだ?」

「少しは考えなさい、白峰零児。地脈に刺さってるってことは、無為に引き抜くとその力が溢れて災害級の事態になり兼ねないってことよ」

 ジル先生がお馬鹿な生徒を諭すように教えてくれた。悪いけど俺は地脈とか魔術とか霊的ナンタラとかそういうのはさっぱりなんだよ。学校じゃ習わないだろ。

「んー、よくわかんないけど、全部行ってみればいいんじゃないの?」

 と、リーゼが観光マップの他の名所を一個ずつ指差しながら提案した。どういう場所で発生しているのかがわかっているんだったら、そこを全部警戒すればいいのは道理だな。

 だが、それができればとっくにやっているだろう。案の定、リャンシャオが肩を竦めて首を振った。

「簡単に言うアル。第二十八支局は人員不足ネ。人海戦術は使えないアルヨ」

「そんなに人がいないのか? 局員も?」

 いや、確かに京都の観光名所は数がとんでもないのはわかる。荒事担当の監査官は本局でも足りないだろう。それでも局員を含めれば監視くらいはできると思う。

「京都はそのパワースポットのおかげもあって、とても次空が安定している地域アル。だから今までは最小限の人員で回せていたネ」

「ぶっちゃけ監査官も今はワタシたちしかいないアル」

 マジか……そりゃ人手が足りなくて本局にヘルプするわけだ。

「ここで悩んでいても仕方ないわ。歪みが発生した場所と同じくらい強いパワースポットを手分けして監視するのが最良じゃないかしら?」

「そうだな。一人ずつならだいぶ広い範囲を補えるけど、流石に危険だから二人一組でどうだ?」

 悠里の提案に俺も賛成する。いつまでも机上で答えの出ない会議をするより、現場に向かった方が何倍も堅実だ。

「どういう組み合わせにするのだ?」

「ジャンケンでいいんじゃね?」

「相棒は相性がいい人にするべきアル。つまりワタシはレイ・チャンと一緒ネ」

「リャンシャオずるいアル! レイ・チャンはワタシとデートするネ!」

「双子は双子で組めよ相性的な問題なら!? あとデートじゃなくて任務だからな!?」

 ほらそんなこと言うからまたリーゼやセレスから殺気が立ち上ってきたよ。組み合わせを決闘で決めるとかにならないことを切に願う。


 そうして十分ほどの睨み合いが続いた後、結局ジャンケンで決めることになった。


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