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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第六巻
215/314

二章 伊海学園修学旅行(3)

 鳴くよ(794)ウグイス平安京。

 かつて日本の首都として定められ、政治・文化の中心地だった京都は、今でも多くの歴史的建造物がそのままの形で残っている。清水寺や醍醐寺のように世界遺産となっている場所もあるから、歴史に然程興味のない俺でも一度は行ってみたくなるってもんだ。

 とはいえ今は自転車で街中にある神社や寺の前を通過するくらいしかできないんだよな。早く監査局の仕事を終わらせないと、京都に来た意味がマジでなくなっちまう。

「レイ・チャンたち! ちゃんとついて来てるアルか?」

 先導するリャンシャオが一瞬だけ振り返って確認した。自転車なんて久々に乗ったが、あの双子に遅れるようなことはない。リーゼやセレスは最初こそ慣れない乗り物に苦戦したようだが、ちょっと練習しただけでもうスイスイ走り回れるレベルになったよ。

「問題ない。それよりお前らの服装の方が悪目立ちしてるんだが?」

 狐耳と尻尾は隠していても、チャイナ服だ。さっきからすれ違う通行人の視線が刺さる刺さる。見ないで! 俺たちは変人集団じゃありません!

「これはワタシたちの正装ネ! レイ・チャンたちこそ学生服でコスプレしてるアル!」

「俺たちは正真正銘の学生だからな!?」

「そうだったヨ。ワタシとリャンシャオの学校は私服OKだから忘れてたネ」

 こいつらもちゃんと学校通ってるんだな。

「せっかくだから観光地以外の京都もよく見とくといいネ」

「他の街にはないところ、いっぱいあるヨ」

「そうだな。今後のためにも地理は叩き込んだ方がいいかもだ」

 京都の道路は碁盤の目のごとく東西南北に整然されている。目的地と方角さえわかっていればまず迷うことはない。道幅に対して車の量が多いようだが、自転車で通る分には影響なさそうだ。

 街並みを見ていると、確かに俺たちの住んでいる街とはなんとなく違和感を覚える。なにが違うのか首を捻っていると――

「気づいたアルか? そう、看板が違うネ」

「コンビニやファーストフード店が京都風になってるアル」

 疑問を察した双子が交互に口を開いて教えてくれた。赤が茶色になっていたりモノクロになっていたりと、原色があまり使われていない。俺はこっちの方が落ち着いていて好きだな。

 てっきり京都愛から来る遊び心かと思ったが、どうやらそういう条例があるそうだ。景観条例ってやつだな。そういえば高層ビルも見当たらない。

「む? なんか美味しそうな匂いがする!」

「待てリーゼ! 離れたらまた迷子になるぞ!」

 リーゼが匂いに釣られて道路の向こう側に渡ろうとしたので、自転車を緊急停止してなんとか呼び止めた。いつぞやの温泉街のことを少しでも学習してもらいたいね。まあ、本人は迷子の自覚が皆無だったわけだけど。

「レージレージ、アレ食べたい」

 俺の服の裾を掴んでくいくいするリーゼ。赤いお目目が上目遣いで俺を見上げてきてるよ。くっ、そんなおねだりには屈しないぞ!

 しかしこの甘い匂いはみたらし団子だな。やばい、俺まで腹減ってきたぞ。

「新幹線でたらふくクッキー食べただろうが。まったく……ちょっと寄っていいか?」

「零児! 〝魔帝〟に甘い!」

 セレスに怒られた。

「買い食いは感心しないわね。任務が終わってからにしなさい」

 そんで腕を組んだジル先生にも睨まれちまったよ。

 しょうがない、あとで桜居にでもパシらせるか。


 そんなこんなホテルを出発してからほんの十数分。それなりにサイクリングを楽しんでいた俺たちは第二十八支局へと到着した。

 到着したのだが……

「なあ、リャンチェン」

「名前混ざってるアル、レイ・チャン」

「ワタシたち一纏めにされるの好きじゃないネ、レイ・チャン」

「俺だってそんな香港人みたいな呼び方されるの好きじゃねえよ!?」

 もう諦めたけど。

 それより確かめておかなきゃならんことがある。

「ここが第二十八支局なんだよな?」

「そうアル」

「どう見ても老舗旅館なんだが?」

「老舗旅館アル」

 俺たちの目の前に構えられた建物は、築三桁は超えているだろう趣ある日本屋敷だった。京都の市街地からは外れていて、裏手は山になっている。奥から立ち上っている湯気は温泉だろう。入口にかけられている暖簾には『伊瀬海亭』と書かれていた。

 普通に一般の客も出入りしている。

 本当にここが支局なのか?

「本局が学園やってるのと一緒ネ。ワタシたちの局は表向き旅館を経営しているアル」

「ちなみにレイ・チャンたちが三日目に泊まる場所もここアル。とってもいいとこアルヨ」

 リャンシャオとチェンフェンはむふんと自慢げに鼻息を鳴らしていた。自分たちの職場をそういう風に言えるのは、なんかすごいな。伊海学園なんてブラックな上に変態の巣窟だってのに。

「これはまた、誘波殿が好きそうだな」

「温泉の匂いがする!」

「いいところね。最初からこっちに泊まったらよかったんじゃない?」

「それでもよかったけれど、念のため状況を把握するまではウチの一般生徒たちを支局に近づかせない方がいいと思ったのよ」

「知っている。襲撃を受ける可能性がある」

「あの、一般生徒のオレはどうすれば?」

 支局の旅館を見上げて皆が思い思いの感想を口にする。だが、ジル先生たちが襲撃を警戒しているってことは……。

「やっぱり、京都で『王国』がなにかやらかしてんのか?」

「その話は中でするネ」

「支局を案内するアル」

 するとリャンシャオが俺の右腕に、チェンフェンが左腕に抱きついたぞ。大きくはないものの柔らかいナニカがふにゅっと押しつけられて気持ちがい――じゃなくて!

「おいやめろ!? 早く離れろ死ぬぞ!?」

 俺が。

「ぷふ、レイ・チャン照れてるアル♪」

「レイ・チャンはワタシたちの夫にある人アル。マーキングしとくネ♪」

「頭擦りつけるするなぁあッ!?」

 ふざけているのか、あたふたする俺を面白がった二人がピコンと狐耳を生やして頭をすりすりしてきちゃってるよ。狐の尻尾も嬉しそうにぶんぶん振り回している。

「ふぅん、両手に花とはいい御身分ね、零児」

「可愛いお嫁さんが二人もいるとは羨ましいことだな」

「むう、お前たちわたしのレージから離れないと燃やすわよ!」

 ほら! 悠里とセレスが氷点下の視線を俺に向けてらっしゃるよ! リーゼなんて掌に黒炎を灯して飛びかかってきたし! てかここ一般人もいるんですけど!?

「アイヤー!」

「遅いアル!」

 リーゼの攻撃を紙一重でかわしたリャンシャオとチェンフェンは悪戯が成功したような笑みを浮かべていた。なにも考えてないただの突進とは言え、リーゼのスピードはその辺の一般人じゃなにが起こったのか理解できないくらいだったはずだ。

 それを避けた。

 元からすばしっこい相手だったが、数ヶ月前と同じだと思わない方がよさそうだな。あ、ちなみに俺はリーゼに頭から突撃されて吹っ飛びましたよ。

「今の動き……やはり二人とも対抗戦からさらに腕を上げたようだな」

 セレスがすっと目を細める。俺と一緒に戦ったセレスだからこそ今の流れだけで二人の実力を悟ったようだ。さっきホテルで俺を襲撃して来た時は、挨拶だからか手を抜いてる感じだったもんな。

「試してみるネ?」

騎士(チス)にもリベンジしたかったアル」

「決闘ならわたしもやる!」

 悪戯っ子から好戦的な笑みにシフトする双子に、戦いと聞いてリーゼお嬢様も目の色を変えたよ。それより古井戸に嵌って落ちそうになってる俺がいるんだけど誰か助けてください。


「決まりネ。最初に案内するのは練武場にするアル」

「一般人が立ち入れない地下にあるから存分に戦えるヨ」

 

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