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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第六巻
213/314

二章 伊海学園修学旅行(1)

 待ちに待った修学旅行当日。

 俺たち京都組は一度学園に集合し、バスで新幹線が停車する駅まで移動することになっていた。

 今回は誘波がバスガイドに扮装してくることもなく平和的に出発。正門の前で諸注意を受けていた頃はみんな眠すぎてローテンションだったのに、いざバスに乗った途端ハイになって騒ぎ出すもんだから大人しく景色を眺めたい派の俺には大迷惑だった。

 まあ、これが修学旅行ってもんだろう。

 みんな楽しみにしていたんだ。テンションくらい上げたって文句は言わないさ。俺だってほとんどの時間を監査官の仕事で潰されるってわかってなけりゃ、もっとはっちゃけていたかもしれないな。

 駅へ到着して新幹線に乗り込むと、俺たちは三人席のシートを回転させて班で固まって座った。前方窓側がリーゼ、真ん中が俺、通路側がセレス。後方窓側は桜居、真ん中は悠里、そして通路側は郷野……

「――ってお前は自分の班のとこ行けよ!」

「なにを言っているんだい、白峰君。私の班はこの後ろだからなんの問題もないサ」

 修学旅行でも白衣を着ている保険委員長は、さも当然のようにそう語った。少し腰を浮かせて後ろ側の席を覗くと、確かに郷野の班員三人がキャッキャしているな。もしかして郷野さんあぶれたの? さては友達いないな?

「なにやら失礼なことを考えている気がするゾ。……ロボトミー」

「やめろ俺の頭蓋を開こうとすんな!?」

 立ち上がった郷野が座っている俺の頭をぐわしと掴んできたので、首をぶんぶん振り回して全力で抵抗。精神病患者の頭蓋骨を切開して脳の前頭前皮質と前頭葉を切除する悪魔的手術なんて誰が受けるか!

「レージレージ! 見て見て! この乗り物すっごく速い!」

 動き出した新幹線の窓から景色を眺めるリーゼは……お子様みたいに目をキラキラさせているな。俺たちの中で一番楽しんでいるのは間違いなくリーゼだろうね。

「あまりはしゃぐな、リーゼロッテ・ヴァレファール。他の客に迷惑だろう」

「まあ、今日くらいはしゃいでもいいんじゃない? この車両はアタシたちの貸し切りなんだし」

「紅楼の言う通りですよ、セレスさん。旅行ってもんは大いにはしゃぐものである! てことでセレスさんもはっちゃけましょう! ほらほら!」

「いや、私はそういうのはちょっと……」

 他の三人も高校生活一度しかない修学旅行を満喫している様子だ。セレスもあー言っているが、数日前からずっとそわそわしていることはバレバレだった。

「レランジェさんも来られればよかったのにね」

 残念そうに悠里が呟いた。レランジェは流石にお留守番だ。俺にとっては喜ばしいことに、生徒でも教師でもないあいつが修学旅行についてくるなんて無理があるからな。実はこっそりついて来てるかもしれないって? いやそれはない。昨日、体をパーツごとに分解して荷物に紛れ込もうとしていたところはしっかり押さえたからな。

 それに確か新しいアルバイトを入れていたはずだ。誘波の紹介で、別の街の山奥にある邸でメイド業務だったかな。数日住み込みのシフト制らしいからクビにならなきゃ俺の平和な時間が増える! 頑張れ雇い主!

 と――きゅるるぅ。どこからか可愛いお腹の音が聞こえてきた。

「なんだかお腹空いた。レージ、エキヴェンってやつが食べたい」

 リーゼお嬢様だった。朝食は普通に食べたはずなんだけどな。まあ、長旅してるとなにか摘みたくなる気持ちはわかるよ。

「駅弁はないが、おやつなら持ってきたぞ」

「おやつ食べる!」

 俺が鞄から取り出したポテチをリーゼは引っ手繰ると、早速袋を開けて小さなお手々で鷲掴み。お行儀悪く口へ放り込む。

「もう、ゆっくり食べなさいよ。車内を汚したら先生に怒られるわよ?」

 見かねた悠里がハンカチでリーゼの口元についた食べかすを拭った。全次元の皆さんご覧ください。〝魔帝〟と勇者だってこんなに平和になれるんです。

「おやつなら私も面白いものを持ってきているゾ」

 すると郷野がニヤリとなにかを企んでいるような笑みを浮かべた。鞄から黒と赤の物騒な模様をした袋を取り出す。

 商品のイメージ写真を見る限りだと――

「クッキーだ! 食べる食べる!」

「ハハハ、落ち着くんだリーゼロッテ君。普通に食べたんじゃ面白くないゾ」

 甘い物も大好きなリーゼお嬢様がさっそく食いついた。だが、郷野が『面白い』と言って出したクッキーがただのクッキーなはずがない。パッケージの色もさることながら、でかでかとプリントされた商品名に俺は戦慄した。

「『デンジャラスファイアクッキー』って、本当にクッキーだよな? 名前がやばいんだが?」

「あー、これね。オレ知ってるぜ。この一袋の中に何枚かものっすごい辛いクッキーが混ざってるんだ。つまり郷野はこいつでゲームをしようってわけだな?」

「その通りサ。流石に理解が早いね、桜居君」

 なるほど、そういうパーティゲーム用のお菓子ってわけか。三個中一個だけ酸っぱいガムとかあったなぁ。

「一人一枚ずつ順番に食べて行って、激辛クッキーを引き当てた人が負け。ただし、周りに引き当てたことを隠せたならセーフだゾ」

「無論、負けた人は罰ゲームだ」

 郷野と桜居が揃って悪い笑みを浮かべる。お前ら実は仲いいだろ?

 クッキーの説明を見ると内容量は五十四枚。けっこう入ってる。その内十枚が激辛ハズレクッキーらしい。総量は丁度六で割り切れるな。

「ふぅん、なかなか面白そうね」

「そういう勝負、アタシは好きよ」

 勝負事が大好物のリーゼと悠里はやる気満々のようだ。悠里がやるなら俺が逃げるわけにはいかないな。体育祭での借りを返すチャンス!

「激辛か……」

「ん? セレスは辛いの苦手か?」

「少し。だが、私は騎士だ。辛さなどに屈服することはあり得ない。見事なポーカーフェイスで乗り切ってみせよう」

 ちょっと心配だが本人が大丈夫って言うなら大丈夫だろう。

「みんなやるってことでオーケーだな? じゃあ、この紙に罰ゲームを書いて提出してくれ」

 桜居がメモ用紙を千切って全員に二枚ずつ渡した。

 罰ゲームを書けって言われるとなかなか思いつかないな。ここは新幹線の車内なわけだから、一応あまり周りに迷惑をかけないよう控え目なのにしておくか。


・ゲームが終了するまで変顔を続ける

・ゲームが終了するまで口直しをしてはならない


 こんなところだな。二つ目が出たら辛さの程度によっては悪魔の罰ゲームになるかもしれん。自分じゃ当たりたくないから気をつけねば。

 俺たちは書いた罰ゲームの紙を他人に見せないよう折り畳み、桜居が持っていたレジ袋へと投入する。他の奴らがなにを書いたのか気になるところだが、たぶんセレス以外は遠慮のないものをぶっ込んで来ているだろう。負けられない戦いだ。

「さて、罰ゲームも決まったところで始めよう。まずは言い出しっぺの私から時計回りで構わないかな?」

 全員が頷くと、郷野はクッキーの袋を開けて一枚摘み、上品な仕草で口へと入れる。クッキーはなんの変哲もない小麦色。小さな子供でも一口で食べられるサイズだった。

「ふむ、普通に甘いクッキーだゾ」

「チッ」

「白峰君、舌打ちは聞こえないようにしてくれないかな?」

 いやだって、郷野や誘波ってどうせ心の中でやっても謎のエスパーを発揮して勘づくんだもん。隠す意味をそろそろ失ってきた。

「時計回りということは、次は私だな。見た目ではわかりそうにないな……」

 今度はセレスが恐る恐るクッキーを口に運び――

「~~~~~~~~~~~~~~~ッ!?」

 声にならない悲鳴を上げて口を押えた。顔が真っ赤になり、目尻には涙まで浮かべているよ。辛かったんだね。

「なあ、セレス」

「ち、ちぎゃう! か、かりゃくなんてにゃい!」

「バレバレね」

「フラグ回収乙です、セレスさん」

「アハハ、騎士崩れの口がタラコみたいになってる!」

「初手で引くとは持っているじゃないか、セレスティナ君」

 皆に指摘される中、セレスは呻きに呻いてついには背中を丸めてしまった。よっぽど辛かったんだろうね。俺は絶対食わないぞ。

「わ、わかった。認めりゅ。ハズレを引いた。だから、みじゅを」

「ダメだゾ、セレスティナ君。水は罰ゲームが終わってからだ」

 鬼だ。鬼がいる。

「それでは罰ゲームを発表しまーす! ジャン! 『次の順番の人にキスをする』」

「んなっ!?」

「はぁ!?」

 俺とセレスは絶句する。聞き間違いかと思ったが、桜居が勢いよく引いた紙には確かにそう書かれていた。

 こんなくだらない罰ゲームを書きそうな奴は――

「くそう!? オレの書いた罰ゲームがどうしてこんなところで!?」

「やっぱり犯人お前か!?」

 案の定、桜居だった。血の涙を流して自分の太腿に拳を打ちつけているよ。桜居の狙いはリーゼか? それとも自分が引き当てて悠里にキスするつもりだったのか?

 とりあえず、後でシメる。

「ううぅ……これは罰ゲームだ。仕方ないのだ。仕方ない。仕方ない」

 涙目のセレスが俺をまっすぐ見詰めてくる。かぁああああっと顔がさっきよりも真っ赤になってらっしゃるよ。

「仕方ない……仕方ない……零児、許せ!」

 意を決したように、セレスは俺の頬へと赤く腫れた唇をそっと押しつけた。

 キス、されちまった……。

「うあぁああぁああああぁあぁぁああぁぁああッ!?」

「セレスが壊れた!?」

 俺も死ぬほど恥ずかしかったが、頭を抱えて悶えるセレスを見ていると冷静になってくる。俺にキスするのそんなに嫌だったの……?

「次! 次だ零児! 貴様も罰ゲームを受けて私の恥を思い知れ!」

「された俺もめっちゃ恥ずかしいんだけど!?」

 ペットボトルのお茶をがぶ飲みするセレスが親の仇のように睨んできたから、俺は慌ててクッキーの袋に手を伸ばした。小麦色のそれを掴んでひょいっと口へ放り込む。

「甘い」

「チッ」

「セレス!?」

 どこぞのポンコツメイドならともかく、まさかセレスに舌打ちされる日が来るとは思わなかった。

 そのままゲームは順当に流れていく。

「おいしー♪」

「普通のクッキーだな」

「意外といけるわね」

「二週目だな。うむ、ハズレではないようだ」

「~~~~~~~~~~~~~~~ッ!?」

「……なんか、今日は運がないな、セレス」

 またもセレスがハズレを引き当てていた。一個食べたからと言って慣れるようなこともなく、寧ろより辛さのダメージが増してさっきよりも苦しそうだ。

「罰ゲームは……『自分の秘密を一つ暴露する』だ」

 桜居の引いた罰ゲーム内容は、聞いただけならよくあるような感じだった。

 だが、この面子でこの内容となると犯人は一人しか浮かばない。

「それ書いたの郷野だろ!」

「なんのことかな、白峰君」

 別に罰ゲーム書いた人を当てたところでなんにもならない。しかし、この中で唯一俺たちの事情を知らない郷野に限って言えば注意勧告は必要だと思った。

「秘密か……なんでもいいのか?」

「好きな男性のタイプとかでもいいゾ」

「そ、それは絶対に言わない!?」

「これは罰ゲームだから、恥ずかしい秘密ならなんでもいいんじゃないか?」

 俺はさりげなく内容の方向性を促した。あのまま誘導尋問で監査局の秘密を探られては事だからな。ほら、郷野は微妙に不満そうな顔をしたぞ。

「恥ずかしい秘密……あ、あまり言いたくないのだが、実は最近、ハマっていることがあって」

「ほうほう、それは?」

 皆が傾聴する中、桜居が相槌を打つ。セレスは目を逸らして俯き加減になり、恥ずかしさと戦いながら辛さの残る口を懸命に動かし――

「わ、和菓子作りだ」

「「「――ッ!?」」」

 俺、悠里、桜居の肩がビクゥ! と跳ねた。セレスのアレの脅威を直に味わったことのある者特有の反応だった。

「その、街で体験会をやっているのを偶然見かけて、興味本意で参加してみたら意外と面白くて……わ、私みたいな騎士がか、かかか可愛いウサギのダイフクなんかを作ったりして――」

「もういい! もういいわセレスさん!」

 段々と自棄になって状況を事細かに説明し始めたセレスに、見かねた悠里がストップをかけた。これ以上はセレスのなにかが本当に壊れそうだった。

「白峰、これ見ろ」

「……」

 桜居がスマホの画面を俺に見せる。和菓子の体験会が食中毒で中止になったニュース記事だった。

「……」

「……」

「俺たちはなにも見てない」

「聞いてない」

 よし、この話題はここまでだ。

「気を取り直して次行こうぜ!」

 というわけで次は俺の番だからな。うん、甘い甘い。

「おいしー♪ ねえ、もっと食べちゃダメなの?」

 リーゼも問題なし。

「ファイアァアアアアアア!?」

 はい、桜居アウト。

 火を噴きそうな勢いで天井に向かって咆哮している桜居。仕方ないから罰ゲームは俺が代わりに引いてやろう。

「『ゲームが終了するまで変顔を続ける』……って俺が書いたやつだ」

 桜居は辛さでひーひー言いながら律儀に顎をしゃくって白目を剥いた。恐ろしく不細工な変顔だったが、お嬢様たちにはウケたようだ。悠里は軽く噴き出し、リーゼは指差して爆笑している。セレスと郷野は失笑だったが。

 そんなこんなでゲームは進行していく。

「ひゃっ!? なにこれ想像以上に辛いわ!?」

 四週目で悠里が地雷を踏んだ。

罰ゲームは『ゲームが終わるまで猫語で喋る』……誰が考えたんだこれ?

「まさか自分の書いた罰ゲームをするなんて……あ、にゃにゃにゃー」

 と思ったら自爆していた。自分のルールをしっかり守ってにゃーにゃー言ってる悠里は……かわいい。俺や桜居が引かなくてホントよかった!

「ぐっはぁあッ!?」

 油断してたらついに俺も被爆。なにこれめっさ辛い! え? こんなかれぇの? 世界中の辛い物から辛さの主成分だけ抽出して凝固したようなそんなヤバさ。

 早く罰ゲームを終わらせて水を! 水をくれ!

「白峰の罰ゲームは『腕立て伏せ百回』な」

「鬼ィイイイイイイッ!?」

 誰だよそんな時間的にも筋肉的にも浪費してしまう罰ゲームを書いたや――セレスさん、どうしてそっぽを向くのかな?

 とにかくさっさと終わらせる。座席じゃ無理だから通路に出て腕立て開始。


 一、二、三、四、五――


「ふんぬ……ふんぬ……」

「なにをしているのかしら、白峰零児」

「すみません先生!? 罰ゲームなんです見逃してください!?」

 新幹線の通路で顔を真っ赤にしながら腕立てする奇行種こと俺に、注意をしに来たらしいジル先生はドン引きしていた。なにこの羞恥! キスや暴露やにゃーとは別ベクトルで死ねる! ていうか死にたい!

 なんとか終わらせて水分補給。息も上がって口の中が大火傷したみたいに痛い。ねえ、まだ修学旅行初日だよ? 目的地に着いてすらいないよ?

 なんやかんやで六週目。

「~~~~~~~~~~~~~~~ッ!?」

「ホントついてないなセレス!?」

「セレスさん三回目の罰ゲームは……『ゲームが終了するまで口直しをしてはならない』……うわぁ」

「これは酷いゾ」

「にゃーにゃー」

「アハハッ!」

「だ、誰だろうなー? 悪魔の所業だなー」

 自分も一度被爆したから身に染みてわかる。

 セレス、マジごめんな。


 結局ゲームはそこで中止となり、残ったクッキーはリーゼと郷野が美味しくいただいていた。激辛クッキーでもお構いなしだったから、もしかしたらゲーム中にも当たってたんじゃなかろうか?


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