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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第六巻
207/314

一章 人間の心、魔王の力(1)

 改めて、〝人〟と〝人間〟の定義について考えてみる。

 語源学や生物学的な話をしているわけじゃない。俺を取り巻く世界――俺を中心に据えた世界におけるそれぞれの意味についてだ。

 まず〝人〟とはなにか? 異界監査局の影響も多分にしてあるが、大きく分ければ次の三点だ。


・高い知能を持っていること

・言葉によるコミュニケーションを取れること

・社会生活を営むことができること


 この条件に当て嵌まるのであれば、たとえ四足歩行の獣の姿だったとしても、ゲル状のスライムだったとしても、なんなら自立思考のできる超高度なAIだって〝人〟に含まれる。俺の周りにもそんな奴はいるしな。じゃあ馬鹿でコミュ障な社会不適合者は〝人〟じゃねえのかよって話になりそうだが、そこはもっと極端に捉えてくれ。俺だって頭は悪いしコミュニケーション能力も微妙だし社会適合者かと言われたら首を傾げ……今そういう話はしていない。

 であれば〝人間〟とはなんだ? 異界監査局的には、これは種族の大分類に値する。いわゆる『完全な人型』の動物だ。四足歩行の獣やスライムやAIは含まれない。エルフやドワーフみたいな身体的特徴の多少な差異であれば〝人間〟と呼んでいいかな。人魚とか獣人とかになるとアウトだ。

 だが、俺個人としては違う。

〝人間〟とは、心の有り様だ。

 一度魔王に堕ちた俺はそう考えている。人間にだってクズはいるが、あの嗜虐的で破壊的な意思には限度ってもんがなかった。絶対的な悪。『良心』と言えばいいか、それが僅かにも存在しないんだ。逆に良心しか存在しないモノホンの聖人みたいな奴も違う気がする。

 比重はどうあれ、善い心と悪い心のどちらも持ち合わせているのが〝人間〟だと俺は思う。

 だから、俺は〝人間〟だ。

 魔王の力を得ただけで、善にも悪にも振り切れていない〝人間〟だ。

 まあ、魔王や勇者って言葉がただの称号だって言うんなら俺は確かに『魔王』なんだろうな。


「ふむ、夢の中で自己満足に過ぎない考察をするとは器用な男だ」


 誰だ? 俺の思考に割り込みやがった奴は?

「余程自分が人外と化したことがショックだったと見える。〝人間〟かそうでないかなどどうでもよかろう? 我が我であるように、お前はお前ではないのか? 白峰零児よ?」

 視界がブラックアウトした。いや、最初から真っ暗な空間だったのかもしれない。

 これは夢だ。それを認識したということは、俺の意識が鮮明になったということだ。なのに目覚めていないのは、ここが俺の精神世界だからだろう。

「あくまで広義的な定義を欲するのであれば、お前は『魔王』と〝人間〟のどちらでもあると言えよう。『魔王』の力を持った〝人間〟。逆を言えば、〝人間〟の心を持った『魔王』だ。これ以上くだらぬことで悩むのはやめるがよい。不愉快である」

 暗闇の中に金色の光が出現する。それは輝くような黄金の髪とルビーレッドの瞳を持った、吸血鬼のように妖しくも端正な顔立ちをした美青年だった。頭部の左右から太い角が生え、背中には二対の悪魔の翼。先端がスペード型の尻尾はベルトのように腰に巻いているな。

 アルゴス・ヴァレファール。

 リーゼの親父であり、俺がリーゼから奪った魔力に宿っていた意思――のようなものだ。かつて魔王連合を率いていたらしい〝魔帝〟――『黒き劫火の魔王』は、今や俺という借家に住まう単なる親馬鹿残留思念、もとい、残念思念ってところだな。

「誰が残念思念だ」

 心を読まれた。

「以前にも教えたかもしれぬが、我はお前の精神と同居しているようなものだ。お前が表層意識で言語化できる思念は全て聞こえていると知れ」

 俺のプライベート!?

 というか、いきなり出てきてなんの用だ? 確か俺の魔力がある程度高まっていないと覚醒できないんじゃなかったのか?

「ふむ、お前が眠りながら『己は人間だ』と喚きテンションを上げていたせいで魔力も高まったのだろう。おかげで我も久々に束の間の自由を得られた。感謝する」

 なにやってんの俺!?

 ……ん? 自由を得た? ちょっと待て、お前、俺が寝てる間に俺の体でなにしやがった!? 意味深にフフフとか笑ってないでなんと言えやコラァ!?


「はっ」


 目が覚めた。

 くそっ、あの野郎、俺の体を使って一体なにを? 今度会ったらあの澄ました顔面に一発ぶち込んでやる! そうそう、丁度俺の目と鼻の先で寝息を立てている金髪少女を十年成長させて性転換したような顔に……

「ふぁ!?」

 待て、待て待て待て待て落ち着け俺!? なんで俺のベッド代わりのソファーにリーゼお嬢様が添い寝して遊ばれてらっしゃるんですか!? いや違うぞ。ソファーに添い寝なんてできるスペースはない。てことは、俺がリーゼのベッドに潜り込んだ形になる。よく見ると一階のリビングじゃなくて、二階のリーゼの部屋だしな。なるほどなるほど。

 状況分析完了。

「(アルゴスてめえこの野郎出て来やがれ俺が知らない間になんてことしやがってんだオラァアッ!?)」

 リーゼを起こさないように小声で叫びながらベッドから飛び降りるという器用なことをする俺。自称〝魔帝〟たるリーゼロッテ・ヴァレファール様を怒らせたら俺みたいな犬の糞なぞ一瞬で消し炭だぞ!

 ――ふん、我が愛しのリーゼロッテと添い寝してなにが悪い?

「(開き直んな!?)」

 頭の中で声が聞こえたかと思えば微塵も悪びれる気配もないな、この変態親父は。

 ――見よ、この可憐で愛らしい寝顔を。まさに天使と言えよう。フフ、イヴリアの城にいた時はこのような安らいだ顔は見せなかったものだ。余程この世界が気に入っているのだろう。

「(悪魔みたいなナリした魔王が『天使』とかほざいてんじゃねえよ!?)」

 ――嗚呼、リーゼロッテ、我が娘よ。おい、なにをしている早くベッドに戻れ。そして優しく抱き締めるがよい。

「(やかましいこの親馬鹿が!? 限度を知れ!?)」

 だいたい体は俺なんだぞ? 自分の娘が他の男と同衾したことになるんだが、それはいいのかよ。

 ――滅ぼされたいか貴様ァアッ!?

「(やったのはあんただ馬鹿野郎!?)」

 そうだった。こいつとの会話は念じるだけでよかったんだった。ツッコミは思うより先に声に出しちまう俺も相当鍛え上げられてるな。

 とにかく、早く脱出しなければ。最悪リーゼに気づかれるまでは構わない。このお嬢様はそういうところあまり気にしないタイプだからな。問題は――


「マスターのお部屋でなにをされているのですか、ゴミ虫様?」


 俺の後ろでなにやらガコンガコンと不吉な駆動音を立て始めた存在だ。隠す気もない突き刺さるような殺気に、俺は壊れかけの人形のごとくぎこちなく背後を振り向く。

「い、いや、これには俺の意思とは無関係な事情があってだな」

 いっそ恐ろしさすら感じさせる無表情をしたゴスロリメイドがそこにいた。レランジェ――リーゼの侍女として異世界イヴリアからついてきちゃった魔工機械人形だ。ことあるごとに俺の暗殺を企てる目の上のタンコブでもある。

 駆動音の正体はその右腕で、なんか変な方向に折り曲がったり接合したり体積が増えたりと明らかに()()しているぞ。

「問答が通るとでもお思い安定ですか?」

「無用ですよね!」

 いつもの魔導電磁放射砲の変形とは違うと思ったら――ちょっと待て、どう変形したら右手が巨大な殺人チェーンソーになるんだよ!? しかも魔導電磁放射砲まで搭載しているぞ。レランジェのやつ、また異界技術研究開発部に魔改造されやがったな。

 ギュィイイイイイイイン!! チェーンソーが起動。極悪な刃が火花を散らして高速回転し始める。

「惨殺安定です」

 予備動作もなく突撃してきたレランジェの斬撃を横に飛んでかわす。危ないなおい。あたったらマジで死ぬぞそれ。

「ふあ」

 と、流石にチェーンソーの爆音のせいでリーゼが眠い目を擦りながら起き上がった。

「……レージ、レランジェ、なにしてるの?」

 パチクリとくりっとした赤いお目目を見開くリーゼお嬢様。状況がわかっていらっしゃらないようだが、説明している暇はない。

「ご安心安定です、マスター。すぐにそこの不埒者を解体安定しますので」

「されて堪るか!?」

 俺はレランジェがリーゼに一瞬気を取られた隙に部屋の扉へとダッシュした。即座に追撃してチェーンソーを振り回すレランジェ。寸止めもなければわざと外すようなこともなく、明確な殺意を持って俺の命を狙ってきやがるから困る。

 だが俺も手慣れたもの。暗殺が日常化なんて嫌すぎるが、そんなデカブツの大振りなんて当たらないね。

「チッ」

 廊下へと脱出できた俺に舌打ちしてレランジェが追ってくる。だが急に立ち止まったぞ。そしてチェーンソーの()()を俺へと向けた。

 いや、待て、お前やめろそれはダメだやめろ!?

「魔導電磁放射砲――発射安定です」

「俺の家がぁあああああああああああああああああっ!?」

 青白い爆光が閃き、俺んちの二階の一部を粉々に吹き飛ばして夜空へと消えていった。


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