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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第五巻
197/314

代章 紅楼悠里(2)

 まだコックピットで暴れるわけにはいかない。下手をして艦が墜落したらアタシたちも助からないわ。

 艦を落とされたくないのはバフォメットも同じみたいね。だからアタシたちは衝突を繰り返しながら目まぐるしく場所を移動していた。

「よくぞここまで穴だらけにしてくれたものです」

「別にいいでしょ? どうせ沈むんだし」

「後にネクロス様がお一人で修繕なさると思うと今から涙が出ます」

 どこかの広い部屋でアタシとバフォメットは何度目かの拳を打ち合った。こいつ、光の速度で打ってるアタシの拳を物ともしてないわね。流石は最高位魔王軍の幹部ってところかしら。

 短剣を投げる。光線弾と変わらない速度のそれをバフォメットは片手で易々と弾いた。そのまま一回の踏み込みでアタシの目の前に迫る。

 でも――

「む?」

 バフォメットはなにかに気づいて急停止した。勘がいいわね。あと数センチ遅かったら首や手足を斬り落とせてたのに。

 バフォメットの手前にピンと張られた極細の糸で。

「これは……鋼糸でございますね。私と戦いながらこのような罠を張られていたとは、感服でございます」

「よく言うわ。簡単に気づいたくせに」

 部屋中に張り巡らせていた鋼糸だったけど、気づかれたのならお終いね。アタシは手元を引いて全ての糸を回収した。このまま放置してたら切られるかもしれないし、なによりアタシ自身がこれから戦いにくい。もう同じ手も通用しないわね。

「どうやらまだまだ力をお隠しになられているご様子。本気を出された方がよろしいのではありませんか?」

「まだ早いわ。あなたの後には魔王が控えているのよ?」

「ネクロス様に届く――そのお考えがいかに傲慢か教えて差し上げましょう」

 バフォメットが片手の掌を翳す。そこにとんでもない魔力が収斂していく。

「魔力砲!?」

 アタシが咄嗟に横に飛んだのと、バフォメットの掌から白みがかった黄色い光線が射出されたのは同時だった。

 轟音。爆発。衝撃。

 アタシは腕で顔を庇う。床をしっかり踏み締めて、吹き飛ばされないように堪える。飛んできた瓦礫の破片がマシンガンのように全身を打った。痛いけど、死ぬほどじゃない。

 そして顔を上げた時、次空艦に外の景色が見えるほどの大穴が穿たれていた。

「いいの? あなたも穴を開けちゃってるけど?」

「今更一つや二つ増えたところで大差ありません」

 あの魔力砲はかなりの力だった。三下の魔王なんか比じゃないわね。そもそも魔力砲を撃てる魔王の眷属なんてそうそういないわよ。

「参ります」

 再び格闘の構えを取ったバフォメットが一歩足を前に出した――その時だった。

 ゾクッ。

 アタシも、バフォメットも、頭上から圧しかかるように降ってきたとてつもない魔力の気配に動きを止めた。止めざるを得なかった。

「この魔力は……」

「ネクロス様ではありませんね。となると、『黒き劫火』のお嬢様でしょう」

「リーゼちゃんの?」

 リーゼちゃん……リーゼロッテ・ヴァレファールは〝魔帝〟の娘って話だったわね。だけどアタシが出会った時には魔力なんて持ってないただの女の子だった。

 その理由は零児が彼女の魔力を奪っていたから。そしてネクロスがそれを取り戻そうとしている。

 てことは――

「待って! じゃあ零児は……」

 感覚を研ぎ澄ます。微かに彼の魔力を感じた。その瞬間、ほっとしている自分がいることに気づいた。いざとなったら滅ぼそうと思っている相手の無事に。なんか変な感じ。

 ズン! と。

 さらに別の魔力が解放された。

「こっちはネクロスね」

「左様でございます。やはり『黒き劫火』のお嬢様が暴れてしまったのでしょう。いかにネクロス様でも力を開放しなければ抑え込むことは難しいと存じます」

 リーゼちゃんが復活してネクロスと戦ってるってことかしら。どっちも底の知れない魔力。でも……不思議とリーゼちゃんの魔力は嫌な感じがしないわね。

 魔力と魔力の衝突が起こる度に次空艦が大きく揺れる。

「お二人が戦われてはこちらも危ないやもしれません。決着をつけましょう」

「そうね。これ以上あなたなんかに手間取ってるわけにはいかないわ」

 まずバフォメットが跳んだ。アタシはぎりぎりまで引きつけて光の速度でかわす。瞬時に背後に回り込んで背中を蹴り飛ばした。

 まだよ。バフォメットにはもう壁も床も触らせない。空中を吹っ飛んでいる奴をアタシは何度も光速で追いついて弾き続けた。

「速く、そして重い。ですが、その程度でございます」

 いつの間にかバフォメットは天井に右手を突き刺してぶら下がっていた。

 その天井が――ドロっと。

 バフォメットの手を中心に液化して部屋全体に降りかかってきた。光の速度で動いていたアタシはなんとか直撃する前に回避したけど――

「なっ!?」

 僅かに付着したところと、床の踏んでいた液体が固まっていることに気づいた。

 動けない……。

「溶かして固める能力?」

「左様でございます。私は物質の〝溶解〟と〝凝固〟を自在に操れる、とまではいきませんが、このように――」

 バフォメットが右手で壁に触れると、その壁が一瞬で泥水のように溶解した。それを左手に持って行くと……一本の両刃剣の形で固まった。

「粘土細工の真似事程度であれば可能でございます」

 壁だった物質の剣がアタシに投擲される。

「くっ!」

 光速移動。足を固めていた天井だった物質を強引に引き剥がす。なんとか剣は回避できたけど、目の前にバフォメットが先回りしていた。

「それともう一つ。私はこの次空艦内であれば自在に転移できる権限をネクロス様から与えられております。あなた様がいかに早く動こうとも無駄でございます」

 右手が来る。アレに触れたら、アタシが溶ける!

「はぁあッ!!」

「おお」

 アタシは光速の蹴り上げでバフォメットの右手を弾いた。その勢いのまま後ろに飛んでバフォメットから距離を取る。

「警戒なされていますね? ご安心ください。あなた様を溶かしてしまうことはありません」

「ふぅん、生物は溶かせないって制限でもあるのかしら?」

「いえいえ。あなた様もネクロス様のコレクション候補でございますので、死体は綺麗な状態が好ましいだけでございます」

 ムカつく余裕ね。実際、バフォメットはまだまだ本気を出していないと思う。それはまあ、アタシも同じではあるんだけど……もう力を温存してる場合じゃないかもしれないわ。

 認める。バフォメットは強い。中上位の魔王クラスの実力はあると思った方がいいわ。


 ()()()アタシじゃ敵わない。

 ()()()アタシにならないと。


「おや? 目つきが変わられましたね。そろそろ本気を出されるということでござ――む?」

 バフォメットが斜め上を見上げた。遅れてアタシも気づく。

「なに……これ……?」

 たぶん、ネクロスが魔力砲を撃った。そのせいでリーゼちゃんの魔力が非常に弱々しくなってる。

 でも、()()じゃない。

 もう一つ、ネクロスとは別に……寒気がするほど禍々しくて暴力的な魔力が渦巻き始めていたの。その正体が誰なのか、アタシは直感的に悟った。

「この魔力……まさか、零児?」

 間違いは、なさそうだった。


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