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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第五巻
184/314

三章 競い合う紅白(5)

 昼休憩も終わり、伊海学園体育祭――午後の部が開始された。

 紅組と白組がそれぞれの団旗を掲げて応援合戦を終え、俺たち高等部二年の競技が始まる。


【続きまして午後の部目玉競技! 高等部二年生全員による玉投げ合戦――『疾風怒濤のディストラクション』!! 紅組と白組それぞれの陣地に転がっている玉を手に取り、敵に向かって投擲します! 転がってる玉を! 手に! 取り! いえ深い意味はありません。玉はペイントボールになっており、被弾した選手は証として紅組の玉は赤、白組の玉は白い液体をぶっかけ――もといペイントが付着し失格となります! そして時間内に多く生き残っていた方の勝ちです! あ、ペイントは洗濯するとすぐ落ちる素材なのでご安心ください】


「なんかタイトルの方向性が中二臭くなってる!? でも実況者は相変わらずだ!?」

 あの実況者はいい加減誰かと交代すればいいのに。ていうか、どの競技にも出てない気がするのは俺の気のせいか? 生徒だよな? 遠くて学年はわからんが体操服着てるし。

 土嚢を積んで張ったバリケードに身を潜め、開戦の合図を待つ。

 紅組は……向こうも準備万端のようだな。俺たちと同じようにバリケードに隠れて様子を窺ってやがる。

 これに勝てば白組は逆転大幅リード。逆に負けたらもう取り返しがつかないと思った方がいい。負けられない戦いがここにある。

 と、隣の桜居が拳を小さく突き出してきた。

「勝つぞ、白峰。もうドジ踏むなよ」

「ああ、流石にこれ以上恥を晒してなるもんかよ」

「まあ、白峰一人が転ぼうが今回は秘策があるから白組の勝利は揺るがないけどな」

「秘策ってなんだよ?」

「フフフ、そいつは見てからのお楽しみだ」

 エアメガネを押さえて怪しく笑う桜居。あ、これ絶対よからぬことを企んでる顔だ。反則で負けになったらお前のせいだからな。

 横の癖っ毛野郎に一抹の不安を覚えつつ――パァン! 開戦を告げるピストルの音が高々と響き渡った。

 早速集めていた白玉を握り、バリケードから半身を晒す。出てきた敵に向かって投げた白玉は右肩に命中し、紅組の男子一人を退場させた。どうでもいいが、体操着に白のペイントは目立たないな。

 まあ、とにかく滑り出しは上々だ。このまま一気に殲滅するぞ。

「ぐえっ」

「ぎゃっ」

「おっほっ」

 白組陣地からの悲鳴。血のように真っ赤なペイントを体操着に付着させて味方が次々と倒されていく。

「さあ、どんどん行くわよ! かかって来なさい!」

 飛んでくる白玉をひょいひょいと難なくかわし、赤玉を的確に命中させて反撃している猛者がいるな。

 紅楼悠里だ。

「流石だな、悠里殿」

 近くの味方が全員やられたのだろう、こちらに避難してきたセレスが楽しそうにそう言った。確かに流石だよ。あのセレスの暗黒弁当を一口食べたダメージなど感じさせない暴れっぷりだ。

「先に悠里を排除しないと被害がどんどん増えていくな」

「だが、悠里殿にはそう簡単に当てられないぞ」

 チラッと顔を覗かせた瞬間、赤玉がバリケードに被弾した。あと数センチ横にずれていたら危なかった。

「アハハ! 出て来なさいレージ! この〝魔帝〟で最強のわたしが仕留めてあげるわ!」

 バリケードの上に仁王立ちしたリーゼが愉快げに笑いながら赤玉を投げてくる。こっちもこっちでかなりの命中精度だ。しかもリーゼお嬢様、白玉を避けるどころかキャッチして投げ返してくるんですけど……キャッチありなんだ……。

「悠里も厄介だが、リーゼも相当だ。こっちの攻撃が当たらないから身を隠す必要もないんだろうな」

「だからこそ注目を浴びて的となる役目も担っている。彼女たちを狙って他の者に討ち取られている味方も多い」

 かと言って無視もできない。対策が必要だ。

「フッ、まさかこんなに早く秘策を使うことになるとはな」

 桜居がエアメガネをくいっと押さえてなんか言った。お前の中でエアメガネ流行ってんの?

 桜居は一度首を巡らせて味方の状況を確認すると、すっと息を吸い――

「よし! 撃ち方用意!」

「は? 撃ち方?」

 意味のわらないことを大声で叫んだ。

 途端――カシャガチャっと。なんか各所から金属が擦れるような物騒な音が鳴ったぞ。俺の脳内嫌な予感レーダーがビンビンと反応する中、各バリケードの陰から黒光りする砲身が姿を見せていた。

「撃てぇーッ!!」

 桜居の号令と共にけたたましい射出音が一斉に轟き、無数の白玉が弾幕となって紅組の陣地を強襲する。唐突な白玉の嵐に紅組は数人単位で討ち取られていく。

 き、機関銃だと……?

「ククク、白組にはミリタリー同好会の主要メンバーがほぼ揃ってるんだ。彼らに頼んで玉投げ合戦用のマシンガンを作ってもらった」

「いいのかよそれ!? てかミリタリー同好会すげーな!?」

 反則じゃないのかと思って本部の方に目を向けると――


【おおっとこれは卑怯! 白組の取り出したマシンガンが火を吹き、紅組の人数を瞬く間に減らして行く! 理事長、これはアリなのでしょうか?】

【面白いのでオーケーですぅ】

【セーフだったぁーッ!? 対する紅組はなすすべあるのかぁーッ!?】


 ダメだ、本部がテキトーだ。

 だが俺も別に反則負けになりたいわけじゃない。セーフなら思いっ切りやってしまえ!

 こうしている間にもまた一人、二人と紅組の退場者が増えていく。マシンガンによる白玉の弾幕には流石の悠里とリーゼもバリケードの裏に引っ込まざるを得ないようだな。

 このまま押し切れば白組の勝ちだ。


 ブブブブブブブブブ!


「?」

 なんだ、マシンガンの射出音に混ざって妙な音が聞こえたような……?

「うわっ!?」

「赤玉だ!?」

「どうしてここに!?」

「上から降って来たぞ!?」

 湧き上がる混沌とした悲鳴に俺も桜居もセレスも異常事態を察知した。

「零児、上だ!」

 セレスに言われて見上げると、上空を埋め尽くすように戦闘機や戦闘ヘリコプターが飛び交っていた。

 いや、よく見たらラジコンだ。ラジコンが赤玉を空から放って来てやがる!

「そう来ると思っていたゾ、桜居君」

 紅組陣地から郷野の声が聞こえた。

「こちらにはラジコン部の主力が揃っていてね。彼らに頼んで空襲用のラジコンヘリや飛行機を用意してもらったのサ」

「お前もか!? ラジコン部もすげーな!?」

 勝つための手段を選ばなさ過ぎる。これもう玉投げ合戦とかいう可愛いもんじゃないぞ。もうなんというか戦争だ。


【空からの爆撃! これも卑怯! 白組のバリケードが全く意味を成していません! 本当にいいのでしょうか理事長!?】

【全然アリでぇーす】

【全然アリだそうです!】


 まあ、こっちもマシンガン許可してもらったしな……。

 前方からの攻撃しか防げないバリケードでは空襲に対して効果がない。ラジコンを撃墜しようとしても高度があり過ぎてペイントボールじゃぎりぎり届かない。その辺も計算されているんだろうな。やられた。

 万策尽きたかと思ったら、桜居がエアメガネを無駄にくいくいさせて不気味に笑った。

「悪いな、郷野。その戦法は読んでいた」

「む、なんだって?」

 紅組陣地で郷野が眉を顰める。桜居は全軍に向けて叫んだ。

「そろそろだ! 全員足下注意!」

「え? 足下がなんだって?」

 桜居の号令が行き届いた瞬間、にょきっと足下からなにかが生えてきた。

 それはジャックさんの豆の木みたいにぐんぐんと伸びて行き、やがて大きな葉っぱを広げて頭上を覆い尽くした。夢だけど夢じゃなかった。

 ラジコンが降らしてくる赤玉は広がった巨大な葉っぱに防がれ、下までは届かない。

「園芸部が品種改良で偶然作ることのできた急成長する巨大植物の種をあらかじめ撒いておいたのさ」

「それ地球産じゃないよね!? もし地球産だったら園芸部すげーんだけど!?」

 郷野がぐぬぬと親指の爪を噛んでいる。空襲を防がれたことがよっぽど悔しいらしい。

「てか桜居! こんな作戦あるならなんであらかじめ教えてくれなかったんだ!?」

「午前中に説明したんだが、白峰はその時にいなかったからなぁ」

「お前らが鉄パイプ振り翳して追いかけ回したからだろ!?」

 だったら昼休みにでも言ってくれよ! てか実はマシンガンの件もその時に説明しやがったな。悪意を感じる。


【白組陣地に謎の巨大植物が生えた!? 大きな葉っぱが空襲を防いでいます!? これって意図的に撒いていたらしいんですが、卑怯じゃないですか?】

【麦茶のおかわりいただけますかぁ?】

【あ、もう審議する気もないんですね。オーケーです!】


 俺は最初の審議で本部は見限っていたがな。

 だが、これで空襲対策は完璧だ。あとはマシンガンで攻め続ければこちらの勝利は揺るがないはず!

「空襲を防がれたのは素直に悔しいが、別に意外でもないんだゾ。実は桜居君が園芸部と交渉しているところを見ていてね」

 冷静な郷野の声が不穏な言葉を継げた瞬間――


 スパパパパッ!


 巨大植物が、どういうわけか次々と刈り取られていく。

 いや違う! ただ刈り取られているわけじゃない。千切り、輪切り、斜め切り、小口切り、角切り、ざく切りと料理をしている切り方に見える。

「植物が伸び、視界が悪くなっている間に家庭料理研究会の皆さんをそちらに忍ばせたのサ。包丁を持って来るように頼んでおいてよかったよ」

「家庭料理研究会すげーな忍者かよ!?」

 植物は斬り倒されたが、家庭料理研究会の皆さんはあえなく白組に囲まれて全滅した模様。敵陣に突っ込んだらこうなるわな。仕事を完遂させてしまったのは痛いが……。

「家庭料理……なるほど、こういう風に」

「セレスさん今なにを学習した!? それ絶対間違った知識だから忘れなさい!?」

 近い未来に新たなる暗黒物質が生み出される予感がした。


【競技に包丁なんて危険物持って来ていいんですかねー】

【人を切らなければいいんじゃないですかぁ】

【そーですかー】


 本部の遣り取りはもう聞こえないことにする。

「どうする、桜居? もう空襲を防げないぞ?」

「こうなったら――全員突撃! マシンガンのあるこちらが有利であることに変わりはない! 空襲に気をつけつつ、敵を殲滅せよ!」

「「「おーっ!!」」」

 桜居の号令と共に白組全軍が紅組陣地へと突撃を開始する。


 そしてそれを待っていたかのように、二つの影が紅組バリケードから飛び出した。


「自棄になったわね! そのまま引き籠っていればギリギリ勝てたかもしれないのに」

「アハッ! 暴れていいのね? 燃やせないけど、赤くしてあげるわ!」

 悠里とリーゼがマシンガンを持つ白組相手に無双を始める。くそ、しまったあいつらがいた。空襲があるとはいえ、比較的安全な陣地から狙撃していればこうはならなかった。

「俺たちがやるしかない! セレスはリーゼを頼む!」

「了解した!」

 俺とセレスもバリケードから飛び出し、有象無象は無視して悠里とリーゼにそれぞれ白玉を投げつける。

「来たわね、零児!」

「ああ、決着をつけてやる!」

 悠里の投げた赤玉をかわす。俺の投げた白玉もかわされる。

 接近戦に持ち込み、ゼロ距離から玉を当てなければ悠里には勝てない。

 悠里もそう思っているようで、彼我の距離はもうほんの数メートルまで差し迫る。


 その時だった。

 ゴゴゴゴゴ! という地鳴りに似た音と共に、突如として空間が大きく振動した。


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