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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第五巻
183/315

三章 競い合う紅白(4)

【さあさあ盛り上がって来ました! 中等部二年生女子による大縄跳び――『跳んで跳んで揺れろ揺れろ』! ハン、中等部のメスガキに揺れるモノなんてあるんですかね? 片腹痛……いえなんでもないです】


 現在の得点。

 紅組:一八〇点。

 白組:一四〇点。


【続いての種目は高等部三年生男子による棒倒し――『ウホッ☆男だらけでやらないか?』です! なぜか上半身裸の男子たちが寄って集って一本の棒を倒す! 棒を! 倒す! 愚腐腐腐腐ぐふふふふじゅるりッ……うおほん! 失礼しました】


 現在の得点。

 紅組:二二〇点。

 白組:一九〇点。


【さてさて次は高等部二年生全員による綱引き――『そんなに引っ張っちゃらめぇ~』です! おっと、これは意外と拮抗しています! 障害物競争で白熱した戦いを繰り広げた紅楼選手と白峰選手が先頭で火花を散らす! なんなら綱に引火しそうな勢いでバッチバチです! ああっと残念! 白峰選手ここでも足を滑らせたぁーッ!? 白組将棋倒しだぁーッ!?】


 現在の得点。

 紅組:二五〇点。

 白組:二〇〇点。



「「「おのれ白峰ぇええええええええええええええええええええええッ!?」」」

「ごめんホントごめんマジすんません!? だから鉄パイプで追いかけ回すのやめてもらえませんかね!? あと関係ないけど種目のタイトル考えたやつ誰だよ!?」



【さあ、午前の部のラストを飾るのは高等部一年生全員による借り人騎馬戦――『伊海ヶ原の戦い』です! これは普通の騎馬戦と違い、選手は全員騎手! 騎馬は他の学年や先生、保護者の方などから『借りて来て』戦います! 時間内に騎馬を作れなければ失格! 騎馬を崩されても失格! もちろんハチマキを敵チームに奪われても失格! 最後に残っていた人数の多い方が勝ちとなります!】


「行っくでぇ~! グレアム先輩突撃やぁーッ!」

「俺的に、向こうのやつらをぶっ壊せばいいんだな?」


【これは凄い!? いややばい!? 白組の稲葉選手が無双しております! なにが凄いって騎馬が凄い! てかあの人何者!? え? うちの用務員さん? プロレスラー兼アスリートとかじゃなくて? パワフル過ぎんでしょ!? 後ろの二人が鯉のぼりのようになってますけど!?】


 現在の得点。

 紅組:二七〇点。

 白組:二五〇点。


 伊海学園体育祭午前の部――終了。


        ※※※


「グレアムは卑怯だろ!? だが稲葉グッジョブ!」

 借り人騎馬戦をほぼ一人で無双した稲葉に俺はツッコミを入れつつ親指を立てた。俺の失態を取り返してくれたからな。まあ、俺が足を滑らさず綱引きで勝ってたら逆転してたんだけど。

「おーきに、白峰先輩」

 稲葉は俺の失態など気にしてないように白い歯を見せてはにかんだ。いい後輩だよまったく。鉄パイプ持ってないし。

「ほなな、白峰先輩。ウチ、クラスの子たちとお弁当食べるんで」

「ああ、午後の競技で逆転しようぜ」

「当然や」

 そう爽やかに笑って稲葉はとととっと駆け去って行った。グレアムに騎乗してあれだけ暴れ回ったのに元気なやつだ。俺なんて競技に出場してない時も鉄パイプ軍団に追い回されてヘトヘトだってのにね。

 ぐー。

 ヘトヘト過ぎて、腹減ってきたな……。

「白峰、弁当食おうぜ!」

 いいタイミングで桜居からお呼びがかかった。俺の弁当はレランジェが持って来る手筈になっているから、先にそっちと合流しないとな。

「向こうに丁度いい日陰の場所を確保しているゾ。リーゼロッテ君たちはもう先に食べているようだ」

「おー、サンキュー郷野…………なぜいる?」

 実質的に敵の大将と言えるやつがしれっと白組陣地に混じってるんですけど。

「昼休憩くらい紅組も白組も関係ないだろう? ねえ、桜居君?」

「そうだな。紅組の午後の作戦を探れると思えば好都合だぜ」

「それはお互い様だゾ」

「ハハハ」

「フフフ」

「関係ありまくりじゃねえか!?」

 黒いオーラを交差させて笑顔で睨み合う二人とはこれ以上関わりたくなかったので、俺はさっさと郷野が確保した日陰へと向かった。

 そこには既にリーゼ、セレス、悠里、レランジェがレジャーシートの上に重箱を広げていた。宝石のように綺麗に並べられた唐揚げや卵焼きやおにぎりなどを、本当に俺らが来るのを待たずに食べているご様子。待てよ。

「レージ、遅かったわね」

「すまない、先にいただいている」

「やだこのタコさんウインナー絶妙な可愛さ! レランジェさん職人だわ……」

「ご安心くださいゴミ虫様。ゴミ虫様のエサ……お弁当はこちらにご用意安定です」

「今エサって言ったろこのポンコツメイド!?」

 手羽先の唐揚げを美味しそうに貪るリーゼに、すまなさそうにおにぎりをはむっと口に咥えるセレス。悠里は俺の登場なんか気づいてないかのようにタコさんウインナーに夢中で、俺の分は別に取っておいてくれたらしいレランジェが弁当箱を渡してくる。

 ドクロマークがびっしりと描かれている緑色の包みの弁当箱を。

「これ絶対毒入ってるよね!? 俺のだけ絶対なんかの毒入ってるよね!?」

「……チッ」

 ほら舌打ちして目を逸らした! こいつが生徒で体育祭に参加してればたとえ味方でも決着をつけてやったのに!

「だ、だったら零児、実はわ、私も自分でお弁当を作ってきていたのだ。私はレランジェ殿の作ったお弁当をいただいているから、こ、これを食べるといい」

 なんか言葉が噛み噛みのセレスが明らかに一人で食べる量じゃない重箱を俺に押しつけてきた。なぜか顔を赤らめて俺の方を見ないんだけど、暑さのせいかな?

「も、もちろん、毒など入っていないぞ!」

 いや違うな。暑さのせいとかにして現実から逃げるんじゃない、俺。

「セレスさん、ありがたいけどこの重箱から漏れ出る紫色の瘴気は一体なんですか?」

「……湯気だ」

 バッ! と光の速さでセレスは明後日の方向に首を回した。何時間も放置していたのに湯気がもくもくと湧いてるとかどんな保温機能だよ?

「せっかく早起きして作ったのだ。その、零児に食べてもらいたい。……ダメか?」

 こっちに向き直ったセレスが上目遣いでもじもじしながら言ってくる。俺に処理してもらいたい、と。

 これはヤバい。

 レランジェの毒入り弁当の方が生存率高そうだ。

 と、そこに――

「待たせてすまない。桜居君がなかなか睨み合いをやめてくれなくてね」

「うっひゃーっ! レランジェさんの手作り弁当ッスか! どれもこれも美味そうだ!」

 一応自分の弁当箱を手に持った郷野と桜居がやってきた。

「ん? おい白峰、お前だけなんでそんなに弁当多いんだよ? 独り占めはよくないぜ?」

「それもそうだな。こっちがレランジェの俺暗殺弁当、こっちがセレスの手作り弁当だ。桜居にも分けてやるよ」

 寧ろ全部くれてやるよ。

「うおおおおおっ! レランジェさんこの唐揚げマジ絶品ッス! 冷めてるのにサクサクでジューシー!」

 テレポートでもしたかのように俺の前から忽然と消えた桜居はレジャーシートに胡坐を掻いて唐揚げを摘まんでいた。このやろ、全力で逃げやがったな。

「……まったく、だらしないわね」

 俺が必殺弁当二つを抱えて立ち尽くしていると、どうやら見兼ねたらしい悠里がすっと立ち上がって俺からセレス作の弁当を取り上げた。

「お、おい悠里――」

「毒入りのは流石に食べられないけど、セレスさんのはそうじゃないんでしょ? 紫色の湯気なんて異世界回ってたら稀にあったし、案外食べてみたら美味しかったりするもんよ」

 悠里は自分の座っていた場所に戻ると、しゅるるるっと包みを解いて重箱の蓋を外した。

 瞬間――もわっ!

 バケツにドライアイスをぶち込んだように紫色の瘴気が爆発する。中身は見えない。そんでいつの間にか悠里の近くからリーゼもセレスも食べ物を全部持って離れていた。いや待てセレスさん、それあなたが作ったやつですよ?

 みんなが不安そうに見守る中、流石の悠里もごくっと息を呑み、意を決した表情で箸を瘴気の中に突っ込んだ。

 闇鍋でもつついているように中を弄り、おどろおどろした一つの塊を摘まんで取り出す。もはや肉なのか魚なのか野菜なのか判然としない暗黒物質ダークマターがそこにあった。

 な、なんか塊が纏う瘴気がムンクの叫びに見えるぞ。まるで大量の怨霊が取り憑いているみたいだ。

「……あっ、よかった箸は溶けてない」

「セレスさん今なに言った!?」

「……なんでもない」

「恐ろしいこと言わなかった!?」

「な、なんでもないと言っている!?」

 悠里、大丈夫だよな? あんなの食べて、死なないよな? 体の内側から腐敗して溶け出したりしないよな?

「い、いただきます」

 自分であー言っておきながら、悠里はちょっと泣きそうな顔をしていた。

 そして――ぱくっ。

 く、口に入れたぞ。

「な、なんだろう? お肉のようなお魚のような、でも野菜みたいにシャキシャキしていてはうっ!?」

 咀嚼していた悠里の体が突然ビクン! と感電したかのように跳ね上がり、そのままレジャーシートに突っ伏した。

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」

「……」


 沈黙すること数秒。


「悠里ぃいいいいいいいいいいいいいいいッ!?」

「キューキュー車だ!? 救急車を呼べぇえッ!?」

「わ、わたし食べなくてよかった」

「セレスティナ様、あの料理のレシピを是非このレランジェにご教授安定してください」

「くっ、まさかセレスティナ君が昼休憩の間に紅組のエースを始末しに来るとは……」

「ええっ!? そんなつもりはなかったのだが!?」

 ギャーギャーと騒ぎ立てる俺たち。桜居と郷野がとにかく救護班を呼ぶため体育祭本部に駆けて行った後――ダン! と掌を地面に叩きつけるようにして悠里がゆっくりと体を起こした。

 もしかしてゾンビ化した悠里がみんなを襲ってパンデミックな展開に!? まず桜居がやられて郷野も殺され、魔工機械人形のレランジェが抑えている間にどうにか逃げられた俺とリーゼとセレスは次々とゾンビと化す学園の生徒たちからも逃れるため先生の車を奪って街に――

「アタシなら……大丈夫よ」

 そんなハイスクール的なオブザデッドにはならなかった。よかった、悠里は正気だ。目も腐ってない。ちゃんと光を宿している。

「セレスさんの料理があまりに美味しくて、ちょっと意識が飛んでただけよ。捨てちゃうのは勿体ないから、アタシが責任もって処……全部食べるわ」

 勇者だ! 勇者がいる!

「悠里殿……そこまでしなくとも」

「いや、食えるんなら食っちまおう。じゃないと食材に悪いだろ。俺も手伝うよ」

 確かに捨てると自然環境的にどんな影響があるかわかったもんじゃない。それこそ本当にパンデミックしてしまうかもしれん。

 若干青い顔をした悠里と冷や汗を大量に掻いた俺が瘴気の重箱に箸を入れる。

 と――

 重箱が消えた。


「フフッ、こーんなもの食べるなんて、わんこさんたち罰ゲームでもしているのかしら?」


 人を小馬鹿にしたような笑い声は上から降ってきた。

 そこには学園の制服を纏った色白でスラリとした美脚の女子が長い黒髪を靡かせて立っていた。件の重箱はそいつが子供から取り上げるように片手で高く掲げているな。

「望月絵理香……どうして?」

「わんこさんたちが楽しそうなことしているのに、参加できないからつまんないなーって思ってたの」

 こいつが何者なのかを知らない悠里を除いた俺たち四人は身構える。こいつは世界中でよくわからん暗躍をしている『王国レグヌム』って組織の幹部――執行騎士の一人なんだ。

 今は監査局に捕虜として捕らわれ、この学園に軟禁されている。

 もう二ヶ月以上も経つというのに、一向に助けも刺客もやって来ない。これってもう完全に見捨てられてるよな? 本人は断固として否定するが。

「フフッ、こんなの食べてたら楽しめなくなっちゃうわよ?」

 どことなく艶めかしくそう言って、望月はセレスの重箱を放り捨てた。

「おまっ」

「大丈夫よ、わんこさん」

 なんだ? 空中に切れ目が入って楕円形の〝穴〟が開いたぞ。

「――って『混沌の闇』だと!?」

 セレスの重箱はその中に落ちて行って……あ、〝穴〟が閉じた。セレスのお弁当は世界に寄生する混沌が美味しくいただきましたってか? いやそんなことより!

「お前、なんで力が使えるんだ!?」

 望月絵理香は捕虜になった際に能力を全て封じられている。一回俺がリーゼを助けるために解放したこともあるが、その後もまた同じ処置がされているはずだ。

 なのにどうして……?

「この前の戦いでわんこさんに手を貸したから、その恩賞でちょっとだけ封印を甘くしてもらったのよ。フフッ、ここから逃げ出せるほどじゃないから安心するといいわ」

 いいのかよ、監査局。

 なにか考えがあるのか?

「確かに、彼女はこの学園で問題を起こすようなことはしていないが……」

「フン、さっさと燃やせばいいのに」

「ではこのレランジェが始末安定ですか?」

 リーゼやセレスたちの言葉は聞こえていないフリをし、望月は俺の正面に座る悠里を見据えた。

 漆黒の瞳が意味深に悠里を映す。

「なに?」

「ふ~ん、あなたがわんこさんの幼馴染? へえ~」

「だったら、なにかあるわけ?」

「べっつにぃ~。仲が良くてお姉さんちょっと妬けちゃうわぁ」

 そのまましばらく見詰め合う悠里と望月。なにこのぐろぐろとした空気? さっきの桜居と郷野みたいな腹の探り合いでもしてるの? なんで?

「フフッ、じゃあ私は見物に戻るわ。わんこさん、午後からも頑張って私を笑わせてね♪」

「お前を笑わせるためにこけてたわけじゃねえよ!?」

 馬鹿にするだけ馬鹿にして立ち去って行く望月絵理香を、俺は姿が見えなくなるまで睨み続けた。

「零児、あの人、『混沌』の完成形でしょ?」

「ん? ああ、そうらしい」

 同じく望月を睨んでいた悠里に問われ、なんとなくの知識しかない俺はとりあえず頷いた。

「(あんなのが何人もいるわけないし……)」

「え?」

「ごめん、ちょっと口を濯いでくるわ」

 小声で呟かれた言葉はよく聞き取れなかったが、聞き返す暇もなく悠里は給水所の方へと駆けて行った。

 口を手で押さえながら。

 実はかなり効いていたらしい。セレス印の暗黒物質マジ恐るべし。


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