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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第五巻
178/314

二章 不穏の予兆(6)

 専門家が到着してからはあっと言う間だった。

「そこの光ってるやつ、そんなところにいられると邪魔よ。巻き込まれたくなければ杭の外に出てなさい」

 堕天使のごとく黒い翼を広げて交差点に舞い降りた四条が悠里に向かって警告した。移動を一旦止めたため徐々に輝きが弱まっている悠里は――

「あなたたちにこれをどうにかできるの?」

 まず、そこを訊ねた。

「あんたのやり方よりは確実だ。面倒臭いけどな」

 四条の隣に並ぶ迫間が漆黒の大剣を一閃する。それだけで周囲の闇が一気に薙ぎ払われ、悠里が杭の外側まで避難するための道ができた。

「……わかったわ」

 悠里は自分の輝きがもうほとんど失われていることを確認し、一つ頷いてから迫間が作った道を素早く駆け抜けた。

 残っていた三体のゴリラ型影霊が悠里を追いかける。だが、追いつくことはないな。黒翼を羽ばたかせて舞い上がった四条が、〝影〟の帯を放って影霊たちを雁字搦めにしたからだ。

 影魔導術――〈束縛チェイン〉。

「漣!」

「ああ」

 息の揃ったパートナーだから伝わる、たったそれだけの簡潔な合図。迫間の大剣に周囲の闇――『混沌の闇』の〝影〟が収束する。

 次の瞬間。

 轟ッ!! と。

 漆黒の大剣から解き放たれた長大な〝影〟の刃が、動きを封じられた影霊たちを一薙ぎで葬り去った。

〝影喰み〟の剣――〈黒き滅剣(ニゲルカーシス)〉……だったか。相変わらず凄まじい範囲と威力だよ。その分動作が遅いところは難点っぽいが、それも四条の〈束縛〉で十二分に補っているな。

「もういないわね?」

 空から周囲を見回し、影霊がいないことを確認した四条が〝影〟を繰る。糸状に変形させた〝影〟を空間に開いた〝穴〟へと飛ばすと、編み物でもするかのようにクロスを描きながら裂け目を強引に縫いつけた。〈縫合スティッチ〉の影魔導術だ。

『混沌の闇』が閉じられ、漂っていた闇も根本が断ち切られたように自然消滅する。

 ただの静か過ぎる大通りの交差点に戻ると、四条は翼を消し、迫間は大剣を自分の影に沈めた。

「驚いたわ。まさか混沌の克服者がこの世界にいたなんて」

 目を丸くした悠里は感嘆したように影魔導師の二人を見ていた。

「他の世界にも影魔導師っているのか?」

「かなり希少な……というより、他の世界だと理論上だけの存在だったわ。実際に混沌を克服した人間を見るのは初めてよ」

「そうなのか」

 もしかすると、これもこの世界の人間――地球人の特異性なのかもしれない。俺たちハーフの魔力量がずば抜けているのは地球人の血が混じっているからだ。まだデータをなにも入れていない空っぽのハードディスクのように、地球人には異能を詰め込める器だけが無駄にあるってことじゃないか? だから混沌を克服して異能者になれる。なんなら影魔導師とは違う地球人の異能者がいたっておかしくはないな。俺は見たことないけど。

「もっとも、戦い方は完成度の高い混沌に近いわね。ほとんど一緒だと言ってもいいわ」

 完成度の高い混沌……俺が知る中では望月絵理香しかいない。あいつは確かに戦い方が影魔導師のそれだった。

 と、迫間と四条が俺たちの方へ歩み寄ってきた。

「一応聞いておくけど、僅かでも『混沌の闇』に触れてないでしょうね?」

 四条が訝しむように目を平らにして俺たちを一人ずつ見回した。『混沌の闇』ってやつは厄介なことに、少しでも触れたらそこから侵蝕が始まってしまうんだ。

「ああ、俺とセレスはずっと離れた場所にいたから問題ない。悠里は――」

「アタシも大丈夫よ。光は一瞬たりとも途切れさせてないわ」

「ならよかった。またあの時みたいな面倒臭いことはごめんだぜ」

 迫間が頭をポリポリ掻きつつほっと息を吐く。いやね、うん、その節はホントご迷惑をおかけしました。

「それにしても見事な連携だった。二人とも夏休みの間にさらに腕を上げたようだな」

 セレスが聖剣を白い布に巻きながら賞賛すると、迫間と四条は顔を見合わせて微妙な笑みを浮かべた。

「まあ、師匠に死ぬほど扱かれたからなぁ」

「途中からウェルシーも加わって壮絶な兄妹弟子喧嘩が始まった時には命を失う覚悟をしたわ……」

「よく俺たち生きてたなぁ」

「街一つ地図から消しかねない喧嘩を止めろって、無茶振りにもほどがあるわよ」

「……うわー」

 二人の師匠である鷹羽畔彰と、その妹弟子にあたるウェルシー・ホーネッカーの大喧嘩。どっちも少ししか関わってないが、想像するだけで俺は逃げたくなるね。

「と、ところで、そっちの見ない顔が白峰の幼馴染ってやつか?」

 迫間がこれ以上夏休みの修行について触れられたくないように話を逸らした。修行については俺も同感なので、今聞いた話は綺麗に忘れることにする。

「紅楼悠里よ」

「俺は迫間漣だ」

「あたしは四条瑠美奈。よろしく」

 お互い名乗ったところで、悠里はなぜか興味津々な様子で二人をじっと見詰め――

「さっきの戦いも息ぴったりだったけど、二人は付き合ってるの?」

「ぶふっ!?」

 ド直球な質問をぶつけて四条を盛大に噴き出させた。

「それは私も気になるな。夏休みでなにか進展があったのでは?」

「寧ろ早く結婚しろよって外野は思っているほ足が踏み抜かれたように痛いッ!?」

「違うわよ!? ただの幼馴染のパートナーってだけよ!? そんなんじゃないわよ夏休みだってなにもなかったわよ白峰零児の足踏み抜くわよ!?」

「既に実行してるから!? 足めっちゃ踏んづけられてるから!?」

「ととととにかくそういうんじゃないから!? 漣もなにか言いなさい!?」

「……面倒臭いからいいや」

 顔を真っ赤に噴火させた四条が全力で否定する中、迫間は実に面倒臭そうに苦笑して頭を掻くだけだった。


「楽しそうなお話なので是非私も交ぜてほしいところですがぁ、一旦ストップしてください」


 ヒュオオオ、と旋風が巻き起こる。

 迫間と四条が『げっ』とでも言いたげな表情をする中、旋風の中心にド派手な十二単をバタバタとはためかせた女が出現した。おっとりニコニコした笑顔を見て、俺は状況を思い出す。

「そうだ誘波! これどういうことなんだよ! 『次元の門』なんて開かなかったぞ!」

「いいえ、ちゃんと『次元の門』も開きましたよぅ」

「「「えっ?」」」

 俺、悠里、セレスの三人が驚きに目を見開く。門が、開いていただって? 馬鹿な。今回開いたのは『混沌の闇』だけだったぞ。

「『混沌の闇』は強烈ですからねぇ、そちらに全神経を奪われてしまうのは仕方ありません」

 気づけなかったってことか? 俺たち三人、いや、迫間と四条も入れれば五人もいて。

「二つが同時に開くって、そんなことあり得るのか?」

「可能性としては充分あり得ますが、非常に稀なケースですねぇ……自然に開くとしたら」

「誘波殿、それは誰かが仕組んだということか?」

「まさか、また『王国レグヌム』のやつらか!?」

「『王国』……?」

 悠里が眉を顰める。そういえば、まだ『王国』については特に話してなかったな。あとで説明しておこう。

「その辺りはなんとも言えませんねぇ。こちらの大柱の破壊に失敗してからというもの、『王国』の活動は海外に移転してしまったようですし」

 そういえば、イタリアやらアメリカやらオーストラリアやらに現れたって聞いたな。母さんがアメリカに戻ったのも『王国』があっちで暴れているからだ。もう日本に興味がなくなったのか、それとも次のチャンスを狙っているのか。間違いなく後者だろう。

 捕虜になった望月絵理香を放置している点も気になる。

「面倒臭いな。『王国』かどうかは置いといて、門の方からはなにもなかったのか?」

 迫間がうんざりした顔で問う。

「なにもなければよかったのですが、どうやら、なにか出てきたようです。それも、あまりよくないものが」

「異獣か?」

 凶暴な異獣だとしたらまずい。早く何とかしないと、人払いの区域を抜けて一般人を襲いかねないぞ。

「わかりませんが、こちらに見つからないようにこそこそ隠れているようですねぇ」

「明確な意思を持った『人』だったらまたなんかいろいろ厄介なことになりそうね。ま、臆病な小動物だったってことを祈るわ。――漣、帰るわよ」

「ああ、そうだな」

 四条に言われ、迫間は自分たちの周囲を包み込むように〝影〟を繰る。どこかに転移するつもりだ。

「おい、どこ行くんだよ」

「帰るって言ったでしょ。『次元の門』の件はそっちでなんとかしなさい。あたしたちは『混沌の闇』の方を連盟に報告しないといけないから」

「まあ、面倒臭いだろうが適当に頑張れよ」

 それ以上の言葉はなく、〝影〟は二人を完全に包み込んで霧散消滅した。今までそこにいた影魔導師たちの姿はどこにもない。本当に帰りやがった。

「レイちゃんたちも帰っていいですよぅ。あとは、私がやっておきますので」

「え? いいのか?」

「私たちに手伝えることがあるのであれば、手伝うぞ」

 いや、俺は帰りたいです。

「ええ、もう居場所は掴んでいますので。レイちゃんたちを向かわせるより私が動いた方が速いでしょう」

「それは別に今回に限ったことじゃないと思うぞ。ていうか、だいたいお前が処理した方が速いだろ?」

「私一人のか弱い力だけじゃたかが知れてますよぅ?」

「どの口がなにを言ってんだ?」

 風による広域探知に転移、戦闘力、ぶっちゃけ俺らが動く必要なんてないんじゃないかってくらいのスペックをこのエセ天女様は持ってるんだよ。

「……この感じ」

 と、悠里が明後日の方向を見詰めたままなにかをぽつりと呟いた。

「どうした、悠里?」

「なんでもないわ。帰るのならさっさと帰りましょう。たぶん、遅くなったからリーゼちゃん怒ってるわよ」

「うげっ。それはなんというか、面倒臭い」

「迫間殿の口癖が感染っているぞ、零児」

 ご機嫌と取るためにアイスクリームでも買って帰るべきか真剣に検討しながら、俺は悠里とセレスを連れて人払いの区域を後にした。

 途中で一度振り返ってみたが、その時には既に誘波の姿は風に消えていた。


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