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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第五巻
175/314

二章 不穏の予兆(3)

 そうして、郷野と桜居の学園案内対決が開幕した。

 先攻は桜居。やたら自信満々な笑みを浮かべて「ついて来たまえ」とか偉そうに言うと、俺たちを先導して歩き始めた。


 てくてくてく。

 すたすたすた。

「伊海学園の案内で欠かせないのは、なんと言ってもここだろう」

「いや桜居、校舎裏のウサギ小屋に連れて来てなに言ってんのお前?」

「ウサギ小屋? 違うな。ここは我らが異世界研究部の部室なのだ!」

「は!?」

「異世界研究部ってなに?」

「桜居君が趣味でやっている部活のことサ。非公式だから部室など割り当てられるわけがないと思っていたが……」

「入部はいつでも歓迎だ。一緒に異世界について語り合おうじゃないか」

「桜居殿……ウサギ小屋で毎日部活動を?」

「無論、ウサギたちの世話もきちんと行っています」

「それもう飼育委員だろ!? てか学園案内にいらないだろここ!?」

「わぁ、可愛いもふもふが動いてる……全力でもふりたい……」

「あ、あれイヴリアでも見たことある。食べたら美味しいのよね」

「食用ではないぞ、リーゼロッテ」

「ねえ、桜居くんの部活に入ったらこの子たちもふり放題だったりするの!?」

「フッ、当然……って、え? 紅楼ってこんなキャラだったっけ?」

「記憶がなくなる前は隠していた内なる自分らしい」

「そろそろ私のターンだゾ。まあ、これは勝ったも同然だがな」


 てくてくてく。

 すたすたすた。

「というわけで、ここが保健室だ」

「お前なら真っ先に連れて行くだろうと思ってたよ。途中にあった職員室とか購買とか家庭科室とか美術室とか図書室とかすっ飛ばしてな」

「甘いな、郷野。保健室は確かに重要かもしれんが、授業で使うわけでもないからそう滅多に来る場所じゃないぜ? 別に知らなくても学園生活は送れる」

「それは見事なブーメランだゾ、桜居君」

「えーと、つまり怪我とかしたらここに来ればいいのね?」

「その通り。悠里君は友達待遇ということで特別に無料で治療しよう」

「金取るなよ」

「おかしなことを言うね、白峰君。怪我人病人はみんな友達サ」

「怪我人病人をボールみたいに言うな!?」

「あれ? ここってレージに『こすぷれ』見せたとこ?」

「ぐっ、嫌なことを思い出した……」

「おや? セレスティナ君どうしたんだい? 頭でも痛いのかい? なんなら白峰君に診てもらうといい。大丈夫ベッドのカーテンは閉めておくから」

「ななななにを言っているのだ美鶴殿!?」

「もういいだろう? 次のオレのターンで差をつけてやる」


 てくてくてく。

 すたすたすた。

「どうだ! ここが我が異世界研究部第二部室だ」

「ただの屋上じゃねえか!? どの辺が『室』だ!?」

「む、高等部の絶景ポイントを押さえてくるとはなかなかやるな、桜居君」

「あれぇ!? 敵には好評価だ!?」

「うん、確かにいい景色ね。街並みがはっきり見えるわ」

「ここでご飯食べると美味しいのよ」

「今度みんなで昼食を取るのもいいな。となると、弁当は私が人数分作ろう」

「いや俺が作るから!? セレスさんはなにもしなくていいから!?」


 てくてくてく。

 すたすたすた。

「悠里君は動物が好きなようだから、生物準備室とかどうだろう?」

「三年の選択科目で取らないとまず来ることのない教室を今案内する意味は? しかも準備室かよ」

「アハハ、なんでトカゲとかヘビとか瓶に詰めてるの? 食べるの?」

「うわっ、リーゼロッテさんちょっとそれこっち持って来ないで!」

「? 悠里君は動物が好きなのでは?」

「もふもふがいいの! こういうグロキモイのはダメなの!」

「わかる。わかるぞ、悠里殿……」

「フッフッフ、これは失点だな郷野」


 てくてくてく。

 すたすたすた。

「とくと見よ! ここが我が異世界研究部第三部室だ!」

「どんだけ部室あるんだよ!?」

「桜居殿、ただの階段下の物置に見えるのだが?」

「そう。一見物置に見えるが……これをこうどかしてずらすと」

「奥に卓袱台と畳を隠してあるとは、桜居君は秘密基地でも作っているのかい?」

「でもすごい、ちゃんと部屋になったわ」

「この辺は物置教室しかなくてあまり人が来ないからな、最高の秘密基地だぜ」

「秘密基地言っちゃったよ……」

「むぅ、ここあんまり面白くない。食べられないし」

「では次へ行こう。丁度近いところにあるのサ」


 てくてくてく。

 すたすたすた。

「というわけで、手術室だ」

「なんで学園にそんなもんがあるんだよ!?」

「この建物は昔病院だったものを改装して作られたものだからサ」

「へえ、そうなのか……って違うそうじゃない!? たとえその話が本当だとしても手術室が残るのがおかしいだろ! 十中八九嘘だろうけどな!」

「嘘とは失礼だな、白峰君。むむ、なんだか急に切開の練習がしたくなってきたゾ」

「こっち見んな!?」

「この文字、よく見たら誰かが落書きして書いた感じだな」

「あ、やっぱり嘘なのね」

「本来はなにをする場所なのだ、美鶴殿?」

「うむ、今は私がこっそりカエルの解剖に使うくらいサ。ところで丁度カエルを切らしているのだけれど……」

「使うな!? そしてこっち見んな!?」

「ふわぁ……レージ、もう飽きた」



 リーゼお嬢様が退屈そうに大欠伸を始めたので案内勝負はこれにて閉幕となった。

 既に誰もいなくなった自分たちの教室に戻るや、対決していた二人の視線が悠里に集中する。

「さあ悠里君。どちらの案内が素晴らしかったか判定を」

「私情は抜きにして公平に頼むぞ、紅楼」

「いやどっちも最低レベルだったぞ!?」

 どちらかと言えば保健室が含まれていた郷野に軍配が上がるだろう。なんでこいつらもっと普通な場所を案内できないの? 無駄にあっちこっち移動しまくっただけじゃないか。

「う~ん、桜居君はもふもふとか綺麗な景色とか、もふもふとか、もふもふとか見せてくれたけど……もふもふ……」

 こんなやつらなのに、悠里は真面目に悩んでいるな。心のウェイトはだいぶもふもふに傾いているようだが。

「私情が抜きというのなら、やっぱり美鶴さんかな」

「なん……だと……」

 残念だったな、桜居。同性の友人補正で郷野に肩入れすることを避けるために『私情抜き』と言ったのかもしれないが、どう考えても自滅だぞ。

「はっはっは、流石だ悠里君。もふもふの誘惑に打ち勝ち私を選んでくれると信じていたゾ」

 床に両手をついて絶望のポーズを取る桜居を見下すように、勝ち誇った郷野はその無駄に大きい胸を張った。バインと揺れたな。

「そうだ、悠里君も白衣を着てはどうだろう? きっと似合うゾ?」

「やめろこれ以上白衣を増やすな!? ただでさえお前とアーティで被ってんのに」

「なに? 白峰君、今の話はどういうことかな? 私以外にも白衣を着ている者がいると?」

「いるよ、一年に。あっちは研究衣だけどな」

 確か稲葉と同じクラスだったな。稲葉が何組なのか知らないけど。

「むむむ、困るゾ。白衣は私のアイデンティティだ」

「なら悠里に薦めるなよ」

「すまないが、私はここで外させてもらう。ちょっとその一年と話をつける必要ができた」

 郷野は少し唸ってから深刻そうにそう言うと、早足で教室から去って行った。アーティは基本的に研究室に籠っているから教室には滅多に来ないぞ。会えるといいな。

 さて……郷野もいなくなったし、桜居は敗北した格好のままだし、これからどうしようかな? もう一度案内をやり直すのは正直面倒だ。

 悠里の様子を見て決めるか……ん? なんか悔しそうに拳を握っているな。

「うう……ごめんね、もふもふたち……選んであげられなくて」

 もふもふを選択しなかったことに対して絶賛後悔中だった。悠里の中ではもう桜居謙斗という存在は消えているらしい。

「悠里殿は本当に小動物が好きなのだな」

「というよりもふもふした可愛いものだろ」

「わたしも好きよ。食べると美味しいし」

「リーゼ、もしかして腹減ってるのか?」

 お嬢様はさっきから食べることばっかり言ってた気がする。まあ、昼食を食べずにあれだけ歩き回ったら腹も減るか。……なんか俺も腹減ってきたな。

「このままみんなで軽くなんか食べに行くか?」

「行く!」

 そういうことになった。


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