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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第五巻
174/314

二章 不穏の予兆(2)

「白峰は紅楼の幼馴染なんだって? じゃあ学園の案内よろしくなー」

「じゃあってなんですかそこは委員長とかじゃないんですか!?」

 HRが終わると岩村先生は超絶テキトーにそう言い残して教室から去って行った。記憶喪失の悠里を他の誰かに任せるのは心配だからやぶさかではないが、監査官という立場を抜きにしても色々押しつけられている気がする。

 まあ今日はもう授業ないし、駆け足でこのクソ広い学園を案内する必要はないな。ゆっくりのんびり見て回ることに――


「さて、ではまず紅楼さんの幼馴染とか抜かす白峰の処刑から始めようか」

「「「イエッサー!!」」」


「急げ悠里逃げるぞ!?」

「え? なに? え?」

 狂気に染まったクラスの男子たちがジェイソンのような仮面を被って鎖鎌を取り出したので、俺は悠里の手を掴んで脱兎の勢いで教室から飛び出した。

「逃がすな! 追え! 殺せ! 暁の水平線を白峰の血で染めろ!」

「「「了解であります! 提督!」」」

「お前らなんなのその団結力!? あとその仮面と武器はどこから取り出したんだよ!? てか速ぇえっ!?」

 なんでこいつらこういう時は監査官に匹敵する脚力出せるんだよ! なんか残像まで見えるんですけど!

「こらお前ら廊下を走るなー。キスするぞ?」

「「「くたばれ白峰ぇええええっ!?」」」

 教室を出たばかりの岩村先生が静止を呼びかけるも、バーサークした男子たちの耳には入らない。岩村先生をガン無視して集団で走り抜ける。

「……ほう、つまりキスしていんだな? つまり結婚していいんだな? フフフ……フハハハハ! お前ら纏めて私の夫だぁああああああああああああああああああっ!?」

「「「ぎゃああああああああああああああああああああああああああっっっ!?」」」

 ドス黒いオーラを全身に纏った(ように見える)岩村先生が飢えた獣のように爛々と目を光らせて男子たちに躍りかかっていった。

 おかげで……助かったな。三々五々に散って行った処刑人たちは、もう先生から逃げることで精一杯だろう。南無。

「な、なんだったの今の?」

「気にしたら負けだ」

 唖然とする悠里に俺は溜息を吐きつつそう言うしかなかった。

 そして気を取り直して学園案内を始めようとした時――

「レージ、そいつの案内するんでしょ? わたしも行く」

「魔て……リーゼロッテが行くのであれば私も付き合おう」

 リーゼとセレスが同行を求めてきた。リーゼはさっきご機嫌が回復したと思ったのにまたムスっとした顔で悠里を見ているな。気のせいか、セレスもどことなく笑顔が引き攣ってないか?

「はいはーい、なんか楽しそうだしオレも交ぜろよ!」

 ついでにツンツン癖毛のニヤニヤ顔までいやがる。

「まあ悠里が嫌じゃなきゃいいけど……てか桜居、お前が男子連中を仕切ってたんじゃないのか?」

「馬鹿言うな、白峰。異世界人の美少女ならともかく紅楼だぞ? 今回は流石に空気を読むさ」

 そういえばこいつは異世界人にしか興奮できないヘンタイだったな。悠里は半分異世界人だが、桜居にとっても昔から付き合いのある友人なんだ。

「てことで紅楼、オレたちがいたら邪魔か?」

「そんなことはないわ。この人と二人きりで回るより、みんなで回った方がきっと楽しいだろうし」

 微妙に俺の心が傷つく言い方で悠里は桜居たちの同行を認めた。


「ふむ、そういうことなら私も一緒させてもらうゾ」


 げ……。

 さっさと教室から離れるべきだった。クラスの中で一番苦手なやつに絡まれてしまった。

「白峰君、私を見るなり『げ……』と言わんばかりの顔をするのどうしてかな?」

 俺とほとんど変わらない目線の高さから桜居とは別種のニヤけた顔を向けてくるこいつは、郷野美鶴こうのみつる。保険委員長という理由で医者用の白衣を常時纏っているという不審者だ。ていうか腕を組まないでもらいたい。白衣の上からでもわかる二つの核爆弾が強調されて目のやり場に困るんだよ。なんなの威嚇してんの?

「いや、なんで郷野までついて来るんだよ」

「白峰君が変態化して紅楼君を襲わないように私たちで監視する必要があると思ったのサ」

「えっ……」

「襲わねえよ!? 悠里もケダモノを見る目を俺に向けないでください!?」

 こいつは俺をなんだと思ってるんだ。だから郷野は苦手なんだ。できるだけ一緒に行動なんてしたくない。個人的な理由を抜きにしても、郷野は妙に勘がいいところがあるもんだから、下手すると監査局のこととかバレそうになるんだよ。

「郷野美鶴だ。私は高等部から入ったから君とは初対面だな。よろしく、紅楼君」

「こちらこそよろしく、郷野さん」

「そんなに堅苦しく呼ばなくていいゾ。美鶴で構わない」

「そう? じゃあ、私のことも悠里でいいわ」

 勝手に自己紹介が始まって終わってしまった。いやいいけど、俺が変態とかいう件をまず撤回してほしかったね。変態の役割は桜居にでも投げてくれ。

「それでは、悠里君のために張り切って学園を案内しようじゃないか」

「……郷野が仕切ると面白くないな」

 ぼそりと呟かれた桜居の言葉だったが、耳ざとい郷野は聞き逃さなかった。

「おや? 桜居君、私の案内では不満だと言うのかい?」

「おう、オレならお前より完璧に案内できるぜ」

「なら勝負といくかい? 丁度私と君は体育祭の組も別々だし、前哨戦ということで」

「乗った!」

 対立する桜居と郷野。この二人はことあるごとにこうなんだよな。学園祭の時もメイド喫茶と執事喫茶で揉めてややこしいことになっていたし。見ろ、場の空気が勝負事になったせいでリーゼお嬢様が「ミツルとツンツン頭の勝負、面白そうね」ってノリノリだ。

「そういや、体育祭の組は上手い具合に分かれたよな」

 郷野が紅組で桜居は白組。リーゼが紅組でセレスが白組。そして悠里は紅組、俺は白組だ。対立する者同士が綺麗に分かれた形になる。俺と悠里に関しては名前通り紅白だからな。なにか超常的存在の陰謀を感じる。

「わたしはレージと一緒がよかったのに」

「フッ、公平に決められたのだ。文句を言うなら自分の不運に言うのだな、リーゼロッテ」

「ぐぬぬ……騎士崩れの分際で」

 歯噛みするリーゼと勝ち誇るセレス。リーゼが不機嫌だったのはその辺に理由があるんだろうか? ところでなんで白だと勝ち組みたいなことになってんの?

「よーし、負けた方が勝った相手と紅楼に焼きそばパンを奢るということでどうだ?」

「いいだろう。どちらの案内が優れていたか評価を頼むゾ、悠里君」

「え? ええ。わ、わかったわ。上手く評価できるかわからないけれど、が、頑張る」

 桜居と郷野の争いに巻き込まれた悠里は――あたふた。幾多の魔王を討ち滅ぼして来た勇者とは思えないくらい戸惑っていて、よくわからずぎゅっと拳を握る姿がなんかちょっと可愛く見えた。


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