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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第五巻
167/315

一章 勇者の凱旋(3)

 悠里の話は夜遅くまで続いた。

 思い出深い場面や盛り上がる場面になるとついつい熱が入ってしまうのか、やたら詳しくなることもしばしばあった。特に魔王との戦いを語る時は活き活きしていた気がする。

 悠里の冒険譚を肴にしてワイワイガヤガヤやっているうちに、誘波が知らない間に持ってきたアルコール入りジュースで酔っ払い、絡まれたリーゼやセレスも飲まされて酔い潰れてしまった。俺と悠里も強引に飲まされたけど酔いはしなかったな。俺、酒強かったらしい。母さんもケロっとしてたから、遺伝かな?

 そこで宴会はお開きとなり、結局、俺たちは誘波の屋敷に泊まることになった。


 そして翌朝。

 元気のいいお爺ちゃんが外で体操を始めてそうな早い時間に、母さんはアメリカに帰るため一度家に戻った。昨日はなんやかんやあって準備できなかったからな。俺も手伝うためにまだ寝ていたリーゼたちを残して一緒に帰宅した。

「飛行機、何時だっけ?」

 母さんが買い込んでいた日本のお土産やらなにやらをバッグに詰め込みながら訊ねる。これでしばらく母さんとは会えなくなるから、息子として少しでも会話をしておきたかった。

「九時ですわ。それまでにラ・フェルデの方と合流して、空港へ向かわないといけませんわね」

 母さんも自分の着替えを丁寧に畳んで旅行ケースに入れていく。そういえば、ラ・フェルデからも誰か一緒に行くんだったな。確か……ブランネーヴェとかいう名前のセレスと同じ聖剣十二将だったはずだ。あとラ・フェルデ最高の技術者とも言ってたっけ。変人の臭いしかしない……。

「悠里さんが戻って来てくれてよかったですわね」

「そうだな」

 ちょっと素っ気なく答えてしまったのは、やはり悠里が記憶喪失だったからだ。忘れられるっては思ってたよりキツイ。忘れた本人はもっと辛いだろうな。

 母さんもそのことを思ってか、憂いの溜息をついた。

「零くんが訓練をサボらないように見張ってもらいたかったのですが、今の悠里さんには頼めませんわね」

 違った。俺をしごく件についての憂いだった。

「……零くん、まさか本当にサボるつもりではありませんよね?」

「も、もももちろんそんなことはないですよ」

 母さんから貰った毎日の特訓メニューが書かれた紙があるんだが……アレは死ぬ。毎日だと死ぬ。ていうか学校や仕事を想定してないハードスケジュールなんですけど! ただのアップがフルマラソンってどういうことなの!

「……」

 うわ、なんかじとーっと疑わしそうにこっち見てるよ。そんな目で見られたら愛想笑いを返すしかないじゃないか。

 一分ほど睨めっこを続けると、母さんは諦めたように表情を緩めた。

「まあ、今はいいですわ。零くんは肉体的な強化より技術的な強化を優先すべきです。リーゼさんのほぼ無尽蔵とも言える魔力を根こそぎ奪ったのですから、その使い道も自分自身で模索しなければなりませんわ」

「使い道って言っても、結局は〈魔武具生成〉で出力していくしかないんだけど……」

 神鉄変幻棍っていう生成し続ける技も使えるが、それでも終わりが見えないレベルの魔力が今の俺には溜まっている。これから『王国レグヌム』のやつらと戦うことになるんならありがたいことだが、ただ底なしなだけじゃあいつらには勝てない。

〈魔武具生成〉をもっと進化させていかないとな。

 母さんのようには使えなくとも、俺には俺の戦い方がある。俺に合った使い方を極めるしかないだろう。

 そうなるとラ・フェルデの騎士学校に留学することも一つの手だが、今は悠里のことが優先だ。提案してくれたクロウディクスには悪いけど、俺はまだこの世界を離れるわけにはいかない。

「さてと、準備もできましたし、これで零くんともお別れですわね」

 少し寂しそうに母さんは言うと、俺が整理していた荷物も受け取って玄関に向かった。靴を履き、ドアを開けて外に出て、振り返る。

 母さんはもう何度破壊されたかわからない我が家を見上げ、

「次は祐志郎さんと一緒に帰りたいですわね」

 俺じゃない人物の名前を口にした。白峰祐志郎しらみねゆうしろう。米国異界監査局で局員をしている俺の父さんだ。

「空港まで見送りに行こうか?」

「結構ですわ。零くんが我が家の玄関で『行ってらっしゃい』と言ってくれるだけでわたくしは満足ですの。それに……」

 俺の細やかな提案を迷いなく断り、母さんは一瞬だけ視線をちらりと余所に向けて微笑む。

「零くんは彼女の傍にいるべきですわ」

 その視線と言葉の意味に気づき、俺は頷く。

「うん、わかった。じゃあ、行ってらっしゃい、母さん」

「はい。行ってきますわ」

 最後に母親としての優しい笑顔を俺に見せて、母さんは踵を返して立ち去った。

 その姿が見えなくなるまで俺は見送り――――さっきから塀の向こうでこそこそと隠れているやつに言う。

「悠里だろ。隠れてないで出て来いよ」

 すると、数瞬の間を置いてから赤髪をいつもの後ろで結った髪型に整えた悠里が姿を現した。どこかバツが悪そうな顔をした悠里は、俺を警戒するように睨みながら口を開く。

「……気配は消してたと思うんだけど」

「俺はそういうのに敏感だからな」

 まあ、母さんも気づいていたみたいだけど。

「俺を尾行してきたわけじゃないってのはわかるけど、記憶がないのによくここが俺の家だってわかったな?」

 この程度の気配消しスキルで尾行していたらその時点で俺は気づいていたはずだ。

「あなたを追ってきたってところは間違ってないわ。ただ、アタシもどうして辿り着けたのか不思議なの。あなたの魔力は抑えられてて今は感知も難しいのに」

「体が覚えてたんじゃないか? ここにはよく来てたし」

「そうかもしれないわね。なんとなく、懐かしい感じもしたし」

 悠里は周辺の家々と俺の家を見回す。一年とちょっと程度じゃ、この辺の景色は変わらないからな。

「今の会話……」

「ん?」

 一通り周囲を見た後、悠里はおもむろに呟いた。

「本当の親子みたいな、人間的な温かさがあったわ。あなたが魔王ならそんなものは存在しない」

「そりゃ本当の親子だし、俺は人間だ」

「時々例外もいるから一概に、とは言えないけどね」

 なんだよそれ。人間的な温かさを持つ魔王がいるってのか? いや待て、リーゼの親父さんは一応リーゼのことを想ってあれやこれや仕組んでたんだっけ? そこに温かさがあるかは別として。

「ま、なんでもいいや。んで、俺を追ってきてどうするつもりだったんだ?」

「本性を現したら即滅殺するつもりだったわ」

 こえーよ。悠里さんてば目が本気ですよ。

「じゃあ、どうすっかな……? あ、朝飯食うならなんか作るぞ」

「いいわ。昨日、ちょっと食べ過ぎちゃったし」

「あー、そりゃ俺もだ」

 出された料理を残すわけにもいかず、俺と悠里は酔っ払い組が潰れた後も頑張って処理したんだ。

「……」

「……」

 あれ? なんか気まずい。

 昔の俺と悠里だったらありえない沈黙が下りてるんですけど。一方の記憶がないってのはやっぱ辛いなぁ。

 なにかないか?

 会話を持たせるネタ。俺の家に悠里の思い出になってそうな物とかあったかな? とりあえず上がってもらえばいいかな?

 いや待て、ある!

 そういえば、俺もアレを預かってたんだ。

「それならさ、悠里、俺と出かけないか?」

「なによ? デートにでも誘ってるの? ごめんなさい生理的に受けつけないわ」

「違えよ!? なんで俺いきなりフラレてんの!?」

 悠里は正直者だから、今の台詞が本心だとわかってちょっとショックだった。あ、いや別に悠里とデートしたいとかそういうんじゃなくてですね! 一般論として誰だってそう言われたらショックだよって話であって……俺はなにに言い訳してんの?

「お前にとって馴染み深い場所があるんだ。そこを見せたい」

「ふぅん、それってどういうところ?」

 どうやら興味を持ってくれたようだ。見せたい場所ってのは景色のいい丘でも俺たちがよく遊んでいた公園でもない。

 どういうところって訊かれると、こう答えるしかないな。


「お前の、紅楼悠里の暮らしていた家さ」


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