序章
いくつもの世界を跨いだ。
いくつもの滅びを目の当たりにした。
いくつもの人々の悲しみと絶望に触れた。
どこかの世界で目覚めてから、およそ人間の一生分など米粒にも満たない経験を積んだ。最初は自分が何者かも思い出せない状態だったが、心に熱く灯る正義だけは決して忘れなかった。
戦って、戦って、戦った。
誰かのために。なにかのために。
そうしているうちに、世界を苦しめる巨大な『悪』の存在を知った。
世界を滅ぼす者。破壊者。侵略者。
魔王。
奴らは次元を越えて世界を侵略し、搾取し尽くすと次の標的を求めて進攻を繰り返す。そうして滅んでしまった世界は数知れない。到着した時にはもう遅かった、ということも頻繁にあった。
だからこそ戦い続けた。助けられる世界は迷いなく、一つも見捨てることなく救ってきた。勇者と崇められ、永住を求めてきた世界は流石に置いて行くしかなかったが、もしもそこがまた魔王に狙われるのなら何度だって救ってみせる。
奴らは次々と世界を滅ぼしていく。
こちらは次々と世界を救っていく。
終わりのないイタチごっこ。倒したところで、次元のどこかで新たなる魔王が生まれていく。
それでも決して諦めない。揺らがない正義の下、奴ら自身が絶対悪と主張する魔王たちを討滅する。
いくつもの人々の笑顔を取り戻した。
いくつもの滅びを回避させた。
いくつもの次元を渡った。
そうして、〝始まりの勇者〟は今も戦い続ける。