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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第四巻
160/314

五章 異空間戦線(7)

 黒炎の熱気と風の圧力は、近寄ることすら叶わない死の防壁を築いていた。

 俺たちはそれの被害を受けないギリギリのラインをキープしつつ、リーゼと誘波の戦闘を追いかけていた。

「それで? いつわんこさんをあの中に放り込めばいいの?」

「母さんたちが道を開いてくれるって言ったんだ。俺たちが動くのはそれからだな」

 とはいえ、一体どうやってあの暴熱暴風を切り開くのか俺には見当もつかない。生半可な攻撃じゃ掻き消されるのがオチだ。かといって、アレを吹き飛ばせるほどのミサイルを母さんが撃ったとしても俺たちが無事じゃ済まないだろうな。

「……」

「……」

「……」

「……お?」

 待つこと約三十秒。僅かに、ほんの僅かに空中で暴れ回る炎と風が弱まった気がした。

 すると――Prrrrr! Prrrrr! Prrrrr!

 不意に、俺のズボンのポケットに入れていた携帯電話が着信音と共にブルブル震えた。この空間、携帯使えるんだ……。

「もしもし、母さんか?」

『零くん、今から仕掛けますわ。少しの間、目を閉じていてください』

「目を?」

『お二人の戦いが緩んでいる今が好機ですの。零くんたちはできれば後ろを向いていた方がよろしいかもしれませんわね』

 目を閉じて、後ろを向け? なるほど、なんとなく母さんがやろうとしてることがわかったよ。俺は望月に言われた通りの指示を出す。


『では、特大の閃光弾フラッシュを打ち上げますわ』


 瞬間――ピカァアアアアアッ! と。目を閉じて後ろを向いているにも関わらず、視界全体が真っ白に染まった。

 なにが起こったのかは言わずもがな、目眩ましだ。

 光なら熱風を貫いてリーゼたちに届く。誘波は風で光を屈折させたりできるらしいが、あの戦闘でそこまでの余裕はないだろうね。

 結果は上々だった。

 振り返った時、誘波とリーゼの戦闘は一時的に中断されていた。〝竜王〟を含め、互いに空中で立ち往生しているようだな。

 熱も風圧も消えた。今なら近づける!

「望月、行ってくれ!」

「どっちに?」

「リーゼの方だ」

「ふふっ、そうよね。〝魔帝〟さんに近づかないとアレはできないものね」

 うっ、やっぱり、アレをやるには抵抗がある。でもやるしかないんだ。そのためにはリーゼに触れられるくらい近づかねえと。

 そのリーゼは……うわ、〝竜王〟の頭に乗ってやがる。あいつらドラゴンは鼻が利く。俺を抱えて機動力を失った望月じゃ、正面から突っ込めば簡単に食われちまう。ちょっと面倒だぞ。

「どうするの、わんこさん?」

 同じ判断に至ったのか、望月が訊いてくる。

「……足場があるなら寧ろ好都合か。望月、俺をあのデカブツに乗せてくれ。あとは自分でなんとかする」

「じゃあ、私は暇になるから法界院誘波の邪魔でもしててあげようかしら?」

「瞬殺されんなよ?」

「あら、私を雑魚だと思っているの? 心外よ、わんこさん」

 わざとらしく頬を膨らませながら、望月は〝竜王〟の背後へと飛翔していく。相手が化け物だと言ってるんだが、影魔導師の力をフルで使える望月ならリーゼとの戦闘で消耗している誘波を抑えるくらいやってくれそうだな。

「わかった。誘波はお前に任せ――」


「どうやら、レイちゃんが戻ってくるまでに終わらせることはできなかったようですね」


 もう少しで〝竜王〟の背中に飛び移れそうな距離まで近づいた時、俺たちは急激な突風に煽られた。思いっ切り吹き飛ばされはしなかったものの……くそっ、もうちょいだったのに!

「誘波、もう視力が回復したのかよ……」

 ド派手な十二単を空中に靡かせる誘波は、俺たちの方を見据えて首を横に振った。

「いいえ。ですが、視力を潰した程度で風を司る私の視界を奪えないことは、レイちゃんもご存じでしょう? 私はいつでもどこでも風によって世界を俯瞰できますので」

 そうだった。誘波がその場にいないのにやたら事情に詳しかったりするのは、実際に見ているからなんだ。

「少し驚きはしましたが、リーゼちゃんの視力を奪ってくれたことは私にとってもチャンスですねぇ。申し訳ありませんが、ここでトドメを刺させていただきます」

 ――まずい!

〝竜王〟の頭部で両目を擦っているリーゼに向かって誘波がその場で右腕を翳す。数秒後にリーゼの体が風の刃で両断される光景を俺は幻視した。

 俺たちの位置からではとてもじゃないが間に合わない。

 だが――

「ハッハーッ!! 俺的に零児の邪魔はさせねェぞ誘波!!」

「!?」

 なんか物凄い勢いでぶっ飛んできたグレアムが砲弾のように誘波に激突した。両手のトンファーをクロスさせて誘波の首を挟むように押しつけ、ぶっ飛んできた勢いのまま誘波を彼方まで押し運んでいく。

「ぐ、グレアムちゃんやってくれますね」

「俺的に空を飛ぶ経験はしたことねェが、こりゃなかなかに気持ちがいいなァおい。誘波、ちょっと遠くまで付き合ってもらうぜ」

「放してください!」

 二人の遣り取りもやがて聞こえなくなった。下を見ると、背の高いビルの屋上に一問の大砲が設置されていた。そのすぐ傍には母さんとアーティの姿もある。文字通りの人間大砲かよ。原理はどうなってるんだ? まあ助かったけど。

 普段の誘波ならあっさりかわしていただろう。やはり戦闘で消耗しているんだな。

「面白いことするわね。わんこさんもアレで飛べばよかったんじゃないかしら?」

「馬鹿言うなよ。アレはグレアムだからできるんだよ」

 グレアムなら五千メートルから落下しても死ぬ気がしないのはたぶん俺だけじゃないね。

「とにかく今のうちに」

「あっ、ちょっとまずいわよわんこさん!」

 いきなり急上昇を始める望月。なぜだと思うまでもない。〝竜王〟が身を翻してその巨大な尻尾で俺たちを薙ぎ払いにきたからだ。ブオン! と振われた尻尾は爆風を起こし、地上の建物を粉々に砕きながら吹き飛ばす。

 ひとたまりもねえな、あんなのくらったら。

「視力が回復してきたみたいね」

「厄介だ。ますます近づきにくくなったぞ」

 しかも困ったことに〝竜王〟は俺たちの存在を認識している。さっきのは明確な攻撃の意志だった。あいつにとっては、周りを飛ぶ小バエを払おうとしただけかもしれんが……。

 低く唸りつつ〝竜王〟が巨体を旋回させようとする。

 そこに、地上から銃撃音が轟いた。母さんやアーティが援護してくれているんだ。だが〝竜王〟の巨体と硬質な皮膚の前では気を逸らすことには成功しても、ダメージはなさそうだ。

 あれじゃあ、近づいてもすぐに気づかれて迎撃されるな。

 どうする? グレアムが誘波を抑えられる時間は長くないぞ。

「……」

 と、望月が〝竜王〟を見詰めたまま黙り込んでいることに俺は気づいた。なんだ? なにかいい案でも浮かびそうなのか?

「望月?」

「……」

「おい? 望月?」

「……わんこさん」

「なんだよ?」

「ぶん投げるから、あとはがんばってね♪」

「は?」

 するっと望月は俺の脇に入れていた腕を抜いた。一瞬の浮遊感と共に落下が始ま――る前に望月は俺の右手を両手で掴む。それからジャイアントスイングの要領で大回転し、

「はいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっ!?」

 言葉通り、俺を〝竜王〟の背中へとぶん投げやがった。

「ぬわぁあああああああああああああああああああああああああああッッッ!?」

 絶叫だった。相手に気づかれることなんて関係なかった。地上何百メートルあるか知らないが、そんな高度の空中をパラシュートもなしに運動エネルギーだけで飛んでます俺。死ぬ! これマジで死ぬぅううっ!

「がふっ!?」

〝竜王〟の背中にぶつかった。めっちゃ硬くてめっちゃ痛い。

 バウンドして、転がって、風圧に流される。今度こそ落下しそうになったが、気づいた時には背中から伸びていた突起の一本に俺は全力でしがみついていた。なにをどうしたのかは無我夢中でなんも覚えてない。

「はぁ……はぁ……あ、あんのアマよくも……ん?」

 そういえば、〝竜王〟は俺になんの反応も示さなかったのか?

 母さんたちの援護があるとはいえ、ここまで近づけばなにかしらアクションがあると思ったが……………………あっ。

 気づいた。

 腹部に伝わる締めつけるように違和感。左右の突起に絡まった、光を反射しない黒い鎖が俺の腹に巻きついていたんだ。

 望月の〈束縛〉だ。

 そしてやっと周囲に目を向ければ、俺が今乗っている〝竜王〟も地上から伸びた巨大な〝影〟の鎖に捕らわれていた。

 大怪獣並の巨体を望月は一人で抑えたんだ。それがどれほどキツイことか、わからない俺じゃない。ギシギシと軋みを上げる鎖は今にも引き千切られそうだ。

「……悪い望月、もう少し堪えてくれ」

 突起を支えにして立ち上がる。俺に巻きついていた〝影〟の鎖が暗闇に溶ける。

 前を向く。

「……」

 そこにリーゼが立っていた。無骨な二本角に充血したように真っ赤な双眸、悪魔のようなスペード型の尻尾と二対の翼。全身から放出される魔力と殺気は、今まで一緒に過ごしてきたリーゼとは思えないほど圧倒的で――――とても、辛そうに感じた。

 もう、躊躇ってなんていられない。

「リーゼも、もうちょっとの辛抱だ」

 一歩踏み込む。


「すぐに、終わらすからよ」


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