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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第四巻
156/315

五章 異空間戦線(3)

 セレスとの距離がコンマ数秒で縮まる。

 白き輝きを纏う聖剣が中段から瞬速で振られるのを、俺も瞬速の居合で日本刀を振り抜いて弾いた。俺は機械人間じゃないからな、生身で受けたらスッパリ両断される。

 すかさず刃を返して連撃。セレスも即座に対応して聖剣で受ける。

 剣戟。剣戟。剣戟。

 打ち合う刃はマシンガンのような間隔で甲高い金属音を屋上に響かせる。

「流石に武器破壊はできないな」

「世界の加護を受けている聖剣を破壊できるなどと思うな」

 魔力で生成された日本刀でも、このまま打ち合いが続けば負けるのはこっちだ。

 だが、聖剣ラハイアンは超長剣。刃の幅は普通のロングソードと大差ないが、その長さは一・五倍ほどある。大剣のリーチで重さより速度を重視しているようだが小回りは利かない。

 ぶつかり合った時点で俺の間合いだ。手数の多さで攻めればやがて――

 ――隙が生まれる。

「もらった!」

 聖剣を大きく弾く。日本刀を逆刃に持ち替えてセレスの胴を狙う。行ける! そう思ったが、セレスは籠手を嵌めた左手の甲で防いだ。そのまま受け流すように日本刀の刃を逸らし――右手の聖剣が大上段から降ってくる。

「あっぶ!」

 間一髪、俺は鼻先を掠めそうになりながらも体を仰け反らせ、後ろに倒れ込むようなバックステップで距離を取った。

 しかし、それだけでは避けた内に入らなかった。

 聖剣は速度を緩めず屋上の床を砕き割り、どんなベクトルを加えたのか、その破片が全て弾丸となって俺へ飛んできたんだ。

「くっ!」

 日本刀を捨て、盾を生成して防ぐ。

「セレス、お前、そういう技もできたのか」

 どう考えても光の聖剣技じゃない。となればただの技術でやったってことか。

「地の聖剣の担い手から教わった技だ。言っておくが、今まで見せてきた剣技が私の全てではないぞ」

 セレスは銀色の頑丈そうな籠手に包まれた拳を突き出して握る。

「瓦礫だろうと一撃は一撃。当たれば私の勝ちだ。違うか?」

「ああ、そうだ。その通りだよ」

 卑怯でもなんでもない。これは剣術の稽古でも試合でもないんだ。俺だってチャンスがあれば武具以外――拳や蹴りの一つや二つ余裕で出る。

「そして当然、これも当たれば一撃だ」

 聖剣の纏っていた白い輝きが切っ先に集中していく。

 しまった。まずいぞ。

「私から距離を取るべきではなかったな、零児」

 聖剣ラハイアンがその場で刺突される。それとほぼ同時に俺は横に転がった。細く鋭い光の弾丸がさっきまで俺が立っていた屋上の床を抉り取る。

 セレスの聖剣技は中・遠距離に強い。

 対する俺は母さんのように銃器を生成できない。

 圧倒的に、不利だ。

「さあ、どうする零児!」

 光弾が乱れ飛ぶ。普通なら光の速度なんてかわせない。けれど剣尖からは軌道が、纏う白光からは発動の瞬間がわかる。タイミングを間違えなければ当たりはしない。

「次だ!」

 セレスはその場で聖剣を振るう。すると渦巻く光の刃が発生し、射出される。アレは光速ではないが、それでも速いし範囲も広い。威力は……避けたら対面のビルがガリガリ削られるほどだ。

 聖剣技――〈光渦刃〉と呼ぶらしい。当たれば負けるだけじゃ済まないそれが、幾枚も俺に殺到する。いつまでも避け続けられるもんじゃない。

 掠っても負けだから、被ダメージ覚悟で突っ込むわけにもいかない。

 一か八かで銃を生成してみるか? いや、銃火器の構造なんて俺にはわからない。〈魔武具生成〉は知らない物を作れないんだ。作れたとしてもさっき捨てた日本刀みたいに銃弾が空中で分解されるだけだ。

 考えている間にも光弾と光の渦の襲撃は止まない。

「どうした零児! その程度か!」

 俺が今できそうなことと言えば……これも一か八かの賭けになるな。だが飛び道具を生成するよりは実現できそうだ。

 やるしかない。

 やらなきゃ負ける。

「馬鹿言うなよ。これから勝ちに行くところだ」

 俺は前方に高く跳躍した。当然セレスは光弾の狙いを定めてくる。

 だがその前に――


〈魔武具生成〉――グングニル。


 主神オーディンの槍。当たり前だが本物じゃない。スヴェンが襲ってきた時にも使った『なんちゃってグングニル』だ。漫画とかから適当なイメージを寄せ集めて具現化した、持ち切れないほど超巨大な生成物。

 生成した段階でセレスとの距離など埋まってしまうから、ある意味で中距離技だな。

 嘘っぱちだが魔力をごっそり喰らう分、その圧倒的な質量だけは本物だ。セレスの光弾を難なく弾き、俺たちが戦っていたビルに突き刺さって一部を崩壊させるには充分だった。

「な、なんてめちゃくちゃを!?」

「作った空間だから派手に暴れていいって、誘波が言ってたからな」

 なんちゃってグングニルは魔力の光となって消滅した。崩れ去っていくビルに巻き込まれて落下するセレスは……いい具合に、俺の位置を見失っているようだな。

 巨大ななんちゃってグングニルも、ビルの崩壊も、魔力が霧散する光も、全部ただの目眩ましに過ぎない。

 本番はここからだ。


〈魔武具生成〉――流星錘リウシンチョイ


 長縄の両端に球形の錘を装着した、別名『流星鎚』とも呼ばれる中国の武具だ。武具に触れていなければ生成を維持できない俺だが、触れてさえいればこういう『投げて使う武具』も扱える。

 俺は崩れなかった床の端に立ち、投げ縄の要領で遠心力を乗せ、落下中のセレスに投擲する。

「!」

 気づかれた。だが構わない。威力を出すには重さが二キロ以上なければならないが、これで一撃入れるつもりはないんだ。

 セレスは聖剣で防ごうとするが、流星錘は右手の籠手に巻きついた。聖剣を握っている方の手だ。これではまだ一撃にはならない。が――ぐいっと。

 俺は、セレスを引っ張り上げた。

 助けた意味もある。

 だが、空中で身動きが取れないセレスを引き上げると同時に、コツン。左手の手刀を軽くセレスの頭に当てた。

「俺の勝ちだ」

「……私の、負けだな」

 少し納得がいかなさそうに、セレスは小さく息を吐くのだった。



「終了安定ですか?」

 一人だけ安全な場所から傍観していたレランジェがなんの感動もない声で訊いてきた。

「見てた通りだ」

「了解安定です。では次はレランジェがゴミ虫様と決闘、もとい虐殺安定ですね」

「なんでだよ!? やらねえよ!?」

 レランジェと決闘する意味なんて……あれ? 割とある気がする。心のメモ帳に頻繁に書き記しては流れている気がする。

 ――やっとく? 今、っとく? 向こうさんも乗り気やし、チャンスやで。

 いやいやいや、そんな暇も体力もないから! 悪魔の囁きには屈しません!

「セレス、俺は誘波を止めてリーゼを助けに行くが、構わないな?」

 一応、俺はセレスに確認する。

「ああ、私は決闘で負けた。零児を止める資格はない」

「セレスはこれからどうするんだ? できれば手伝ってほしいんだけど」

「……いや、私は中立になろう。零児、お前たちの行く末を見守らせてもらう」

 少し考えてセレスはそう言った。一度『殺害派』に身を置いたからには、簡単に『保護派』へ寝返るわけにはいかないのだろうね。

「そうか、わかった」

 セレスが味方になってくれなかったのは残念だが、一応納得はした。どの道、望月が抱えて飛ぶのは一人が限度だろうし。

「レランジェ、お前はどうするんだ? 異界技術研究開発部に飛行機能でもつけてもらってるなら助かるが」

「そのような機能はレランジェには備わっておりません。今後の課題として提出安定です」

 だよな。飛べるならこんなところでセレスと戦ってたわけがない。

「ですが、別の新機能ならば搭載安定です。レランジェはそれを用いてあの〝竜王〟を仕留める予定です」

「魔導電磁放射砲より凄い兵器ってことか?」

「はい。ただし、設定と設置に少々時間がかかるため不安定ですし、その間レランジェは無防備安定になります」

 だから今まで使わなかったのか。設置している間にドラゴンや『殺害派』の連中に強襲されちまうもんな。

「そういうことであれば、レランジェ殿は私が護衛しよう。ドラゴンを打倒することは派閥を問わない全員の総意だからな」

「お願い致します、セレスティナ様」

「うむ、任された」

 俺が来るまで殺し合っていた二人が、今、協力関係を締結する握手を交わした。

 そうだ。それでいい。俺たちは全員仲間なんだよ。

「……あのゴミ虫竜……マスターの隣にいていいのはレランジェだけ安定です。頭から消し飛ばしてくれます」

 なんか恐ろしい呟きが聞こえたが、聞かなかったことにしよう。うん。

「では、セレスティナ様。ここでは場所が悪いため、移動安定です」

「了解した。零児、お前も気をつけるのだぞ。――特に、あの者には」

「言われなくてもわかってる。心配してくれてありがとな」

 ちょっとだけ微笑んで礼を言うと、セレスは気恥ずかしかったのか頬を僅かに朱に染めて顔を逸らした。

 そのままどこか条件のいい場所を探しに行った二人を見送り、俺は望月を呼ぶ。

「望月! どこだ! こっちは終わったぞ!」

 ……。

 …………。

 ………………。

 返事がない。

 天を仰いでみるが、日の光を遮る黒雲が立ち込めているだけ。周囲にドラゴンは望月が一掃してくれたのか、一体もいないな。

 あっ。

 いた。ここから五百メートルほど離れたビルとビルの間を、黒翼の人間とドラゴンが高速で飛翔しながら戦っている。

「あんなところに……くそっ、下りて追いかけるしかないか」

 早速面倒事を。戦闘に夢中になり過ぎだろ。どこのグレアムだあいつは。

 心の中で散々悪態をつきながら、俺は今立っているビルを後にした。


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