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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第四巻
155/315

五章 異空間戦線(2)

「マスターは殺させない安定です」

「レランジェ殿、やはりあなたは〝魔帝〟の手下。すまないが、邪魔をするなら斬り捨てる」

「易々と斬られるほど、このレランジェは甘くありません。セレスティナ様こそ返り討ち安定です」

「そのようだ。だから私も加減はできないぞ!」

 セレスが白い輝きを帯びた聖剣を振るう。レランジェはそれを紙一重でかわし、時には機械の腕で受け止め、鋭い拳打や蹴脚を叩き込む。リーチではセレスが有利に思えるが、レランジェはその不利を感じさせないくらい対等以上に競り合っているぞ。

 セレスもレランジェの魔導電磁放射砲を警戒してか、常に接近戦で挑んでいるようだ。聖剣ラハイアンの属性は光。セレスの聖剣技はどちらかと言えば中・遠距離に偏っている。しかし遠距離技の撃ち合いになれば、一撃の威力に置いてレランジェの方が勝っているんだろう。

 聖剣技よりも強力な聖剣術なら打ち勝てるだろうが、アレは使うために準備が必要だ。一対一の戦いではとてもじゃないが使えない。

 近接戦の実力は俺の目から見てほぼ互角。どちらも傷だらけになりながらも、致命的な攻撃だけは決して受けない。

「ふふっ。仲間割れしてるのかしら? 面白いわね」

「面白がるなよ。嫌な性格だな」

 艶めかしく唇に人差し指をあてて観戦している望月に、俺は一つ溜息。

「たぶん、レランジェがいつものようにリーゼを守ろうとして対立したんだろうな。その相手をセレスが請け負ったと考えれば納得できるが……」

 俺はこちらに気づくことなく激しい戦闘を繰り広げる二人を見る。

「そんなふざけた戦いなんてやめさせる!」

「そうね。こっちの状況はあの二人から聞き出した方が早いわ」

 意見が合致するや否や、俺は日本刀を構えて走った。そしてセレスとレランジェが何度目かの衝突をする直前に割って入り――聖剣を日本刀で、拳打は手首を掴んで受け止めた。我ながら器用なマネをしたと思うが、割と普通にできた。修行の成果かな?

「なっ!? 零児!?」

「……ゴミ虫様」

 二人の戦意が俺という存在の割り込みで鎮火されていく。

 そこに――ジャラジャラと金属の擦れる音を立てて床から〝影〟の鎖が伸びてきた。それは怯んでいた二人に絡みつき、その身体を完全に拘束する。

 影魔導術――〈束縛チェイン〉。

 望月だ。そこまでやる必要があったかは置いといて、いいタイミングだったぞ。

「れ、零児、これはどういうことだ!? なぜあの者がここにいる!? いやそれもだが、なぜお前があの者と行動を共にしている!?」

 セレスが敵意剥き出しの鋭い視線を望月に向けて詰問する。まあ、当然の反応だよな。

「あぐっ」

 声を荒げたセレスに巻きついていた〝影〟の鎖がより一層強く絞まった。鎖はセレスの胸当てや肩当て等の合間にきつく食い込んでいて……な、なんか微妙にエロいな。

 ふふっ、と望月が不敵な笑いを零す。

「わんこさんは私と同盟を結んだの。嫉妬は醜いわよ、女騎士さん?」

「し、ししし嫉妬ではないぞ断じて!?」

 なぜかセレスは顔を真っ赤にして全力で否定した。そりゃ違うってことくらい誰だってわかってるさ。俺が敵と一緒にいたんだ。セレスは至って常識的な問答をしたに過ぎない。だから回答を言い間違えた小学生みたいに必死にならなくてもいいのにな。

「まあ、あなたの感情なんて興味ないからなんでもいいわ。それより今、この空間で起こっている状況を説明してくれないかしら? そのまま絞め殺されたくなければね」

 血色の瞳を爛々と輝かせる望月は、脅しじゃない。割と本気だぞアレ。

「やめろ望月、拷問なんてしなくていい。セレスもレランジェも仲間なんだ。放してやってくれ」

「ゴミ虫様と仲間などと反吐が出ます。レランジェは魔工機械人形ですが」

 おい、俺はリーゼを助けたいから寧ろお前側なんだぞ? やっぱこっちのメイド的危険物質は拘束しといてもらおうかな?

 望月は少し逡巡する素振りを見せた後、パチン、と指を鳴らした。それでセレスとレランジェを拘束していた鎖が暗闇に溶けて消える。

「……命拾いしたわね」

 望月はちょっとだけ残念そうに呟くと、タン! 床を強く蹴って飛翔した。

 なぜ飛んだ? と思ったその一瞬後、一頭のドラゴンが突撃して望月のいた場所で大口を閉じた。俺たちに気づいて食らいに来たらしいな。

 てかあのドラゴン、望月がスルーしたから狙いを俺たちに変えやがったぞ。

「こんな時に!」

 俺は舌打ちして臨戦態勢を取ろうとしたが、影翼を羽ばたかせた望月が空中で〝影〟を繰るのが見えた。溶けかけた粘土のような黒い質量が瞬時に二本の杭を形成する。影魔導術の一つ、〈構築ビルド〉だ。

「そっちに行っちゃだぁめ♪」

 望月が放った二本の漆黒の杭は、床すれすれで俺たちの方に飛んでくるドラゴンの両翼を易々と貫通した。

 ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!

 激痛で咆哮し、床に縫いつけられてもがくドラゴン。その頭部を踏みつける形でトンと影刀を握った望月が着地する。カラスのような黒い翼を広げたその姿は、リーゼが悪魔ならこっちは堕天使だな。

「鬱陶しい羽虫が寄ってくるみたいね。私が払っててあげるわ。わんこさんはその間にいろいろ聞き出しなさい」

 それはありがたい申し出だが。

「任せていいのか?」

「ちょっと準備運動がしたいの。ずっと力を封印されてて、もう体がなまっちゃって。この子たちがなんなのか知らないけれど、とりあえず臓物がべちゃって飛び出るくらいズタズタに切り刻んでおけばいいのでしょう? ふふふふふっ、楽しそう♪」

「……お、おう」

 望月の顔は戦いに飢えた戦闘狂のそれだった。狂気的に影刀をペロリする仕草には若干引いたぞ。心なしかドラゴンもビクビクしてるし。

 ま、まあ、なら仕方なしだよな。俺はこれからR指定に入りそうな望月も周りのドラゴンも気にしないことにしてセレスとレランジェに向き直った。

「説明しろ、零児」

「説明安定です、ゴミ虫様」

 今の今まで争っていたとは思えない息の合いようでものごっつ睨まれた。説明してほしいのは俺もなんだが、まずはこっちの状況から話さないことには先へ進ませてくれそうにない。

 が、それじゃダメだ。セレスたちの状況も知らず今の俺が迂闊に情報を漏らすわけにはいかない。リーゼを助けるために望月と組んだとなれば、最悪、俺が監査局を裏切って『王国』に味方したと思われる。レランジェはともかく他の監査官たちと完全に敵対することになる。

 その一人目が、セレスになる。

 そんなのはごめんだ。

「わかった。説明はする。だが、先にこっちの質問に答えてくれ」

 押し切られないようになるべく真剣な声音で言ったのが功を奏したのか、二人は一瞬だけ怯んだ。却下される前にさっさと質問させてもらう。

「二人が戦ってたのは、レランジェがリーゼを守ろうとしたからセレスがその相手をしたって感じだよな?」

「ああ、その通りだ」

 セレスが頷く。よかった。もっと予想もできないような複雑な事情が絡み合っていたら大変面倒臭いことになっていたよ。

「他のみんなはどうしてるんだ? あちこちで戦ってるような気配があるし……リーゼと〝竜王〟の相手は誘波一人に任せて、残りのドラゴンを掃討してるってとこか?」

「監査官たちがトップの意向に従順であれば、そのような状態になっていただろうな」

「ん? どういうことだ?」

 疲れたように目を伏せるセレス。なんだ? 一部の監査官が『帰りたい』とか言ってごね始めたのか?

「〝魔帝〟リーゼロッテの殺処分に反対したのは、レランジェ殿だけではないのだ」

「え? 本当か? 誰が?」

「誰が、というか、監査官の三分の一ほどが彼女の保護を訴えて対立している。中立の者も少なからずいるが、わかりやすく『殺害派』と『保護派』に分けるとしよう。両者は各地に散らばってドラゴンを狩りながら、お互いを無力化しようと争っているのだ」

 少し希望が出てきたと思ったが、それはそれでけっこう複雑な状況だよな。セレスの言い方からして、誰が『殺害派』か『保護派』なのか正確には把握できていないらしいし、全員が疑心暗鬼に陥っている可能性だってある。

 だがなんにしても監査官たちが分散しているのなら好都合だ。俺が望月の力を借りてしまった以上、たとえ『保護派』の連中だろうと敵視されかねない。分散していれば見つかるリスクは大きいが、情報は伝わりにくい。攻撃していいのか迷ってる間にリーゼと誘波の下へ行ける。

 そこで問題になるのはドラゴンの存在だ。リーゼのおかげでだいぶ数は減ったが、それでも視界のどこかに必ず映るほど多い。さっきも襲ってきたし、ここから飛んで行こうものならあっという間に取り囲まれてしまう。

 さてその辺はどうするべきか……。

「零児、私は答えたぞ。次はお前の状況を説明しろ」

 そうだった。考える前にそこを乗り切らないといけなかった。

「……わかってると思うが、俺は『保護派』だ」

「当然です。ゴミ虫様がマスターを殺害しようとするならば、その前にレランジェがゴミ虫様を殺害安定です」

 もし俺がそんな風に血迷ってしまったならそうしてくれて構わん。でもそんなイフにはならないさ。

「誘波を止めるにしても、リーゼを説得するにしても、あいつらは上空だ。空を飛べなきゃ辿り着けない。だから利害の一致した望月と一時的に組んでその翼を借りることにしたんだ。言っとくが、『王国』に寝返ったわけじゃないからな。この戦いが終わったら望月は俺が責任持って捕縛するつもりだ」

 勘違いされたら非常に困るので念を押しておく。無表情のレランジェはわからないが、セレスは少しほっとしたような顔をした。

「だが零児、あの者は敵だ。無闇に信用して後ろから刺されては笑い話にもならないぞ」

「大丈夫だ。警戒はしてる。襲ってきても簡単に刺されてやるつもりはない。それに俺だって本当は望月と組みたくはなかった。でも状況的に仕方なかったんだ」

「愚かな選択をしたと思うぞ。あとで後悔することになるかもしれない」

 セレスの忠告は正しい。他の『王国』の連中と違って望月は俺個人に恨みを抱いてるからな。危険度は最も高いと言える。

 それでも、今はそんな無粋な真似はしないだろうなっていう根拠のない確信があった。

「後悔することを恐れてたらなにも救えねえよ」

 だから、俺は言う。

 望月が敵かどうかなんてこの状況では関係ない。

「誘波を止めて、リーゼを元に戻して、ドラゴンを駆逐して、全員で元の空間に帰って笑い合うんだ。そのためならなんだってやってやる」

「確かに私も、それが一番だとは思っている。けれど、それが叶ったとしても、お前の選択した手段のせいで最後に笑い合うことができなくなるかもしれないんだ」

 セレスはなおも食い下がる。レランジェは『どのような結論になってもやることは変わらない』とでも言うように傍観してるな。

「この状況はクロウディクスも認めている」

「陛下が?」

 セレスが絶大な信頼を置いているラ・フェルデ王の名を出したのは卑怯だったかな。あんなに反対意見を並べ立てていたのに、その名前を聞いた途端に迷いが見えた。

 三十秒。

 それだけの時間でセレスは逡巡を終え、なにかを決心した顔で口を開く。

「……陛下が認めているのならば、なにかお考えがあってのことだろう」

 セレスは銀髪ポニテを振るうように踵を返し、一歩、二歩、三歩。俺から徐々に距離を取っていく。

「だが、私は納得していない。だから――」

 さらに一歩二歩とセレスは歩く。

 そうして屋上の端まで歩くと、セレスは真剣な目つきで俺に向き直り――聖剣ラハイアンの剣尖を突きつけた。


「剣を取れ、零児! そして私と決闘しろ!」


 一瞬、セレスがなにを言ったのか理解できなかった。

「はい!? いやいや待て待て、なんでそうなるんだよ!?」

 意見がぶつかり合ったら決闘って、騎士脳か! 俺も一回やったけれども!

「正直な気持ちを白状すると、私も本当に〝魔帝〟を殺していいのか迷っている。頭では殺すべきだと理解しているのに、心の深いところでは躊躇いがある」

 そうか。

 セレスも、あれだけ普段からいがみ合ってるってのに、本音は嫌だったんだな。

「零児、お前の覚悟が本気なら、迷いのある私になど負けるはずがない。それを私に見極めさせろ!」

 決定事項だな。

 セレスは決闘を取り消すつもりはないらしい。俺もこれを受けなきゃ、本当の意味で前に進めない気がしてきた。

「……わかった。その決闘、受ける。ただし、ルールは一撃決着だ。俺はセレスと本気の殺し合いなんてしたくない。刃がちょっとでも触れたらそこで試合終了にしろ」

「了解した。では剣を構えろ」

 俺は日本刀を、セレスは聖剣を。

 それぞれ居合と中段に構え。

 同時に、床を蹴った。


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