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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第四巻
152/315

四章 術式と能力(8)

「なんでよ!」

 誘波に『帰れ』と言われたリーゼは、案の定、眉を吊り上げて怒鳴った。

 だが、相手は怒鳴ったくらいじゃ怯まないぞ。誘波はぷんすか怒るリーゼに対して優しげな表情で、しかし厳しく戦力外通告をする。

「対処方法に『戦闘』が含まれた以上、戦えないリーゼちゃんは邪魔です。向こうで私たちの帰りを待っていてください」

「い、嫌よ! わたしは戦える! だからこれ外して!」

「ダメですよぅ。聞き分けてください」

 右手首に嵌められた枷を指し示すリーゼだったが、誘波が首を縦に振ることはない。

「それを外せば、せっかく復元し始めた封印が完全に解放されてしまいます。リーゼちゃんは、またあの姿に戻りたいのですか?」

「それも嫌! 嫌嫌嫌っ! レランジェもなんとか言って!」

「マスター、申し訳ありませんが、ここは誘波様の判断に従う方が安定です。マスターの身になにかあってはレランジェも困ります」

 リーゼ、そんな駄々をこねるほど嫌なのかよ。でもレランジェが冷静で助かるな。これでマスターの命令絶対だったら面倒なことになっていたよ。

 でもな、俺は少しだけリーゼの味方をさせてもらう。

「待てよ、誘波。リーゼを戦闘に参加させないのは俺も賛成だが、監査官は全員こっちにいるんだぞ? もし向こうで『王国』がリーゼを狙って来たらどうするんだ?」

「そこは問題ありませんよぅ。あちら側が手薄になることを考えて、あらかじめラ・フェルデに助っ人を要請しています。向こうにはエリカちゃんもいますし、リーゼちゃんが帰らなくても警備を固めておく必要がありますので」

「そうか、なら大丈夫だな」

 セレスには言えないが、俺は別にラ・フェルデを全面的に無条件で信頼しているわけじゃない。それでもトップのクロウディクスやアレインさんは信頼できるから、向こう側の警備はひとまず安心してもいいだろうね。

「リーゼ、悪いがやっぱり戻ってくれ」

「れ、レージはわたしの味方じゃないの!?」

 そんな見捨てられた子犬みたいな顔するなよ。

「味方だから言ってるんだ。リーゼだって本当はわかってるんだろ? 黒炎一つ出せない今の自分がここにいたって、俺らの足手纏いでしかないってことくらい」

「それは……うん」

 図星を突かれたのか、リーゼはしゅんと項垂れた。スペード型の尻尾が力なく垂れ下がる。やっぱな。自棄になってただけなんだ、リーゼは。

 俺は俯くリーゼの頭を、さらさらの金髪を梳くように撫でる。するとリーゼはほんのりと頬を朱に染めた。

「傍にいてやれなくなるけど、少しの間だけだ。すぐに終わらせて帰るよ。だから我慢して待っていてくれ」

「……うん」

 いい子だ。魔力を封じられてからちょっと素直さがアップしたかな? お兄さん的な意味で嬉しいね。

「ゴミ虫様、そういう行為は死亡フラグ安定だとレランジェは聞きました」

「うるせえよ空気読めよお前!」

「ですので今すぐ死んでいただけますか?」

「やだよ折るよそんなフラグ全力で!」

 俺は生きて帰るんだ! 俺は生きて帰るんだ! 俺は生きて帰るんだ! とっても大事だから三回くらい心の中で唱えました。寧ろドラゴンより気をつけにゃならんのはこのアサシンメイドか?

「零児、あまり〝魔帝〟甘やかすべきではないと思うぞ」

「いや甘やかしてなんかねえけど……って、セレスさんどうして膨れっ面で俺を睨んでるんですか?」

「ふん、知るか」

 ぷくーっと頬を膨らませてそっぽを向くセレス。え? なんでセレスがつんつんしてんの? 俺はみんなの総意を汲んでリーゼを説得したはずなんだけど?

「あらあらまあまあ、うふふ。零くんがこんなに罪作りな息子になっていたなんて……わたくしドキドキして今夜は眠れそうにないですわ!」

「母さんはもはや意味がわからんから!」

 武器を持ってないモードの母さんにはもう少し凛々しさってものがほしいね。鼻息を荒げて俺たちを見ないでください。

「そのじゃれ合いには私も参加したいですけどぉ、そろそろやめてくださいねぇ」

 誘波が手を二回叩いて俺たちを諌め、微笑みは崩さず目だけを僅かに細めて街の方に視線をやった。


「ドラゴンたちに、気づかれましたので」


 何匹もの黒いドラゴンが咆哮を放ちながらこちらに接近していた。

 全部じゃないが。相当な数だ。

「門の位置が高すぎますねぇ。追い返すことは不可能でしょう。――討滅してください」

 誘波の号令でリーゼ以外の監査官全員が戦闘態勢を取る。もちろん俺もだ。右手の〈滅理の枷〉は外してもらってるからな。

〈魔武具生成〉――クレイモア。

 両手持ちの重剣が具現化される。シンプルで幅広い刃。硬そうで体も大きいドラゴン相手なんだ。武器もこういう威力重視の方が有効だろう。

 と――

「皆さん、一度離れてください。先制攻撃を仕掛けますわ!」

 横を見ると、二本のクレイモアを軽々と携えた母さんが迫撃砲を十門も生成してやがった。

「うわっ」

 教官モードになった母さんはもたもたしてると構わず撃ってくる。俺は即座にその場から三歩後じさった。訓練を経て母さんの性格を熟知したらしい他の監査官も同様に動く。 

 そうして全員散ったのを認めた母さんがホームランを宣言するように片手のクレイモアを掲げると――

ぇーっ!」

 一斉に、鼓膜を破りそうな爆音を立てて十門の迫撃砲が火を噴いた。

 撃ち上げられた榴弾は一つも外れることなくドラゴンに命中し、大爆発を起こして周囲を飛んでいた他のドラゴンをも巻き込んで焼き落とす。それでも撃ち漏らしたドラゴンにはグレアムが、稲葉、セレスが、他の監査官たちが果敢に立ち向かい撃破していく。

 一匹こっちに来やがったな。大口を開いて、俺たち喰うつもりか?

「リーゼ! 早く帰るんだ!」

 叫び、俺はドラゴンの顎門あぎとをかわして片翼をクレイモアの一撃で叩き斬る。片翼を失いバランスを崩したドラゴンは、地面に墜落してテラスのテーブルや椅子をひっくり返しながら大きく滑った。

「リーゼ! 早く!」

「でも……」

 リーゼは尚も戸惑っていた。このままじゃ裂け目が閉じちまう。くそっ、だったら仕方ない。

「レランジェ! お前がリーゼを連れて行くんだ! どうせマスターがいなきゃ残るつもりはねえんだろ!」

「レランジェのことをよくおわかりですね、ゴミ虫様。胸糞悪い安定です。ですが了解安定です」

 頷いたレランジェがリーゼの手を取る。そこへ地面に伏したドラゴンが炎の息ブレスを吐こうとしたので、俺はその前に駆け寄って首を斬り裂いた。

 竜血が噴出し、ドラゴンはしばし痙攣した後に力尽きる。思ったより鱗が硬いけど、斬れないほどじゃないな。

 と、その時――

「! 皆さんすぐにこの場を離脱してください!」

 珍しく焦った顔をした母さんが声を荒げた。

「〝竜王〟のブレスが来ますわ!」

 まだ割と遠くにいると思っていた〝竜王〟が――か、かなり接近してんじゃねえか! しかも鎌首をもたげて閉じた口から炎を零してるぞ!

 見るからに灼熱の、紅蓮の炎。

 アレは、やばい。

 間違いなくやばい。

 直感がそう告げる。

「向こうに漏れては大変ですねぇ。リーゼちゃん、レランジェちゃん、裂け目を閉じます。早く向こうへ。他の皆さんも急いで避難してください」

 言われるまでもない。一も二もなく俺は、俺たちはスカイテラスから離散した。

 だが――

「邪魔安定です。どいてください」

 リーゼとレランジェの前には、裂け目を塞ぐようにドラゴンが立ちはだかっていた。丸太のような尻尾が振り回され、背後の裂け目を吹き消してしまう。

「あっ……こいつ、魔獣のくせに〝魔帝〟で最強のわたしに逆らうつもり?」

 リーゼが黒炎を放とうと手を翳すが……〈滅理の枷〉で封印されてるんだ、炎なんて出るわけがない。

 ドラゴンの噛みつきを二人はかわし、レランジェが右手を変形させて魔導電磁放射砲をぶっ放す。そのドラゴンはあっさり消し炭となったが、まずいぞ。

 ついに〝竜王〟がブレスを放った。

「リーゼ! レランジェ! とりあえず逃げろ!」

「私が防いでみます。二人はとにかく避難してください」

 誘波が風の防壁を幾重にも張り巡らせる。リーゼの大規模黒炎攻撃をも防ぎ切った風壁だ。アレなら〝竜王〟のブレスだって受け止められるはず。

 そう、俺は思っていた。

「……マジか」

〝竜王〟が吐き出した絶大な火炎放射は、渦を巻きながら貫通力を高めて誘波の風をいとも容易く打ち破っていく。信じられねえ。とてつもない威力だ。

「二人ともいいからこっちに来い!」

 声を大にして俺は二人を呼んだ。今ならまだ間に合う。誘波の風は少しだが時間を稼いでくれている。

 レランジェがリーゼの手を引く。

 リーゼも必死に走る。

 しかし――

「ひゃっ」

 あと少しのところで、リーゼが、こけた。

 自分の鎖に足をもつれさせて、レランジェを突き飛ばすような形で。

「リーゼ!?」

「マスター!?」

 俺と、ぎりぎり安全圏まで突き飛ばされたレランジェが叫ぶ。

 すぐに助けようとするが――遅かった。


〝竜王〟が吐き出した全てを焼き溶かす灼熱の業炎が、

 唖然と不安を綯い交ぜにした顔を俺に向けたリーゼを、

 一瞬で、スカイテラスごと飲み込んだんだ――。


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