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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第四巻
145/314

四章 術式と能力(1)

 ひたすらに広がる荒野に乾いた風が吹き抜けた。

 カラッとした熱気が一瞬だけ薄れたことに若干の心地よさを覚えながら、俺は枯れかけた雑草を踏みつけて跳躍する。

 汗ばむ手に日本刀を握り、袈裟斬りに振り下ろす。が、突き出された大盾シールドによって弾かれた。すかさず盾の脇から繰り出されたロングソードの刺突を肌が削れるスレスレでかわし、そのまま左足を軸に回転して大盾を蹴り除ける。

 よし、崩した! 大盾を戻される前に懐へと潜り込んで――敵の膝が俺の腹へ減り込んだ。

「ぐふっ」

 呻いている暇も一瞬、銀の甲冑に身を包んだ母さんは大盾で思いっ切り俺をバニッシュブロウ。カラカラの地面を何メートルも転がって砂まみれになる。くっそ痛え! 鼻が物理的に曲がりそ――

 ――ザクッ!

 俺の首筋数ミリ横にロングソードの刃が深々と突き刺さった。咄嗟に首を捻っていなければ間違いなく串刺しだったぞ今の……。

「絶命の可能性がある攻撃は的確に避ける。いくつか死線を越えてきただけあって危機的一撃に対する直感的超反応は合格点ですわね。他の判断力はまだまだ甘いですが」

 顔を覆っていたシルバーヘルムを魔力に戻した母さんは、教官モードの鉄面皮で冷たく俺を見下した。猛禽類を思わせる鋭い目つきに射竦められ、「……すみません」とつい敬語で謝ってしまう。

 ここは異界監査局の合宿所――地下二十五階。いろいろツッコミどころ満載だが、この地平線すら見える荒野は屋内なんだよ。対抗戦の時にも似たようなことがあったから驚きはしないけどな。

 リーゼに角と尻尾が生えた翌日、俺は午前中からぶっ通しで戦い続けていた。まずは俺の現在の実力を再確認する、とか母さんは言ってたが……何度殺されかけたことか。

 ホント、息子に容赦ないよなぁ、母さんは。

「体力は有り余ってますし、リーゼさんのおかげか〈魔武具生成〉の練度も上々。戦闘技術面は悠里さんと競い合っていた頃より怠けていた分劣りますが、そろそろ次のステップを踏んでもいいでしょう」

 どうやら息子の分析を終えたらしい母さんは、武装を解除してラフなランニングシャツとスパッツ姿になった。そして傍の枯れ木にかけていたタオルで額の汗を拭う。ようやっと休憩か。喉がカラカラだ。すっかり干上がっちまってる。

 俺は自分の水筒を手繰り寄せながら、ふと、今し方聞こえた不穏な言葉が引っかかった。

「次のステップ?」

 こ、殺す勢いだった実戦からどこへグレードアップするんだろう? あれ? 手が震えてきたよ……。

「零くんの〈魔武具生成〉を拡張します」

「それだけは勘べ……へ?」

 崖から突き落とされて銃弾が降り注ぐ中を這い登る訓練をイメージして土下座スタイルになりかけていた俺は、母さんのあまりにもあっさりした一言に目を点にした。俺の〈魔武具生成〉を拡張って言ったな? どういうことだ? ハーフは能力が劣化してるから、母さんのようには使えないはずなんだけど。

「能力の劣化をどうにかできるってことか?」

「米国の監査局の研究によりますと、地球人と他世界人とのハーフに起こる能力劣化現象は大部分が眠っているだけの状態だと考えられていますわ。もっとも、眠っている部分を開花させたという前例はないので、真偽は不明ですが」

「じゃあ、えっと……どうやって?」

 恐る恐る問うと、武装と同時に教官モードも解除された母さんは――ニコッ。女神のような慈愛に満ちた笑みを浮かべた。……こ、怖ぇ。なにされるの俺? 崖に突き落とされて銃弾降る中登って来いなんてレベルの窮地じゃないことは間違いないね。

 耳を塞ぎたい気持ちを必死に抑えて母さんの言葉を待つ。

「やっぱり気づいてなかったようですわね」母さんはニッコリした笑顔のまま、「〈魔武具生成〉は能力ではありませんわ・・・・・・・・・・

「は?」

 本日二度目の素っ頓狂な声が漏れた。

「正確には『種族という括りで先天的に発現する能力』ではない、となります。〈魔武具生成〉は零くんの体に刻まれた『遺伝する術式』――つまり、わたくしたちのご先祖様が人為的に後から付け足した力ですわ」

 ホワッツホワーイ? ツケタシタチカラ?

 母さん、なにを……?〈魔武具生成〉は種族的な能力じゃない、だって?

「人工物である武具を魔力から作り出す力が生物的に備わっている。そこに不自然さを感じたことはありませんか?」

「……」

 ぶっちゃけると、ない。

 だってそうだろ。物心ついた時から既にあった力なんだぞ。それが当たり前と認識してたから疑問なんて抱くわけがない。言われるまで気づかなかった。

「だけど母さん、実際に俺の生成はいろいろと制限があるんだけど?」

「それは零くんが未熟なだけですわ」

 バッサリ切られた。

「わたくしも最初から今のように力を使えたわけではありませんわ。零くんと同じ歳の頃はやはり片手にしか生成できませんでした。なので術式自体が劣化していない限り、訓練次第で零くんもわたくしとほぼ同等に力を使役できるはずです。もちろん才能も必要ですが」

 ちょっと待てよ。それが本当なら、俺は今までずっと勘違いして使ってたってことなのか? 右手にしか生成できないことも、手放すと消えてしまうことも、全部劣化だと思っていた。いや、諦めていた。生成能力をこれ以上強化するなら武具の知識を増やすことしかないと決めつけていた。

「〈魔武具生成〉が術式……てことは」

 俺は自分の左手を見る。母さんは一つ頷き、左手を開いて真横に突き出した。

「そう、わたくしたちの『種族としての特殊能力』はこちらですわ」

 瞬間、母さんを中心に半径十メートルほどの範囲にある物体から白い靄のような光が立ち昇り、その左手へと吸い込まれていった。範囲内には俺もいたわけで、なにをされたのか一瞬で理解した。

「〈吸力ドレイン〉……触れてもないのに、魔力を奪ったのか?」

「魔力だけではありませんわ。生命力を始め、物体が持つ『存在するためのエネルギー』を吸い出し己の魔力へと変換できます」

 母さんはその辺に転がっていた小石を拾い、左手の掌に乗せる。するとその小石は全く力を加えていないにも関わらず勝手に砕けてしまった。

「ただわたくしの場合、零くんと違って魔力許容量がとても低いのです。敵の生命力を根こそぎ奪うなんて真似はできませんわ。あくまで『補填』や『補助』という形ですわね」

 母さんは苦微笑を浮かべて付け足すようにそう言った。もしハーフの魔力許容量でなんでもかんでも吸い取れたら……考えただけでも恐ろしい力だとわかる。

「わたくしの故郷『シャルラハロート』では、わたくしのような種族はこの世界で言う吸血鬼に似た存在として畏れられていましたわ。特に危険なのは左手ではなく……と、話が反れましたわね。〈吸力〉については考えなくて構いませんわ」

 コホンと小さく咳払いし、母さんは直飲みタイプの水筒に入れたスポーツドリンクで上品に喉を潤した。

 俺に宿る二つの異能。短い会話の中で聞かされたことは全然知らない情報ばかりだった。

「……なんで、今まで教えてくれなかったんだ?」

 知っていればそこを意識して鍛えられたはずだ。あの時だって〝生成し続ける〟なんて馬鹿みたいな手段に走ることもなかっただろうな。

「理由は二つありますわ」

 水筒を岩陰に置いた母さんは右手の人差し指を立て、

「まず、零くんが監査官になることもなく平凡に暮らす道を選んだ場合、それは無用な力だからです。力に溺れたり暴走させたりしないだけの最低限の教練で済ますつもりでした」

 母さんが米国に渡ったのが四年前。その頃の俺は監査官でも局員でもなかったし、悠里のやつが言い出さなければなるつもりもなかった。母さんや父さんが「なれ」だなんて道を示したこともない。あくまでも異能を持つ者としての義務教育として俺を鍛えてくれていたんだ(にしては本格的過ぎた気もするが)。

「そちらはわたくしの親心と思ってください。問題はもう一つの方で、零くんの生成練度が関係していますわ」

「生成練度?」

 過去にどれだけ生成したかってことか?

「はい。まずは片手で確実にある程度の魔武具を生み出せるようにならなければ、次のステップを教えても絶対に失敗しますわ。それもただ失敗するだけではありませんの。最悪自分の体内に生成された武具によって主要な臓器が傷つけられ、絶命するでしょう」

「うわ……」

 間違った場所に生成した日本刀が心臓を貫く。そんなマヌケながらも恐ろしい自分の姿を想像してしまい、俺はつい顔を顰めて左胸を押さえた。

 知るべき時に知った方がいい。過ぎた知識は身を滅ぼす。要はそういうことなんだ。最初からリスクも含めて全て教わっていたとしても、絶体絶命の窮地で『使わない』選択ができただろうか? いや無理だな。

 一応、納得はした。

「わかったよ、母さん。それで俺はなにをやればいいんだ?」

 生成練度は充分と判断されたからそっちのレベルアップはないだろうね。右手以外に生成する知識とか、コツとか、そういうのを教わるのなら実戦闘は一旦お開きになるはず。た、助かったぜ。

「少しお待ちになってください。もうすぐ対戦相手・・・・が到着しますわ」

 そうは問屋が卸さなかった。

「誰が来るんだ?」

「見てからのお楽しみですわ」

 来てから、じゃなくて見てから? 母さんの意味深な言葉に首を傾げたその時、フッ、と部屋の照明を消したように周りの風景が変化した。今までの荒野とは全く異なる、コンクリート色一色で固められたなにもない寂れた空間だった。広さは四十人規模の教室程度だ。

 この地下二十五階に入った時に一回見たな。これは実際の景色だ。てことは、荒野を形成していた魔術と〈現の幻想〉が解除されたのか? 一体誰が?

「あー、待たせたか?」

 上に続く階段付近から聞き覚えのある声がした。

 振り向くと、フェミニンストレートの金髪をした不健康そうな顔の少女がそこにいた。ありえんくらい長い研究衣をずるずる引きずって俺たちの方に歩み寄ってくる。言わずもがな、異界技術研究開発部第三班班長――アーティ・E・ラザフォードだ。

「こいつが対戦相手!?」

 グレアムか迫間かセレス辺りが来るんじゃないかと予想していた俺は、驚愕と同時に拍子抜けた。だってこいつ、戦闘力あるのか? あの清掃ロボ(?)に乗ってたならわからんでもないが、それも見当たらないし……。

「あー、こいつとは失礼なやつだな。明乃、この馬鹿はどのくらいまでなら改造しても大丈夫だ?」

「待て待て待て!」

「零くんがわたくしを『お姉様』と呼ぶくらいまでならオーケーですわ」

「母さん!?」

 嫌だ! それは息子としてのプライドが断じて許さない! 改造コワイ! 改造超コワイ!

「ふふっ、冗談はさて置きまして」

 目が本気でしたよ?

「アーティさんが直接戦うわけではありませんわ」

「というと?」

「あー、実際見た方が早い」

 アーティは白衣のポケットに手を突っ込み、テニスボール大の球体を取り出した。ミラーボールのような鏡色をしたそれは……見覚えないな。なにをする装置なのか見ただけじゃ判断に困る。ちなみにボールと一緒に大量の棒つきキャンディーがポケットから零れてアーティはあせあせと拾っていた。どうなってるんだそのポケット?

 俺が眉を寄せていると、キャンディーを拾い終えたアーティがコホンと咳払いをする。

「あー、前処理や後処理をしない監査官は馴染み深くも実物を見る機会はほとんどないだろう。今のうちによく覚えておけ、これが〈現の幻想〉の本体だ」

「!」

〈現の幻想〉とは『質量ある幻』を生む装置だ。さっきの荒野を形成していたものに他ならない。初めて見たぞ。

「そ、そんなに小さな物だったのか」

「あー、いや、作り出す幻想の規模によって大きさも変わる。上を見てみろ」

 言われるままに天井を仰ぐと――あった。天井の四隅と中央に、アーティが持っている物より十倍ほど大きい鏡色の球体が埋め込まれている。最初はただの電灯だと思ってたな。実際今も光ってるし。

「あー、この〈現の幻想〉がお前の対戦相手になるのだ」

「へー……なんだって?」

 感心していると、なんだか意味不明な言葉が聞こえた。

「あー、質問の受け付けは後回しにさせてもらう。これは私が人工の『門』と同時進行している研究のプロトタイプなのだ。先に起動実験をやらせろ」

 アーティはどこかうずうずしながらそう言うと、掌サイズの〈現の幻想〉をそっと丁寧に床に置いた。すると次の瞬間、その〈現の幻想〉から目を灼かんばかりの眩い光が放出された。思わず目を細めてしまう。

 一体なにが始まるんだ? 人工門と同時進行の研究って言ってたよな。それも既存のアイテムを使った研究だ。ただ幻を生み出すだけってわけじゃないと思うが……。

 数秒ほどで光は収まり始めた。

「――ん?」

 目を凝らしてみると、収まっていく光の中――つまりあの〈現の幻想〉があった場所になんか大きな影が浮かんでやがる。その影は光が消えるにつれて鮮明になっていき――――一人の人間がそこに立っていた。

 伊海学園の夏服を着た仏頂面の男子高校生…………いや中学生か。はて? どっかで見たことあるようなないような気がしないでもないな。

 いや、あるわ。普通にあるわ。

 毎日のように顔合わせてら。

 主な出現地は洗面台の鏡の中。てか俺だ。俺が俺の目の前に立ってるだけじゃないか。なんだよ全然面白くないぞ。俺がそこにいたくらいで別になにも驚くことなんてないな。ハハハハハ。

「――って俺ぇえっ!?」

 本日一番の驚きだった。

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