間章(2)
暗く深い闇と、大小様々な白い球体が広がる世界。
〝彼女〟はそれらを俯瞰する位置で眠るように瞼を閉じていた。
今は白い球体も闇に汚染されることなく安定している。〝彼女〟の〝思い出〟が喰い潰されるようなことはしばらく起こっていない。
そのことに〝彼女〟は安堵する。
それが束の間の安心だということは理解していた。いずれまた侵蝕が始まり、どうしようもない無力感を味わう時は必ず来るだろう。
「でも、今だけは」
〝彼女〟は願う。いつか、この安心が束の間で終わらなくなることを。
願いながら、〝彼女〟はただただ静かに無音の時を過ごす。
その無音が打ち砕かれる、数秒後まで。
「――ッ!?」
世界が大きく揺らいだ。
侵蝕とはまた違う、大きな〝乱れ〟を〝彼女〟は感じた。
「これは……」
白い球体に影響はなかったようだが、不安になる。
原因を特定しなければならない。
その〝乱れ〟がどこから来たのかは既に感知している。だがもどかしいことに、そこは〝彼女〟がいる場所からだいぶ離れていた。
実際は距離など関係ない。
そこを認識しているかしていないかの問題だ。
〝思い出〟を手探りで探し、〝彼女〟はそこを見つける。
幸い、そこの壁は既に取り除かれていた。
あとは、そこのどこに〝乱れ〟の原因があるかであるが――
「な、なに……これ?」
知らない道ができていることに〝彼女〟は気づいた。そしてその道の先こそが、〝乱れ〟の原因に繋がっていることも感覚的に悟る。
吸い寄せられるように、〝彼女〟はその道を辿ることにした。