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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第四巻
140/315

三章 夏祭り大パニック(3)

 セレスの目立つ銀髪ポニテは人ごみの中でもすぐに発見できた。

 雪の結晶柄の青い浴衣に、布を巻いた馬鹿長い棒状の怪しい物体を背負った銀髪さんは他にいない。もしいるんなら俺が人違いの恥辱を味わう前に誰か教えてくれ。

「セレス!」

 と声をかけようとして、彼女がある店の前で立ち止まっていることに気づく。

 射的の屋台だった。

 セレスは射的に興味があるのか? と思ったが、どうやら射的自体よりも景品を見てるような感じだな。

 そのまま数秒ほど眺めていたセレスは……なんか横断歩道を渡る時みたく何度も左右を確認し始めたぞ。なにがしたいんだ一体?

「すまない、これはどういう競技なのだ?」

「ん? 姉ちゃん射的知らねえのかい?」

 お、射的のおっさんにルールについて聞いてるな。一回やってみるつもりらしい。

 ちょっと様子を見てみるか。

「やり方は簡単だ。この銃に弾のコルクを詰めるだろ。そんで狙いを定めて引き金を引く。景品に弾があたって倒れればその景品が貰えるってわけだ」

 射的のおっさんが実際に撃ってレクチャーするのを、セレスは真面目に聴いていた。

「な、簡単だろ。ちとコツはいるがな」

「この弾丸をあてるのか? どう考えても倒れそうにない物もあるが?」

「そういうのは景品の横に札が置いてあるだろ。そいつを倒しゃいい」

「なるほど。了解した」

 一つ頷き、セレスはコルク弾を銃口に詰める。あっ、そんなにぎゅうって強く押し込まない方がいいぞ? 軽く詰めた方が狙い易いんだ。おっさん教えてやれ。

「よし」

 コルク弾を詰め終わったセレスは銃を構え、片目を瞑って狙いを定める。片目瞑ったら目の負担が増えて逆に命中精度が落ちるっておっさん教えてやれよ。

 引き金が引かれ、コルク弾が勢いよく射出される。

 外れた。

「むっ」

 僅かにむくれたセレスは二発目、三発目と続けて連射する。が、景品には掠りもしない。

 だがまあ、セレスの狙いがなんなのか知るには充分だった。

「ぬいぐるみ?」

 あのセレスが、黒い鬣をした可愛らしいリスっぽいキャラクター――『ザンフィ』とかいうネームプレートを首から提げた――のぬいぐるみばかりをひたすらに狙っていたんだ。

 意外と女の子らしく可愛い物が好きなのか? それともリスになにかしら恨みでもあるのか? セレスの翠眼は恐ろしいほど真剣に標的のみを捉え続けている。

 俺がすぐ傍まで接近しても気づかないほどの集中力。なるほど、射的のおっさんが気圧されてなにも言えなくなるわけだ。

「もう一度! もう一度挑戦させてもらいたい!」

 三発全て撃ち終えたセレスが悔しそうな表情でおっさんに頼み込み始めた。一度きりしかない試練に失敗してしまったような勢いだった。

 けれどセレスは剣士。様子を見た感じ銃の扱いは初心者以下だ。景品一つ取るのに何度も挑戦する必要があるだろう。

 これ以上は見てられないな。

「セレス」

「ひゃわっ!?」

 声をかけるとセレスは可愛い悲鳴を発して飛び跳ねた。

「れ、れれれれれ零児!? い、いつからそこにいたのだ!?」

 ブリキ人形のようにぎこちなく振り返ったセレスの顔は煙が出そうなほど真っ赤だった。

「とりあえず一部始終を見れたくらい最初から、かな」

「最初っ……!? た、頼む! 見なかったことにしてくれ!」

「まあ、それはいいけど」

「剣の道に生きる私がオモチャとはいえ銃を握ったなど、他の者に知られたら恥ずかしくて死んでしまう」

「あ、そこなんだ」

 俺にはよくわからん羞恥心だ。

「そこまでしてあのぬいぐるみが欲しかったのか?」

「えっ!? あ、いや、その、えっと、そうと言えばそうなのだが……べ、別に私が可愛い物が好きだとかではなくてその――」

「ああ、そうか。セレスは孤児院にいたんだったな。その孤児院に寄付するつもりだったとか?」

 浮浪児だったセレスはクロウディクスに騎士の才を見出され、孤児院で暮らしながら師匠のカーインの下で剣を習っていたと聞いている。

「そ、そうだそれだ! お金より物を寄付する方が喜ばれるからな。なにせ未だに多くの義弟義妹たちがいるし」

「やっぱいいやつだよ、お前」

「(あぐっ……慌てて出してしまった自分の言葉が胸に刺さる……)」

 なんかセレスは頭を抱えてぶつぶつと小声で呟いている。景品を取れなかったから悔しいんだろうね。

「じゃ、俺が取ってやるよ」

「えっ? いや、簡単に言うが零児、これは相当な難敵だぞ?」

「心配すんな。武器の扱いなら任せとけ」

 一回五百円でコルク弾三発。さっきの輪投げ並みにサービス悪いけどまあいいや。母さんから貰った軍資金はまだまだ底を尽かないからな。

 ぬいぐるみ自体に弾をあてても倒すことは不可能。ぬいぐるみの横に置かれた札を弾けば俺の勝ちだ。

「一発目!」

 外れた。

「二発目!」

 スカッ。

「三発目オラァ!」

 弾は大きく逸れ、代わりにどっかの特撮番組に出てきそうな気持ち悪い触手怪人のお面が倒れた。……うん、よく考えたら俺って近接武具専門でした。銃とか知識だけでした。

「悪い、セレス。これで勘弁してくれ」

「なんだこれはぁああああああっ!?」

 触手怪人のお面、わかってたけどお気に召しませんでした。

「冗談だって冗談。今のは練習だ。次は絶対取ってやるから。おっさんもう一回」

 このままじゃ俺が格好悪いもんな。


 で結局、ゲットできるまで三千円を費やしてしまった。

「すまない、零児。これは次にラ・フェルデに戻った時、必ず孤児院に持っていくと約束する」

 大事そうにぬいぐるみを胸に抱いて感謝するセレス。他に取れたものが触手怪人のお面だけってのも寂しい話だが、セレスが嬉しそうだからまあいいか。

「本当に持っていくぞ? 本当だからな!」

「な、なんでそんな必死に念を押すんだよ。わかってるって」

 俺が後から欲しがるとでも思ってるのだろうか? そんなわけあるかい。

 セレスはしばらく疑わしそうな視線で俺を睨んでいたが、やがてなにかに気づいたように周りを見回した。

「そういえば……ずいぶんと人が少なくなってないか?」

「ああ、そろそろ花火が始まる時間だからな。みんなよく見える場所に移動してるんだよ」

 この辺りは繁華街でも花火大会の会場とは真逆な上に、天高く聳えるコンクリートジャングルのせいで満足に眺められない。せめてビルの上層にでも行かなきゃな。

「俺たちもそろそろ戻るか――ん?」

 今、セレスの肩越しにちらりと見知った金髪が通り過ぎていったような……?

 リーゼ?

「そ、そうだな。できればその、なんだ……もう少し二人で祭を回りながらゆっくり戻りた――」

「悪いセレス、先に戻っててくれ」

「えっ?」

 なんかセレスはごにょごにょとよく聞き取れない声でなにかを呟いていたが、まあ独り言なら俺が気にすることでもないか。

「だが零児、恥ずかしながら帰り道がわからない」

「それなら大丈夫だ」

 俺はそう言って親指で背後を指す。


「うぉおおおおおおっ!! 残りこことそこを繰り抜けばオレの勝ちでレトちゃんがなんでも言うこと聞いてくれるっっっ!!」

「なんでもは言うてへんよ! ウチももうここを削れば終わりやで桜居先輩! ウチが勝ったら先輩の奢りで屋台料理食べ放題じゅるり!」


「そこで猛然と型抜き勝負に勤しんでる桜居と稲葉と一緒に戻ればいい」

 人が疎らになったおかげでついさっき発見できた二人だ。両者共に妙なオーラが幻視できるほどの凄まじい気迫でちまちまと細かい作業に没頭している。なんとも滑稽な姿だった。

「じゃあセレス、また後でな」

「ああっ! 零児ちょっと待っ――さ、桜居殿、レト殿、どうしてこのタイミングでっ!!」

 簡単に別れを告げて俺は急いでリーゼと思われる金髪が向かった方向へ走った。

 背後から桜居と稲葉の悲鳴が聞こえた気もするが、さて、どっちが勝ったんだろうね。

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