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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第四巻
139/315

三章 夏祭り大パニック(2)

 というわけで花火大会が始まるまで俺たちは揃って夏祭りを回ることにした。

「毎年のことながら、凄い賑わいだな」

 出店の種類も豊富過ぎてつい目移りしてしまうね。お、あのくじ引きなかなか景品の質がよさそうだ。三等でもゲーム機本体にソフトつき。しかも前からちょっとやってみたかった『大乱戦・モンスターバトルロイアル』じゃねえか。人気過ぎてどこの店も売り切れなんだよなぁ。

 いや俺だって人並みにゲームくらいするさ。特に無双系とか対戦格闘系が好きだな。スカっとするからいいストレス解消になるんだよアレ。

 よし、せっかくなので俺もテンション上げていこうと思う。楽しむ時は楽しむべきだしな。

 軍資金を握る。もう誰もそれほど気にしてないっぽいけど、汚名返上のためだ。さあなんでも奢ってやるぜ!

 ――そう、いつになく気合い入れてたんだけどな。

「みんな、どこ行ったんだ……?」

 気づいた時、俺はぼっちだった。

 夏祭りという戦場に足を踏み入れた途端、なにもできないまま人の流れに呑まれて逸れてしまったんだ。たぶん、それぞれ別の方向に。

 困った。

 とにかく困った。

 計算外だ。

 桜居と稲葉はまあ放っといていいだろう。問題は残り三人にある。この街で暮らし始めて半年も経ってないあいつらが迷子になってないわけがない。

 周囲を軽く見回してみる。

 一つ千円のお面屋。――もはやぼったくり。

 なぜかリュウキンしかいない金魚すくい。――『すぐ破けるアレ』でどうやって掬えと?

 世にも珍しい黒い綿菓子。――安全な着色料であることを祈る。

 謎い店ばかり並んでいるせいか、人通りは祭の中心部に比べて落ち着いてるな。けど人ごみの中でも十二分に目立つあいつらの姿は見えない。

「連絡がつくのは……レランジェだけか」

 リーゼもセレスも携帯電話なんて文明の利器は持ち合わせていないんだ。唯一、魔工機械であるレランジェだけは異界技術研究開発部が通話機能を拡張してたからな。携帯から普通に電話をかけられるらしい。


 Trrrrn! Trrrrn! Trrrrn! ――ガチャ。


 初めて試したけど本当に繋がったよ……。

「あー、レランジェ、俺だけど」

『……』

 ん? 反応がない。

「もしもし、聞こえてるか?」

『……』

「白峰零児だけど」

『……チッ』

 うわぁ、舌打ちが聞こえましたよいきなり。

『新聞なら不要安定です』

「今名乗ったよね俺!?」

『レランジェさんなら引越しましたよ』

「じゃあ誰だよお前!?」 

『よくもぬけぬけとマヌケた声でレランジェに通信できましたねこの糞ゴミ虫様』

「そんなに嫌だったの!?」

 ダメだ。会話にならない。ストレスにしかならない。

 携帯を思いっ切り地面に叩きつけたくなる衝動を抑えつけながら、どうすればまともな会話にしつつ口先だけでこいつを捻れるか熟考していると、

『ゴミ虫様、そこにマスターはおられますか?』

 レランジェの方から話の軌道を俺が望む方向へ変えてきた。

「いや、俺も一人だ。これからみんなを探して合流しようと思ってる」

『マスターを一人にするとは忠義の足りない屑ゴミ虫様ですね。ドブ川に飛び込んで溺死してください』

「やだよ! お前だって同罪だろ! ていうかそもそもリーゼに忠誠を誓った覚えはない!」

『ではどちらがマスターへの忠誠心が強いか試しましょう』

「待て、どうしてそうなった?」

『丁度レランジェの前方にワナゲという競技がありますので、どちらがマスターに喜んでいただける品を入手できるか勝負安定です』

 このメイドロボさんはもう聞く耳を持っちゃいなかった。

 だがいい機会だ。こいつとはいつか決着をつけなきゃならんかったからな。

 その前に一つ確認。

「いいのかよ、その大事なマスターを捜す前に遊んでて」

『この勝負はマスターが傍におられては成り立ちませんので。それに時間はかかりません』

 そりゃ輪投げ一回するのに五分もかからないだろうね。どの道一度はレランジェと合流しておくべきだし、合流するまでに他の二人を見つけられたら儲けもんだ。


 と周囲に注意しつつ数分後に合流を果たしたが、そんな都合よくリーゼたちは見つからなかった。

「遅かったですね、腐ったゴミ虫様」

「最近ようやく『まあいいか』って諦め始めた呼び名に妙な言葉被せるのやめて!?」

 再開一番の不愉快な罵倒にツッコムが、狐耳カチューシャの和服メイドは『なんのことやら』というように肩を竦めた。張り倒していいかな?

「それはそうと生ゴミ虫様」

 張り倒していいかな!?

「勝負安定です」

 シャキーン! という効果音でもしそうなポーズでレランジェは片手に輪投げの輪を構えた。いいだろう、やってやる!

「はいよー、一回五百円ねー」

 とやる気なさ気なおっさんに五百円渡し、変わりに輪を三つ受け取る。ちょっとぼっただがこの際だ、気にしない。

「いいか、俺が勝ったら呼び名の変更を要求する」

「でしたら、レランジェが勝てば惨たらしく死んでください」

「やだよ!?」

「ではレランジェの料理を無条件で食べてださい」

「毒盛る気満々!?」

 こ、こりゃあ負けられない戦いだ。勝負の判定方法は量でも質でもない。いかにしてリーゼが喜ぶ物を手に入れられるかである。

 あのリーゼが可愛いぬいぐるみなんか欲しがるわけないから狙いどころは一つ。――ずばりお菓子だ!

 

 第一投目。

「それだっ!」

 たららら~ん!(←心の中の効果音)俺は『板チョコ×1』を手に入れた。

「そこ安定です」

 たららら~ん! レランジェは『金属バット』を手に入れた。


「喜ぶのそれ!?」

「マスターなら歓喜安定です」

「いやそんな野球少年じゃないんだから……」

 だが待てよ、リーゼはあれで少年の心も持っているから案外通じるのかも。野球なんて知らないだろうけど。

 そうか、お菓子以外にもあるじゃないか。リーゼの喜ぶ物。


 第二投目。

「そこだぁあっ!」

 たららら~ん! 俺は『合体ロボのフィギュア』を手に入れた。

「見えました」

 たららら~ん! レランジェは『アイアンメイデン』を手に入れた。


「どこにあったその拷問器具!?」

「交換チケット安定です」

「金属バットはいいとしてこんなもん景品にすんなよ輪投げのおっさん!?」

 訴えてみたが、「違う違う、それタンス」と意味不明な言い訳で誤魔化されてしまった。開いたら剣山が設置されているタンスがどこにあるってんだ?

 まあいい、あとで通報しよう。それより今は気を取り直してラスト一回に全てをかける!


 第三投目。

「せいやっ」

 たららら~ん!(←そろそろウザいなこれ)俺は『入浴剤詰合せ』を手に入れた。

「シッ!」

 たららら~ん! レランジェは『名状しがたい白っぽい粉』を手に入れた。


「おっさぁあああああああああんッッッ!?」

 全力で訴えかけてみたが、「違う違う、それグラウンドのライン引くやつ」と意味不明な言い訳で誤魔化され――てたまるかたわけ!


 通報しました。


「これはもうレランジェの勝ち安定ですね」

 自信満々な無表情を器用に作って胸を張るレランジェ。俺らの取得物は全部警官に奪われたってのに勝負もなにもあったもんじゃないだろう。と言いたいが――

「なんでお前のアイアンメイデンだけ押収されてないんだ?」

「使えそうでしたので、隠蔽安定です」

「なんに使う気だ!?」

 よく見つからなかったなと感心するよりも今後の俺の命的な危機について心配になってきた。

「では敗北安定のゴミ虫様はその辺りで白骨化してください」

「しないから! 大事件だから! あと勝負はノーカンだしそれをリーゼが喜ぶとは限らんから!」

 こいつはいい加減そういう人工知能をどうにかしてもらいたい。どこかにデータ消去ボタンでもついてないかな?

 変質者に思われない程度に軽くレランジェの体を見回してボタンの有無を確認する。やっぱないか。と、そんな俺を気持ち悪い物でも見るような目で眺めていたレランジェは「仕方ありませんね」と溜息をつく。

「それでしたら、いくつかレランジェの質問にお答え願えますか?」

 そう言ってきたレランジェに纏う空気が、微妙に変化したのを感じた。

 今度の口調も機械のように無感情でなにも変わらない。でも、いつもと違う。レランジェはまっすぐに俺を見据えていて、紡がれた言葉にはどことなく真面目さを孕んでいるように思えた。

 おかげで高ぶってたテンションも下がっちまったな。

「俺が答えられる範囲ならな」

 幾分か落ち着いて返答すると、レランジェは躊躇うように数秒間を置き、


「ゴミ虫様は、マスターのことをどう思われているのですか?」


 茶化すでもなく、

 なんとなくでもなく、

 真摯に、ひたすらに真面目な様子でそう訊ねてきた。

「リーゼのことを?」

 そんなの、今さらだ。突然できた妹みたいなもんだと何度も自問自答している。そりゃあ最初は厄介な居候ができたなぁくらいの気持ちだったけど、不思議なもんだな。まだ数ヶ月しか共に暮らしてないのに、厄介だ、面倒だ、なんて本音で思うことはなくなった。

 頻繁に家燃やされてるのに、おかしな話だろ? でもそう思っちまってるんだから仕方ない。

 そういうのって、やっぱり――

「『家族』、かねぇ」

 だから、ちょっと家壊されても最終的には許せてしまうんだろうね。

「……『家族』ですか」

「ありきたりでつまらん回答になるけど、俺の頭じゃこの言葉しか出てこないんだ。ああ、もちろんお前だって立派に家族の一員だぞ」

「レランジェについてはどうでもいいのですが」

 どうでもいいのかよ。

「マスターにとって、『家族』とは嬉しいものなのでしょうか?」

「……」

 俺は返答に窮した。リーゼは家族を、正確には自分の世界を滅ぼしつまらなくしてしまった父親を嫌っているんだ。その父親が死んだ後はレランジェと、その他感情のない魔工機械人形だけが家族だったんだろう。

「そう言えば、リーゼの母さんは?」

 そこについては全く話に聞いたことがない。まさか父親が吐いた卵から生まれたわけじゃないよね?

「マスターのお母上は、マスターをご出産なされたのと同時に命を落とされました」

「あー……なんか、悪い」

 そこは触れちゃならない部分だった。話を聞かないわけだ。リーゼ自身、母親の顔も知らないんだろうし。

「マスターは今、この世界へ来て凄く楽しそうです。ゴミ虫様が『家族』となるのは癪ですが、それでマスターが幸せ安定ならば、これから先もマスターの『家族』で居続けてくださいますか?」

 レランジェらしからぬ、本気の願い。

 となると、俺も本気で答えるしかない。

 けど、簡単に頷いていいものなのか?

「『本当の家族』になれるかどうかはわからないけど、気持ちの上では本物だ。少なくともそこだけは揺らがないと思う」

「はぐらし方が下手糞安定ですね」

「ほっとけ」

「ですが、マスターが悲しむようなことにならなければレランジェはそれで構いません」

 一瞬、レランジェの無表情が薄っすらと微笑みに変わったような気がした。

 どうしていきなりこんなことを訊いてきたのかはわからない。理由を詮索する気もない。俺の母さんが帰ってきたことでなにか思うところでもあったのかもね。

 それよりレランジェの紛れもない本心を聞けて、俺はずいぶんと肩が軽くなった。

「よかった。今後、お前は俺の命を狙わないってことだな」

「? それとこれとは話が別ですが?」

「なんで!?」

 気のせいだった。

「ところでゴミ虫様、この拷問器具の威力を早速試してみたいのですが」

「うおっと意外と時間くっちまったな! そ、そろそろ他のみんなを捜さねえとな!」

 ゴゴゴゴ、とアイアンメイデンを開くレランジェから目を逸らし、現状の目的を思い出して再確認する俺。いや別に現実逃避じゃなくて、現実に回帰しただけさ。うん。

「あ、セレスティナ様でしたら、先ほどあちらの方をなにやら挙動不審な様子で通り過ぎていきましたが?」

「声かけろよ見かけたんならさ!? それ絶対迷子ってるよ!?」

 俺は反射的にレランジェの示した方角に駆け出した。

「ではレランジェはマスターを捜す安定ですね」

「ああ、頼む!」

 レランジェと一旦別れ、俺はセレスを追った。

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