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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第四巻
136/314

二章 強化合宿(4)

 やっと終わった……。

 俺は自分に割り当てられた地下二階にある個室のベッドに大の字に倒れて長く息を吐いた。文字通り日が暮れるまで掃除三昧だなんて年末でもやらねえぞ。

 でもまあ、掃除ごときでくたばってなどいられない。明日からが地獄の本番なんだ。その地獄に備えるためには今日はもう大人しく部屋でのんびり――

「白峰ぇ~! 風呂行こうぜぇ~!」

 としたかったのにノックもせず部屋に押し入ってきた癖毛頭のアホ面には鉄拳でも叩き込んでおこうか。

「ぶったな白峰! 親父には何度もぶたれたことあるのに!」

「俺も何度かぶった記憶あるぞ」

 もしかして桜居の頭がアレなのは親父にぶたれ過ぎたせいだとか?

「んで? なんでお前がまだいるんだよ、桜居。掃除の手伝いは終わったんだから帰れ」

「バッキャローッ!! オレたちの仕事はまだ終わっちゃいねえのさ!」

 大声で叫び散らす桜居に俺は反射的に指で耳栓をした。こいつとは中等部からの付き合いだが、未だにノリがよくわからん。――って、オレ『たち』だと?

「チーッス、零児の兄貴」

「お疲れ様ッス、零児の兄貴」

「これから世話になるッス、零児の兄貴」

「風呂場でお背中お流しするッス、零児の兄貴」

 桜居の後ろから不良どもがわらわらと現れて頭が痛くなった。お前らグレアムの舎弟なんだからあいつの後ろに引っついてろよ金魚のフンのように!

「いいかよく聞け白峰、オレたちの任務はな――合宿中、みんなの身の回りのお世話をすることだ! そんなオレたちに逆らうとどうなるか、言わなくてもわかるよな?」

「なんでただの雑用がそんなに偉そうなんだよ!?」

「てなわけで風呂行くぞ白峰!」

「どういうわけだよ! あとノリが完全に雑用じゃねえよ!」

「黙らっしゃい! 捕らえろ!」

「「「は! 桜居の兄貴」」」

 兄貴!? な、なんてやつだ。不良どもにまでこいつのよくわからんリーダーシップは通用するのか。一体いつの間に仲良くなったんだよ。

 と感心している間に、掃除で疲れてる俺は体格のいい不良たちにガッチリとホールドされてしまった。そして神輿みこしのように担がれて連れ出される。「わっしょいわっしょい!」とか言い始めたぞこいつら。

 くっ。おかしい、振り解けない。なんて力だ。なにが原因でこいつらこんなに元気なんだ?

「ふっふっふ、実は今から女の子たちも入るらしいんだ。混浴じゃないのは残念だが、それならそれで男としての義務を果たすべきだと思わないか?」

 それが原因か!

「なにをする気かあえて訊かんが俺を巻き込むなっ! つか放せ!」

「白峰がいれば全ての不幸を背負ってくれるはず」

「やだ! 帰る! 俺帰る! 絶対帰る!」

「あー、やだ! 帰る! 風呂になど絶対入るものか!」

 ん? なんか俺と似たような駄々を捏ねる叫びが聞こえてきたぞ。

 見れば、地下に下りる階段の前に女子たちが屯っていた。リーゼにレランジェにセレス、いつもの面々に加えて、あの半袖半ズボンのジャージは稲葉レトだな。その稲葉が階段の手摺に巻きついた白くて長い布っぽいものを引っ張っているように見える。

「なにやってるんだ、お前ら?」

「ああ、零児か――って、お前こそ一体なにをしている!?」

 振り返ったセレスがぎょっと目を見開いた。うん、気持ちはわかる。不良たちに体の自由を封じられて神輿になってるもんな、俺。傍から見たらめちゃくちゃ怪しいぞコレ。ついでに不良たち全員が女性陣に向かって低頭してやがる。どこまで格を下げれば気が済むんだお前ら。

 そんでこんな愉快な格好をしていればテンション跳ね上がるお嬢様がいるわけで――

「あはははっ! レージなにその格好面白い! 乗っていい?」

「ダメ! 乗っちゃダメ!」

「そのまましっかり押さえておいてください。撃ち落とす安定です」

「右手を下げろポンコツメイド!?」

 いや待てよ。リーゼを乗せておけばレランジェが魔導電磁放射砲ぶっぱすることもない。我ながらいい考え……んなわけねえか。

「レージも今からフロ?」

「うんまあ、そんなとこ」

 ルビーレッドの瞳をクリッとさせてリーゼが訊いてきたので、俺は曖昧に答えた。強制連行じゃなけりゃ気分よく答えられるんだけどね。

 するとリーゼは嬉しそうに向日葵のような輝かしく無邪気な笑顔を咲かせ、


「あはっ! また一緒に入れるのね」


 爆弾を投下した。

 瞬間、ピキリ、と空気が凍った。

「イッショ? ……零児、『一緒』とはどういうことだ?」

「白峰てめえ! リーゼちゃんとまさかそんなことまで――そこんとこ詳しく説明しろ! なんて羨ましいんだチキショーブッコロス!」

 表情に影を落としたセレスと血の涙を流す桜居の糾弾には明確な殺意が込められていた。

 下手なこと言うと……死ぬ!

「違ぇよアレだほら祝ノ森んときのやつ! リーゼの認識だとスパも風呂なんだよ!」

 間違っても俺が自宅の風呂に入ってる時にリーゼが乱入してきた話はできない。内心かなりビクビクしていると、「うっ、忘れたい記憶が……」「ああ、なるほど、リーゼちゃんだもんな」と二人は引き下がってくれた。

 すると――

「桜居先輩、白峰先輩、聞いてぇな。アーちゃんときたらお風呂入らへん言うんやで」

 さっきから白い布を引っ張り続ける稲葉が困ったような顔をしてこちらを向いた。よく見たらあの布、アーティの研究衣だ。なんか涙目で階段の手摺にがっしりしがみついているな。

「あー、なぜ風呂になど入らねばならない。時間の無駄だ。わざわざそんなことせずとも私の研究室にある改造シャワーを三十秒浴びれば清潔さは保てる」

 と必死に主張するアーティだが、残念ながら肩までどっぷり浸かる派の俺は賛成してやれないね。寧ろ異論を唱えたいところだ。ほらほら、そこでお風呂大好きっ娘のリーゼお嬢様もムッとしてらっしゃいますよ。

「時間の無駄かて、アーちゃんめっちゃ長生きする種族やん」

「あー、千年生きようが万年生きようが、私の知識欲が満たされることはないのだ。それに、その、どうにも私は手間をかけて自分自身を洗うことが苦手で……」

「せやからウチが洗ったる言うてるやん! 前も、後ろも、あんなところもこんなところも全部隅々までじっくりねっとりムフフフフ……はぁはぁ」

 恍惚とした表情で鼻息を荒げる稲葉。そういえばあいつの本質はヘンタイだったな。

 ヘンタイと言えばこちらにも一人、異世界人の女子には異常な性欲を示す野郎がいた。

「レトちゃん! その光景は是非ともハイビジョンな動画に――」

「あー、撮ったりしたら貴様をリモコン式の手動人形に改造してやる」

 アーティならそのくらい半日でやってのけそうだから冗談では済まない。いや寧ろあの桜居ヘンタイはなにか問題起こす前にさくっと改造してしまうのが世界のためかもしれん。

「てか、稲葉とアーティって仲良いのか?」

 稲葉の呼び方も誘波みたく『アーちゃん』だし。

「あー、見てわかれ白峰零児。これのどこが仲良しだ」

「ウチとアーちゃんはクラスメイトやねん」

「は? 学校通ってるのかよ?」

 ニッコリ笑顔で答えた稲葉に俺は少し驚いた。アーティは監査局の古株で天才的な科学者なんだろ? 今さら学校でなにをお勉強するって言うんだ。

「あー、在籍してるだけだ。私の見た目の年齢はお前たちとそう変わらないからな。そうしているとなにかと便利なのだ。出席は気晴らしと人間観察がしたい時くらいにしかしないがな」

 万年留年する気だこの天才科学者。

「それより助けろ白峰零児」

「お前こそ見てわかれ。助けてほしいのはこっちも同じだ。だがまあ、お前はもっと風呂の素晴らしさを知るべきだな。稲葉、くすぐってみたらどうだ?」

「ナイスアイデアや白峰先輩!」

「ひゃうあっ!? あー、や、やめ、はうっ!? お、おのれ白峰零児……」

 稲葉のくすぐり攻撃を必死に堪えるアーティが怨嗟の視線を向けてきたので、俺は不良たちとリーゼたちを促して地下四階にある露天風呂へ急いだ。

 ていうかもう降ろしてほしいんだが? 

 あー言った手前、俺が風呂を拒むわけにはいかないだろ。


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