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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
挿入巻
124/314

挿話 精霊会議

「期末テストを無事に終え、異界監査官兼高校生のレイちゃんは心から楽しみにしていた学園祭の準備に勤しんでいました。しかしクラスは纏まっておらず、男女に分かれてメイド喫茶か執事喫茶で揉めていました。そこでレイちゃんは言いました。『だったら男装喫茶と女装喫茶で勝負して勝った方の案を二日目から実行すればいい』と。変態ですね。

 その提案が可決されてから数日後、レイちゃんは女装喫茶のため自ら進んで炎天下の中買い出しに出かけました。熱血なのかマゾなのかよくわかりませんよね。で、その道中で同じように買い物を任されたセレスちゃんと鉢合わせたのです。レイちゃんとセレスちゃんは同じ店で買い物をし、帰りにオシャレな喫茶店でお茶するなどとてもいい雰囲気でした。傍から見たらリア充爆発しろって言われそうですねぇ。

 ところが喫茶店を出て間もなく、セレスちゃんが不良ちゃんたちに喧嘩を売ってしまったのです。不良ちゃんたちはあっさり蹴散らされてしまいましたが、そこに彼らのリーダーをしているグレアムちゃんがやってきたからさあ大変です。異界監査官のグレアムちゃんが不良ちゃんたちのトップだと知って怒ったセレスちゃんは、迷わずグレアムちゃんに斬りかかりました。ですが、グレアムちゃんは一瞬でセレスちゃんを負かしてしまいました。まだ喧嘩を続けようとするグレアムちゃんをレイちゃんが『学園祭中の監査官対抗戦で決着をつけよう(キラン)』と言って止めました。白い歯が眩しかったです。

 そして始まった監査官対抗戦。予選をかろうじて突破したレイちゃんとセレスちゃんは、本戦の一回戦も見事勝ち抜き、準決勝でついにグレアムちゃんとの勝負になりました。そこまでの過程は面倒なのでカットしますねぇ。本編を読んでください。

 えっと、どこまで話しましたっけ? あ、そうそう、異変が起こったのは激戦の最中でした。

 巨大な歪震と共に、『次元の柱』が姿を晒されてしまったのです。それは『王国レグヌム』という謎の組織の仕業でした。理由はわかりませんが、『王国』は『次元の柱』を破壊して世界をぐちゃぐちゃにしようと企んでいます。その目的の邪魔となるレイちゃんたち監査官を壊滅させるために、それ相応の戦力を投入してきました。数の上で言えばざっと五倍だったと思います。

 魔力がほとんど尽きていたのにもかかわらず、レイちゃんは他の監査官たちと共に果敢に戦いました。しかし敵の大将はレイちゃんたちよりも遥かに強い存在でした。苦戦どころか敗戦を強いられそうになったその時、『次元の門プレナーゲート』が開きました。

 門から現れたのは、セレスちゃんの世界の王様――クロウちゃんでした。クロウちゃんは圧倒的な力で戦場を制し、レイちゃんたちに力を貸して『王国』を撤退させました。まさにチート、いえバグですねクロウちゃんは。たぶん私でも勝てませんよ。

 そのクロウちゃんの目的はセレスちゃんを元の世界に連れ戻すことでした。セレスちゃんの本音を聞いたレイちゃんは、彼女を自分のヨメとしてこの世界に留まらせるためにクロウちゃんに決闘を挑みました。あれは無謀でしたねぇ。全く本気を出してないクロウちゃんに赤子のように捻られちゃいましたし。

 敗北に敗北を重ねたレイちゃんは、自分の弱さを痛いほど思い知らされましたとさ。

 ――以上、前巻までのあらすじでしたぁ♪」


 天も地も全てが白い異空間の中で延々と響いていたおっとりほんわか声が、その終了の合図を持ってしてピタリと停止した。

「……」

「……」

「……」

「あら? どうかしましたか、皆さん?」

 白が支配する空間にポゥと浮かんでいる緑色の輝きが不思議そうに明滅する。

「今に言えたことじゃないから今さらって感じだけどさ、あんたふざけてんの?」

 緑色の輝きから見て右斜め向かいに浮かぶ赤色の輝きから、呆れたような少女の声が放たれた。

「私は大真面目ですよぅ。なにか不満があったのですか、サラマンダーちゃん?」

「アタシをちゃん付けで呼ぶなシルフィード! それだけで鳥肌が立つのよ!」

「あらあら、ここは精霊体でのみ存在できる急造仮設空間ですよ? 立つ肌なんてあるのですか?」

「物の例えよ! 揚げ足を取らないでくれるかしら!」

「あらあら、取る足なんて――」

「うっさいあんたもう黙れ!」

 赤色の輝きが炎のように激しく明滅を繰り返す。するとそこに、赤色の輝きから見て真正面に浮かんでいた青色の輝きが、優しげな女性の声を響かせた。

「落ち着きなさい、サラマンダーさん。シルフィードさんも、どうしてそのようなわかりにくい報告をわざとしたのですか? 他人主体、しかもところどころにあなたの個人的な感想を挟んでいましたよね」

「ウンディーネ、そんなのこの脳味噌旋風が楽しんでるからに決まってるでしょ」

 赤色の輝きが怒りを示すように揺らめく。対して青色の輝きはあくまで穏やかな発光を乱さない。

「それで、どうなのですか、シルフィードさん?」

「五ヶ月近くもお休みをいただいたので忘れられてるかなぁ、と思ったのです」

「なんの話をしてるんだあんたはっ!」

 ギャーギャー騒ぐ赤色の輝き。青色の輝きはそれ以上語ろうとしない緑色の輝きに嘆息し、左斜め向かいにいるもう一つの輝きに問いかける。

「ノームさん、あなたはシルフィードさんの説明をどう思いますか?」

 問いかけられた黄色の輝きは、のんびりと明滅しながらのんびりとした少女の声で答えた。

「……まず、主体となっていたレイちゃんなる人物。その心情や行動理由のほとんどが恐らくシルフィードの捏造。けれど起きた事象はだいたい合っていると思われ」

「うふふっ、その通りですノームちゃん。流石の私も人の心までは完璧に読めませんからねぇ」

「……ということは、『王国』なる組織の存在、その企みも真実?」

「ええ、そこを嘘で掻き乱しては、せっかく皆さんに集まってもらった精霊会議が進みませんからね。米国アメリカ異界監査局本局長のサラマンダーちゃん、埃国エジプト異界監査局本局長のノームちゃん、豪国オーストラリア異界監査局本局長のウンディーネちゃん、そして日本異界監査局本局長の私。この面子が集う機会なんて滅多にありませんから冗談はほどほどに自重しています」

「そうは見えないからブチキレてんのよ! ていうか始めから冗談を混じるな!」

 赤色の輝きは威圧的に光を飛ばす。

「まったく、ここが現実世界だったら真っ先にあんたをその風ごと焼き尽くしてやるのに」

「おや? 火ごときが風に勝てるとでも?」

「はん! 風ごときが火に勝てるとでも?」

 睨み合うように発光する赤と緑の輝きに、青色の輝きはもう一度深く溜息をつく。

「おやめなさい、お二人とも。我々大精霊同士が本気で争えば地形どころか気候が変わってしまいます。世界を守護するために存在する我々がそのような馬鹿な真似を行うなど言語道断です」

「……それに、今は一大事と思われ」

 青と黄色の輝きに諌められ、赤色の輝きはフンと鼻息らしきものを鳴らした。緑色の輝きはおっとりとした微笑み声を漏らしている。

「どうやら、その『王国』という組織は想像以上に強大なようですね。四柱を守っている我々だけでなく、世界中の監査局に通達して事態に対処すべきです」

 青色の輝きが落ち着いて今後の方針を思案する。

「フン、アタシんとこに来たら一瞬で消し炭にしてやるわよ、そんなやつら」

「……サラマンダー、それ、死亡フラグ」

「素でそんなこと言う〝人〟がいるなんてビックリですねぇ」

「ええいうっさいわね! ちょっと言ってみただけよ!」

 赤色の輝きはより一層紅潮して叫んだ。

 その様子をおかしそうに観察していたらしい緑色の輝きが、不意に真面目な声で皆に告げる。

「敵の情報が少ない以上、具体的な対抗策は立てようもありません。加えてラ・フェルデとの接触により、直接的な戦力数は三分の一ほど減少すると想定しています」

「……じゃあ、どうすればいいと思われ?」

「そうですねぇ、今できることと言えば情報収集と、個人の戦闘能力の向上、チームとしての連携強化といったところでしょう」

 緑色の輝きが提示した案に、他三色の輝きが唸る。

「となると大事なのは連携かしら。監査官は基本、一匹狼だし」

「サラマンダーさん、戦いにだけ目を向けていては敗北しますよ。敵の実態が掴めない以上、情報収集が最も重要になると思います」

「……個人の強化は連携訓練と同時にできると思われ」

「そもそも情報収集は局員の役目になりますから、監査官は各々の強化に専念できるはずです。そこでサラマンダーちゃんに一つお願いがあるのですが」

「なによ? あんたからのお願いなんて気持ち悪い」

 怪訝そうにする赤色の輝きに、緑色の輝きははっきりとこう告げる。

 

「少しの期間でいいので、あの人をお借りしてもよろしいでしょうか?」


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