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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第三巻
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四章 聖剣と魔剣(4)

 そして学園祭最終日、大闘技場の対戦フィールド。

 時刻は午前十時を回り、監査官対抗戦準決勝第一試合が始まろうとしていた。

 グラウンドのような地面を踏み締めている俺とセレスの目の前には、同じ本局の異界監査官であるグレアムと稲葉が立っている。稲葉はともかく、グレアムのやる気と言ったら海水浴場に来た子供たちにも引け取らないな。まったく、遅刻で失格してくれりゃよかったのに……。

 グレアムは両手に握ったトンファーをくるっくるさせながら楽しそうに笑う。

「おう、ようやくてめェと戦れる時が来たなァ」

「できれば永遠に来てほしくなかったけどな」

「去年は零児的にわざと予選落ちしやがったから、結局戦えなかったしよォ。その分、今日は張り切らせてもらうぜ」

「なにを言ってるのかさっぱりわからんね」

 ちなみに去年の優勝者はグレアムではない。こいつに弱点があるとすれば、それは頭の残念さだ。確か去年は催眠幻惑系の相手に翻弄されたと聞いている。

 まあ、催眠術も幻術もできない俺たちには関係ないことだが。

 日本刀を生成する俺に倣い、隣のセレスも背負っていた聖剣の布を解き、鞘から抜く。

「グレアム殿、決勝を控えているとはいえ、あなたに余力を残して勝てるなどとは到底思えない。初めから全力を出させてもらう」

「ハハッ! いいねェいいねェ。そうしてくれりゃあ俺的に楽しめるってもんだ」

「あのう、なんかさっきからウチのこと忘れてへんか? 一対二みたいな構図ができてんねやけど……」

 普段通り女子用の赤いジャージ姿をした稲葉レトが、グレアムの斜め後ろで苦微笑する。忘れちゃいないが、影が薄くなったのは組んだ相手が悪かったと思ってくれ。

『挨拶は終わったようですね。それでは、これより準決勝第一試合を始めます』

 誘波の合図と共に開戦の空花火が青空で炸裂する。

 俺とセレスは即座に身構えた。

「セレス、打ち合わせ通りにいくぞ」

「了解した。こちらは任せろ」

 セレスが僅かに頷いたことだけを確認し、俺は視線を前方に戻す。


 眼前数センチのところに、トンファーの打撃部が迫っていた。


 驚く暇すらなかった。

 打ち飛ばされる覚悟もできなかった。

 だが、トンファーはあと数ミリで俺に届くという距離でピタリと止まった。

「……おいコラ、零児的にふざけてんじゃねェぞ」

 低く、静かな怒りの籠った声が俯いたグレアムから漏れる。

「紅白なんちゃらって呼ばれてた頃のてめェなら、今のくれェは見切れただろうがよォ。俺的にまさかとは思っていたわけだが……零児、てめェ、悠里のやつがいなくなってからずいぶん腑抜けちまったようだなァ! あァん!」

「くっ」

 正気づいた俺は、グレアムの気迫にあてられたように後ろに飛んだ。

「今のはてめェの腑抜け具合を確認しただけだ。次は止めねェぞ。零児的に昔の勘を取り戻さねェと、俺的にうっかり殴り殺しちまうかもしれねェ。頼むから、俺様をがっかりさせんなよ?」

 仕切り直しとでも言うように、グレアムは踵を返して元の位置に戻る。

「……昔の俺はアレを防げたって? 無茶言うなよ」

 覚悟なんてとっくにできてるつもりだったが、まだ甘かった。一瞬一瞬に神経を尖らせないことにはあいつの動きなんて見えない。

「零児、大丈夫か?」

「俺の心配はしなくていい。あの化け物から目を離すな」

 これからが本当の戦闘開始だ。俺とセレスは同時に地を蹴って左右に分かれ、まだこちらに背中を向けているグレアムを挟撃する。

 一回戦でこいつらに敗北した第十一支局は一対一で戦っていた。だったら、俺たちは一対二で戦うまでだ。昨日の特訓でコンビネーションはそこそこ鍛えられたはず。今の俺たちならやれる!

 まあ、実際はそんなに甘くない。

 両サイドから迫る二つの刃を、グレアムは見向きもせずに両手のトンファーで受け止めやがったんだ。

「てめェら的にいい感じな息の合いようだ」

 嬉々とした声音。先程の俺に対する怒りはもうどっかに吹っ飛んでるらしい。

 グレアムは俺たちの武器を受け止めていたトンファーを唐突に離した。俺とセレスは僅かにつんのめる。しかしその僅かな隙に、グレアムは両手を大きく広げ、身を捻り――

「俺的に楽しくなってきたぜェ!」

 狂喜乱舞といった様子で大旋回した。

 周りの敵を弾き飛ばすための回転ではない。トンファーの特殊な形状を利用して、敵を絡め取るための回転だ。

 トンファーを体に引っ掛けられた俺たちは、二人揃って呆気なく地面に叩き伏せられた。

「がっ!?」

「うっ!?」

 全身に襲い来る衝撃。くそ痛え……。気を抜けば楽に失神できそうだが、そうなったら負けだ。

 俺はすぐさま起き上がってバックステップ。セレスも転がってグレアムから距離を取ったようだ。

 セレスの聖剣ラハイアンが強く輝く。刺突に構えられた光纏う剣。その剣尖から野球ボールくらいの光弾が連続的に射出された。

 ガトリングガンのごとく無数に迫る光弾を、グレアムは表情を愉悦に歪めて全て弾いた。明後日の方向に打ち返された光弾だが、一つたりとも観客席には直撃していない。偶然ではなく、グレアムが意図的にそう弾いたのだ。

 光弾が止んだ瞬間に俺はグレアムの懐に迫り、下段から偃月を描くように日本刀を振う。トンファーで防がれることなく難なく避けられた。畜生!

 そこにセレスも加勢する。光の刃がグレアムの肩部を捉えようとしたその刹那――

「「!?」」

 鳥が羽ばたくように左右のトンファーが振り上げられた。その速度も尋常じゃないが、俺の反射神経はなんとかついていってくれた。

 日本刀の刃でトンファーを受け止める。セレスもどうにか振り切りかけた聖剣を割り込ませることに成功したらしい。

 だが――

「ぐっ!?」

 完全に力負けした俺たちは、踏ん張ることさえ許されずに左右にぶっ飛んだ。俺は地面に叩きつけられる寸前で受け身を取り、起き上がる。くそっ、なんてパワーだ。

「ハッハーッ! さっきよりは零児的に動きよくなったじゃねェか!」

 グレアムは俺を狙うことになんの迷いもなかった。神速の跳躍で切迫し、俺の顔面にトンファーをぶち込もうとする。

 反撃の隙なんてあるわけがない。俺は日本刀を盾にするしかなかった。

「だがな、いつまでもそんなナマクラ使ってんじゃねェよ!」


 バキン!

 と、魔力で生成された普通より強度の高いはずの日本刀が、まるで細枝のようにあっさりと折損した。


 なんて簡単に圧し折るんだこいつ……。

「だったら」

 でも、こんなことで驚いてなどいられない。この化け物ならそれくらいやってのけると予想できている。

「これでどうだ!」

〈魔武具生成〉――野太刀。

 武人として最も剛気で腕力があるという威武を誇るために作られた長大な太刀だ。五尺を超える大刀は、たった今壊された日本刀なんかよりも硬く重い。無論、生成者の俺にはそんな重さなど感じないし、魔力を過剰に流し込んだ分強度も上がっている。

 俺は逆袈裟斬に野太刀を振う。確実にグレアムを捉えるはずだった一撃は、身を斜めに屈められて避けられた。すぐに刃を返して袈裟斬。だがそれも、グレアムはその場から動くことなく器用にかわす。

 これほど長大なリーチの得物を短刀のような素早さと小回りさで振っているにも関わらず、グレアムには防がれるどころか掠りもしない。

「まだだな」

 ポツリと、俺の斬撃を避けながらグレアムが呟く。

「零児的に、もっと全力出せやァ!」

 上段から振り下ろした野太刀にトンファーが打ちつけられる。パキッ、と嫌な音がしたかと思えば、野太刀の刀身が呆気なく捥げ落ちた。

 う、嘘だろ……?

 コレ、かなり魔力を込めたはずだぞ。

「零児! 避けろ!」

 セレスの叫び。見ると、光の斬撃渦が二つ、こちらに飛来していた。

 言われた通り俺は横に避けようとする。だがそれよりも速く、紫電の槍が二つの光渦を貫いた。

 爆光を発して相殺する槍と渦。

「せやから、ウチもおることを忘れんといてえな」

 稲葉だ。紫色の電気を全身に帯びた彼女は、もう一本新しい雷槍を作ってセレスに投擲する。セレスはそれを横に飛んで回避すると、そのまま稲葉へと突撃をかけた。俺に加勢することは後回しにするらしい。

 けど、それでいい。いきなり調子を狂わされたが、元はそういう打ち合わせだったんだ。

 稲葉には悪いが、倒し易い方から先に倒させてもらうぞ。稲葉もセレスも監査官としてはルーキーだが、戦闘の経験はセレスの方が圧倒的に上だろうからな。滅多な事じゃ遅れは取らんはずだ。

 だから、俺が一人でグレアムを引きつけて堪えなきゃならん。さっきの攻防からして二人がかりでも勝てるわけねえじゃんと思ったやつ、笑いたけりゃ笑え。これでも望み薄だが勝算はあるんだ。

 勝つためには、まずどうにかしてあいつの攻撃を全部凌がな――


 ドムッ!


 その時、俺は自分の腹辺りから鈍い音を聞いた。

 見ると、グレアムのトンファーの先端が突き刺さる勢いで減り込んでいる。

「――ッ!?」

 それを認識した直後に、激痛が体中に駆け巡った。

 遅れて、衝撃が来る。

「せっかく手ェ抜いて待ってやってんのに、なんで本気出さねえんだ? 零児的に、俺様の知らねェ隠し玉があるはずだろうが」

 グレアムがなんか言ったが、聞き取れなかった。

 両足が地面から離れる。体が砲弾にでもなったかのような錯覚に襲われる。おかげで、自分が吹き飛んだのだと理解する。

「零児!?」

「余所見は禁物やで、セレスはん!」

 赤い雷を纏った稲葉の掌底がセレスの胸当てを打った光景を最後に、俺の意識は途切れた。


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