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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第一巻
11/314

一章 滅んだ世界の魔帝様(6)

 わかるやいなや、俺が行動を起こすのは早かった。

 俺はなんとしてでも元の世界に帰りたいんだ。そこに帰り道の可能性があるならば、誰だって確かめることを禁じ得ないだろ?

 魔獣の徘徊する薄暗い下層に来たところで、物凄く聞き覚えのある声が届いてきた。

「すっげぇ! なんだここはなんだここは? 迷宮? やっべ、マジで異世界だよオレはついに異世界へ来たんだヒャッホー! おっとアレは、マンボウか? うひゃーマンボウが宙を泳いでオレの頭にガブリってぎゃぁああああああああああああああっ!?」

 そこでは、俺と同じ高校の制服を着た男が頭をマンボウにかじられて悶えていた。

「桜居!」

「むむ、この声は白峰か?」

 アホな悪友は、気ぐるみを脱ぐ時みたいな動作で簡単にマンボウを外して投げ捨てた。……こいつ、実はとんでもないやつかもしれん。

 その桜居を襲っていた魔獣は、俺の後ろに続くリーゼを認めるなり「ガンボウゥ」と怯えたようにビクついて逃げ去って行った。

 今は魔獣なんてどうでもいい。

「会いたかったぜ桜居ぃ~!」

「白峰ぇ~! その笑顔はキモチワルイがとにかく無事でよかったぜ~」

 アハハエヘヘ、とお互い笑顔で駆け寄る俺と桜居。異世界における親友との感動的(?)な再会シーン。を――


「だっしゃぁああああああああああっ!!」

「へぶぅううううううううううううっ!?」


 俺の右ストレートが見事なまでにぶち壊した。

「なにしやがる白峰っ!?」

 錐揉み状に吹っ飛んで置きながら無事とは流石俺の親友。頭からピューと赤い液体が吹き出しているけどアレは魔獣に噛まれた傷ですね。うん。

「あー、桜居謙斗」俺は指をポキポキ鳴らしつつ、「貴様は俺の職務を妨害し、異世界へ行くことになった原因を作った罪により、『俺に一発殴られる刑』を執行します」

「落ち着け白峰! その刑は既に執行されている!」

「問答無用!」

「なぜぶるぁあああああああああああっ!?」

 ふう、こいつだけは次会った時に殴り倒すと決めていたからスッキリした。

「もう一匹の侵入者って、レージの知り合い?」

 俺の後方五メートルくらいの位置からリーゼが怪訝そうに訊いてきた。

 俺は親友だった物体を、ボロ雑巾を掴むように拾い上げる。

「ああ、こいつは桜居謙斗。俺と違ってなんの力もない人間で見ての通りのアホだ」

「ハッ! オレの目の前に異世界人の美少女が二人も!?」

 目覚めた桜居は、リーゼとレランジェを視界に入れるなり、一瞬で二人の下に到達して気障ったらしく癖毛を掻き上げる。まったく、こいつは……。

「どうも。オレの名前は桜居謙斗。遠い世界から来ました。まずは貴女方のお名前から訊いてもよろしいでしょうか?」

 いいぞレランジェ、そいつぶっ飛ばしても。と思いつつ呆れた俺は様子を窺っていたのだが、リーゼとレランジェは顔を互いに見合して首を傾げている。

「この人間はなにを言っているのですか?」

 そういや、桜居は〈言意の調べ〉を持ってないんだ。となると、リーゼたちには意味不明な言葉の羅列にしか聞こえていないことになる。通訳が必要か。また面倒な……。

「害はないと思うから無視していいぞ」

「了解です。排除安定ですね」

「いや、それはやめろ」

 たった今命を救ってやったのに、桜居のアホは二人に向かって延々と喋り続けている。んでもって、リーゼは言葉がわからないくせに、いや、言葉がわからないからこそ一生懸命に聞こうとしている。放っとけよ、耳が腐るかもしれん。

 ん? そういえば……。

「なあ、桜居。お前がいるってことは、そこの『次元の門』はまさか……」


 Prrrrr! Prrrrr! Prrrrr!


 俺のブレザーの胸ポケットが振動した。携帯だ。

 早速取ると、聞き覚えのあるおっとり声が聞こえてきた。

『はぁ~い、レイちゃん元気ですかぁ~?』

「誘波!? どういうことだ? なんで携帯が」

『門の近くだと通じるみたいですね』

 日本の技術って凄いね。

『要件だけを手短に言いますね。門がまた閉じる前に桜居ちゃんをつれて帰ってきてください。この期を逃したらもう二度と戻れなくなるかもしれませんよ』

 それもそうだ。二度同じ世界と繋がるだけでも奇跡に等しいからな。三度目はあり得ないと思った方がいい。

『異界監査局の分析によると、門が開いている平均時間は約十分です。あまり時間はありません。急いでください』

 元の世界に帰るチャンスは、今しかない。

「帰るぞ、桜居」

 俺は通話を切り、まだ二人に謎な話を続けている桜居の首根っこを掴んだ。

「なぜだ白峰! オレはもっとこの世界を調べたいんだ。それからでも遅くないだろ?」

「遅えんだよ」

 俺はいやだいやだと駄々っ子みたいな桜居を引きずって、通路のちょっとした隙間に開いた『次元の門』へと向かう。変なところにあるなぁ。

「待って、レージ」

 リーゼの声。そうだ、リーゼたちには一応世話になったからな。礼を言わないと。

「リーゼ、いろいろとありが――」

「わたしも連れて行きなさい。約束したでしょ?」

 リーゼは俺の言葉を遮ってそんなことを言ってきた。話はしたけど約束をした覚えはないんだけど……。

 さてどうしたもんかと悩む俺を、リーゼはじっと見据えてくる。その眼差しは真剣で、どこか不安げでもあった。

 さっきは傍観するつもりだったが、できれば〝人〟を地球に連れ帰るマネはしたくない。そいつにはそいつの世界があって、一人でも心配してくれるやつがいるかもしれないんだ。それに、異界監査官としてもどうかと思う選択肢だし。

 だが、リーゼの場合は少し違う。俺が連れていかなければ、滅んだ世界で永遠の退屈に縛られて生きていかなければならない。この世界に来て数時間の俺が言うのもなんだが、さっきの勇者を見る限りなにかしらの革命が起こる見込みはない。もし革命したとしても、その時リーゼは生きていないだろう。彼女は〝魔帝〟。世界の全てが敵と言っても過言ではないのだから。

 だったら、〝魔帝〟なんて称号など関係ない世界で生きた方が幸せなんじゃないか。

 となれば、彼女を救えるのは俺だけ……だな。

「来たきゃ、勝手に来いよ。俺は止めはせん」

 少々ぶっきらぼうに言ってしまったが、リーゼは満面の笑顔を咲かせて「うん!」と返事をした。やっぱ素直に笑ってる方が可愛いと思うぞ、俺は。

「なんの話してんだ、白峰」

「お前はちょいと黙ってろ」

 ぐきり、と軽くスリーパーホールドで桜居の意識を強制退場させておく。

「マスター」とレランジェ。「どうしてもマスターが行くと仰るのならば、このレランジェに止める権利はありません。レランジェはそのうち停止しますが、マスターはお体に気をつけてください」

「なに言ってんの? レランジェも来るの。お前はわたし専属の侍女なんだから」

 レランジェの目が、一瞬だけ大きく見開かれたのを俺は見逃さなかった。

「そう……ですね。それが安定です。わかりました。マスターの身はこのレランジェが命に代えても守る安定です」

 どことなく躊躇いがあったように思えたが、どうやらレランジェは覚悟を決めたようだ。ていうか、機械人形に命なんてあるのか?

「決まったようなら、こいつをお前らに渡しとく」

 俺はポケットから二個のペンダントを取り出し、二人に投げ渡した。予備として持っていた〈言意の調べ〉だ。

「そいつを身につけてりゃ、向こうでも言葉が通じるからよ」

「キレイ……。〝魔帝〟で最強のわたしには相応しいわね。ありがたく貰っとくわ」

 いつもの自信に溢れた笑みを浮かべ、リーゼはペンダントを首にかけた。レランジェも同様にする。

「じゃ、帰るとしますか」

 俺は最後にそれだけ言うと、気絶した桜居を担いで『次元の門』をくぐった。


 でもまさか、この時の判断が後々面倒なことになるなんて、俺は夢にも思っていなかった。


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― 新着の感想 ―
[一言] ん? とてもやばい生き物を異世界に輸出するのはまずいのでは? 監査局の判断を仰いだ方が…とするまえに来られたようですね。 さてさて、これからどうなることやら。 続きが楽しみです。
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