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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第三巻
104/315

三章 監査官対抗戦・本選(7)

 対抗戦は昼休憩に入った。

 大闘技場では異界監査局の新技術やらなにやらのデモンストレーションが行われているようだが、そんなものに興味はない。学園に帰って腹ごしらえと学際見物、ついでに喫茶の方も手伝わないとな。

 セレスはまたメイド服を着せられることにいやいやと首を振っていたが、まずは教室に顔を出そうと思う。

「やあ、待っていたよ、白峰君にセレスティナ君」

 二―Dの教室に入るや否や、メイド服に白衣といった奇天烈極まる格好をした同級生が、腰に手をあててどんと待ち構えていた。

「コラコラ、なぜ私の顔を見るや踵を返そうとするんだい、白峰君?」

 肩を力強く掴まれた俺は強制的に向き直させられる。俺と同じ高さに目線がある長身の女子生徒――郷野美鶴は、その瞳に『もう絶対に逃がさないゾ』という意思の光を宿していた。

「いや、ちょっと急用を思い出して」

「私の顔を見て思い出す用とはなんなのかな?」

「お豆腐が切れてて」

「意味がわからないゾ、白峰君。君は嘘というか、ボケには向いていない」

「悪かったなツッコミ担当で! 俺だって好きでツッコんでるわけじゃねえんだよ」

 っと、今の台詞自体がもうツッコミだな。知ってるか? ツッコミは意外と大変なんだぞ。主に精神的に。まだ胃薬残ってたかな?

「それはそうと美鶴殿、私たちを待っていたようだが、なにか用事でも?」

 セレスが胸の下で腕を組んで訊ねた。魅力的なバストが持ち上げられて周囲の野郎どもを釘づけにするが、本人に自覚はないな。ちなみに聖剣以外の武装は控室のロッカーに仕舞ってあるから普通に制服姿だ。

「うん、用というのは他でもない」

 セレスに対抗するように郷野も腕を組んだ。普段は白衣のせいで目立たないが、こいつはこいつでかなりけしからんものを持って……ハッ! 郷野のやつ、俺を見て笑ってやがる。この女、自覚してやるタイプだ!

「秘密イベントのことなら教えないぞ」

 俺は視線を店内の方に逸らした。危ない危ない。まんまと郷野の計略に嵌るとこだったぜ。そこになんの意図があるのかは知らんけど。

「これはまたけち臭いなぁ。……白峰君をアトミック・ソルジャー」

「待て、今なんか俺を核実験演習で被爆させるような呟きが聞こえたぞ」

「ん? 白峰君、体中に真新しい切り傷がついているゾ? どうしたんだい?」

 無視された。いやそれよりもぬかった! 大したことない傷だから治療を受けるの忘れてた!

「や、これはなんでもないんだ。カッター使ってたら刃が折れて飛んできただけだ」

「いやいや、カッターの刃が折れたくらいでそんな傷はつかないだろう。まるで真剣でちゃんばらでもやってきたように見えるゾ?」

 郷野め、相変わらず妙なところで鋭いな。

「どれ、私が手当てしてあげよう」

「必要ねえよ。こんなの、唾つけときゃ治るって」

「君はそんな根も葉もない民間療法を信じているのかい?」

 おかしそうにクスリと笑われた。人を見下す態度がなんとも腹立たしい。

「約束しただろう、白峰君。学際中に怪我をしたら保険委員長として手当してあげると」

「言ってたけど約束した覚えはねえよ!? それにお前の治療を受けて無事で済むわけがない!」

「セレスティナ君、少し白峰君を借りるけどいいかな?」

「聞けよ話!?」

 マズイ、胃がキリキリしてきたぞ。なんで俺の周りはこんなやつらばっかりなんだ。

 俺は一緒にいても胃が痛くならない常識人・セレスを見る。きっと今の俺は救いを求めるような目をしているだろうね。

「ああ、零児の怪我を手当してもらえるのだろう? よろしく頼む」

「セレスさん!?」

 救いの手は伸ばされもしなかった。セレスさん、あなた郷野が学内でなんて呼ばれてるか知らないんですか?

「なにを嫌がっているんだ、零児。明日のこともある。傷はしっかり癒しておけ」

「せめて医者を選ばせてくださいっ!」

 セレスが純真に俺を想って言ってくれてるのはわかる。でも今回ばかりはその優しさが胃を締めつけるんだよ。そろそろ吐血するぞ?

「では行こうか、白峰君」

 くるりとニヤケ顔で振り返った郷野は――その手にスタンガンを握っていた。

「……ナンデスカソレハ?」

「スタンガンだが」郷野は眉を顰めて顎に手をやり、「ふむ、それ以外に見えるとすれば目の治療も必要になるな」

「違えよ! なんでそんなもんをお前が持って俺に向けてんのか訊いてるんだ!」

「なんだそういうことか。これは白峰君を捕獲するためにクラスの田中君に借りたのサ」

「誰だよ田中ってそんな適当な苗字のやつクラスにいねえよ匿名希望か! ……あ、いや待て近づけるな。わ、わかった、観念しよう。だからそのスタンガンは仕舞ってぎゃああああああああっ!?」

 こんな時、グレアムみたいな強靭な体を持ってたら気絶せずに済むのかな?



「――ふざけんなよ郷野っ!」

 俺はそんなことを叫びながら目を覚ました。アレが全部夢だったなら思わずスキップしたくなるほど嬉しいのだが、残念なことに俺がいる場所は保健室のベッドの上だった。

「やあ、意外と早いお目覚めだね、白峰君」

 郷野は保健室の棚を漁る手を止めてこちらに顔を向けた。

「で、なにやってんだよ?」

「昨日まであった場所に治療道具がなくてね。それを探してるのサ」

 ガサゴソと適当に保健室を荒らす郷野。こいつが本当に保険委員長なのか既に怪しいぞ。

「白峰君、メチレンブルーがどこにあるか知らないかい?」

「なんで切り傷の手当にメトヘモグロビン血症の治療薬が必要になるのかを教えろ!」

 こいつがどうして『悪魔の保険委員長』と呼ばれているのかわかった気がした。

「普通に消毒してバンソウコウ貼れば終わりだろうが」

「そんな甘い治療を私がするとでも? ああ、これかな? ……いや違った。ただのアクリノールだ」

「それだよ俺が今欲しい消毒薬は!」

 アクリノールとはバンソウコウやガーゼに染み込んでいる黄色いアレのことだ。

「てか先生はいないのかよ?」

「養護教諭の磯原先生ならそこで酔い潰れているけど?」

「もうそいつクビにしろよ!」

 学園祭だからってなんで昼間っから酒煽ってんだよ! おかしいだろ教師として!

「もういい、自分で手当する」

 俺はベッドから降りようと体をずらすが、

「おっとそれはさせないゾ」

 シュルルル、バシッ! どんなテクニックなのか、郷野が白衣のポケットから取り出した包帯で俺は一瞬にしてグルグル巻きにされてしまった。ハイカルでもこんなミノムシ状態にはなってなかったぞ。

「な、なにしやがる!」

「テーピングだよ」

 すまし顔で、郷野。

「さてと、白峰君も気がついたことだし、これから拷も……もとい治療を始めよう」

「今さりげなく『拷問』って言いかけたろ?」

「白峰君、君はどこまで嘘をついてるんだい?」

 郷野はベッドに腰掛け――るどころか、包帯で束縛された俺の腹に跨ってきた。そのまま胸を見せつけるように身を屈め、俺の頬に艶めかしく手を添えてくる。

 色仕掛けってやつか。その手には食わないぜ。確かにこいつは美人だが、こんなことを躊躇いなくやる変人は俺の好みじゃ胸でかいなぁ……ハッ! 今のは違うぞ単に視覚情報を述べただけであって俺は別に――

「ふふふ、動揺しているね、白峰君。やはり君は面白いよ」

 不敵に笑った郷野は満足したように俺の体から離れた。そのままベッドに腰を落ち着ける。ほっとする俺。

「こんなことまでして、お前は一体なにが聞きたいんだよ」

「白峰君が留学生や外国人の先生以外に隠してること、かな? いや、桜居君は知っているようだね。あと他のクラスだけど迫間君と四条君も」

「な」

 なんなんだこいつ。感がいいにも程度ってもんがあるだろ。

「リーゼロッテ君やセレスティナ君もそうだけど、この学園にいる外国人は全員が似たようなアクセサリーをつけているだろう? そこにはなにか意味があると思うんだ」

 アクセサリー……〈言意の調べ〉か。ペンダントにブレスレットに指輪など、形は様々なのによく気がついたな。

 こりゃもう、下手に惚けても無駄だ。

「……知ってどうすんだよ?」

「どうもしないサ。ただ知りたいだけ。こう見えて、私は隠し事をされるのが嫌いなんだ」

 隠し事を暴くのが好きの間違いだろ。

 しかしどうする?

 話したところで最悪俺がデンパと思われる程度だ。監査局的に実害はない。一般人には桜居という前例もいるし、知った郷野自身がどうこうするとも思えない。

 だが、郷野の口から真実が広まる可能性は捨てきれないぞ。その場合、郷野がデンパと噂されることが最悪ではない。最悪は、広まった真実を皆が信じてしまったことで異世界人が迫害させる危険だ。

 人は自分たちと違う存在を恐れてしまう。地球人同士ですら人種差別なんてものがあるんだから、皆がすんなりと受け入れてくれる確率は限りなくゼロに近いだろう。この地球で暮らす力なき異世界人たちは、心のどこかでそういった迫害を恐れている者も多いと思う。そんな彼らを保護するのが異界監査局であり、俺たち異界監査官だ。

 だから、やはり言えない。郷野に口止めを頼めばいいのかもしれんが、残念なことに俺はこいつの口の堅さを信用していないんだ。その点桜居はアレで信用できるし、真実を知る前から既にデンパさんだったから問題にならなかった。

〈魔武具生成〉――サバイバルナイフ。

「悪いな、郷野。俺が勝手に秘密をバラすわけにはいかなくてね」

 右手に巻かれた包帯を突き破ったナイフで、俺は自分自身を解放して立ち上がる。切り裂かれた包帯がハラリと力なく床に散らばった。

 郷野は俺がナイフを隠し持っていた(と思ったらしい)ことに驚いているようだったが、すぐに目の色を変えて俺と相対する。

「そう言われると、ますます知りたくなってくるゾ。人間誰しも天邪鬼なのだ」

 郷野がまたも俺を捕まえるために包帯を構えたその時――


「レージ! こんなところにいた!」


 壊れそうな勢いでスライドされた保健室のドアの先に、長い金髪に紅くクリっとした瞳の可愛らしい少女が立っていた。

「リーゼ、どうしてここに?」

 俺の質問には答えずリーゼはずかずかと保健室に足を踏み込んできた。そして俺の右手首を掴んで無理やり引っ張っていく。

「ちょ、なんだよいきなり?」

「レージは私のものなんだから、一緒に来なさい」

「俺は敵じゃなかったのかよ?」

「今はいいの!」

 むくれた顔でそう言ったリーゼから、なにやらずっと我慢してきたものが爆発したような感情が伝わってきた。

「うん、今回はこれくらいにしておこう。白峰君、これを」

 郷野が投げ寄越したそれを俺は左手でキャッチする。

 バンソウコウの箱だった。それもまだ開けてない。

「リーゼロッテ君にでも貼ってもらうといい」

 ニヤリ、と楽しそうな含み笑いを浮かべる郷野に、俺は一言お礼を――

「持ってんなら最初から使えよっ!!」

 ――言ってたまるか。



「そんで、お前は俺を連れ出してどうするつもりなんだよ、リーゼ」

 俺とリーゼは校舎を出て適当なベンチに座っている。リーゼはシールを貼ることが楽しくて仕方ない子供って感じの顔をし、俺の傷口にバンソウコウをペタペタ。雑過ぎて傷がはみ出ているけど文句は言わないでおこう。郷野にされるよりは百倍マシだ。

 リーゼは最後の傷口――左頬にバンソウコウを貼り終えると、ルビーレッドの瞳でじっと俺を見詰める。

「遊ぶのよ」

「なんだって?」

 俺はリーゼの言いたいことが計り切れずポカンとした。

「レージ、最近わたしに構ってくれないもん」

「そりゃあ、セレスとチーム組んだから、いろいろ打ち合わせとかもやってるし。あんまり時間がなくてな」

 ていうか、リーゼが敵対宣言したのも理由の一つだ。……いや、それは人のせいにしてるな。時間はなかったけど全くというわけじゃない。敵対宣言の気まずさに負けて構ってやらなかった俺の責任だ。

「レージがあの騎士崩れに盗られてから、なんだかよくわからないけど楽しくなくなった。退屈じゃなかったけど、楽しくないのは嫌い。それに、レージが騎士崩れと一緒に戦ってるとこ見てたら、この辺がモヤモヤして変な感じになったの」

 リーゼは自分の発展途上な胸に手を置いた。

「ミツルならなんか知ってると思って訊いたら、レージと遊べば治るって言われた」

 そうか。リーゼが来てからやけにあっさり退いたと思ったら、郷野のやつ、最初から俺をセレスと引き離してリーゼに会わせる算段だったんだ。しかもリーゼの様子からして示し合わせていたわけじゃない。恐らく俺が気絶している間に保健室に来るように伝えたのだろう。

「だからレージ、遊ぶわよ」

 単純に、リーゼは寂しかったんだと思う。強気な命令口調で言っているが、掴んだ手を離せば俺がどっかに行ってしまう、そんな怯えを孕んだように俺を見る瞳が微かに揺れていた。

 兄貴を取られそうになる妹の心情なんだろうか? 俺にはわからんけど。

 しゃあないな。

「わかったよ。遊ぶか」

「ホント!」

「ああ、ホントだ」

 俺はくしゃくしゃとリーゼの頭を撫でてやった。リーゼは気持ちよさげに目を細める。子猫みたいだな。

「ただし、昼休憩の間だけだぞ。午後からはお前の試合があるんだ」

「うん、わかってる。あんなやつらなんて〝魔帝〟で最強のわたしの敵じゃないわ」

 いつものフレーズが出たからもう大丈夫だろうね。セレス、悪いけど昼休憩の間だけ一時解散させてくれ。

「あれ? そういやレランジェはどうしたんだよ?」

 とりあえず腹ごしらえをしようと立ち上がった時、リーゼの近くに控えているはずの俺専用暴言スプリンクラーがいないことに気がついた。

「レランジェならミツルと話してる時に用があるってどっかに行った」

「そうか」

 よっしゃ、やつが不在なら俺の胃は安泰だな。


「お呼びですか、ゴミ虫様?」


 ……俺の心のガッツポーズを返せ。

「主ほったらかしにしてどこ行ってたんだよ、レランジェ」

「異界技術研究開発部にて戦闘前の最終調整安定です。美鶴様にならマスターをお任せできると判断しました」

 もうあの部署はこいつのためにあるような気がしてきた。

「ところでゴミ虫様、先程の試合はなんですか?」

「あん? なんか文句でもあんのかよ?」

「なぜ素直に斬られて死んでくださらなかったのですか?」

「負ける気がないからだ! あと殺しちゃダメなルールだぞわかってんのか!」

 この機械人形は一向に俺に対するバグが取れないな。

「殺しちゃダメなら、死なせなければいいんでしょ?」

 当然のことのように語るリーゼ。この魔帝様御一行を相手にする二人が気の毒だな。頼むから死んでくれるなよ。

「まあ、なんだ。対抗戦、適度に頑張れよ」

「うん。絶対勝って騎士崩れからレージを取り戻すから」

 あー、そういやリーゼにとっての賞品は俺だったっけ。

「マスターはなにがあろうともレランジェが守護安定です」

 このゴスロリメイド様は普段通りだな。

「んじゃ、まずはメシにしようぜ。腹が減ってはなんとやらだ」

 日本の諺には流石に疎く首を傾げるリーゼに、俺は適当に焼きそばやフライドポテトを奢ってやることにした。


 その後、俺がリーゼたちと学園祭を回っていたことを知ったセレスにさんざん文句を言われた。ごめんなさい……。


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