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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第三巻
103/314

三章 監査官対抗戦・本選(6)

 どこぞの双子が武器兵器を叩き売りしてくれたおかげで、フィールド整備のためのインターバルは思いのほか時間がかかっていた。

「やったな、零児。この調子で明日の試合も勝とう」

「そうだな。勝たなきゃ優勝できねえもんな」

 出入口に鉄格子でも嵌めればたちまち牢獄と化してしまいそうな選手控室にて、俺は凛々しい笑みを浮かべるセレスと控えめなハイタッチを交わした。

「とはいえ、俺には不安しかないんだけど」

 次に当たる相手はまだ決定していないものの、予想はできている。あいつらが勝ち上がったとして、果たして俺らが勝てるのか激しく心配だ。

「レイ・チャン」

 軽く室内を見回してみる。午後から試合があるやつらは全員いない。リーゼとレランジェもだ。次の試合をするチームも控室の外に出ているため、この場にいるのは第一試合を終えた俺たちだけだな。

「ねえ、レイ・チャン」

「いえ、人違いです」

 稲葉から聞いたところによると、リーゼたちは俺らの試合が決着した後すぐに転移陣から学園に戻ってしまったらしい。こういう試合観戦はあのお嬢様好みだと思ったんだが、どうやら俺ら以外は本気で眼中にないみたいだな。

「嘘はよくないネ、レイ・チャン」

「その人なら引っ越しましたよ。あとお前が言うな」

 まったく、他のやつらも少しはライバルの分析くらいしろよ。なんか拍子抜けじゃないか。出し惜しみなんてせず、入院している間に温めておいた理論と設計を試しておけばよかったぜ。

「レイ・チャン!」

「零児、呼んでいるぞ」

「違う! 俺はそんな名前じゃねえ!」

 はっ! しまった。穏便に他人を演じるつもりだったのに……。

「……なんの用だよ、リャンシャオ」

 俺は渋々とチャイナドレスっ娘の三つ編みポニーテールを確認して訊ねた。もっとも、気絶した妹の方は医療班に担架で運ばれていたからここにはいないのだけど。

 リャンシャオは薄い胸の前で両手の指を絡ませながら、上目遣いに俺を見詰めて口を開く。

「レイ・チャンは、強いアル。ちょっと、惚れたヨ」

「……………………………………………………は?」

 俺の聞き間違いだと嬉しいんだが、今、変な言葉が聞こえたぞ。セレスもなにやらあんぐりとしているし、確認のためにも訊き返した方がいいな。

「悪い、歓声がうるさくて聞こえなかった。もう一回言ってくれないか?」

 頼む、俺の幻聴であってくれ。

「二回も、言わせないでほしいネ。ワタシはレイ・チャンに惚れたアル」

 くっそ幻聴じゃねえ!

 ポッと頬を赤く染め、体をくねくねさせて乙女のように恥じらうリャンシャオ。頭の狐耳がピコピコ動き、尻尾も飼い犬みたく左右を忙しなく往復しているぞ。

「レイ・チャン、提案があるネ」

「な、なんだよ」

「今から結婚するヨ!」

「はぁあッ!?」

 リャンシャオが勢いよく抱きついてきた。ひぃ! と俺の口から情けない悲鳴が飛び出す。

「ちょっと待て落ち着け! たぶんお前は俺がどっか変なとこを叩いたせいで正気を失ってるんだ。つか離れろ!」

「そんなことないヨ。ワタシは本気ネ。それにワタシの種族の女は屈服させられた男と結ばれないといけないアル。これは掟ネ」

 なんて難儀な種族だ。

「リャンシャオが結婚するならワタシも一緒アル!」

「――ってチャンフェン!? お前どっから現れた!? 医療班に運ばれたんじゃなかったのかよ!?」

「回復したネ」

「早っ!?」

 左右の腕を半獣人の双子美少女に絡め取られる俺。なんだこの状況? これなんてエロゲ? 誰か説明してくれ!

「ほう、結婚するのか、零児。ソレハメデタイナ」

 セレスが温度のない口調で祝賀の意を表してきた。気のせいかな、翠色の瞳からは光が失われ、背後に『ゴゴゴ』と効果音がつきそうな黒いオーラを放ってらっしゃるように見えるんですけど。こ、コエェ……。

「ああ、そうだ。私の国では祝事の際に、剣を主役の左胸に突き立てるという習わしがあってだな」

「嘘だ! 祝い事の度に人死にの出る大参事じゃねえか! 聖剣を抜くな怖いから!」

「安心しろ。介錯をするは初めてだが、まあなんとかなる」

「介錯って言っちゃった!?」

「「レイ・チャン、もし優勝したら妻のために高級食材よろしくネ」」

「それが狙いかっ! お前らいい加減に冗談はやめて離れろ! ほら、次の試合が始まるぞ!」

 俺は双子を振り払い、なぜか乱心しているセレスから逃げるように控室を出た。


 控室の外に申し訳程度に置いてある観戦席に腰かける。対戦フィールドの整備は終わっており、既に二チームが中央に屹立して視殺戦を繰り広げていた。

 片や、俺と同じ本局所属のチーム、グレアム・ザトペックと稲葉レト。

 片や、第十一支局代表の六本腕の巨漢――パクダ・カットゥヤーヤナと、包帯マジシャン――ハイカル・アズミ。

 両チームは睨み合ったまま一言も喋らない。

 そして、開戦の花火が打ち上がった。誘波が早速楽しげに実況解説し始めるが、雑音なので無視しておく。

「どうした、小童? 今回はぶつぶつと耳障りな台詞を吐かんのか?」

 六本の腕を組むパクダが挑発的に口を開く。

「もしや、今になってビビっとんのか? 青いのう、小童。じゃけんどわしは手なぞ抜かん。昨日のようにはいかんぞ」

 ニヤリ、とパクダは笑みを浮かべる。姿からして悪魔みたいなだけに、空恐ろしいものを感じるな。

 だが、姿形だけではあのグレアムを畏れさせることなんてできやしない。

「てめえ的に、ぶつぶつ喋るやつは嫌いじゃあなかったのか?」

 グレアムの前髪で隠れてない方の瞳に狂気的な光が宿り、パクダの表情筋が硬直する。

「知らないなら俺的に教えてやろう。時間には限りってもんがある。そいつァどっかの神かなんかが定めた絶対的ルールだ。この試合も一時間しかねェわけで、なにが言いてェかっつうとアレだ……つまらねェことほざいてねェで、さっさとかかってこい」

 右手の人差し指だけを立て、クイクイっと『かかってこい』のジェスチャーをするグレアム。その挑発にパクダは完全に憤慨したようだ。真っ赤になった顔から湯気が出ている。

「容赦はせんけんの、小童。死なんよう気をつけい」

 ポウ、とパクダの首にかけられている数珠――七つある玉の一つが淡く緑色に輝いた。途端、パクダがその巨体からは想像できない俊敏さで一気にグレアムとの間合いを詰める。

 なんてスピードだ! 身軽なリャンシャオたちよりも断然に速い!

「擦り潰す!」

 緑色の輝きが消え、次に別の玉が黄色に輝く。と、パクダの全身がみるみるうちに鈍色に染まり、筋肉質から硬質な印象になった六本腕が佇むグレアムに猛攻を仕掛けた。あの光沢ある硬そうなボディは、恐らく鉄。アイアンゴーレムかあいつは?

 鉄骨を地面に落としたような生身の肉体ではありえない音が断続的に響く。パクダの拳は一撃一撃が凄まじく重い。地面が消し飛んだようなクレーターができるまであっという間だった。俺なんかが食らったら一瞬でミンチだぞアレ。

 だが――

「今のが本気だとすれば俺的に非常に残念なのだが、準備運動だよなァ?」

 クレーターの中央に立つグレアムは変わらぬ姿だった。元々薄汚れていた作業服が砂まみれになっただけのように見える。

「小童、わしの拳を全て受け逸らしたか」

 パクダは驚いているものの、動揺はしていない。あの嵐のごとき連続パンチを全て受けて逸らされたのなら……どうりで地面だけが吹っ飛んでるわけだ。

 グレアム・ザトペック。相変わらず常識外れなことしやがる。ところで戦っている二人の相棒たちは突っ立ったまま動いてないな。グレアムに任せとけば万事解決の稲葉はともかく、ハイカルは加勢してもいいだろうに。

「ふん、ならば受けられず避けられぬ攻撃をするまで」

 黄色から赤色へ、数珠の玉の輝きと、輝く位置が移行する。

 ボワッ! ガスコンロを点火した時のような音を発し、パクダの全身が赤く燃え上がった。火達磨になったパクダだが、彼自身にダメージはないようだ。

 炎を纏う能力。真夏の太陽がもたらすものとは違う直接的な熱気が、風に乗って俺にまで伝わってきた。

 くそ熱っ! そして暑い! 俺だったらあんなのの近くになんてとてもじゃないがいられないぞ。だからハイカルは見物を決め込んでるのか。

「面白ェ。そして楽しい」一番近くで熱を浴びているグレアムが笑う。「俺的に実に面白ェ力だ。そりゃアレか? てめえ的にあと四つ能力があるってことか?」

「ほう、よく気づきおったな、小童。まあ、これだけ見せればサルでも気づくか。わしには万物を構成する七つの要素を纏う力がある。言っておくが、この数珠は能力のブースター兼制御用の魔導具じゃけん、壊したところで力が使えんなるいうことはないぞ」

 万物を構成する七つの要素。インド辺りの自由思想家が唱えた七要素説に似てるな。確か、地・水・火・風・苦・楽・命だったっけ? 表沙汰にはならないが、そういう胡散臭い思想家や発明家などは大抵異世界と関わりを持っている。七要素説はパクダの世界に由来があるのかもしれん。

 最初は風の要素で高速移動し、次に地の要素で硬質化、そして今は火の要素を纏ってるってことか。

「貴様はもうわしに触れることすら叶わん。今なら降参を認めちゃる」

「難しい話は俺的によくわからんが、熱いってことだけわかってりゃあ充分だ」

 作業着の背に隠し持っていたトンファーを抜いたグレアムが――消えた。立っていた場所に砂塵だけが舞い上がっている。

 その事態を俺が認識した直後――

「おぐぅ!?」

 炎纏うパクダの腹に、グレアムのトンファーが減り込んでいた。

「丁度、俺的に太陽をぶっ壊してェと思ってたとこだ」

 衝撃が遅れてやってくるほどの一撃に、白目を剥いたパクダの巨体が背中側の壁まで何十メートルも吹っ飛んだ。大穴の穿たれた壁の真上にいた観客たちが悲鳴を上げる。

「あァ? ミスった。加減して残り四つも見るつもりだったってのに、俺的に残念な話だ」

 クルックルと両手のトンファーを回して独りごちるグレアム。パクダを殴打した方の手は、攻撃速度が速過ぎたせいか火傷すら負っていない。……化け物め。

「グレアム先輩! 後ろや!」

 今まで空気だった稲葉が始めて声を発した。グレアムは「あァ?」と振り返り――


 突如、背後に現れた巨大な棺桶に閉じ込められた。


 ハイカル・アズミ。

 もう一人の空気だったやつの仕業だ。グレアムとはかなり距離があるはずなのに、一体なにをしたんだ?

 無言で煙管を吹かしているハイカルがパチンと指を鳴らす。すると、どこからともなくマッチで火をつけたような音が微かに聞こえた。

 注意深く観察することで俺は気づいた。グレアムを封じ込めた棺桶の周囲の地面に、長いロープが複雑に張り巡らされてやがる。そのロープの先端は火がついていて、棺桶に向かって凄まじい勢いで走っている。

 導火線だ。

 ほっといたらどうなるかなんて考えるまでもない。棺桶は中のグレアムごと木端微塵だろう。

「あかん!」

 稲葉が導火線の火を消すために動く。長さから考えてリミットは一分ってとこだな。それまでに助け出すか、グレアムが自分で脱出するしかない。ハイカル・アズミ、マジシャンなら自分が脱出マジック見せろよ。

 ゆらり、と。

 実体化した幽霊のような足取りで、ハイカルが棺桶と稲葉の間に立ち塞がった。

「そこどきぃ! 紫雷装纏(しらいそうてん)――」

 稲葉の体に紫色の電気が帯びる。その電気が稲葉の右手に集約し、槍のような形状を作る。

「――紫電滅槍(しでんめっそう)!」

 叫んだタイミングで稲葉は雷の槍を投擲した。紫色の残光を引く雷の槍がレーザー光線よろしく宙を(はし)る。

 ハイカルは無言。包帯の合間から覗く片目で迫る雷槍を捉えたまま、避ける素振りすら見せない。それどころか、被り穴を前方に向けたシルクハットを闘牛士のように両手で持ち――稲葉の雷槍を、帽子の中に吸い込んだ。

「なんやて!?」

 驚き警戒して立ち止まる稲葉。対してハイカルは再び指を鳴らす。と、シルクハットから今しがた吸い込んだ稲葉の雷槍が飛び出した。

「あうっ!?」

 反応が遅れ、稲葉は自分自身の技を浴びる。どうにか直撃は避けたものの、左腕をやられたみたいだな。帯電能力者の稲葉が電気で痺れることはないが、ダメージは少なくないはずだ。

「この、黄雷装纏(おうらいそうてん)――」

 稲葉の体に黄色い電気が纏う。稲葉は帯びた電気の色によってなにかの能力が一つ向上するんだ。赤は腕力強化、青は跳躍力強化、紫は射程力強化といった具合にな。

 確か黄色は……瞬発力強化だ。

「――瞬神剛破(しゅんしんごうは)!」

 比喩でなく雷速でハイカルに肉薄した稲葉が速度を乗せた右拳を放つ。ちなみに技名を恥ずかしげもなく叫ぶのは稲葉がそれをカッコイイと思っているだけで、特に意味はない。

 黄雷纏う超速の鉄拳がハイカルの顔面を捉えた――かのように見えた。

 ハイカルは紙っぺらのようにヒラリとかわしていた。そして足を引っ掛けて稲葉を転倒させる。

 顔面から派手にすっ転んだ稲葉はすぐに起き上がろうとするが――ガシャン! 地面に深々と突き刺さった手枷足枷で四肢を封じられてしまった。仰向けのまま地面に縫いつけられる形だ。あの枷も棺桶と同じく、突然そこに現れたように見えたぞ。どうなってんだ?

「くっ、動けへん……」

 まずいな。新米監査官の限界だ。しかも稲葉は単純で読まれ易い。本選にまで勝ち上がってきたベテラン(?)の監査官相手に一対一はかなり厳しいぞ。

 ハイカルは煙管を一つ吹かし、シルクハットからSF映画にでも出てきそうな光線銃っぽい拳銃を取り出した。流石の俺もあんな武器は知らん。知ってるのは地球産だけだ。

 銃口が稲葉の背に向けられる。急所を外して気絶させる腹なのだろう。

 とその時だった。

 ついに、導火線の火が棺桶にまで到達してしまった。

 それがなにを意味するかは、ご想像通り。ダイナマイトを十個使っても足りそうにない規模の爆発が起こった。

 あらかじめ油が撒かれていたかのように火炎が広がり、もくもくと黒煙が立ち昇る。辺り一面には微塵に砕けた棺桶の破片が散らばっている。


 そんな中で、やつは立っていた。


「おかしい、俺的に不思議な話だ。なんかに閉じ込められたと思ったら急に眠くなっちまって、目ェ覚めたら周りは大火事ときた。ハハハ、なんだァこりゃ? 夢か? 夢だとしても俺的にわくわくするじゃねェか」

 火災を背景に悪魔のように笑うそいつは、言うまでもなくグレアムだ。作業服こそ焼け焦げてボロボロだが、本人に大したダメージはなそうだな。

「グレアム先輩……」

 相方の復活に瞳を輝かせた稲葉が歓喜の声を上げ――

「あんた、どこまでバケモンなんや?」

 ――なかった。

「おう、誉めてもなんも出ねェぜ。それよりお前的になんだァその格好は?」

 グレアムは地面に縫いつけられた稲葉をまじまじと見、

「……いや、なんだ、悪ィ。俺的に後輩の趣味には口出ししねェ主義なんだ」

「ちゃうねん! 捕まっとるだけや!」

「あァ? そうか、だったら話は早ェな。そこの包帯マンをぶっ壊せばいいんだろ?」

 思わず萎縮してしまいそうな闘気がグレアムから発せられ、ハイカルは銃口の照準を変更する。

 躊躇いなくトリガーが引かれる。

 名状しがたい拳銃から飛び出したなんだかよくわからない緑色の光線は、グレアムのトンファーに呆気なく弾かれた。

「おいおい、包帯マン。そこの後輩は俺様が無理やり対抗戦に参加させた大事な相棒なわけだが、なんで怪我ァしてんだ? 全身の骨をバラバラに解体するぞコラ!」

「!」

 気迫。たったそれだけで、片目を畏怖に見開いたハイカルは数歩後ずさってしまった。

 そしてそれが命取りになる。

 再度ハイカルが引き金に指をかけた時には既に、グレアムは彼の包帯顔にトンファーをぶち込んでいた。下向きに力が加えられていたのか、ハイカルはバウンドすらせずに地面に減り込む。

 ピクピクと痙攣して完全に失神したハイカルだったが、まだ勝利の判定が行われない。

 理由は、グレアムの後ろ。

「小童、今度こそ潰しちゃる」

 パクダだ。まるで魂が輝いているような神々しい光を宿した六の拳が、一斉にグレアムへと殺到する。地面が割れ、轟音が響く。これまでとは桁違いの威力は、文字通り七要素の『命』を削って打ち放ったものだろう。

 しかし――

「悪ィ、俺的に一度倒したてめェにはもう興味ねェんだ」

 グレアムは、いつの間にかパクダの背後に回っていた。そして振り向いたパクダの顎を、飛び上がりながらトンファーで殴打した。

 脳が激しく揺さ振られたパクダは、口から血反吐を撒き散らしながらよろけ、ドスンと糸が切れたように崩れ落ちた。

 今度こそ決着がついたな。


『一回戦第二試合、勝者はグレアムちゃんとレトちゃんチームでぇーす!』


 間もなくして、誘波の間の抜けたおっとり声と、観客たちの大歓声が闘技場の隅々まで響き渡った。



「あわわわ、レイ・チャンたちに勝ってたらあんな怪物と戦うことになってたヨ」

「相棒の娘はともかく、あのグレアムって男とは絶対戦いたくないアル」

 俺のすぐ後から試合観戦を始めていたリャンシャオとチェンフェンが、怯えたように身を寄せ合って狐耳と尻尾を丸めているな。怯えたいのは次にあいつと戦う俺の方だっての。

「零児、今のうちに訊いておきたいことがある」

 セレスが騎士モードの凛々しい顔つきになってそう言ってきた。俺はセレスがなにを問うてくるのか、だいたい理解している。

「グレアム殿は、一体どのような能力を持っているのだ?」

 やっぱり、そうきたな。

 次に戦う相手だ。隠す意味なんてない。俺は正直に答えることにした。

「ねえよ」

 セレスはしばらく、なにを言われたのかわからないって顔をしていた。

「零児、すまない。私は『ネーヨ』という能力には心当たりがない。もっと詳しく説明してもらえないか?」

 なんだよ『ネーヨ』って。逆に俺が訊きたい。

「あいつは魔術や超能力のような不思議パワーは使えないし、体内に魔力すら持っていない。普通の非力な地球人と同じなんだよ。……肉体構造的にはな」

 馬鹿な、とセレスは驚愕した。当然だ、あんな戦いを見て誰がグレアムを無能力者だと思うもんか。俺だって最初はそうだった。

「あえてあいつの力がなんなのかを言葉にするとしたら、人並み外れた強靭な肉体と身体能力ってとこだな。あー、あとあのトンファーか。アレはグレアム専用に監査局が作った 絶対に壊れない特製品らしい」

 ここまで話してもセレスは鵜呑みにできないようだ。腕を組み、難しい顔をして唸っている。

「要は、純粋に力だけの化け物ってことだよ」

 俺だって馬鹿じゃない。優勝を狙ってるからにはグレアム対策だってちゃんと考えたさ。でもな、いくら考えても『決して近寄るな』『決して近寄らせるな』『遠距離から狙い撃て』くらいしか出てこない。俺にとってはどれも致命的に無理な話だ。

 参ったね、どうしよ?


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