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シャッフルワールド!!  作者: 夙多史
第三巻
102/314

三章 監査官対抗戦・本選(5)

 そうして、一回戦第一試合が始まった。

 準備と言っても俺は特にすることもなく、セレスも既に武装していた。相手の双子も同様で、チャイナドレスから特に変わった様子もなくバトルフィールドにて俺たちと対峙している。

 チーム二人ともに気絶、降参すれば負け。ここには場外なんてものはないから条件はそれだけだ。当然、相手を殺してはならない。

 時間制限は一時間。決着しなければ勝敗は判定任せとなる。

 時が止まったかのような静謐。ピリピリとした空気が肌と神経を刺激する。

 長い。一秒一秒が分単位で流れるような感覚の中、俺は気持ち体勢を低くして身構える。

 そして――ドォオン!!

 モニターに『BATTLE START』の文字が表示されるのと同時に、開戦の花火が景気よく打ち上がった。


〈魔武具生成〉――日本刀。


 俺の右手に集った魔力が、最も得意とする武器として具現する。

「気をつけろセレス、相手の手の内がわからない」

「承知している。零児こそ油断禁物だ」

 セレスは相手の双子から目を離さず超長剣を抜き放つ。対する双子もカンフーのような構えを取った。あいつらは素手なのか。なんか、こっちだけ武器使って申し訳ない気分だ。棍にするべきだったか。

「チェンフェン、景気づけに一発派手にお見舞いするネ!」

「了解! 出し惜しみはしないアル!」

 ポン!

 凄まじくマヌケな音がした。なんだあれ? チェンフェンの前にデフォルメされた雲のような白煙が発生したぞ。


 ポン! ポン! ポン! ポン! ポン! ポン! ポン! ポン! ポン! ポン! ポン! ポン! ポン! ポン! ポン! ポン! ポン! ポン! ポン! ポン! ポン! ポン! ポン! ポン! ポン! ポン! ポン! ポン! ポン!


 初めの小爆発を皮切りに、卒業証書とかを入れる丸筒のキャップを抜いた時のようなアホらしい音が連続して響く。

 空中に無数にたゆたう白煙。視界を悪くさせる作戦かと思いきや、その全てから一斉に魚影が飛び出した。

「なにっ!?」

 召喚術? いや生き物じゃない。両先端に龍の頭と魚の尾を模ったハリボテがついた竹筒だ。その左右にはヒレのように取りつけられた四つの小筒があり、そこから噴射される炎で飛翔している。

「あれは、火龍出水(フォロンチュースイ)じゃねえか!」

 昔の水軍が敵船を焼き討ちするために用いたロケット兵器だ。こいつら素手じゃねえぞ! カンフーの構えはフェイクかよ!

「いきなりで驚きはしたが、狙いが定まってないぞ?」

 セレスの言う通り、龍頭の空中魚雷群のほとんどが俺たちに掠りもしない軌道を飛んでいる。だが――

「違うぞセレス!」

 俺が叫んだ直後、全ての龍の口が火箭――火薬の燃焼ガスを利用して飛翔するロケット花火みたいなもの――を吐き出した。火龍出水は多段式ロケットなんだよ。

 まるで龍の息吹がごとく、一つの口からいくつもの火箭付きの火矢が飛び出し俺たちを襲う。狙いが定められているわけではないが、この数はとてもじゃないが避け切れないし、捌き切れない。最近は数撃ちゃ当たる戦法が流行ってるってことがよくわかるなおい。

 例に漏れず、防ぐしか手はないな。

「セレス、盾を生成する。俺の後ろへ」

「ダメだ零児! 今武器を捨てるな!」

 後ろへと言ったのに、セレスは止める間もなく俺の前に立った。

「前方だけならば私が防ぐ!」

 セレスは剣尖を斜め下向きに構え、迫りくる火矢を見据えたまま地面に大きく半円を描く。瞬間、聖剣ラハイアンが強烈に輝き、その切っ先で抉られた地面からも同じ光が爆発的に噴出した。

 天高く立ち昇る光の壁。

 眩いが、痛くはない。寧ろ温かくて優しい感じさえする。なのに、そんな白光に包まれた火矢は、キャンプファイヤーに飛び込む虫ケラのごとく次々と消滅していった。

 こんなこともできるのか、セレスの聖剣技は。

 なんて感心してる場合じゃないな。

「呆けるな零児、来るぞ!」

 光の壁を迂回する形で双子が左右から挟撃してきた。セレスはこれを読んでいたんだ。だから俺に武器を捨てさせなかった。俺の〈魔武具生成〉は制限上、一度に一つの武具しか生成できない。大盾なんて持ってたらやばかった。

 俺とセレスは背中合わせとなって駆け迫る双子と相対する。俺の方が三つ編みポニテの姉――リャンシャオ。てことはセレスの方が……は? 向こうも三つ編みポニテだと!?

「「覚悟するネ!」」

 二人のリャンシャオが同時に同じ台詞を叫び、低い体勢から鋭い掌底を放つ。今度は本当にカンフーだ。

「く、わけわからんがさせるかよ!」

 恐らく見えてない間にチェンフェンが髪を一つに束ねたんだ。俺はリャンシャオA(仮)の掌底破を間一髪でかわし、峰に返した日本刀で気絶目的に後ろ首を叩く。

 ボン。

 リャンシャオAが白煙と共に破裂した。

「……はい?」

 目を点にする俺の前を、ヒラヒラと短冊のような紙片が舞う。ついつい取ってみると、それにはこう書かれていた。


『ハズレ』


 ムカつく!

 なんぞコレ? 分身の術とかそういうアレか?

 セレスの方を見ると、そっちのリャンシャオもアホらしい音を立てて破裂していた。

 と――しゅたっ。

 空から、三人目のリャンシャオが降ってきた。セレスの真後ろに。

 ニシッと笑ったそいつは――本物だ!

「セレス!?」

「遅いネ!」

 振り向いたセレスの顎下を、リャンシャオの振り上げた爪先が掠める。咄嗟にセレスは聖剣を横薙ぎに振るったが、リャンシャオは身軽にもその場で飛んでかわし、隙のできたセレスの鳩尾に双掌を打ち込んだ。

「がはっ」

 くの字に曲がったセレスの体が宙に浮いて吹っ飛ぶ。

 息つく間もなくリャンシャオのターゲットが俺に変更される。

 足下で爆発でも起こったかのような跳躍で一瞬にして俺との距離を詰めたリャンシャオは――ポン! ポン!

 広げた両手に二振りの湾曲刀を出現させた。日本刀よりも刃の身幅が広く、柄尻に赤い刀彩が装飾されている。重量と遠心力で高威力を発揮する中国の刀――柳葉刀りゅうようとうだ。

「アイヤーッ!!」

 気合いと共に身を大きく捻った回転斬りが来る。完全に素手だと思い込んでいた俺は、一閃目はどうにかかわしたものの、二閃目は左二の腕を浅く斬りつけられてしまった。半袖の制服がもっと短くなり、つーと赤い液体が腕を這う。

 だが――

「隙だらけだ!」

 二撃で仕留め切れず、回転の遠心力で背中を見せることとなったリャンシャオに俺は日本刀を振り被り――

 ギラッ。

 遅れて引っ張られてきた三つ編みポニーテールの先端が、鈍く光ったことに気がついた。

「――ッ!?」

 ギィイン!!

 俺が即座に防御に回した日本刀と、ポニテに隠された『三本目』の柳葉刀が激しい金属音を奏でた。

 重量ある一撃に俺はバランスを崩して転がった。なんとか受け身を取って体勢を整えられたのは吉だったな。

「アレを見切るとは、なかなかやるアル、レイ・チャン」

 リャンシャオがくるくると空中で前転しながら追撃をかけてくる。回転の勢いを乗せた二本の柳葉刀が同時に振り下ろされる。俺はどうにか横に転がって避けるも、柳葉刀が地面を大きく抉ったことで発生した石礫が弾丸のように体を撃つ。

「くそっ」

 痛みを気合いで押し殺して峰打ちを放つ。だが、軽業師のように身の軽いリャンシャオは簡単にかわしてしまう。

「峰打ちなんて生温いことしてても当たらないアル」

「それもそうだ」

 こいつらレベルの実力者に手加減して勝てるほど俺はチートじゃない。殺さないまでも、重傷負わせて病院に送りつける気概で相手しないとこちらがやられる。セレスも心配だが、敵から目を離すわけにはいかない。

「ふふん、覚悟が決まった目になったネ」

 再び攻めてくるリャンシャオに、俺は日本刀の袈裟斬で応戦。しかし――

 ポン。


 例のマヌケな爆発音が鳴り、リャンシャオが縮んだ。


「はい?」

 見た目幼稚園児くらいになったリャンシャオの頭上を日本刀が空振る。擦り抜けてきた子供リャンシャオは柳葉刀を地面に突き立て、鉄棒で逆上がりをする要領で俺の股間を蹴り――!?

「――ッッッ!?」

 声にならない悲鳴を上げてしまったことは、人類の半数の人間ならわかるだろう? この全身に迸る思わず転げ回りたく感覚は痛いとかじゃないんだ。でも表現するなら『痛い』が一番近い。

 なんか、最近、よくお股を蹴られる気がする……。

「アハハッ! 面白いくらい悶え苦しんだアルね」

 元の姿に戻ったリャンシャオが柳葉刀の背で肩をコンコンと叩く。畜生、ケラケラ笑いやがって。御婿に行けなくなったらどうする?

「い、言っとくが、も、もう同じ手は、食わねえぞ」

 生まれたての小鹿のごとく内股で立つ俺を、どうか見なかったことにしてくれ。足のガクガクが止まらねぇ……。

「そうアルね。ここからは真っ向勝負アル」

「――と見せかけて神火飛鴉(シェンフォフェイヤー)!!」

 ゴオオオオ! という激しい噴出音に視線だけを動かすと、不格好な巨鳥のハリボテが腹部に装着された火箭を推進力に突っ込んできていた。そのハリボテの上には勝ち誇った憎たらしい笑みを浮かべるチェンフェンが四つん這いで搭乗している。神火飛鴉。内部に爆弾を詰めた攻城用の無人特攻機だ。人乗ってるけど。

「あれもこれもどっから出してんだよ!」

 俺は回避しようとサイドステップを試みるが、チェンフェンが巧みにハリボテを操作して俺を追跡してくる。

「逃がさないヨ!」

 さらにリャンシャオが両手の柳葉刀を虚空に消し、代わりに出現させた縄付きの鉄製鉤爪――飛爪を投げつけて俺の日本刀と左腕を絡め取った。やべぇ。

「中の火薬は死なない程度に調整してるネ。だから安心して吹っ飛ぶといいヨ」

 神火飛鴉から飛び降りつつ、チェンフェン。

「そしてあの騎士みたくさっさと倒れるアル」

 ぐいっとなまら強い腕力で俺を神火飛鴉の方へ引っ張りつつ、リャンシャオ。


「勝手に私を倒したことにしないでもらいたい」


 凛とした声が闘技場に響いた。刹那、宙を駆ける渦巻状の光刃が俺を拘束していた飛爪の縄を斬り、ブーメランのよう軌道を曲げて神火飛鴉をも両断した。

 ハリボテ内部に仕込まれた爆薬が暴発し、まだ近くにいたチェンフェンを巻き込む。

「アウチャーッ!?」

「ちょ、チェンフェン! こっちに飛んでくるなぎゃう!?」

 爆風で吹っ飛んだチェンフェンがリャンシャオに激突し、二人仲良く変な悲鳴を上げて遠くまで転がっていった。

「大丈夫か、セレス」

「少し意識が飛んでいたが、問題ない」

 頑丈だな、とは失礼そうなので言わないことにした。

「よくもやってくれたネ!」

「こうなったら本気出すアル!」

 ボフン! と特大の白煙が闘技場の一画を覆った。

「「――ッ!?」」

 すぐに風に流れた白煙の中から現れたものは……マジかよ。クレーン車に似た巨大投石機と、その前方に整列されている台車と合体した大砲が三門。そして、それらの兵器を扱える人数まで分身したリャンシャオとチェンフェンだった。じゅ、十人くらいいるぞ。

 な、なんなんだよ、こいつら。どこの国に戦争ふっかける気だ?

「ワタシたちは『移動武器庫』って呼ばれてるネ」

狐妖術(こようじゅつ)って呼ぶアル。分身、収納、変化、いろんなことができるヨ」

 あんだけいると誰が喋ったやらさっぱりわからん。だからやつらの声は無視して俺は兵器を確認する。

 投石機はてこの原理を応用した回回砲(ホイホイパオ)、大砲は高射程・高強度・高威力を誇る拠点防衛に用いられていた紅夷炮(ホンイーパオ)ってとこか。どちらも歴史博物館にでも展示している方が自然な代物だぞ。

「どうする、零児?」

「突破するしかねえだろ。幸い、あれらは古い兵器なだけに連射もできなければ発射速度も遅い」

 了解の意思をセレスは頷きで返した。まさか母さんに叩き込まれた専門外の無駄知識がこんなとこで役に立つとは思わなかったな。

「行くぞ!」

()ぇーッ!!」

 俺とセレスが地面を蹴ったのと、指揮官風チェンフェンが分身たちに指示を出したのはほぼ同時だった。

 三つの大砲が時間差で砲弾を吐き出す。爆音が轟き、闘技場に火薬の臭いが蔓延する。

 砲弾の速度は凄まじいが、どの大砲から発射されるかを見極めれば避けるのは容易い。銃よりもわかりやすい。俺たちは難なく砲撃をかわしつつ敵陣に迫る。

 やや誘われてる感がするのは否めないが、あの指揮しているチェンフェンが本物だろう。だとすれば、本物のリャンシャオはどこだ?

 俺は砲弾を日本刀で受け流しながら目を彷徨わせ……見つけた!

 本物のリャンシャオは、投石機に石の代わりに乗っていた。たぶんあいつで間違いない。他の分身とは違い、一人だけやけに存在感のある武器を両手に握っているからだ。

 尖端が麒麟の角のように二つに分かれた大刀――麟角刀りんかくとう。その形状により刺突と切断に長けた中国武術における形意門特有の武器だ。

 投石機の張り詰められたロープが切られ、リャンシャオは自らが砲弾となって突攻する。

「無茶苦茶なことを」

 俺の前を先行していたセレスは立ち止まるが、逃げない。聖剣を中段に構え、スピンまでかけて飛んでくるリャンシャオを迎え撃つつもりだ。

 飛んで火に入るなんとやら、だな。今も砲撃が続いている大砲と同じだ。来るとわかっているなら対処はでき……ん?

 俺はその時、視界に映ったそれがなんなのか一瞬では理解できなかった。


 二本の麟角刀を握って回転飛行するリャンシャオ。その後ろを追随している二つの砲弾に、ちょこんと耳と尻尾が生えてないか?


 要は、全部フェイク。

 あのド派手な兵器と分身たちは、ただの目眩ましだった。

「セレス、そいつじゃない! 後ろの砲弾を狙え!」

「なに?」

 俺の言ったことに戸惑いを見せたセレスだったが、彼女も言われて気づいたようだ。俺は左、セレスは右の砲弾に正面から突っ込む。

「くっ、よく見抜いたネ!」

「ワタシたちの変身は完璧だったはずアル」

 ポポン! と白煙を纏って二つの砲弾が双子に変化する。いや、砲弾の変化が解かれた、が正解か。

 ガキィン!! そんな剣戟音が二重に響震した。

 俺の振り下ろした日本刀は正真正銘本物のリャンシャオの麟角刀に、セレスの聖剣はこちらも正真正銘本物のチェンフェンが握る鉄扇に受け止められていた。ちなみに無視された分身リャンシャオは、回転したまま飛び続けて壁に激突し、勝手に爆散していた。

「零児、そっちは任せたぞ」

「オーケー、任された」

 俺は組み合いながら砲撃にも備えようとしたが、なんか知らんが他の分身たちも消えてるな(兵器はそのままだけど)。

「もう化かしごっこはなしだぜ」

「それはワタシたちの勝手ヨ」

 そう返されたが、もう腹の立つ術を使わせる暇なんて与えないぜ。

 たまにフェイントを織り交ぜつつ俺は連撃の手を休めない。だが、リャンシャオも巧みに防いでは隙あらば反撃してくる。

 一閃。また一閃。

 防ぎ、弾き、刃を滑り込ませる攻防。

 まさに剣戟戦。止むことのない金属音が闘技場を支配し、観客たちはさぞかし呆然としていることだろう。

 飛び上がったリャンシャオの回し蹴りが俺の鼻先を掠める。後からやってくるポニテに隠された刃が頬の皮膚を抉る。

「チッ」

 両手の麟角刀とポニーテールに仕込んだ柳葉刀という三刀流で踊るように動くリャンシャオを、日本刀一本で凌ぐのは正直やばい。徐々に押されていることが自分でもわかる。

「アハハッ! ワタシの剣技にここまでついてきた男はレイ・チャンが初めてアル!」

 近接武具の専門家を自称する俺だが、この双子も同じだ。様々な武器の扱いに慣れていやがる。俺と違うところは、遠距離武器も扱えるってことだな。

 なんにしても強い。相手を化かすようなやつは、自分自身はとても弱い。そう相場が決まってることを知らんのか。

 こうなりゃ、俺もとっておきを温存せずに使っちまうか?

 ……いや、まだ早い。優勝を狙ってるんだ。今は出し惜しみするべきだろう。

 それに、このままでも勝機がないなんてことはないしな。

「そろそろだな」

「余裕ぶるのはいい加減にするネ!」

 下から突き上げてくる麟角刀の枝分かれした尖端を、俺は振られた腕の方向に身体をずらしてかわし、斜め死角から日本刀を打ち込む。だが、リャンシャオはそれにも反射的に反応して斜め後ろに飛んだ。

 着足と同時に身を屈め、全身をバネにして飛びかかってくるリャンシャオに対し、俺は――日本刀を捨てた。


〈魔武具生成〉――トゥ・ハンド・ソード。


「――ッ!?」

 俺の右手に突如出現した百八十センチを超える巨大な両手剣に、リャンシャオは目を見開いて急ブレーキをかける。突っ込んだら斬られると判断したのだろう。正解だ。俺は生成と同時に振り下ろしていたからな。

 だがそれでも、勢いのついていたリャンシャオはトゥ・ハンド・ソードの間合いから逃れられてなどいない。咄嗟に両手の麟角刀をクロスさせ、超重量級の一撃を受け止めた。

 瞬間――バキン!!

 二本の麟角刀が呆気なく砕け折れた。

「ふぇ?」

 唖然とするリャンシャオがペタンと尻餅をつく。

 彼女の扱う武器は全部普通に地球産だった。魔力で鍛えられた俺の武器を何度も受けて耐えられるわけがない。だから武器の限界を悟られる直前まで打ち合い、ラストは思いっ切りでかい一撃を加えて一気に圧し折ってやったんだ。

 トゥ・ハンド・ソードの剣先を突きつけられた腰抜け状態のリャンシャオは――

「こ、降参アル……」

 ポン! と狐妖術とかで右手に白旗を取り出してフリフリした。用意がいいな。

「セレスは?」

 まだ戟音が続いている。

 両手に開いた鉄扇で文字通り舞い踊る戦い方をするチェンフェンは、防戦一方だった。セレスの光輝く超長剣の一閃を上手く防いだりかわしたりしているものの、リーチに差があるためなかなか懐に攻め込めないでいるようだ。

 そもそも、チェンフェンの動きは姉に比べて微妙に緩慢だ。火龍出水や神火飛鴉を扱っていたところを鑑みるに、たぶん妹の方はそういう遠距離兵器系が得意なのだろう。

「これで終わりだ!」

 大上段から振り下ろされた聖剣をチェンフェンはバックステップで回避するが――

「輝け!」

 地面に叩きつけられた聖剣の尖端が、まるでその場所に地雷でも埋め込まれていたかのような光の爆発を引き起こした。

「ぎゃう!?」

 巻き込まれたチェンフェンが吹っ飛び、目を渦巻にしてダウンする。頭の狐耳だけがピクピクと痙攣していた。

「あーあ、チェンフェンもやられたアルか。完敗アル」

 たはは、とリャンシャオは苦笑した。狐耳と尻尾が脱力したように垂れている。

「悪いな。俺らはどうしても負けられねえんだ」

 俺はトゥ・ハンド・ソードを手放して消失させる。そんな俺を、リャンシャオは不思議そうなきょとり顔で見上げていた。


『一回戦第一試合、勝者はレイちゃんとセレスちゃんチームでぇーす!』


 今になって、ずっと実況していたらしい誘波のアナウンスが耳に届く。せめてそこは本名で勝利宣言してほしいものだ。


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