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死に戻りハンターの英雄譚〜「ロード」であらゆるジョブを手にした俺はいつの間にか人類最後の希望になっていました  作者: ころん


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第13話 石と魔力

 三浦カズヤとのコンビが、日常になり始めていた。


 朝九時に駅前で合流し、電車に揺られて湾岸エリアへ。C級ゲート「水没都市」に潜り、二時間ほどリザードマンを狩って魔石を回収し、ゲートを出て管理局で換金する。

 帰りに駅前の立ち食いそば屋に寄って、かけそばを啜って解散。その繰り返しを、僕たちは一日も休まず続けた。


 稼ぎは一回につき十二万から十八万。ブレがあるのは魔石の純度と個数が日によって違うからだが、三浦の回収技術のおかげで傷物が少なく、平均すると十五万前後で安定した。

 三浦への日当五万を引いた僕の取り分は十万。D級とは比較にならない収入だ。


 三浦は毎回、受け取った金額をスマホの家計簿アプリに記録していた。数字を打ち込む指だけがやけに正確で、戦闘中に震えている同じ指とは思えなかった。


 五回目の攻略を終えた帰り道のことだ。いつもの立ち食いそば屋で並んでカウンターに立ち、僕はかけそば、三浦はきつねそばを頼んだ。

 三浦は油揚げを箸で持ち上げて光にかざし、しばらく眺めてから食べる癖がある。何を確認しているのか聞いたら「揚げの厚みで出汁の吸い込み量が変わるんです」と真顔で答えた。


「朝霧さん、今日の稼ぎって過去最高じゃないですか」


「ですね。十八万いきました。変異個体が混じってたおかげです」


「あの赤っぽい鱗のやつですよね。魔石の色が普通のと違って、紫がかってました。たぶん結晶構造が通常種と異なるんだと思います。希少種の魔石って、コレクター需要もあるから正規ルートで売ればもっと値がつくかも」


「詳しいですね。宝石の知識がそのまま使えるんですか」


「結晶の評価基準は大体同じなんです。純度、色、カット、内包物。魔石は自然形だからカットの概念はないですけど、光を当てた時の屈折率で純度が分かります。父に教わったやり方なんですけど……あ、すみません。また長くなっちゃった」


「いえ、面白いですよ」


「え、本当ですか? いつも『長い』って言われて止められるんですけど」


「僕が止めたことありましたか」


 三浦が一瞬きょとんとして、それから少し嬉しそうに目を伏せた。箸で油揚げの端をちまちまとちぎりながら、小声で「ないです」と答えた。


 五回も一緒に潜ると、互いの癖が見えてくる。三浦は緊張すると豆知識を喋り出す。リザードマンの鱗の構造、水没都市のコンクリートの劣化パターン、魔石の結晶成長の条件。

 どれも戦闘には直接役立たないが、聞いていると不思議と安心する。怖い場所にいても「知っていることがある」という事実が、彼の精神安定剤になっているらしかった。


 逆に三浦が黙り込んだ時は本当に怖がっている時で、そういう時は僕の方から声をかけるようにしていた。


 一方で僕にも癖があることを、三浦に指摘された。四回目の攻略の帰り道で言われたのだ。


「朝霧さん、戦闘が終わった後、毎回右手だけ握ったり開いたりしてますよね」


「……気づいてたんですか」


「三回目から気になってました。こわばりを解してるんですか?」


「ええ、まあ。戦闘中に力を入れすぎて、終わった後に指が動かなくなるんです」


「それ、疲労じゃなくて緊張ですよね。指に力が入りすぎてるのは、怖いからですよね」


 返す言葉がなかった。三浦は照れくさそうに「すみません、見すぎですよね」と言って話を変えたが、なかなかの観察力だ。

 三浦は怖がりだが、その分、他人の恐怖に敏感だ。自分が怖い思いをたくさんしてきたから、同じものを抱えている人間に気づく。



 *  *  *



 そして六回目。その日は朝から空気がおかしかった。ゲートに入った瞬間に分かった。

 いつもの潮と腐敗の臭気に混じって、鉄錆に似た匂いが漂っている。血の匂いだ。それも古い血ではなく、新しい。


「朝霧さん……なんか今日、匂いが違いません?」


 三浦も気づいていた。鼻が利くようになっている。五回の経験で、水没都市の「普通の匂い」が身体に染みついたのだろう。普通でないものが混じれば、違和感として拾える。

 ハンターとしての感覚が、戦闘能力とは別の場所で育ち始めていた。


「何かあったみたいです。血の匂いがする。モンスターの血か、人間の血かは分かりませんけど」


「に、人間……? 僕たち以外にも誰かいるんですか」


「フリーのゲートだから、他のパーティが入ってる可能性はあります。注意して進みましょう。いつもより三浦さんとの距離を詰めます。離れないでください」


「は、はい……」


 浅層のいつもの狩場に向かう途中、水面に赤い筋が流れているのが見えた。どこかで何かが出血している。血は水没都市の温かい海水に混じって薄まりながら、ゆっくりと流れてきていた。

 追っていくと、崩れたビルの裏手に出た。


 そこに、リザードマンの死体が三体転がっていた。人間が倒したものだ。剣で斬られた痕跡が残っている。だが処理が雑で、魔石が回収されていない。

 戦闘中に何かに邪魔されて、回収を断念したか、あるいは回収する暇もなく撤退したか。


「朝霧さん、これ……」


「他のパーティの戦闘跡ですね。魔石がそのまま残ってる。回収していいと思いますか」


「え、いいんですか? 他の人が倒したやつを」


「放置された戦利品に所有権はありません。ゲートの中のルールです。ただし、倒した人間が近くにいる可能性がある。その場合は、トラブルになる可能性がありますが」


「ど、どうします……」


「回収しましょう。もし持ち主が来たら、交渉します」


 三浦が手際よく三体分の魔石を取り出し、リュックに収めた。所要時間は三分もかからなかった。

 初日に三分かかっていた作業が、六日目には一分を切っている。成長速度が速い。手だけは別人のように正確だ。


 その後、いつもの浅層エリアで狩りを再開した。リザードマンの出現パターンがいつもと微妙に違った。普段は三体から五体で群れを作っているのに、今日は二体ずつの散発的な出現が多い。

 先ほどの他パーティの戦闘の影響で、群れの配置が乱れているのかもしれない。


 七体目と八体目を同時に仕留めた直後だった。

 水没都市の中層との境界に近いエリアで、いつもより少し奥に踏み込んだ場所。天井が高く、崩れた柱が何本も立つ広い空間だ。水面に苔の光が反射して、薄い緑色の揺らめきが壁を舐めている。


 突然、水面が三方向から同時に膨れ上がった。


 三体。通常のリザードマンの倍近い体躯を持つ、赤黒く変色した変異個体が一斉に飛び出してきた。体表の鱗が通常種より厚く、色が濃い。目の黄色も深く、濁っている。

 石斧ではなく骨で作った鉤爪のような武器を持っていて、口からは糸を引く粘液が垂れていた。臭いも違う。通常種の生臭さの上に、硫黄に似た刺激臭が乗っている。


「っ、三体同時——!」


 前に出た。一体目の鉤爪を牙剣で受け流し、懐に入って喉を裂く。血の温度が通常種より高い。手にかかった瞬間、肌がひりつくような熱さだった。


 返す刀で二体目の攻撃を銀蜂で弾く。だが三体目が背後に回り込んでいた。水飛沫の音で位置は分かる。構造看破が背中越しに赤い輪郭を描いている。

 だが向き直る余裕がない。二体目が連続で攻撃を仕掛けてきていて、両手が塞がっている。


 背中に殺気を感じた。鉤爪が僕の背中に向かって走ってくる空気の振動を、首筋の皮膚が拾っている。回避するには二体目の攻撃を捨てなければならない。捨てれば正面をやられる。


「朝霧さん!!」


 三浦が叫んだ。


 その瞬間だった。空間が歪んだ。

 物理的に目に見えるような変化ではない。だが、肌の表面がヒリヒリと焼けるような圧力が走り、耳の奥で低い唸りのような音が鳴った。水面の波紋が一瞬で消え、空気が重くなった。


 僕の呼吸が一拍止まった。背後の三体目のリザードマンだけではない。正面の二体目も、動きが止まっていた。

 三体とも、何かに打たれたように硬直し、黄色い瞳を見開いたまま微動だにしない。


 一秒にも満たなかった。だがその一秒で、僕は三体目に向き直り、喉を両断する時間を得た。残りの二体目も、硬直から覚める前に仕留めた。


 静寂が戻る。水面に浮かぶ三体の変異種の死体が、苔の光に照らされて異様な色をしていた。



 *  *  *



「はぁ……はぁ……」


 三浦が荒い息を吐いている。柱の影にうずくまり、膝を抱えて頭を垂れていた。顔色は白を通り越して灰色で、額に脂汗が浮いている。唇が紫色に変色していて、全身が小刻みに震えていた。


「三浦さん、大丈夫ですか」


「だ、大丈夫……です。ごめんなさい、叫んじゃって……びっくりして、つい……」


 三浦は自分が「叫んだ」ことを謝っている。悲鳴を上げて敵の注意を引いてしまったことへの負い目。それだけだ。

 自分の身体に何が起きたのか、彼自身はまったく気づいていない。


 だが僕は見た。感じた。


 三浦が恐怖で叫んだ瞬間、彼の身体から魔力が放出されたのだ。無意識の、制御されていない、生の魔力。それがリザードマンたちを一瞬だけ硬直させた。

 生物の本能に直接干渉する類の圧力。ランク11の人間が出せる密度ではなかった。レベル16になった僕ですら、あれだけの魔力を一度に放出することはできない。


 構造看破で三浦を見た。普段は使わないようにしている。人間に対してスキルを使うのは、どこか後ろめたさがあるからだ。

 だが今は必要だった。三浦の体内を流れる魔力の回路が、赤い線となって浮かび上がる。


 太い。異常に太い。血管に例えるなら大動脈のような太さの魔力経路が、全身を巡っている。

 だが、その流れは滞っていた。巨大なダムに水が溜まっているが、放水路がない状態。出口がないから、魔力は体内で圧縮され続けている。さっきの放出は、そのダムの壁にヒビが入り、わずかに漏れ出したものに過ぎない。


 もしあのダムが完全に決壊したら——想像するだけで背筋が冷える。


「三浦さん」


「は、はい! なんですか」


「……体調は大丈夫ですか。頭痛とか、吐き気とか」


「あ、ちょっと頭がぼんやりします。でも大丈夫です。いつもこうなるんです、すごく怖い思いをした後は。しばらくしたら治ります」


「いつも、なるんですか」


「はい。すごく怖い時に頭がカーッとなって、その後にどっと疲れる。……変ですかね」


 変だ。それは魔力の暴走と、その反動による消耗の典型的な症状だ。

 三浦は自分の体質を「怖がりの体質」くらいにしか認識していない。恐怖で頭が熱くなるのは誰にでもあることだと思っている。だが実際には、彼の中で起きているのはそれとはまったく別のことだ。


「変じゃないですよ。疲れたなら少し休みましょう」


「あ、はい。すみません……」


 三浦は申し訳なさそうに頭を下げて、壁にもたれかかった。目を閉じると、数分で呼吸が落ち着いていく。顔色も少しずつ戻ってきた。

 僕はその横に立って周囲を警戒しながら、頭の中で計算を回していた。


 三浦の魔力量は異常だ。あの太い回路と蓄積量から推測すると、潜在的な魔力総量はランク40台のハンターに匹敵するかもしれない。

 だが出口がない。スキルが発現していないから、溜まった魔力を意図的に放出する手段を持っていない。だから管理局の測定では「魔力反応は高いがスキル未覚醒」と判定され、ランク11に据え置かれている。


 もしこの魔力に「道」を作ることができたら。彼に合った形でスキルを覚醒させる方法が見つかったら。三浦カズヤはランク11の荷物持ちではなくなる。


 だが今はまだ、その手段が分からない。下手に刺激すれば暴走する。制御できない力は本人を壊す。だから今は黙っておく。

 三浦が自分の力に気づく前に、僕が先に答えを見つけなければならない。


「……朝霧さん」


 目を閉じたままの三浦が、小さな声で言った。


「はい」


「さっき、僕が叫んだ時……リザードマンが止まりましたよね。あれって、朝霧さんが何かしたんですか」


 心臓が一拍跳ねた。気づいていたのか。


「……いえ。変異種は通常種より臆病な面があって大きな音に反応して一瞬固まることがある、という報告を読んだことがあります。たまたまでしょう」


「そうですか。……じゃあ、僕の叫び声が役に立ったってことですかね」


「結果的には。おかげで助かりました」


「へへ。じゃあ叫ぶのも仕事のうちですね」


 三浦は目を開けて、少しだけ笑った。自分の叫び声に価値があったと思えたことが嬉しかったのだろう。

 嘘をついた罪悪感が胸の奥でちくりと刺さったが、今はこれでいい。真実を伝えるのは、もっと先だ。



 ゲートを出た後、いつもの立ち食いそば屋ではなく、三浦が「たまには違うものを」と言い出して、駅前の定食屋に入った。

 入口にかかった暖簾をくぐると、焼き魚と味噌汁の匂いが出迎えてくれた。ゲートの腐臭に慣れた鼻には、この世の全ての美味いものが凝縮された匂いに感じられる。


「ここ、日替わりが安いんですよ。六百五十円でご飯おかわり自由。僕、妹の見舞いの帰りに時々寄るんです」


「よく知ってますね」


「安い店はだいたい把握してます。貧乏性なので……」


 日替わりはサバの味噌煮だった。三浦は味噌煮を一口食べた瞬間、箸を止めて味噌の加減について語り始めた。白味噌と赤味噌の配合比率、生姜の量、煮込み時間。

 聞いてもいないのに専門家のような解説が始まる。僕は黙って聞いていた。


 三浦が料理の話をしている時の表情は、ゲートの中で怯えている時とはまるで別人で、目に光があって、声が安定していて、肩の力が抜けている。この男にとって料理は、石の扱いと同じように「自分でいられる場所」なのだろう。


「あ、すみません。また長くなっちゃった」


「いえ。賑やかで楽しいですよ」


「え……そうですか?」


「三浦さんはゲートの中ではずっと怯えてるし、外でも大体おどおどしてますけど、料理の話と石の話の時だけ、顔が変わります」


 三浦は少し驚いた顔をして、それから照れくさそうに味噌汁を啜った。耳の先が赤くなっている。


「……朝霧さんは。楽しそうにしてる時って、あるんですか」


「僕ですか」


「はい。僕、朝霧さんが笑ったの、一回も見たことないです。いつも平気な顔してるか、考え込んでるか、どっちかで」


 言われてみれば、確かにそうかもしれなかった。最後に笑ったのがいつだったか、思い出せない。

 ゲートに潜る前の日常——金田に怒鳴られていたあの会社で、笑うことがあっただろうか。あったとしても、愛想笑いだ。心から笑ったのは——いつだ。


「……すみません。変なこと聞いちゃいましたね。忘れてください」


「いえ。考えてみます」


「考えて分かるものなんですか、それ」


「分かりません。でも、考えないよりはましでしょう」


 三浦はくすりと笑った。僕はサバの味噌煮の最後の一切れを口に運んだ。味噌の甘さが舌の上で溶けて、胃の底に温かく落ちていく。

 笑ったかどうかは分からない。でも、不味くはなかった。このサバも。この会話も。


 会計の時、三浦が財布を出そうとしたので制した。


「今日は僕が出します」


「え、悪いですよ。自分の分は自分で」


「変異種の魔石三個分、柳商会なら通常より高く買ってくれるはずです。その差額分を、ボーナスとして。三浦さんの目利きがなかったら、あの三個は通常種と同じ値段で売ってました」


「また理屈つけてる」


「事実ですよ」


「はいはい。……ありがとうございます」


 三浦が頭を下げた。深すぎる。レジの前で九十度近いお辞儀をされると、店員が驚いて見ている。


「そんなに頭を下げなくていいですよ。六百五十円です」


「六百五十円でも、おごってもらったことなんてほとんどないんです。嬉しいんです。すみません」


 嬉しいのに謝る。この男の精神構造は、時々僕の理解を超える。



 帰りの電車で、三浦は窓際の席に座ると五分もしないうちに寝落ちた。

 首がゆっくりと傾いていき、最終的に僕の肩に頭が乗った。起こそうかと思ったが、やめた。疲れているのだ。


 C級ゲートの空気を数時間吸い続けるだけでも、ランク11の身体には相当な負担がかかる。そのうえ魔石の回収作業は細かい集中を要求する。そして今日は、無意識の魔力放出までしている。身体が休息を求めるのは当然だった。


 三浦の寝顔は安心しきっていた。口が半開きで、眼鏡がずれかかっていて、よだれの一筋がうっすらと顎を伝っている。とても二時間前にリザードマンの内臓に手を突っ込んでいた男の顔ではない。僕の隣にいることを、無条件に安全だと信じている寝顔だ。


 その信頼が少し重かった。僕は今日、三浦に嘘をついた。リザードマンが止まったのは「たまたま」だと。

 本当は三浦の魔力が原因だと分かっていて、黙っていた。黙っていた理由は合理的だ。今伝えても混乱するだけだし、制御の方法も分からない。だが合理的であることと、後ろめたくないことは別だ。


 スマホを取り出して、ハンターズ・マーケットのスキル覚醒に関する記事を検索した。「魔力量が高いがスキル未発現の覚醒者」に関する情報は少ない。

 大半の覚醒者は魔力の発露と同時にスキルが発現するため、魔力だけが先行するケースは稀らしい。稀であるがゆえに、対処法も確立されていない。


 「専門機関での検査を推奨」という記述があったが、専門機関とは要するに管理局の研究部門のことだ。三浦をそこに連れていけば、彼の異常な魔力量が記録され、最悪の場合は「研究対象」として囲い込まれる可能性がある。それは避けたい。


 答えは出ない。でも、いつかは向き合わなければならない。三浦の中に眠っているものが何なのか。それをどうやって「道」に変えるのか。

 その答えが見つかった時、僕たちの関係は「雇い主と荷物持ち」から、別の何かに変わるのかもしれない。


 電車が三浦の最寄り駅に着く手前で、肩を軽く揺すった。


「三浦さん。着きますよ」


「……んぅ。あ、すみません寝ちゃって。よだれついてないですか」


「ついてます」


「うわ、すみません! コート汚しちゃった……」


「大丈夫です。防汚加工なので。……妹さんのところに寄るんですか」


「はい。今日は病院の面会時間ぎりぎりなんで、走ります。……あ、朝霧さん」


「はい」


「明日も、よろしくお願いします」


「ええ。明日もよろしく」


 三浦は改札を抜けて、人混みの中を小走りで消えていった。リュックの中身は換金済みだが、それでも大事そうに肩紐を両手で握っている。

 妹のところへ急ぐ後ろ姿は、ゲートに向かう時の背中より、ずっと速かった。


 電車のドアが閉まり、僕は一人になった。窓の外を流れる夕暮れの街を眺めながら、今日のことを反芻する。

 三浦の魔力。あの太い回路と、出口のないダム。そしてリザードマンを一瞬で黙らせた、制御されていない圧力の奔流。


 あれは才能だ。磨けば、とんでもないものになるかもしれない。あるいは、磨き損ねれば、本人ごと壊してしまうかもしれない。どちらに転ぶかは、僕の判断にかかっている。

 その重さが、肩に乗った三浦の頭の重さと重なって、まだ消えなかった。


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