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【連載版】とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜  作者: 入多麗夜


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9/21

禁制品

 金具が外れ、蓋がわずかに軋む音を立てて開いた。

 中からのぞいたのは、布に丁寧に包まれた鉄の剣。


 グレイが一つ取り上げ、布をほどく。

 鈍い光が霧の中で反射した。


「……やはり武器だったか」


 低くつぶやく声に、場の空気が凍りつく。


 アナスタシアが息を呑んだ。


「軍用……ですか?」


 グレイは頷く。


「形状も刻印も、王都の軍規格に準じてはいる。しかし、王国がそのような物を発注した記録はない。……違法品だ」


 セリーヌはその言葉を聞きながら、静かに視線を落とす。

 箱の中に光る鋼は、彼女にとって見覚えのないものだった。


 アナスタシアが顔をしかめる。


「こんな量……まるで反乱でも起こすつもりみたいじゃないですか」


 セリーヌは黙って箱の中を見つめた。

 十にも及ぶ木箱、整然と並ぶ刃の列。


 喉の奥が微かに詰まる。

 もし本当に偽造でなければ、これは内部の誰かが手を貸していることになる。

 だが、そんなことはあり得ない。

 彼女が選んだ職人も、帳簿を預かる文官も、十年以上の信頼がある者ばかりだ。


 

 ――誰が、何のために、リュミエールの名を使ってまで。


「……治安局本部へ運んで。詳細な確認はそちらでお願いします」

 

 グレイが頷く。


「了解しました。記録班を呼びましょう。少々お待ち下さい」


 衛兵たちが掛け声を上げ、次々と箱を運び出していく。

 木箱が石畳を引きずる音、鎖の軋み、馬の嘶き。

 それらの音が混ざり合い、南門全体がざわめきに包まれた。


 アナスタシアが小声で呟く。


「……セリーヌさん、落ち着いてますね」


「慌てても仕方ないわ。今は事実を確かめる方が先よ」


「そうですけど……こんなの、誰かがわざとやってるとしか思えませんよ」


 セリーヌは答えず、荷車の跡が残る土を見つめた。


 ――そう、商会の仲間を信頼するという前提で考えるのなら、誰かが“意図して”動いたとしかいいようがない。


 問題はそれが誰なのか。そして、なぜ「リュミエール」を選んだのか。


 思い返してみれば、ある程度の察しはついていた。

 だが、それを“確信”と呼ぶには、あまりにも根拠が足りなかった。



 ◇



 しばらくして、荷の運搬が一段落したころだった。

 霧の向こうから、重い足音が近づいてくる。


「――セリーヌ様」


 振り返ると、グレイ分隊長が報告書を片手に立っていた。


「準備が整いました。物品はこのまま治安局本部へ移送いたします。もしよろしければ、ご同行を」


「ええ、そうさせてもらうわ」


 セリーヌは短く答え、外套の襟を整える。


「それと――」と、彼は続けて話す。


「この物品を運んでいた御者ですが、現在こちらで尋問を行っています。もしよろしければ、お会いになりますか?」


 セリーヌは短く考え込み、わずかに眉を寄せた。


「……尋問の最中に、私が立ち会っても問題ないのですか?」


 グレイは一瞬ためらうように視線を逸らし、それから静かに頷いた。


「本来であれば、外部の立ち入りは禁じられています。尋問は局内の権限下でのみ行うものですから」


「でしょうね」


「ですが――今回は事情が特殊です。それに貴女の商会名が使われていた以上、参考人として同席することは上層部も容認するでしょう」


「……つまり、例外扱いということね」


「はい。もっとも、発言はお控えいただく形になりますが」


 セリーヌは静かに頷いた。

 例外であれ何であれ、直接相手を見ずに判断するつもりはなかった。


「構いません。彼の顔だけでも見ておきたいです」


 その一言に、グレイはすぐさま部下へ視線を向ける。


 衛兵たちが素早く動き出す。

 鎖の軋む音とともに、遠くで誰かが号令を上げた。


「詰所まで、馬車で向かいましょう」


「ご一緒しても良いんですか!?」


 驚きと少しの高揚が混じった声だった。

 彼女の目はきらきらと光っている。


 セリーヌはその様子に、わずかに口元を緩めた。


「あなたは関係者として同行してもらうわ。報告の際、あなたの証言も必要になるでしょう」


「は、はいっ……! 任せてください!」


 勢いよく答えるアナスタシアに、グレイが小さく咳払いをした。


「詰所までの道中は、護衛を厚くします。外には出ないようにお願いします」


「了解しました」


 セリーヌは短く答え、外套の裾を持ち上げて馬車へと向かう。


 左右には衛兵たちが並び、馬の手綱を握る者、周囲を見張る者――

 

 その様子は、まるで小さな大名行列のようだった。


 こうして一行は治安局の詰所へと向かっていった。

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