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【連載版】とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜  作者: 入多麗夜


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8/21

門前の荷車

 王都南門――霧はまだ晴れきらず、石畳に馬の蹄が鈍く響いていた。


 セリーヌの馬車が停まると同時に、周囲の衛兵たちが一斉に頭を下げる。


 彼女は外套の裾を整え、凛とした姿勢で馬車を降りた。


「リュミエール商会のセリーヌです。現場責任者を」


 若い衛兵が慌てて敬礼し、奥へと案内した。


 封鎖線の向こうには、問題の荷車が一台。

 その傍らには、治安局の制服を着た壮年の男が立っていた。

 無精髭に刻まれた皺、鋭い眼差し――場慣れした者のそれだ。


「治安局第三区分隊長、グレイと申します」


「ご対応に感謝します、分隊長。……状況を伺っても?」


「はい。今朝方、南門でこの荷車が検問にかかりまして。商会名の記載がありましたが、運搬証の記録と一部照合が取れず、念のため押収しております」


「積み荷の内容は?」


「それが……封を開けての確認はまだです。本部の指示待ちでして」


 セリーヌは小さく頷き、布をかけられた荷車を見やる。

 何が積まれているのか、なぜ自分たちの商会名が出てきたのか――まだ何も分からない。


 そのとき、遠くから元気な声が響いた。


「セリーヌさん! やっぱりいらっしゃったんですね!」


 霧の中を駆けてくる影。

 金色の髪を跳ねさせながら、アナスタシアが息を弾ませて走ってきた。


「いやぁ、南門ってこんなに広かったんですね! 思いっきり迷っちゃいました!」


「……あなたが来たのね、アナスタシア」


「もちろんです! こんな事態になっているのに、放っておけるわけないじゃないですか!」


 軽やかな声に、緊張した空気がわずかにほぐれる。


 アナスタシアは腰に手を当てて息を整えると、すぐに表情を引き締めた。

 その切り替えの早さは、いつもの彼女らしかった。


「で、状況はどうなんです? 噂じゃ“リュミエール商会”の荷車が押収されたって……」


「ええ。私もさっき現場に着いたところよ。まだ積み荷の確認はされていないわ」


「ふむ……それはまた面倒なことに」


 アナスタシアは霧の向こうにぼんやりと見える荷車を覗き込み、眉を寄せた。


「見たところ、普通の商用荷車にしか見えませんけどね。護衛もいないし、御者も拘束済み……」


「御者はどこに?」


「門兵の詰所にいます。事情聴取中とのことです」


 セリーヌは頷き、視線をグレイへ向けた。


「積み荷の封を解く許可は?」


「まだです。ですが本部からの返答は近いでしょう」


「でしたら、許可が下り次第、私とアナスタシアの立ち会いで開封をお願いします」


「承知しました」


 その返答を聞きながら、アナスタシアがセリーヌの隣に並ぶ。


「……しかし、どう考えてもおかしいですよね。よりによって“リュミエール商会”の名を使うなんて」


「やっぱり貴方もそう思っていたのね」


 アナスタシアは頷き、腕を組んだ。


「ええ。だって、セリーヌさんのところって、そんな事する訳ないじゃないですか!信じてますよ!」


「それで、監査局としてはどう思っているのかしら?」


 セリーヌの問いに、アナスタシアはわずかに唇を尖らせた。


「公式の見解としては、“商会内部の関係者が関与した可能性がある”という立場です。証拠が揃っていない以上、そう言わざるを得ません」


「……つまり、内部犯行も視野に入れているのね」


「ええ。だけど私は正直、そうは思ってませんからね!」


 アナスタシアの声に、セリーヌは小さく頷いた。


 そのとき、近くで控えていたグレイ分隊長が足音を立てて近づく。

 無精髭の下で短く息をつき、静かに告げた。


「――本部から開封の許可が下りました」


 その場の空気がわずかに引き締まる。

 セリーヌは視線を荷車へ移し、静かに頷いた。


「分かりました。私とアナスタシアの立ち会いで確認をお願いします」


「承知しました」


 グレイの指示で、衛兵たちが布を外し始める。

 霧の中、木箱がいくつも姿を現した。


「……数は十。すべて押収されたのね」


「はい。勿論ですが、中身は一切触っておりません。では、全て開けます」


 セリーヌが頷き、衛兵の一人が箱を縛る封縄を切った。

 金具が外れ、蓋がゆっくりと開かれる。


 霧の中、わずかな光が差し込み――その瞬間、誰もが息を呑んだ。

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