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【完結】とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜  作者: 入多麗夜


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15/25

工房への調査

 翌日、二人は王立工房へ向かうことにした。


 王立工房は王都の西端、職人街のさらに奥に位置している。

 煉瓦造りの建物が並び、通りには鉄を打つ音が絶え間なく響いていた。


 昼でもうっすらと煤煙が漂い、空気は金属の熱を含んで少し暑かった。


「すごい……まるで街全体が工房みたいですね」


 アナスタシアが目を丸くして見渡す。


「この一帯は昔から鍛冶職人の区画なの。王立工房もこの中にあるわ」


「ここで作られた武具が、軍に渡っていくんですね」


「ええ。だから出入りにも厳しい審査があるのよ」


 実際に王立工房に入るには、いくつもの審査を経なければならなかった。


 門の前で身分証の提示を求められ、名前と所属部署、訪問の目的が逐一記録される。


 その上で、監査局の印章が本物かどうかを照合され、同行者の身元まで細かく確認されるという徹底ぶりだ。


 たとえ王都の監査局に属する者であっても、例外はなかった。

 アナスタシアもまた、通行札を受け取るまでに三度同じ質問を繰り返されている。

 王立工房は軍の武具を扱うため、情報の流出や不正を何よりも警戒していた。


 門を抜けた先には、石畳の通路が続いていた。


 荷車に積まれた鉄材が行き交い、職員たちは皆、通行札を掲げたまま無言で作業にあたっている。


 敷地の奥では、巨大な煙突から白い蒸気が立ちのぼり、風に混じって焦げた鉄の匂いが漂う。


 セリーヌは通路を進みながら、左右の作業場に視線をやる。

 職人たちは一様に黙々と手を動かし、誰一人として雑談をする者はいなかった。


 やがて二人は、敷地の中央に建つ大きな建物の前に立った。


 正面の扉の上には王家の紋章が掲げられ、その下に「管理棟」と刻まれている。


 入口には受付の机があり、事務服姿の女性が帳簿を整理していた。


 アナスタシアが一歩進み出て、丁寧に声をかける。


「すみません、監査局の者ですが。工房の様子の確認で参りました!」


 女性職員は顔を上げ、二人の通行札に目をやると、少し目を見開いた。


「監査局の方ですね。お待ちしておりました。昨日の通達は拝見しております」


 彼女は机の引き出しを開け、手早く紙を一枚取り出した。


「ご同行の方も記録しておりますので、どうぞこちらへ。ご案内いたします」


 アナスタシアが頷き、セリーヌと共に建物の中へ足を踏み入れる。


 外の熱気とは対照的に、室内は静かだった。

 分厚い石壁が音を吸い込み、外から聞こえていた槌音が嘘のように遠のく。


 受付の女性は、案内の途中で足を止め、二人に向き直った。


「今回、アナスタシア様が監査局のご所属ということで、特段の出入り制限はございません。ただし――」


 彼女は少し声を落とし、真剣な眼差しを向けた。


「場所によっては危険な作業区もございます。溶鉱炉の近くなどは火花が飛び散りますし、通路の鉄材も熱を帯びています。移動の際は十分お気をつけください」


 アナスタシアは軽く頭を下げた。


「ありがとうございます!気をつけます」


 女性職員は小さく微笑み、軽く会釈を返した。


「それでは、どうぞ。私は受付に戻りますが、何かございましたら呼び鈴でお知らせください」


 そう言い残して、彼女は静かに戻っていった。


 アナスタシアは、女性職員の姿が見えなくなるのを確認すると、すぐに肩の力を抜いた。

 そして、ぱっと明るい声を出す。


「さて、どこに何があるか、とりあえず工房内を歩いてみましょう!」


 勢いよくそう言って、早くも通路の奥へ視線を向ける。

 そこには扉がいくつも続き、それぞれに小さな札が掛けられている。


「材料庫」「精錬区」「検品室」――いかにも工房らしい配置だ。


 セリーヌはそんな彼女の様子に小さく息を吐き、静かに言った。


「そうね。まずは全体の構造を把握しておくのが先決だわ」


 彼女は肩に掛けていた小さな鞄を下ろし、近くの棚の隅に置く。


「荷物はここに置いていきましょう。あまり余計なものを持ち歩くと、職人たちの目につくわ」


 アナスタシアも慌てて頷き、腰にかけてある書類袋を外して棚の隣に置いた。


 セリーヌは視線を通路の奥に向ける。


「まずは材料庫を見てみましょう。あそこなら、搬入や記録の痕跡が残っているはず」


「了解ですっ!」


 アナスタシアが軽く拳を握ると、革靴の音を響かせて歩き出す。


 そうして、二人は工房の調査へと足を踏み出した。

もしかしたら、明日は休載にするかもしれません。

その際は活動報告で告知します。

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