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【完結】とある令嬢の優雅な別れ方 〜婚約破棄されたので、笑顔で地獄へお送りいたします〜  作者: 入多麗夜


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12/25

三ヶ月で出来る事を

 リュミエール商会の看板からは、ついに灯りが消えた。


 重厚な木の扉には「営業停止中」の札が掛けられ、人気もなく、ただ風が吹き抜けるだけだった。


 あれから数日。治安局の方でも、関連書類の処理がようやく終わり、形の上では「事件の終結」を迎えた。


 だが、セリーヌの胸の奥にある疑念は未だに晴れなかった。


 机の上に積まれた書類の束を見つめる。

 押収品の目録、供述調書、監査局との往復文書。どれを見ても、決定的なものは何ひとつない。


「……やっぱり、気になってるんですね」


 顔を上げると、ドアのそばにアナスタシアが立っていた。


「仕事の確認をしていただけよ」


 セリーヌがそう言うと、アナスタシアは小さく肩をすくめて笑った。


「そう言う割に、ずいぶん難しい顔してましたよ?」


 アナスタシアは部屋に入ってくるなり、机の端に手をついて身を乗り出した。


「気のせいよ。……それより、監査局の方は?」


「順調です!――と言いたいところですけど、正直、退屈ですね!」


 彼女は勢いよく報告書の束を机の上に置いた。


「商会は完全に閉まってるし、出入りしている人たちもピリピリしてて、誰も口を開いてくれません。おかげで雑務ばっかりですよ!」


「営業停止期間中だもの。動きがないのは当然でしょう」

 

「そうなんですけど……。こう、なんというか、静かすぎて逆に落ち着かないんですよ。そわそわしちゃうというか……」


 セリーヌは視線を机に戻し、短く頷いた。


「……私も同じ意見よ」


 その一言に、アナスタシアの顔がぱっと明るくなる。


「ですよね! やっぱり変ですよね!よーし、じゃあこの三ヶ月、徹底的に調べましょう!」


「とは言っても……どこから調べたらいいのかしら」


 セリーヌが呟くと、アナスタシアは「うーん」と腕を組み、考える。

 だが、数秒後にはあっけらかんとした声が返ってくる。


「そんなの簡単ですよ! 片っ端から当たってみればいいんです!」


「じゃあ、どこからやるのかしら?」


 セリーヌが少し呆れたように尋ねると、アナスタシアはぱっと顔を上げ、目を輝かせた。


「うーん……そうですねぇ……」


 腕を組んで考えるふりをしたのも束の間、彼女は勢いよく手を打った。


「――じゃあ、外へ出てみませんか?」


「外?」


「ええ! ずっと詰所にこもってても、何も見えてこないですし!」


 その提案に、セリーヌはわずかに目を細めた。

 彼女が誰かと一緒に外に出ることは、ほとんどなかった。

 用件があっても単独行動を好み、必要以上に人と足並みを揃えることはしなかった。

 

「……あなたらしい提案ね、いいわ。行きましょう」


 セリーヌが椅子から立ち上がると、アナスタシアの顔がぱっと輝いた。


「ほんとですか!? じゃあ、今すぐ行きましょう!」


 その無邪気な言葉に、セリーヌの表情がわずかに和らぐ。


 彼女のそういう明るさが、沈んだ空気を少しだけ動かしてくれる。


 机の上の書類をまとめながら、セリーヌはふと窓の外へ目を向けた。


「……三ヶ月。長いようで、短いわね」


「だからこそ、有効に使いましょう! それに私、監査官ですから、出来るんです、色んな事を!」


 胸を張るアナスタシアに、セリーヌは思わず小さく笑った。


「ありがとう、頼りにしているわ」


「任せて下さい!リュミエール商会に居候している以上、役に立って見せます!」


 セリーヌは小さく頷く。


 こうして、二人の長い三ヶ月が始まった。

 

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― 新着の感想 ―
セリーヌとアナスタシアの三ヶ月の旅……楽しみです!!
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