第8章:水中の再会 ― 揺れる記憶の神殿
この章では、レンが弟・トオルとの「記憶の再会」を通じて、自分の優先してきたものと向き合います。
家族への愛と罪悪感――その間で揺れ動く感情が、水のように物語を満たしていきます。
このゾーンは、新しい景観から始まらなかった。
むしろ、「痛みの続き」として、そのまま物語が続いていく感覚だった。
レンは今、水に沈んだ神殿の中を歩いていた。
その神殿は、彼自身の記憶によって作られていた。
柱の一つひとつに、象徴的なアイテムがあった。
破れた写真。子供の絵。送られなかった手紙の入ったポスト。
遠くに、人影が見えた。
トオル――レンの弟。
だが、それは現実の彼ではなかった。
レンの心が再構成した、感情の中にある「記憶のトオル」だった。
「覚えてる? 兄ちゃんは僕のヒーローだったよ。」
少年は笑顔で言う。
「屋上で遊んだよね。空がステージで、僕らがヒーローだった。
……でも、いつから変わっちゃったの?」
レンは近づこうとするが、トオルの姿は後ずさりする。
「兄ちゃん、行っちゃったよね。
勉強のため。仕事のため。いつも……遠くに行こうとした。」
「未来を渡したかったんだ……」レンはかすれた声で答える。
「うん、ありがとう。でもね……僕は、兄がそばにいてくれるだけで良かったんだ。」
その瞬間、時が止まる。
レンは動けなかった。
そして、思わず叫んだ。怒りでも、悲しみでもない。――悔しさだった。
その叫びが空間を引き裂いた。
水はまるで恐れて逃げるかのように、神殿から一気に引いていった。
そこに現れたのは、コードでできた核。
中にあったのは――甥の声の録音だった。
「レンおじちゃんってすごいんだよ。でも……いつも忙しい。」
レベルそのものが、まるで罪悪感に耐えきれず崩れ始めた。
【ZONE クリア】
■ 記憶回復率:55%
■ 解放されたトラウマ:[感情からの逃避]
レンは浮かんでいった。
今度は沈むのではなく、上昇していた。
最後までお読みいただきありがとうございました!
次回は「忘却の海域」――意図的に、あるいは無意識に、レンが葬ってきた記憶と対峙する章となります。
彼が見たくなかった最後のファイルとは?
次章「忘れられた記憶の墓場」も、ぜひお楽しみに。