第6章:複製との対話 ― 真実の声とコードの檻
この章では、レンが自分自身の「影」との本格的な対話を果たします。
敵ではなく、自分が見たくなかった過去と向き合うことで、彼の旅は深みを増していきます。
「最も危険な鏡像とは、敵ではない。
自分だけが正しいと思い込む心だ。」
ドアをくぐった瞬間、カーニバルはねじ曲がった。
光は消え、音楽は逆再生され、磁気テープのように不安定に響いていた。
【ZONE 2 - デュプリケート・ドーム】
レンは落ちなかった。投げ込まれたのだ。
そこは閉ざされた回転ギアの空間。床はなく、すべてが錆びたコードのにおい。
中心には、より明瞭な姿のプロト・レンが立っていた。
その声は、もはやプログラムの残響ではなかった。
完全な「存在」として、彼は語り始める。
「まだ分かっていないのか?
俺はゲームが生んだものじゃない。
お前が前に進むたび、捨ててきたものの結晶だ。」
戦闘が始まった。
プロト・レンの攻撃は「言葉」だった。
「失敗」「疲労」「空虚」といった単語が、弾丸のように飛んでくる。
レンにできるのは、回避と記憶の呼び起こしだけ。
トオルと遊んだ日。母の笑顔。甥の笑い声。
その一つ一つが、攻撃を打ち消していく。
クライマックスでは、二人の身体が空中でぶつかる。
ビットの雨が空間を満たす。
落下するプロト・レンは、笑っていた。
「勝ったところで……戻れると思うか?」
息を切らせながら、レンは答える。
「分からない。でも、前に進む。お前と一緒に閉じこもるよりは、ずっといい。」
プロト・レンは金色の粒子となって消えた。
そこに残ったのは、一片のコードだった。
レンがそれに触れると、空間が静止し、画面が浮かび上がった。
【ROUND 2 クリア】
■ 結果:内なるカオス解消
■ 記憶回復率:29%
■ 解放されたトラウマ:[インポスター症候群]
画面がちらつき、新たなインターフェースが読み込まれる。
【次のゾーン読み込み中:マレア・トレムラ】
■ 危険レベル:高
■ 時間歪曲:臨界状態
そしてその時、初めて聞く声が響いた。
柔らかく、だが痛みを含んだ女性の声。
「レン……? あなたなの……? 本当に……戻ってきてるの?」
それは、母の声だった。現実の。
画面は暗転。次のゾーン、読み込み中……
お読みいただきありがとうございます!
次回、レンは水中の記憶世界「マレア・トレムラ」へと沈んでいきます。
そこには、彼が避け続けてきた本当の「痛み」が眠っています。
次章「眠れる水の記憶」もぜひご期待ください。